ビービー、とけたたましい音がB棟からも鳴り響いていた。
目の前の扉は容赦なく閉じていき、すでに人一人通りぬける隙間はない。
「待て待て閉まるな扉〜〜!!」
「まだ中に偽ヴェルゴと"黒足"の兄ちゃんと"冷酷ウサギ"の嬢ちゃんとミコト様が…!!」
『偽』ヴェルゴはどうでもいいが、助けてもらったサンジとアスカ、そして手足を折られ重傷のミコトがまだ脱出しきれていない。
だから無駄だと分かっていても海兵達は扉に向かって叫ぶ。
だがその海兵達の叫びも虚しく…扉は無情にも固く閉じてしまう。
「あああああ〜〜!!」
「閉じちまったァ〜〜!!」
「ダメだもう!!扉の向こうは殺人ガスが充満してる!!」
「黒足〜〜!ウサギ〜〜!!ミコト様ァ〜〜っ!!!」
目の前で完全に閉じられた扉の意味をこの場の海兵達は知っている。
助けてもらったサンジ、アスカ、上司であるミコトの死が確実となったのだ。
本来なら海賊など助けるべきではないが、ヴェルゴからたしぎを庇ってくれたのだから海兵達にとってそれはもう関係ないことだった。
「…!」
最後の足掻きも海兵達に抱きかかえられて無駄となり閉まってしまった扉の前で言葉を失くしていたたしぎだったが、ゾクッと背中に何かが走ったのを感じハッとさせ弾かれたように顔を上げた。
それに釣られるように海兵達も『ある声』を聞きたしぎと同じく顔を上げて天井を見上げる。
「大丈夫か〜〜〜!?」
「あ!」
「アレは…!!」
「海軍のォ〜〜〜……」
「お〜〜〜!!」
「黒足のあんちゃーーん!!」
「―――かわい子さ〜〜〜んっ!!!」
そこには一点の黒い点が見えた。
その点は少しずつこちらに落下してきており、それと同時に輪郭をはっきりとさせる。
それはまさしく閉じ込められたはずのサンジだった。
サンジは海軍など眼中にないが、それが女となれば別であり、真っ直ぐに華麗に見事に…座り込むたしぎの傍に着地した。
それと同時に海兵達から歓声が沸く。
「ウオーー!!黒足ィ〜〜!!!」
「ウサギもいるぞ!!」
「よかった生きてて〜〜!!ありがとなお前ら〜〜!!」
「
黙れ貴様ら!!」
たしぎにメロンメロンなサンジの表情は海兵達からの黄色い声(笑)によって鬼のような形相へと変えた。
サンジの両腕にはアスカが抱かれており、横抱きにされたアスカはピクリとも動かない。
「いいか!"声援"ならおれは黄色いやつしか受け付けてねェんだ!!」
「ウサギどうしたんだ!?まさか偽ヴェルゴにやられて…!?」
「大丈夫だ……………っててめェ何勝手におれのアスカちゃんを『ウサギたん☆』呼ばわりしてんだ!!三枚に降ろすぞてめェこのやろうSHINE!!」
「ギャーッ!!く、黒足のあんちゃんこえェェー!!」
「ってかおれら『ウサギたん』って呼んでねェー!!」
やっと感激が落ち着いたらしい海兵達はサンジの腕の中で眠るように動かないアスカに気付く。
そんなピクリとも浮かないアスカは…
「おねえさまが…わたしのおねえさまがさらわれた…しにたい…しのう…しんじゃおう……いやむしろころす…あのおとこまじころす…のろってやる…」
「こっちはこっちで別の意味でこえェーー!!」
「もう何なんだお前ら!!麦わらの一味こえェー!!」
アスカは、目の前で姉と敬愛して止まないミコトを奪われ落ちに落ち込んでいた。
サンジの腕の中で落ち込むアスカはブツブツと小声で何か言っており、その内容がまた恐怖を仰ぐ。
サンジにしろアスカにしろゾロにしろ…麦わらの一味恐怖症が発祥しそうになり海兵達はガタブルと落ち込んでいた。
死にたいと自虐していたアスカだったが段々と腹が立ってきたのか内容がヴェルゴへの恨みへと変っていた。
もし海楼石でつながれて気を失っていなかったら…ヴェルゴもろともドフラミンゴもアスカの恨みを貰っていただろう。
「しかし何なんだ…お前らの上官だろ!?血相変えてどこかへ消えたが…くそ!おれがもう少しあいつの動きに気付いていたらお姉様も奪い返しアスカちゃんにもこんな辛く悲しい思いをさせなかったっていうのに…!!――アスカちゃん!不甲斐なく無力で料理上手なイケメンのおれを許してくれ…!!!」
「黒足お前嘆いているのか許してほしいのか自分を褒めたいのかどっちかにしろよ!!意外とお前絡み辛ェよ!!」
サンジの『上官』という言葉に本当なら『バカ言え!!あんなやろうヴェルゴ中将なもんか!!』やら『偽者だ!!』と叫びたかったが、それよりも何より…サンジの後半の言葉に突っ込むしかなかったという。
『く…ッ!』、と辛そうに言葉を呑むサンジは腕の中にいるアスカをぎゅっと抱きしめる。
麦わらの一味名物、保護者の目にはアスカがか弱く愛らしいウサギにしか見えない効果が発動しているのか、サンジから見た今のアスカは姉と慕うミコトを奪われ悲しみにくれ立ち上がる気力すらない美少女としか映っていなかった。
もしここにゾロやウソップやフランキーがいたら呆れた溜息を貰っていただろう。
「……ミコトさん…」
「アスカちゃん!たしぎちゅわん!大丈夫さ!!お姉様はあんなに可憐で儚く天使で神で妖精でピクシーでゴットでエンジェルのような美しさを持っていても人間界の設定では『海軍大将』なんだ!!!そんなお姉様を放っておれ達だけ助かる為に脱出するのは心苦しいがきっと何とかなるさ!!それよりもおれ達の方が今は危険だ!!早くここから脱出しよう!!」
「どんだけお前ミコト様に夢見てんの!?いや!分かる!すげェ分かるするけど!!分かるけどよォ…!!」
「天使とかピクシーとか言い方違うだけで同じじゃねェか!!」
「っていうか人間界って…設定って…こんな奴に助けられたおれ達って…」
助け出せずただ見ているだけしかできなかった後悔の念、そして攫われた悲しさ…たしぎは呆然としていた。
そんなたしぎと同じく落ち込むアスカにサンジは慰めようと声をかけた。
…が、どう聞いても慰めているのか不明の内容だった。
天使も神も妖精もエンジェルもゴットもピクシーも同じ意味である。
それに関しては突っ込み要因となりつつある海兵達に任せ、心落ち着かせたアスカがサンジから降りポツリと呟く。
「大丈夫」
「え…」
「お姉さまなら、大丈夫」
「…!」
アスカの呟きはたしぎにも届いており、たしぎはアスカの呟きに目を瞬かせた。
そしてアスカの強いまなざしにハッとさせられた。
アスカもミコトが心配なのは変わらない。
だけどアスカはミコトを信用して前を向いているのだと気づいた。
その姿にたしぎはその信頼にグッと拳を握る。
そして気を取り直し頬を2・3回軽く叩いて気合を入れる。
「みんな!急ぎましょう!!子供達を助け脱出を!!ミコトさんならきっと無事です!!きっと私達と同じく脱出するでしょう!!」
「お…おう!!」
ミコトの怪我は酷い。
ミコトが自ら脱出するのはほぼ無理だろう。
だけどたしぎは信じた。
ミコトを…そしてスモーカーを……そして、自分たちを。
逃げ出しているとはいえまだミコトを救出できるかもしれないと信じ、気持ちを入れ替えたのだ。
スモーカーとミコトに部下や子供たちを任されているのだから、と。
掛け仕切り直すたしぎを見てアスカは目を細める。
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