船に連れてきて、まず行ったのは船医であるホンゴウのいる医務室へ向かうことだった。
駆け込めば、暇すぎて医療品を整理していたホンゴウがいた。
駆け込んできた男――この船の船長であるシャンクスが怪我でもしたのかと驚いたホンゴウだったが、その腕の中にいる存在に気づけば、すぐに船医の表情へと変わる。
抱えている子供をベッドへ寝かせるよう指示をされたので、それに従う。
「!――おい…頭…これは…」
包まれていたシーツを解けば、ホンゴウは息を呑み、絶句する。
子供は外傷はないものの、明らかに性的虐待をされた痕跡が残っていた。
見開いた目のままシャンクスへ視線をやれば、船で子供のいた状況をそのまま伝える。
話を聞くホンゴウの顔が険しさから嫌悪へ染まっていくのを見て、シャンクスもホンゴウの気持ちに同意する。
「とりあえず、ぬるま湯と清潔なタオルを頼む…シャツも…」
「分かった」
男として、女を好むのも求めるのも理解はできる。
だが、子供をそういう対象として見る者の理解はできない。
医療では貴族であろうと船長であろうと、医者の手足だ。
ホンゴウとシャンクスしかいないのもあり、船長であろうが使えるものは使う。
シャンクスが退室すると、痛いほどの静けさだけが残る。
性的行為は、依存症を出すほどの快楽をもたらすが、身体的には大きな消耗を伴う。
成人でさえ疲労を感じることがあるのに、それが成熟していない幼すぎる体にはどれだけ毒か理解していない。
いや、理解する気がないのだろう。
幼い子供に己の欲をぶつけるような輩が、どれだけ己の欲が汚らしいものなのか気づけるはずがない。
「つらかっただろうになぁ…もう、大丈夫だからな…」
そういって、ホンゴウは手入れもされていないごわごわとした髪を撫でる。
気を使うことのなかったであろう暴力ともいえる性行為が、どれだけの負担となっていたのか。
肉体的にも精神的にも、成長した後に行為を覚えたホンゴウには分からないだろう。
きっと、幼い子供には地獄だったはず。
だが、もうそんな地獄を味わうことはなくなった。
この船に幼い子供に無体を行う奴はいない。
シャンクスは子供に本気で惚れているようだが、彼は惚れているからと言って彼女を無理に手に入れようとはしない。
本気で惚れてしまえば、年齢も性別も立場も、関係ないのはシャンクスを見れば分かる。
だからこそ、相手を想い欲を抑え込む―――本来ならそうあるべきなのだ。
「ホンゴウ!持ってきたぞ!」
急いで準備をしてくれたらしく、シャンクスはすぐに戻ってきた。
事情を知っている副船長のベンも手伝ってくれたのか、ぬるま湯の入った容器を持ってシャンクスに続いた。
「風呂に入れた方が早くないか?」
「いや、風呂に入れると体温低下で容体が悪化する可能性がある…こんな細身だと入浴は体力的に難しいだろうし危険だ…」
汚らしい男の欲がこびりついており、乾いた欲は落ちにくい。
服さえも着せてもらない子供の身体は異様に細く、体をぬるま湯で拭う行為も危険だろう。
だが、感染症の恐れもあり最低限の場所だけを拭ってやるしか今はできない。
根気よくぬるま湯で濡らしたタオルで男の欲をふやかし拭ってやると、後は後ろ側だけとなった。
細い体に負担をかけないようにとシャンクスとベンがそっと優しく動かすと―――三人は息を呑んだ。
「天竜人」
シャンクスがポツリと呟き――二人はシャンクスを見る。
シャンクスは二人の視線に気に留めず、幼い子供にある焼印を食い入るように見つめていた。
そんなシャンクスに、二人は何も言わず、幼い子供の背中には―誰の背中にも―不似合いの焼印に視線を落とした。
「そのまま抑えておいてくれ」
背中にもべっとりと欲が張り付いている。
恐らくは天竜人の紋章を穢すことに興奮していたのか、一番汚れている部分でもあった。
軽く拭くだけにしてやりたいが、焼印跡は皮膚が薄くそこから感染する可能性が高い。
出来るだけ優しく、しかし念入りに汚れを拭ってやる。
感染や妊娠の恐れのある部分を綺麗にした後は、暖かく静かに眠らせることが大事だ。
そして、栄養。
明らかに栄養失調の子供をそのまま寝かすのは危険なので、点滴を打つことにした。
「次の島ってどこだ?」
点滴の速さを調整しながら、ホンゴウはシャンクスとベンに問う。
その問いに頭で航路を思い出し、一番近い島の名を答えるが、ホンゴウは険しい表情を崩さなかった。
そのホンゴウの反応に二人は怪訝とさせる。
「どうした」
「はっきり言うが…船では治療に限界がある…特にこの子は海賊に乱暴されていたんだろう?なら、同じ海賊船で治療するのは難しい…おれたちはそんな獣とは違うと説明したとしても、この子にとっては乱暴した男と一緒だし、恐らく海賊でなくても男そのものに強いトラウマを抱えている…なら、医療も整っている陸での治療が必要だ」
「…だからと言って、適当な場所にこの子を置いていくことはしたくねェなァ」
「だろ?医者や施設だって善良な人間ばかりとは限らねェ…できるなら、信頼できる島で信用のおける人間と女がいる場所に預けたい」
「んなの、一つしかねェだろ」
三人の頭に、一つの村が浮かんだろう。
最近拠点にしているその村は、田舎のさらに奥にある。
娯楽も何もない村だが、どの島よりも信頼と信用の厚い人々が暮らしている。
どれだけ立派な施設や病院であっても、あの村ほど安心して事情のある子供を預けられる場所はないだろう。
シャンクスはすぐに海路の変更を決めた。
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