(105 / 274) ラビットガール2 (105)

空から現れたのは黒いスーツを身にまとうサンジだった。
海賊である麦わらの一味が何故敵である海軍を庇う為に危険を冒してまで戻ってきたのかが分からず、海兵達は驚きが隠せなかった。
気を失いかけたミコトも大きな音に意識を取り戻しゆっくり顔を上げる。


「む…"麦わらの一味"!!」

「海賊がなぜ…!!」


海兵達の疑問は最もである。
こんな非常事態でもやはり相容れない存在はあるもので、海賊が海軍を助けるなどありえない事だった。
そんな誰もが思う疑問に対し、サンジは――…



女の…涙の落ちる音がした。



そう言ってのける。
その瞬間サンジの背後から大量のウサギが現れ愛らしい声で泣きながら起き上がっていたヴェルゴの体にくっ付いていく。


「う、ウサギ!?」


「―――"ラビット爆弾"!!」


「―――!!」


場違いでしかないウサギの登場に海兵達もたしぎ達も驚きが隠せない。
しかし目を丸くさせているとウサギ同様愛らしい声が響き、その瞬間ヴェルゴの体にくっ付いていたウサギが1匹残らず爆発し、爆発音が鳴り響く。
ウサギが爆発したこともだが、何が起こってたのか分からず海兵達は驚きの声さえ失っていた。


「んアスカちゅわ〜〜ん!!今おれがいいこと言ってたのに〜」

「そうなの?全然気付かなかった。」

「別にいいんだよ〜〜!!!アスカちゃんならおれ何でも許しちゃうっ!!」


爆音が響き渡り倒れるヴェルゴを唖然として見ているとサンジの背後に少女が降り立った。
それなりの高さから降りてきたはずなのにその少女、アスカは華麗に着地し、素早くウサギを放ち『ラビット爆弾』でヴェルゴを攻撃した。
言葉を遮られてはいないが余韻もないアスカの登場にサンジは相変わらずメロメロな姿を見せながらも何の悪気もなくケロッとさせるアスカに体をクネクネさせながら許した。
許すも何もないというのは本人には気付かないのだろう。
ミコトはサンジだけではなく弟の幼馴染の姿に流石に目を疑ったのか痛みが走る足を庇いながら折られていない腕で体を支え座る。
それでもヴェルゴの『指銃』によってキズを負っているため痛みがないというわけではない。
だが折れていないだけマシである。


「お姉様…!怪我を…!?」

「アスカ…あなた…なぜ…」

「だって…お姉様が心配で…」

「…、……いけない子ね…」


痛そうに顔を歪めながら起き上がる姉に気付いたアスカは慌ててミコトに駆け寄った。
駆け寄ればミコトの顔の傷や片肩の傷、そして所々の傷や服の汚れに気付きいつもの無表情に近い表情を崩し心配そうに見つめていた。
ミコトは演技でもなく本当に驚いており唖然としていたがアスカの言葉に小さく笑った。
その笑みは苦笑いに近かったが、ミコトが笑った事に安堵したアスカは胸を撫で下ろす。
しかしミコトはアスカの姿にひやりとした汗が流れる。
ヴェルゴ達はどういう理由かは知らないがミコトと共にアスカもドフラミンゴへ渡そうとしている。
そんな獲物が二人も固まっては敵の思う壺である。
だが自分の身を犠牲にしても恐らくは彼らはアスカも手に入れようとするのは読めていた。
気絶していたため自分も誘拐の対象であることをしらないアスカにミコトは苦笑いを深める。
本当、自分は昔から弟や妹に甘いのだなと今更ながら自覚する。
敬愛している幼馴染の姉との再会を果たしたアスカを横目で見守っていたサンジだったが、辺りにまたブザーが鳴り響き海兵達はハッとさせ慌てる。


「おいまたこのブザーだ!!前の扉が閉まるぞ!!」

「走るしかねェ!!急げェ!!」


ブザーはサンジだけではなくミコトにもアスカにも、この場にいる全員に届いていた。
後ろにあるB棟に繋がるゲートを見ればやはりA棟同様ゲートが閉まり始めていた。
それを見てヴェルゴにやられた仲間達を拾いながらG−5達は慌ててゲートの奥へ逃げ込む。


「あいつは!?偽ヴェルゴと戦ってくれてる『麦わらの一味』の"黒足"と"冷酷ウサギ"!!」


ヴェルゴばかり気にして今がどういう状況なのかを忘れていた海兵達は逃げ出し、あと少しで全員逃げ出せていたが、ふとサンジとアスカの事を思い出し、海兵達は自分達の代わりに戦ってくれているサンジを見て護衛しようと銃を構えた。
サンジはアスカの『ラビット爆弾』ももろともせず立って襲い掛かってくるヴェルゴと交戦しており、『腹肉ストライク』で再びヴェルゴを蹴り飛ばす。
それを見て援護は必要ないのだと銃を降ろし、サンジの強さに驚いていた。


「お前ら何してる!!さっさと逃げろ!!また閉じ込めてガスを垂れ流す気だぞ!!」

「え…!?」


しかしサンジに見惚れている暇はない。
サンジの言葉に海兵達は目を丸くさせるもサンジが目線で指した先にはA棟に繋がるゲートが開き始めていた。
その隙間からは毒ガスが零れだしてきておりそれを見た海兵達は更に慌てて逃げ出す。
その際壁にメリ込んでいるヴェルゴを助け出そうと迷っていた海兵の1人がいたが、仲間が『よせ!本物のヴェルゴさんがおれらを殺そうとするか!!』と声をあげ海兵の腕を引っ張る。
海兵は後ろ髪を引かれる思いだったが、仲間の言う事も確かだと逃げる事に集中する。
そんな海兵達を余所にヴェルゴはゆっくりと体を起こす。


「まさか…リサも逃げ出していたとは…これは大失態だな…」

「!…なるほど…つまり鉄の塊か何かかコイツは…」

「邪魔をするな…――身内の問題だ!!」

「―――ウチの船長が1番嫌いなタイプだな…!」


チラリとサンジはアスカとミコトへ視線を送る。
そこにはアスカが足を折られたミコトに肩を貸して逃げようとしているところでサンジはミコトはアスカに任せて自分は目の前の敵を引き止めることに専念することにした。
ヴェルゴは体についたほこりを払いながらアスカの姿に驚いて見せる。
対象の一人が逃げ出したとばかり思っていたが、どうやら二人とも逃げ出していたようで、その失態にため息をつく。
そして二人の後を追うとする自分の前に立ちはだかる目の前の海賊に覇気を纏った蹴りを向ける。
それにサンジは対抗し足で受け止める。
だが、その威力は強く、ヴェルゴの強力な蹴りに足の骨に日々が入ったのを感じた。
しかしサンジはそのままヴェルゴの蹴りを弾く。
ヴェルゴはそのまま再び覇気による蹴りを振るい、サンジは今度はしゃがんで回避する。
そして自分も蹴り返し、ヴェルゴがそれを受け止めまた足を伸ばす。
それを2人は引かずに繰り返す。


「おい!"黒足"の兄ちゃん!!"冷酷ウサギ"のお嬢ちゃん!ミコト様!!」

「毒ガスがすぐ後ろまで!!扉も閉じちまうよ!!早くこっちへェ!!」


既に海兵達は全て逃げる事に成功していた。
あとはヴェルゴと戦っているサンジと、ミコトとアスカだけだった。
声をかけて知らせればアスカは後ろを振り返り足を速め、ミコトは片足を庇いながらできるだけ早く足を動かす。
サンジはまだヴェルゴと戦っており、その途中囚人から全棟への報告が響く。


≪こちらD棟より!!第三研究所全棟へ!!緊急連絡!!―――只今トラファルガー・ローが…!!『SAD』製造室へ侵入しました!!≫

「!!――なるほど……"麦わら"と手を組んだのは迎撃の意志!!『王下七武海』に入ったのも"その部屋"へ辿り着くためか!!ロー!!!」


緊急連絡の意味は敵であるヴェルゴ達しか分からない。
ヴェルゴはローの目的を知りさきほどまでの余裕を引っ込めサンジの横を素通りした。
向かって来るヴェルゴに構えたサンジだったが何もせずに素通りするヴェルゴに振り返った。
サンジが振り返った先には――…



「アスカちゃん…ッ!!!お姉さま!!!」



アスカを突き飛ばし庇うミコトの姿があった。
サンジは重傷を負っているミコトとアスカの危機に駆け付けようとしたが、ミコトが折られていない方の手をサンジに向け止めさせる。
立ち止まったのを確認したミコトは手の爪を尖らせ自らの横腹に刺す。
すると折れたはずの足で立ち上がった。
ホルホルの実で一時的に片足と腕の修復をしたのだろうが、能力が半分も使えない今では立っている足がガクガクと震えていた。
それでもアスカを庇うミコトを目の前にヴェルゴは目を細める。


「なんの真似かね、黒蝶」

「この子には手出しはさせません」

「リサよりも重症のお前がか?それ以上傷を増やせばドフィが悲しむ…リサと共に来い」

「それはお断りいたします…アスカもわたくしも、ドフラミンゴの元へ行くつもりは毛頭ございませんので」

「……分からんな…ドフィにこれほど愛されているというのになぜドフィを拒む…まさかあの野犬を本気で愛しているというわけでもあるまい?」

「…わたくしは海兵です…海賊に落ちるなどありえません……それに恋だの愛だの…くだらない感情などわたくしには必要はありませんもの」

「よく言う……本当の事を言ったらどうだ?――――赤髪シャンクスを愛しているから、とな!」

「…!」


ミコトに庇われアスカはヴェルゴとミコトの話を聞いていた。
どうやらヴェルゴがアスカに用事があるのではなく、その裏にいるドフラミンゴが自分に用事があるらしい。
アスカの頭の中は疑問符ばかり浮かび上がった。
戦争の時、アスカは今のヴェルゴのようにリサとドフラミンゴに呼ばれ、面識がないのにまるで親しい人と話すかのように声をかけられた。
それも戦場にいるにも関わらずアスカを連れて帰る気でいたのだ。
ミコトもなぜここまでアスカを連れ去ろうとしているのかが分からないが、アスカ本人が一番分からず混乱していた。
不安げにミコトの背を見つめていたその瞬間ヴェルゴが動き出す。
一気に間合いを取り二人を捕獲する気でいるようで、ミコトはヴェルゴが地面を蹴ったその瞬間にアスカへと手を伸ばし、アスカの体に触れる。
その瞬間アスカは浮遊感に襲われた。


「へ…―――!?」

「アスカ…ちゃん!?」


ふわりと一瞬アスカは宙に止まり重力に従って落ちる。
このままではお尻を強く打つと思った時、サンジにキャッチしてもらったらしく、痛みはなくサンジの腕の中に納まっていた。
と、いうのもアスカは一瞬にしてサンジの頭上に移動したらしいのだ。
サンジは驚きながらも落ちてくるアスカをキャッチした。


「そのまま逃げなさい!!」


それもミコトの能力なのか、ミコトはサンジに向かって叫んだ。
戸惑ったサンジだが、今の状況からしてミコトの言う通りにした方がいいと判断した。
本来なら無理をしてでも麗しいミコトも連れて逃げたかったが、それをミコトの強いまなざしが許さなかった。
逃げようとするサンジを追おうとするヴェルゴにミコトは立ち塞がった。


「…やってくれたな黒蝶!!よくもリサを…!!」

「あなた方がどういう理由でアスカを連れ去ろうとしているかはわかりませんが…これだけは言っておきます…―――アスカはリサという名前ではありません!!!例えリサだとしても!!今あの子は『アスカ』という少女!!そこをお間違いなく!!」

「貴様…!」


先ほどからリサとリサと呼ぶヴェルゴにミコトは許せなかった。
どんな理由であれ、どんな過去があれ、今のあの少女という存在はアスカという存在。
アスカが望んだ存在。
それを蒸し返すようなヴェルゴ達をミコトは睨みつけ、能力で飛刀を出した。
ホルホルの実で使えるようになったとはいえ所詮は『立つだけ、掴めるだけ』になっただけ。
だが、ヴェルゴ相手に満足に動けないのは百も承知。
だが妹を逃がすためならば死をもいとわないとミコトは覚悟した。


「貴様らこそアスカアスカと…!!!元々リサはおれたちのところこそ…!ドフィにこそ相応しい!!!リサは絶対に返してもらうぞ!!!」


しかしそれはヴェルゴも同じこと。
リサをアスカと呼ぶミコト達にはイライラが積もっていた。
それが邪魔され爆発寸前まで来ていたのだ。
鬼・竹を握りしめ片手で飛刀を構える海軍大将を睨みつける。


「できるのでしたら…―――どうぞ、ご勝手に」


負けと決まった勝負をミコトは覚悟して真っすぐヴェルゴを見据えた。

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