スモーカーは製造室へと入りミコトの姿を目に映した瞬間、ここにミコトがいることと全身を怪我していることに驚きを隠せない様子だった。
ミコトはそんなスモーカーに何も言えず、気まずげにスモーカーを見つめる。
お互い心配していた、という甘い言葉はない。
当然助けに来てくれたと感激し甘い空気もない。
あるのはただ驚きと気まずさだけ。
まだミコトとスモーカーの関係はそれだけだった。
スモーカーは驚いた表情を奥へ引っ込ませミコトを素通りしヴェルゴと対峙した。
「どの道キミの口封じもするつもりだが…」
「早い方がいいね…視界に入るゴミクズを眺めてんのもやなもんだ……"海賊"ヴェルゴ!」
ヴェルゴはミコトに触れずにいるスモーカーの言葉と行動に目を細め笑い、そんなヴェルゴの笑みにスモーカーは不快感から眉間にシワをよせる。
ローはスモーカーの登場にヴェルゴの標的が自分からスモーカーへとすり替えられ力尽きたように仰向けに倒れる。
スモーカーはただヴェルゴを追っていただけなのか、部屋を見渡し怪訝とさせた。
「何だ、この物騒な部屋は」
「キミは知らなくてもいい事だ」
確かに中将とは言え海軍であり一介の海兵でもあるスモーカーが知っていい場所ではない。
ヴェルゴの言葉の意味とは違うがミコトはそれに賛同していた。
スモーカーも別段興味もないのかヴェルゴの言葉に何も言い返さなかった。
「――ヴェルゴ、お前の真実は部下達には知られたくねェな…あいつらお前をまるで親のように慕ってやがる…こんな裏切りはねェ…」
「もう手遅れだろう…ついさっきあいつらには会ってきた」
「!――何をした!!ヴェルゴ!!!」
「さァな」
部下を思えばヴェルゴの本性を知らないままこのままヴェルゴを倒したいとスモーカーは願う。
だが、現実はそうもいかないようで、ヴェルゴ本人からの言葉に思わずスモーカーはカッとなり十手を振りかざす。
しかしそれはヴェルゴの鬼・竹によって防がれてしまった。
「熱くなるじゃないかスモーカー君…!――まさかあの海軍のはみ出し者を心配しちゃあいまい……基地長の私が何をしようと勝手だろ。」
「…!!」
「おれの正体を知ったお前達はどの道消えるのだしな。」
海楼石の十手を受け止めながらヴェルゴはそう零す。
ヴェルゴにはG−5達はただのモノにしか見ていないのだろう。
ただの邪魔なだけの存在。
命を取っても何も思うことのない存在。
だから平気でそのような言葉を口にできる。
しかしスモーカーにとってG−5達は邪魔者でもどうでもいい存在でもなかった。
部下となって共にする間、G−5達からヴェルゴの想いを聞いていたスモーカーは頭に血を上らせる。
覇気を纏い鉄以上の固さになった竹をヴェルゴは口に咥え息を吹きかける。
すると竹は大きく膨らんだ。
「!!」
竹が膨らみヴェルゴがフッと息を吹いたその瞬間、まるで砲弾のようなものが中から放たれ一瞬にして後ろの機材が爆発した。
スモーカーの姿はなく、巻き込まれた可能性が高いだろう。
だがそう思ったその時、ヴェルゴは背後から殺気を感じた。
やはりスモーカーは先ほどの攻撃から逃げヴェルゴの後ろへと周りこんでいたようで体を煙にさせながらスモーカーは手に持っている十手を力の限り振り下ろした。
その十手をヴェルゴは背を沿って回避し、片足を高く上げる。
自然系の煙人間であるスモーカーには打撃は聞かない。
だが新世界を生き残っている者だけが知っているであろう覇気を纏えば自然系でも触れることが出来る。
ヴェルゴはスモーカーを攻撃する際は必ず破棄を纏う。
それは同じくスモーカーもだった。
普通に打撃を与えるよりも、覇気を纏った方が威力は強く、避けるよりも受け止めた方が早いと判断したスモーカーは煙状態だった足を解除し覇気を纏ってヴェルゴの足を受け止め、受け止め切れれば素早く煙へとまた変える。
スモーカーが足を煙へと変えれば受け止められていたヴェルゴの足は空気を蹴り、舞っているスモーカーの煙を散らしていく。
その好きにスモーカーは覇気を纏った拳でヴェルゴを殴りつけた。
「お前がどれだけあいつらと長く付き合っていようと…百歩譲って"基地長"だろうと!!基地を離れりゃ部隊の命は体調が預かってんだ!!―――おれの部下に手ェ出してんじゃねェよ!!!」
スモーカーの拳は怒りも加わり、ヴェルゴに与えたダメージは大きかった。
ヴェルゴは吹き飛ばされ柵にぶつかる。
しかしあまり堪えていないのかヴェルゴはゆっくりと起き上がるも、その額からは血が滴り落ちていた。
「………、…」
ミコトはスモーカーの怒りがビリビリと体に響き、思わず息を呑んだ。
ミコトもG−5の海兵たちと航海したというのもあり愛着があった。
だから死を覚悟して、綺麗ね、美女ねと言われ褒めたたえられる容姿を血で汚そうとも皮膚を切られ破られようととも…庇い戦った。
だからスモーカーの怒りはミコトの怒りでもある。
しかし、スモーカーは執拗に能力を使いヴェルゴに対し攻撃を行うだけの攻撃方法に移る。
それが見ていて不思議だった。
「なぜ執拗に能力を使う?君らしくない戦術だったな、スモーカー君…格上の覇気使い相手に煙となり体積を増やせば的を広げるだけだ!おれの武装色をまとえばこのただの竹竿がどれ程の凶器に変わるか…知らぬ訳でもなし…」
スモーカーもあれから覇気を纏う戦いができるようになった。
ルフィを追ってスモーカーも強くなったのだ。
ヴェルゴと同格であるかは不明だが、苦戦を虐げられるヴェルゴを相手にスモーカーは先ほどから煙を広げて戦うだけで、ミコトからも意味が分からずハラハラと見るだけしかできない。
ヴェルゴはここでスモーカーを消しミコトを諦めさせようという魂胆なのか覇気を纏った鬼・竹をこちらに愚直すぎるほど真っすぐ向かってくるスモーカーの腹に一発入れた。
その瞬間スモーカーの海楼石入りの十手が折れてしまう。
「海軍を舐めきっているおれを消そうにも実力がなくてはなァ…スモーカー…勇敢だけでは部下も浮かばれねェ…お前の妻もそうだ…お前が弱いせいで黒蝶は信じていたお前に裏切られドフィの妻になる……まあ、吠えるしかできねェお前よりドフィの方が黒蝶も幸せになれるだろう…」
ついに倒れてしまったスモーカーにミコトは悲鳴を上げかける。
一度夫と決めた男をミコトは見捨てるほど冷たい心を持ってはいない。
実力も認めているが故に夫に決めたのだ。
政府への嫌がらせもあるが、ミコトだって好きでもない人と結婚などする気は毛頭ない。
そんなスモーカーの傷だらけの姿にミコトは息さえつまりそうだった。
しかし…製造室にカツンという靴音が響いた。
その音へと振り返ればそこには…倒れていたローが立っていた。
ヴェルゴとミコトはその立っているローの手にある"物"に目を丸くする。
その手にある物とは…
「おれの心臓…確かに返してもらった、スモーカー!」
自身の能力でくり抜かれた己の心臓だった。
その心臓はヴェルゴが持っていたはずだが、ミコトはハッと気づく。
あの滅茶苦茶な戦い方は自暴自棄とかではなく、ローの心臓を取り返すためのものだったのだ。
ミコトはそれでようやく夫の不可解な行動を理解し、ヴェルゴもまた理解する。
「これで借りはナシだ…!さっさとケリをつけろ!!」
「そんなに海賊に借りを作るのがイヤか」
「海兵の恥だ…!部下に合わせる顔もねェ!!」
「…―――しかし助かったのも事実だな…これで終わりだヴェルゴ"さん"」
「…………」
檻の際、鎖と入れ替わりを解除し取ってくれた事への仮を心臓を返すことで返した。
スモーカーの言葉にローは『そうか』と返した後ヴェルゴへと向き合う。
「やっと思い出したか、あるべき上下関係を…クソガキ」
「―――そう思ってろってことだ」
「!」
「いつまでもそのイスに座っていられると思うな"お前ら"!!―――聞こえてんだろ!"ジョーカー"!!!」
心臓を返してもらい、ローはヴェルゴの服にあるであろう電伝虫に…ジョーカーであるドフラミンゴに聞こえるよう続ける。
「ヴェルゴはもう終わりだ…お前は最も重要な部下を失う……シーザーは"麦わら屋"が仕留める―――つまり『SAD』も全て失う…!!――この最悪な未来を予測できなかったのはお前の"過信"だ…!!いつものように高笑いしながら次の手でもかなえてろ!!―――だがおれ達はお前の笑みが長く続くほど予想通りには動かない」
ヴェルゴはローの言葉を危機ながら上着を脱ぎ捨て地面に捨てる。
その中からドフラミンゴを模した電伝虫が出てきた。
ローの言葉に電伝虫がフフフと笑う。
≪フッフッフッフッフッ!!イキがってくれるじゃねェか!!小僧!!フフフ!大丈夫かァ!?目の前のヴェルゴをキレさせてやしねェか!?昔…!覚えているか!どうなったか!!お前ヴェルゴをブチキレさせて一体どうなた!?トラウマだろう!?消えるハズもねェ!!ヴェルゴに対する恐怖!!お前のぶった斬り能力でもこいつの覇気は全てを防ぐ!!立場実力共にお前はヴェルゴに敵わねェ!!≫
ヴェルゴは全身に覇気を纏い黒く染める。
その強さは戦ってきたスモーカーもミコトも知っていた。
だからこそ黙ってローの闘いを見守る。
ドフラミンゴはローが一度ヴェルゴをキレさせたのを知っているから余裕でいられたのだ。
しかし…―――ひと斬りでヴェルゴの体は二つに斬られてしまう。
その余波で後ろにあった『SAD』も全て、真っ二つにキレ破壊された。
その瞬間、ドフラミンゴの電伝虫から笑みが消える。
「頂上戦争から二年…!!誰が何を動かした…?お前は平静を守っただけ白ひげは時代にケジメをつけただけ…『海軍本部』は新戦力を整えた!!大物達も仕掛けなかった―――まるで準備をするかのように…!!あの戦争は『序章』にすぎない……お前がいつも言ってたな…手に負えねェうねりと共に…!豪傑共の"新世代"がやってくる!!―――歯車を壊したぞ!!もう誰も引き返せねェ!!」
しかし、ローが斬ったのはヴェルゴや『SAD』だけではなかった…ローはこの建物…否、山ごと斬ったのだ。
相棒ともいえる仲間や『SAD』を破壊され、そしてシーザーをも倒される危機にドフラミンゴは静かな怒りを見せる。
◇◇◇◇◇◇◇
液体があふれ出る音、爆発音、何かが倒れ落ちる音、煙があがる音、ショートしたようなバチバチとした音…それらを危機ながらミコトは全てが壊れる音を聞きながらホッと息をつき入れていた力を抜く。
「…ッ」
ヴェルゴが倒され連れていかれることがなくなった事に安堵したからか、一気に痛みが体に走りミコトは骨折や体中にあるあちこちの怪我からの痛みに顔を歪めた。
(…優先は骨折ね…)
すでにヴェルゴに敗れてからホルホルの実の効果は消えて足や腕は折れたままである。
今、能力を使えると言っても半分以下の威力しか使えない。
ミコトはホルホルの実で誤魔化すのではなく、それら全て治療系に集中させまずは折れた骨を治そうと発動させる。
「黒蝶、行くぞ」
治療が開始され折れている部分にじわりと熱さが集まる。
じわじわとゆっくりと折れた部分を治療されているのを感じながら、ミコトは息を吐き出しながら手すりに寄りかかる。
能力が抑えられていないのならあっという間に違和感も熱さも痛みもなく治るのだが、中途半端だからこそ違和感や熱さ、痛みが発生するのだ。
すると部屋から出て行こうとしたスモーカーがミコトが立つことなくその場に座り込んでいるのを見て声をかけてきた。
そのそばにはローもおり、二人はミコトが骨折しているのを知らない。
「…少し疲れました…すぐに追いつくので先に行っててください」
ミコトはどうしてか骨折しているという事を知られたくはなく二人を先に行かせようとした。
完全に治らなくても歩けるまで少し時間がかかる。
しかし脱出までには治すつもりではいた。
だから先に行かせようと思ったのだが…何を思ったのかスモーカーがこちらに歩み寄りミコトを抱き上げたのだ。
それも横抱きに。
「!?―――ァッ、いっ…!!」
「やっぱ歩けねェのか」
「っ…骨を、折られ、まして…」
いわゆるお姫様抱っこをされミコトは目を丸くする。
しかし少し乱暴にされたからかミコトの体に激痛が走った。
息を呑むミコトにスモーカーは『やはり』と言う。
どうやら骨折しているのは知らないが、何かしら動けない事を察していたのだろう。
苦笑いを浮かべながらも痛みに脂汗をかくミコトにスモーカーは舌打ちをした後ミコトをそのまま運ぶつもりなのか歩き出す。
しかし、今度はミコトに響かないよう大事そうに運んでいた。
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