(104 / 263) ラビットガール2 (104)

「う、うお〜〜!!やっぱすげェ!ミコト様〜〜!」


ヴェルゴの動きを止めたミコトに逃げていた海兵たちは歓声を上げる。
しかしミコトの表情は曇り、冷たさで手が凍り冷気を上げるその手に飛刀を握る。
その瞬間凍り付いたはずのヴェルゴの体がピキピキとヒビが入り割れはじめヴェルゴが復活する。
だが息つく暇なくヴェルゴはミコトへ鬼・竹を叩きつけ、ミコトは飛刀でそれを受け止め、衝撃を流すように地面を軽く蹴る。
吹き飛ばされたように見えるミコトは受け身を取り肘をつきながらも着地した。
立ち上がる寸前に目の前にヴェルゴの蹴りが入り、ミコトは顔を蹴られ投げ出されてしまう。
鉄の味が更に深まった事にどこか口内を切ったのだと意外にも冷静にそう思った。
ペッと血を吐き出しながら垂れる血を拭いミコトはヴェルゴを恨めしい目で睨む。


「…顔はやめていただけます?これでも顔には自信がありますの」

「ああ、知っている…ジョーカーもさぞお前の顔に傷があれば嘆くだろうな」

「だったら傷をつけるのはやめてくださいな…――ドフラミンゴに怒られてしまわれるのはあなたですわよ!」

「なんだ、心配してくれているのか?」


呑気に会話を広げていながらもその空気はピリピリと張り詰め殺気立っていた。
ミコトはズキズキと痛む体中の信号など無視し"嵐脚"をヴェルゴに放った。
ミコトの能力ではないためすぐに避けられしまったがそれは予想していた事であり、ミコトは余裕綽々としながら自分の隙を狙い懐に入って来たヴェルゴを見た。
咄嗟にミコトは飛刀を消し自然系の能力へとチェンジしたが、当然覇気入りの『指銃』には勝てず、ミコトは肩に『指銃』をもろに食らってしまった。


「…!」

「…つかまえた」


あとは肩に刺さっている指を抜き仕上げにミコトの腹を一撃殴って気絶させれば…とヴェルゴが考えていた時…その肩に刺さっているヴェルゴの手をミコトがガシッと掴んだ。
それに目を丸くしミコトの顔を見れば、口から血を垂らしながらニッと笑うのが見えた。
その瞬間ヴェルゴの体に強い電流が流れた。


(…っ、この体では…50mA以上は流せれないけれど…動きを止めるくらいは…―――!!)


この時ミコトは痛みを感じていた。
しかし既に痛みに麻痺しているのか無痛ではないがそれほど大きな痛みを感じていなかった。
それに意地もあった。
海軍大将である自分がたかが海楼石に似た薬を飲まされただけでひ弱だと思われるのは嫌だった。
海賊の一人にこれほどまでにボロボロにされているのだからひ弱なのは確かなのだが。
すでに時間もない。
もうすぐ閉まった扉がまた開いてしまうため、ミコトはチラリと周りを見る。
大半は避難は無事終えているのだが、まだたしぎや海兵たちが残っていた。
ミコトの仕事は一人残らずここから脱出させヴェルゴを足止めさせること。
その為ならこの命を捨てる覚悟も出来ている。
ただヴェルゴがドフラミンゴにミコトを送るという任務があるから手加減をし自分はまだ生きているだけの事。
それならばそれを利用しない手はないとミコトは思った。
殺さないのであれば出来る限りの抵抗を。
そう思ったのだが―――


「驚いたな……ただ美しいだけではないようだ…」

「!?ぐ、――ッ!」


ヴェルゴは電流を流され体から煙が上がっていた。
だからミコトはヴェルゴが気を失ったと思ったのだ。
しかしその考えは甘くヴェルゴの意識は薄れてもいなかった。
ミコトは先ほど『指銃』で受けた肩の傷を掴まれ床に叩きつけられた。
その際肩の傷が響き更なる痛みにミコトは息を呑む。
その間にもヴェルゴはミコトをうつ伏せにさせ『指銃』で傷を負っていないほうの腕を背中に回し、ミコトはヴェルゴの行動に嫌な予感を過ぎらせる。


「流石は黒蝶と言っておこうか…ほぼ能力がない状態でここまでおれに応戦できていたのだからな」

「それ…嫌味にしか聞こえなくってよ…ッ」

「一応褒めているんだがな…」

「―――――――、ッ!!!」


グッとミコトの腕を背中に回す力を入れるヴェルゴを見つめながら、まだ脱出していなかったたしぎが自分の名前を叫んだのをミコトは聞き、ミコトは『ああ…まだ脱出していなかったのね』と呑気にもそう思う。
もしも、など意味のないことだと思う。
しかし、もし、これよりも半分でもいいから能力が使えたら…とミコトは思わずそう頭に浮かばせた。
もしも能力が使えたらヴェルゴなどすぐに倒せたのに、と。
嫌味にしか聞こえないヴェルゴの言葉にミコトは痛みと不快感を露にさせるも、信じないミコトにヴェルゴは何の言葉も掛けず一気にミコトの腕の骨を折る。
ミコトはゴキ、という鈍い嫌な音が耳に届き先ほどまでの痛みよりも強い激痛に言葉なく叫んだ。


「ッ、…、ぁ、…ぅ…―――ッ!」


痛みに短い唸り声を上げ顔すら上げれないミコトを見ながらヴェルゴは今度はミコトの足へ手を伸ばした。
続けざまにヴェルゴは念には念を入れミコトの片足を折る。
それは簡単のようで難しいモノだった。
ミコトがG−5に来た時、定期的にドレスローザに帰りそれをドフラミンゴに報告していた。
その報告にドフラミンゴはとても嬉しそうに笑ったのをヴェルゴは覚えている。
そのドフラミンゴの反応を見てヴェルゴはすぐにミコトを諦めたのだ。
あれほど嬉しそうな顔をヴェルゴは長い間ともにいたが見たことがなかった。
だからヴェルゴはミコトを諦めドフラミンゴに幸せになってほしいと思った。
もしもミコトがドフラミンゴの妻になったのなら、いつでも会えるのだからそれでも構わないと。
そしてそれと同時にドフラミンゴからは『抵抗すれば死ななければどんな事をして構わない』と命令されており、その命令通りヴェルゴはミコトを傷つけた。
死ななければ顔にキズを作ったとしても目を瞑る、とまで言われてもヴェルゴはどうしてもミコトの顔にキズを作るのは躊躇った。
だから顔を殴る時だけは覇気や鉄塊を使う事はなかったのだ。
そして、骨を折るときもすぐに繋げれるように綺麗に折っている。
慣れない事をしているためかミコトとの戦いで1番気を使う作業だった。
ヴェルゴは動けなくなったミコトから体を起こし、痛みから体を震わせるミコトを見下ろす。
骨を折っているため起き上がることも出来なければ動かせばその度に激痛に襲われる。
―――…ミコトは負けた。


「ミコトさん…!!ミコトさん!!」

「た、大佐ちゃん!!ダメだ!!行ったらダメだ!!ミコト様が言っただろ!?逃げろって!!!」


ヴェルゴはミコトと戦っている間、ずっとミコトばかり見ていた。
その間はミコトも自分だけを見ていたからヴェルゴはこの戦いの最中とても幸福でもあった。
しかしそのミコトは自分に負け、今は気を失いかけている。
それも捕まえたときのように演技でもなく、本当にミコトは気が遠くなっていた。
ヴェルゴはミコトを抱き上げようとしたが、ミコトが倒れ動かなくなって叫ぶたしぎの声に気付いた。
そして今、この場に来た目的を思い出した。
ミコトの登場で忘れかけていたが、ヴェルゴは確実にスモーカーやたしぎ、G−5達を消しに来ているのだ。
ゆっくりとたしぎへ視線をやればたしぎは既にヴェルゴなど目もくれず海兵が止める中ミコトに駆け寄ろうとしていた。
しかしミコトの指示に従っている海兵達に止められ、必死にミコトに手を伸ばしているだけである。
そんなたしぎにヴェルゴは表情を変えずミコトの横を素通りしたしぎ達の元へと向かった。


「!―――誰だ」


たしぎを消し、G−5達を消し、どこかにいるであろうスモーカーを消し、ミコトをドレスローザへ持って帰れば全ては元通りになる。
そう思いヴェルゴは油断していたのかもしれない。
殺気を感じたヴェルゴはハッとさせ立ち止まった。
その瞬間…


「レディがおれを―――呼んでいる!!!」


サンジが上から現れヴェルゴに蹴りを入れた。
油断し避けることも出来なかったヴェルゴは大きな音を立て壁に吹き飛ばされてしまう。

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