(117 / 274) ラビットガール2 (117)

アスカは鎮痛剤を打った子供たちとナミ達と海兵達と毒ガスから逃げR棟へ急いでいた。


「あっ…ルフィ!!――よかった!先に着いてたのね!!あ!茶ひげっち倒れてる!!大丈夫!?」

「ああ!大丈夫だ!あ、大丈夫じゃねェや!!」


B棟からの通路を走り、ようやくR棟につけば、ルフィがおり、茶ひげが倒れていた。
それを先に見つけたのはナミで、ナミはルフィに手を振った後茶ひげが倒れているのを見て目を丸くする。
手を振り返すルフィからはどっちだよというツッコミがくるであろう言葉が返ってきたが、まあとりあえず死んでいないようなので安心ではある。


「わっ!な、直葉!!童達でござる!!」

「…!!」


ルフィの傍にいる、茶ひげに隠れていてナミ達には見えない場所にいたモモの助はナミとアスカの後ろから出てくる子供たちを見て目を丸くし、モモの助は直葉に思わず声をかけた。
直葉はモモの助の言葉に驚き過ぎてコクコクと頷くばかりだった。
二人はルフィの『子供たちは助かる』という言葉が本当だったことに驚いていた。
そんな二人にルフィは振り向き『ほらな!モモ!ナオ!!』と、にしし、と笑った。
直葉は自分の知っている強者とは違うルフィに唖然と見ていた。
しかし、ふとある人物を視界に写すと意識はそちらに移る。


「!――モモの助…!あの人…!」

「ん?あの人とは…?」

「あの女の人…!"姉上"っ!!」

「え…ええええ!!?ま、まことでござるか!!本当に直葉の姉上が!?」


それは直葉がもっともっと幼い頃から夢見て探し求めていた人だった。
直葉はルフィの強さに驚き座り込んでいた腰を上げて立ち上がり、龍の姿のモモの助に声をかけた。
モモの助は"姉"だという指さす方を見て目を丸くさせた。
そんなモモの助をよそに直葉は走ってその"姉"だという女性―――アスカのもとへ駆け寄り、抱き着いた。


「!!?」

「えっ…な、なに、この子…」


ルフィの傍にまだ子供がいた事に驚いたナミ達だったが、それよりもアスカに抱き着いたことに驚きが隠せなかった。
アスカも出てきたと思ったら自分に向かって突進していくように駆け寄り抱き着いてくる女の子に驚く。
ナミが戸惑う中その女の子…直葉はアスカのお腹に埋めていた顔を上げ、アスカを見る。
顔を上げたその直葉の表情は今にも泣き出しそうな…しかし嬉しそうな表情を浮かべていた。


「姉上ですよね!!」

「「…は?」」

「直葉の姉上ですよね!!」

「「……はあああ!?」」


顔を上げたと思えば出た言葉にアスカもそしてナミも…さらにはモモの助以外のルフィを含む全員が目を丸くし驚いた。
それでも直葉はギュッと姉だというアスカの服を掴んでうるうると宝石のような青みかかった白の瞳をうるわせ涙を溜めて感激していた。


「やっと会えました!姉上っ!!」

「あの…ちょっとお嬢ちゃん?ちょっと待って!!今…姉上って…それって…まさか…アスカの事、じゃないわよね?」

「はい!この方は姉上でございます!」

「ええええええ!?」


否定してほしくて整理が追いついていないナミがぎゅーッとアスカに抱き着く子供の女の子に恐る恐る確認を取ろうとした。
だが直葉からは思った言葉ではなく、肯定の言葉が出てきた。
それにナミは目をまん丸にして驚き、アスカは直葉を見つめながら固まった。


「おい!!ナオ!!」


周りが混乱している中、ツカツカとルフィがアスカと直葉に歩み寄り、直葉の首根っこを掴み、無理矢理アスカから離させる。


「ルフィ殿!?な、なにをなさるのです!!」

「お前なァ!!間違ってるぞ!!アスカはお前の姉ちゃんじゃねェ!!子供ん時からアスカはずっとおれといたんだぞ!?」

「で…でも姉上は直葉の姉上です!!」

「じゃあ証拠見せろよ!!」


ルフィからしたら直葉の言葉は信じられなかった。
特にルフィは今アスカの家族に敏感だから余計にそう思ってしまうのかもしれない。
ルフィに証拠を見せろと言われた直葉はまだ首根っこ掴まれぶらりとさせながら帯と着物の隙間から一枚の写真を取り出した。


「これ!!!これが証拠!!」


取り出したのは、一枚の写真。
その写真こそ、錦えもんが見せたがっていた証拠だった。
差し出された写真を受け取って見てみれば、二人の男女が写っていた。
その構図は錦えもんが持っていた絵にそっくりなので、この写真を写し描いたものだろう。
しかし、その証拠写真を見てもますますルフィは直葉の言うことを信じられなかった。
いや、ルフィだけではなく、ナミやアスカも信じられなかった。


「やっぱり嘘じゃねえか!どこにもアスカ写ってねえぞ!」


ルフィの否定的な言葉に、ナミもアスカも頷く。
写真には男女が写っていた。
1人は、短髪黒髪のどこにでもいそうな優しそうに微笑む30代ほどの男性。
もう1人は、その男性と肩を並べて黒髪をポニーテールにし少し緊張気味にはにかむ10代の少女。
アスカが姉だという証拠だと出された写真にはアスカは写っていなかった。
アスカよりも早く否定をするルフィに直葉は負けじと叫ぶ。


「いいえ!嘘じゃありませんっ!その方こそ姉上と姉上の父上なのです!!!」


ナミはそこでふと思い出す。
直葉という名前を思い出したのだ。
その名は錦えもんがアスカの家族だと言う中にいた妹の名だ。


(うーん…確かにアスカに似てるけど…)


ナミはルフィから渡されたアスカの手の中にある写真を見ながら唸る。
確かに、写真に写っている少女はアスカに似てはいる。
だが、髪色、髪の長さ、目の色、表情などアスカと瓜二つというわけではなかった。
アスカは紫の髪色と黄金のような金の瞳を持つが、写真の少女は黒髪黒目だ。
なんとなく雰囲気も似ているように見えるし、2人が姉妹だと言われても誰もが血の繋がりを感じるだろう。
だが、だからと言って素直に納得できるものではなかった。


(これが父親…?)


アスカは写真の中にいる父親を見つめていた。
優しそうに下がった目と目が合う。
しかし、彼を見てもアスカの失った記憶は取り戻すことはなく、彼は赤の他人にしか見えない。
しかし、少女や錦えもん曰く、この男こそアスカの父親だという。


「嘘だっ!!」


しかしアスカはぼうっと写真を見ていたがルフィの声でハッと我に返る。
顔を上げればルフィは直葉と睨みあっており、ナミが慌てて間に入ろうとしているのが見えた。
アスカはルフィをただ見つめるだけしかできない。


「う、嘘ではございません!!」

「嘘だ!絶対嘘だ!!だってこれ今のアスカと変わらないじゃねーか!!おれはアスカと6歳の時からずっと一緒にいるんだぞ!!こんなのデタラメだ!!」

「ちょっとルフィ!!いくらなんでも言い過ぎよ!!相手は子供なんだから!!!」

「でたらめじゃないもん!!あねうえはあねうえだもん!!!」


子供相手に本気になるルフィにナミは宥めようとする。
しかし、ナミは否定をするルフィを咎められなかった。
いつ撮られたか分からないが、この写真に写っているアスカらしい少女は、大体14歳くらいに見える。
その頃のアスカはまだ海賊にはなっていない。
幼馴染というだけあってルフィは5歳からアスカと共に生活をしていた。
それに、アスカは5歳の時に村に預けられそれ以降は17歳まで海に出たことすらないはず。
そのルフィが写真に写っている男女を知らないのなら、アスカは探している人とは別人ということになる。
だからルフィが完全否定するのも無理はないとナミは思う。
直葉の話では計算が合わないのだ。
しかし相手は子供。
ナミはすでに半泣きになっている子供を見てついルフィを責めてしまう。
ルフィとアスカは幼馴染でずっと一緒だった分、ルフィとしては自分との時間が偽りだと思われて許せないところもあったのだろう。
だが相手は子供…それも女の子だ。
19歳もまだ大人とは言い難いが、まだ10歳にもなっていないであろう子供相手では大人げないことこの上ない。


「なおばのあねうえはあねうえだもーーーーん!!!」


ナミがいい加減拳を下そうとしたその時…突然頭上から花びらが大量にルフィと傍にいたナミに振って落ちてきた。
二人は花びらの滝に打たれ埋もれてしまった。


「ル、ルフィ!?ナミ!?」


アスカはナミに任せ(たという名の放棄)、ルフィ対直葉の戦いを見守っていた時、突然二人が頭上から滝のように落ちてきた花びらに埋まりびっくりして驚いた声を上げた。
直葉は『うわ〜〜ん!!』と大声で泣き叫び、アスカに抱き着くが、その瞬間、花びらの中から文字通り手が伸ばされアスカの体に巻き付く。
引っ張られる力で、アスカに抱きついていた直葉がコロンと倒れてしまうが、手の主は気にも留めずアスカを花びらの中に引き込んだ。
その衝撃で積もった花びらが舞い、ルフィとナミの姿が露になる。
ルフィはアスカを抱きしめていたが、ナミは花びらの多さに思わず尻もちをついて驚いた表情を浮かべていた。


「な、なんなの!?この花びらはどこから…!?」


意外と花びらが大量に固まって落ちてくると重量があり、そして埋もれると苦しいのが分かった。
周りは花びらで甘い匂いが漂いその場だけガスが迫り来ていることを忘れさせる。
ルフィを見ればアスカを抱きしめ直葉を睨んでおり、アスカから剥がされた直葉は呆気に取られていたがすぐに我に返りルフィを睨んでいた。
ぷっくりと頬を膨らませる直葉に負けず劣らず、ルフィは鬼の形相と言っても過言ではないほど恐ろしい顔で睨んでいた。
当事者でありながらも子供の喧嘩に巻き込まれたアスカは戸惑いの表情を浮かべ、腰に巻かれているルフィの手に引き寄せられ更に密着する。
離さないと分かったアスカは諦めたのか溜息をつき子供の喧嘩が終わるのを待つ。


「ま、待ってほしいでござる!!」


その殺伐とし、ナミやアスカ、周りの海兵や子供たちをも困惑させる中、一人の子供の声が待ったをかける。
その声の主はモモの助だった。
龍の姿のモモの助にナミも周りの子供や海兵も驚いた様子を見せたが、モモの助はルフィと直葉の間に入る。
モモの助は自身の長い胴体を、直葉を守るよう一回り囲みながら慌ててルフィに向き合う。
ルフィは間に入ってきたモモの助ごと直葉をギロリと睨む。


「なんだ!モモ!!」

「直葉の話は本当でござる!!直葉は嘘をついておらぬし、デタラメもついてはおらぬ!!」

「だけどよ!!こいつの言ってる事信じられねェよ!!モモ!!だっておれとアスカは子供のときからずっと一緒だったんだぞ!!それにどう見てもあの写真の女とアスカは別人じゃねえか!!」

「嘘じゃないもん!!直葉の姉上は姉上だもん!!!」

「だからちげーって言ってんだろ!ナオ!!アスカはお前の姉ちゃんじゃねえしその写真とは別人だ!!」

「ちーがーうーもーーーんッ!!!」

「えーーい!!あんたらうるさーーい!!」


ゴン、と重い音が一つ響く。
その瞬間ルフィの声が途切れ、ルフィの頭には一つの立派なタンコブが作られていた。
アスカは倒れる幼馴染に呆れた目で見つめる。
ルフィを撃沈させた人物…ナミは『全く』と腰に手を当てルフィを睨む。


「子供相手に何ムキになってるのよ!!」

「だってよォ〜!!」

「だってもなにもない!!」


流石ナミだ、とルフィを一睨み効かせるナミを見てそう思いながら、アスカは直葉の元へ向かう。
直葉はまだ泣き止まないのか大きな透明にも見える純白の瞳からポロポロと大粒の涙を流し、しかし強気にもルフィを睨んでいた。
そんな直葉は姉と呼ぶアスカが歩み寄っているのに気づき、ルフィからアスカへ顔を上げる。
アスカはどちらかと言えば子供は苦手な部類である。
その苦手でもある子供が泣いているのだから正直関わりたくはなかった。
しかしどうやら直葉は自分を姉と勘違いしているためその誤解を解かなければならない。


「えっと…なおば…だっけ?」

「はい…直葉は直葉です」


アスカが近寄ってきているのに気づき直葉は裾で涙を拭う。
アスカに問われ直葉は真っ赤な目で、子供目線になってあげるというスキルはないアスカを真っすぐに見上げ、頷く。
スンスンと鼻を啜りコクリと頷く直葉にアスカは困ったように頬をかく。


「あの、ね…えっと……悪いんだけど…私はあなたのお姉さんじゃないんだよ…別人なの…分かる?」

「…でも姉上は直葉の姉上なのです」

「いや…だからさ、ルフィの…あー…あの怖いお兄さんの言う通り、私はあのお兄さんとずっと一緒にいたし、あの写真だって撮った覚えはないし…そもそもあの写真のお姉さんと私似てなかったでしょ?…だからさ………悪いんだけど…人違いなんだよね…」

「………でも…それでも…姉上です…直葉の姉上なのです…」

「いや、だから…」

「夢でお会いしたんです!!」

「…!」

「夢であなたとお会いしたのです!お母さまからあなたのことを教えてもらいお母さまからこの写真を見せてもらった時から直葉はずっと姉上を見て来ました!!それは…夢の中ですけど……でも、貴女は直葉の姉上なのです!!!」

「…………」


アスカは困った。
写真だけで姉と勘違いされていると思えば、今度は夢ときた。
直葉は夢でアスカと会ったという。
そのことを母に言えば、本当はアスカという娘がいるのだと母から教えられたらしい。
モモの助を巻き込んで縋るようにギュッと服を掴み涙を溜める直葉にアスカは戸惑う。
手を払いたいのだがそれもできず、アスカは困ったようにルフィとナミを見る。
夢で会ったという証拠にもならない直葉の言葉に、ルフィがまた口を開きかけたがそれをナミに塞がれた。
ナミも言って聞かない直葉にアスカ同様対処に困ったように眉を下げる。


「ちょいとよいか!」


どうしようかと思っている時、モモの助が間に入ってきた。
間に入ってきたモモの助は直葉について説明する。


「直葉の言っていることは本当でござるよ!!直葉は夢で物事を先読みすることができるでござる!」


間に入ってきたモモの助曰く、直葉は先読み…予知夢をすることが出来るらしい。
パンクハザードに来たのは偶然だったが、直葉はこの島で運命的な出会いがあると直葉が言っていたのだ。
そして、その出会いがアスカなのだろう。
しかし、予知夢ができるからと言って簡単にアスカの家族だと認定もできない。
ナミは困ったように頬に手を当てる。


「でもね、何度も言っているけどアスカはルフィとは幼馴染で幼いころから一緒に居るの…お父さんだってシャンクスっていう―――」


ナミは頑固な子供達にどう説得すればいいのかお手上げだった。
説得しようと優しい言葉を選ぶが、ふとナミは言葉を切った。


(……そう、よね…お父さんって言っても義理だし…あのサムライの人だって同じことを言ってたし……もしかして…)


アスカの父親は四皇であるシャンクスだというのはナミ達も知っているし、あの戦争を見ていた人たちだって知っている。
だが、ナミ達以外はその父親は養父だということは知らないだろう。
そう、アスカとシャンクスは父と娘であるが、その血は繋がっていない。
身寄りのないアスカをシャンクスが父親になったのだ。
だから、父親がいると言っても本当の、血の繋がった父親ではない。
ナミが何かを言う前にローとスモーカーが合流し、話はそこで一旦切り上げた。

117 / 274
| top | back |
しおりを挟む