シャンクス達『赤髪海賊団』が目的地とした村に到着したのは、あれから三日掛かったが、これでも最速である。
――目的の村…フーシャ村に赤髪海賊団の船、レッド・フォース号が近づいた頃。
それを待っていたように、入り江で一人の少年がその船を見て顔を輝かせた。
「シャンクスが来た!!」
そう言って入り江とは反対方向へ走っていく少年の名前はモンキー・D・ルフィ…――未来の海賊王となる男だった。
「じいちゃん!姉ちゃん!シャンクス達が来た!!」
駆け寄った場所は、自宅。
そこで家族にシャンクスの船が見えた事を報告するために駆け込んだ。
そこには、姉である少女と、祖父、そして一人の女性がおり、ルフィの言葉にそれぞれ腰を上げ、女性と少女はある部屋へと向かい、祖父とルフィは家を出て行った。
家を出て村にある小さな入り江に到着すると、すでにシャンクスが船から降りている所だった。
その腕には白いシーツで包まれている依頼物があり、ピクリとも動かないそれに祖父――ガープは眉をひそめる。
「助かった…わざわざすまない」
ガープの姿に一瞬船員からざわめきが起きたが、すぐに落ち着く。
シャンクスがガープに感謝を示せば、ガープは鼻を鳴らし、その感謝を受け入れることはしなかった。
「海賊なんぞに感謝されるいわれはない」
そう言ってガープは『早く来い』と言って背を向け、シャンクスに懐いてはしゃぐ孫息子を摘まみ上げて歩き出す。
孫と祖父の賑やかなやり取りを聞きながら、シャンクスは船員に後を頼み歩き出す。
その後ろを、副船長のベンと船医のホンゴウだけが続いた。
「女医を連れて来た……海兵だが…信頼における者から借りた者だ…腕と口の堅さはわしが保証する」
「そうか…気遣い感謝する」
シャンクスはお礼を告げるが、それは本心からだった。
『おぬしのためにしたことではないわ』と言われ、シャンクスは内心苦笑いを浮かべる。
そこまでして海賊に辛辣なのは、どれだけ善良な人間であっても『海賊』とは犯罪者でしかない他に、ガープは海軍中将という立場があるからだ。
いつものように海賊だからと追いかけられることがないのは、シャンクスの腕にいる子供のおかげだろう。
さきほどからチラチラとルフィが視線を送ってくるので、苦笑いを隠せなくなった。
家につくと、玄関の前に少女が立っていた。
「ミコト」
ガープが孫娘の名を呼ぶと、ミコトと呼ばれた少女はチラリとシャンクスとその腕にいる存在を見た後、玄関を開けてくれた。
「お早く…先生がお待ちです」
そう言って先導するように歩き出し、それをシャンクス達は追いかけるように続く。
中将の自宅と言っても、こじんまりとした小さな家だ。
それでも、3人(ガープは海兵なので普段はミコトとルフィの2人)家族で暮らすには十分な広さの家。
部屋に案内すると、軍医だという女医がすでに準備を終えて待っていた。
女医は事前に赤髪のシャンクスの事や天竜人の事などすべて聞いているのか、海賊が姿を現してもアクションはなくベッドへ寝かせるよう指示をする。
シーツを解くと、女医だけではなく、ガープとミコトも、素人目で見ても分かる細さに顔をしかめた。
ベッドへ静かに寝かせて栄養失調で目を覚まさないのも聞いていため、点滴を引き継ぎセットをする。
ルフィは興味があるのか、女医の傍で運ばれた子供を見たがったが、大人の邪魔になるからと姉であるミコトに捕まっていた。
「これが、この子のこれまでのカルテだ」
ホンゴウは女医にカルテをまとめたものを差し出す。
差し出されたものを受け取り、目を通すと『なるほど』と頷く。
「ありがとうございます…あなたがこの子の主治医ということでよろしいですか?」
「ああ…赤髪海賊団の船医、ホンゴウだ…暫くの間、よろしく頼む」
赤髪海賊団は、子供が落ち着き安定するまで―できれば目が覚めてからも―この村に停泊するつもりでいた。
これは保護した責任もあるが、何より、子供が心配なのと、ホンゴウは海賊であっても医師という点から最後まで面倒を見るつもりであった。
ホンゴウは相手が海兵というのもあり、無視されるかもしれないと思いながらも手を差し出し握手を求める。
ガープがおつるに頼み込んだ甲斐があり、口が固く信頼できる部下は海賊であっても同じ医師としてその手を拒まなかった。
『それでは』と女医はもう一度渡されたカルテを捲りながらこれからの話をしようとしたが、ふと、この場に子供がいることを思い出し、そちらへ視線を向ける。
目が合ったのは、しっかりしている姉であるミコト。
ミコトは心得ているのか、ニコリと微笑みを浮かべた。
「ルー君、みなさまにお茶を用意したいから手伝って」
子供…特に弟に聞かせたくない内容だとうと察し、ミコトはシャンクス達にお茶を淹れる体で弟の手を引いて部屋を出る。
まだ幼い弟は『えーっ!』と不服そうにしていたが、姉の手を振り払うわけにもいかないので、大人しくついて行く―――いや、連れて行かれる。
シャンクスとミコトは出ていく際、視線を静かに交わした。
子供達の足音や気配が遠ざかると、そこで大人達の話し合いの時間となる。
「ホンゴウさんのカルテ通り、重度のストレスから目を覚まさないのでしょう…乱暴されていたというのもあり、肉体的にも精神的にも今は休息が必要です」
孫娘から相談されたガープが軍医を選んだのは、海軍という立場から、ストレスやトラウマを抱える患者を多く診てきているからだ。
しかし、多くの精神的に病んだ海兵達や民間人を見た事はあるが、殆ど皮と骨しかないような子供は見た事はない。
それほど彼女は非道な扱いを受けていたということだろう。
それを海兵ではなく海賊が救ったとはなんという皮肉だろうか。
「明日も目を覚まさなかったら経管栄養に切り替えましょう…この状態で点滴だけでは危険です」
それにはホンゴウも賛成なのか、頷いて返した。
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