(118 / 274) ラビットガール2 (118)

ローとスモーカーは大きなトロッコを運び、ルフィと合流した。
直葉も第三者が来たことで少し冷静になったのか落ち着きを取り戻し先ほどのように『姉上姉上』と言わなくなり、しかしその代わりギュッとアスカの手を握ってきて離れなくなった。
少しでも手を放そうとすれば直葉は泣き顔を浮かべるのだ。
ナミもアスカも子供が泣かれるのは弱く、仕方なく放っておくことにした。
しかし、『おいナオ!アスカから離れろ!!』『嫌でございます!直葉は姉上と一緒にいたいのです!!ルフィ殿こそ姉上に近寄らないでください!!』とルフィと直葉に挟まれたアスカからしたらいい迷惑ではある。
ローは新たなライバルの登場に頭を抱えていたが、ルフィが約束したシーザーを気分で吹き飛ばしいらないと言い出し、頭を抱えるどころか頭痛がしはじめる。
しかも…


「おい!!"麦わら屋の一味"!!何してる!全員急いで乗れ!!お前の吹き飛ばしたシーザーに逃げられたら作戦はここで失敗だぞ!!」

「何言ってんだ!!まだ仲間が来てねェ!!」

「〜〜〜ッまた…お前は…!!この同盟が何なのか分かっているのか!!」


ローとスモーカーが持ってきたトロッコに海兵や子供、そして囚人たちは乗り込んだのだがルフィをはじめとする麦わらの一味全員がトロッコに乗らずまだ戻らないブルック、錦えもん、ウソップ、チョッパーを待っていた。
梃でも動く気配もないルフィにローは苛立ちを積もらせる。
そんなローの耳にクスクスと愛らしい声が届き、ローはその声に振り返り、声の主をギロリと睨む。
その睨みに睨んだ方向にいたばかりにとばっちりを受けた海兵や子供や囚人は『ひい』と怖がり、しかし声の主――ミコトは『まァ怖い』と笑うだけだった。


「あなた、ルー君と同盟をなさったそうですね」

「…だったらなんだ」

「そうお怒りになられなくても手など出しはいたしませんわ…わたくしは今はただの"スモーカーの妻"としてここにいるだけで"大将"としているわけではございませんもの……でも…そうねェ…モンキー・D・ルフィの姉として一つ忠告をしておきましょう…恐らくはルー君のお仲間さん達にも言われたと思うんですけれど……―――"ルフィを利用し何かを成し遂げようと"思っているのならそれは大きな間違いですわよ、トラファルガー・ロー」

「!?」


ミコトは片腕・足を骨折しており、肩にはヴェルゴの『指銃』が貫通し重症。
海兵の中に何人か衛生兵もいたため治療を受けている途中だった。
流石に服の中までは男の目や子供の目があるから深い傷がないかぎりできないが、出来る場所の治療中である。
『包帯だらけのミコトさまも素敵だ〜〜っ!!』とおめでたい海兵に囲まれ、夫の隣を陣取りながらミコトは同盟の事を聞いていたためローに忠告する。
ローはミコトの姉としてという言葉に怪訝とさせる。


「あの子は…ルフィは常に"台風の目"…常にトラブルの中心にいる子なの…制御しようと思うなら無駄。あの子を利用し何かを成し遂げようとしても無駄。あの子を利用したいのならあの子を利用するのではなく、"利用される側"でいなさい」

「利用される、側?」

「そうよ…シーザー誘拐であなたも思い知ったでしょう?あの子の手綱を握る事がどれほど難しいのか…あの子と同盟を結んだ以上、これからあなたの望む結果は得られるとしても必ずしもあなたの望み計画した終焉だと思わない事ね」

「…………」


姉の言葉は重かった。
確かに計画通りにいったのなら今頃シーザーはここにいる。
しかしまだルフィという人物を知らないローはその警告や言葉を受け入れながら心得ることはなかった。
『忠告は一応聞いておこう』と零し背を向けルフィ達を見下ろすローにミコトは目を細め笑みを深めた。


(利用するのではなく、利用される側でいろ……か…)


ミコトの言葉をローは脳内で繰り返す。
シーザー誘拐が失敗した場合の計画をローは考えようとチラリとアスカへ目をやる。
アスカは瓦礫の上に座りルフィやナミ達の他の仲間達同様ウソップ達を待っていた。
その傍に幼い少女がいる事に引っかかりはあるが、ローはアスカの姿に……ある少女―――リサを重ねた。


(……リサ…その名も随分と久方ぶりに聞いたな…やはり"あいつ"は…ドフラミンゴは諦めてなかったのか…)


あの頃の思い出は目を瞑ってもすぐに鮮明に思い出せる。
思い出すのは幼い頃の思い出。
一緒に遊んだ思い出や、恩人の一人に勉強を教えてもらっていた思い出。
少女はいつもドフラミンゴの傍を抜け出しては自分に会いにきてくれて遊びに誘っていた。
大半が訓練や勉強で費やしていたローだが、少女との時間は大切にしていた。
初恋だったのだ。
甘酸っぱい初恋。
今思えば子供らしい恋心だったと昔の自分の純粋さに笑ってしまいそうになる。
少女は特別だった。
ファミリーの中でも、ドフラミンゴの中でも…そして、ローの中でも。
今は離れてしまった分アスカに向けるその愛情はその純粋さも黒い色に染まってきていたが、それでもその少女に向ける愛情は清らかなまま。
しかしそれは"あちら"も同じらしい。
ミコトと共にアスカをも捕まえ連れてこさせようとしていたドフラミンゴにはローは舌打ちを打ってしまう。


(絶対に、成功してみせる………もう、二度とドフラミンゴには渡さない…!!)


自分同様ドフラミンゴも少女に執着を持っているのは知っている。
だからこそローは心から決意した。
そして目を開けて再度アスカを見下ろせば、アスカは少女と何か話しており少し困ったように対応していた。
それを見てローは素直に羨ましく思う。
もし、あの時…―――と、ローは思いかけてやめた。
それを考えてしまうと命の恩人の"あの人"に対して失礼だと思ったのだ。


「ル〜〜フィ〜〜〜!!!」

「!!――来た!!」


物思いに浸っていると残っていたウソップたちが来たのか騒がしくなる。
チラリと閉まりかけている扉から走ってきているウソップ達を見た後ローはアスカへ視線を戻す。
アスカもウソップ達の姿に立ち上がって安堵したように表情をやわらげトロッコへ向かって歩み寄ってきていた。
それを目で追いながらローは上がってきたアスカに手を差し出す。


「捕まれ、アスカ」


先に少女を上がらせたアスカに手を差し出し捕まるように言えば、アスカはローの言葉に目を瞬かせた後『ありがとう』と笑みを浮かべ、差し出されたその手を取ってトロッコの縁に立つ。
手を取ったアスカの腕を思いっきり引っ張り自分の方へ引き寄せた。


「わっ!ちょ、ちょっと…」


勢いよく引き寄せられたアスカは慌てて転ばないようローのコートを握る。
縋るように身を寄せてくるアスカのぬくもりにローはふと笑みを浮かべアスカの腰に腕を回す。
アスカはいきなり強く引き寄せられ文句を言おうとしローへと顔を上げた。
顔を上げて見るローの顔は愛おし気だった。
本来ならばその表情に赤く染めること一つくらいはしたのだろうが、アスカはまだ『リサ』での事で疑っているため気まずげにふいっとローから顔を背けるしかできなかった。
流石にそこまでされるとローも気づく。
明らかに避けるようなアスカに、ローは今度こそ聞こうとした。
しかし…後ろから誰かがアスカの服をグイッと強く引っ張っぱり、くっついていたローとアスカの体に隙間が生まれた。
アスカが引っ張られ自分から離れるのを見て、ローはアスカの腕を掴んで離れるのを阻止する。
アスカは自分の後ろを振り返り、ローはアスカの後ろを、お互い視線を向ける。
そこにはアスカの服を引っ張り握り締めるルフィと直葉がいた。


「…なんだ、麦わら屋」

「姉上に触れないでください!」

「あ゙?」

「姉上が嫌がってます!嫌がってる女性にちょっかいをかけるのはセクハラだとお姉さまが言っておりました!!セクハラ男は世の女性の敵です!!」

「…………」


ローは子供を無視し、今現在有力なライバル候補であるルフィを睨む。
しかしローの問いに答えたのはルフィではなく、無視しているはずの直葉だった。
直葉はぎゅーーっと小さな両手で一生懸命アスカの服を掴んでおり、恐ろし気な顔つきのローに凄まれても度胸があるのか睨み返していた。
意外と気が強いんだなとアスカは思いながら頭を抱えかけたが、ローが容赦なく能力を使おうとしているのを見て慌てた。


「ち、ちょっと二人とも!服が伸びるからやめてくれない?」

「だとよトラ男…放してやれよ」

「なんでおれなんだ…麦わら屋とそこのクソガキに言ってんだろ?さっさとアスカから手を放せ」

「何言ってるのです!姉上の言った二人とはルフィ殿とそこの殿方の事でございます!!はやく姉上から手を放してください!!」

「…あねうえ?」


先ほどはルフィVS直葉だったのに、更にローまで加わり周りは困惑する。
突然三角関係どころか四角関係の愛憎劇(?)を始めたのだ…困惑するのは当然と言えば当然ではある。
ナミはまだローがアスカを好きだとは知らなかったため、ロー達のやり取りで色々察したらしいナミ、そしてサンジは問い沙汰し邪魔しようと三人の間に入ろうとしたが、さらなる混乱を防ぐためにウソップとロビンに邪魔されてしまった。
ローは直葉の『姉上』という言葉に気を取られてしまったが、そのせいで見逃さなかったルフィに奪われてしまった。
ルフィはアスカを後ろから抱きしめるように受け止め、アスカから『わっ』とまた驚いた声が上がる。
ローから奪い返すことに成功し、ルフィはアスカを抱きしめながら『にしし』と笑い、その笑みにローは額に青筋を浮かべ、手を上げ能力を発動しかける。
しかしその瞬間またアスカを奪われた。
アスカを奪っていった犯人とは…


「時間がないからいい加減トロッコを動かしてもいいかしら?」


ロビンだった。
ルフィの体に手を生やしアスカを華麗に奪いロビンはルフィとローに、にっこりと笑いながら笑ってない目で見つめる。
その恐ろし気な笑みにローは舌打ちをつき、ルフィは仲間の殺気にぞくりとさせるが、鈍い故かロビンのその意味を全く理解せず首をかしげていた。
しかし本能的にロビンの怒りを察しているのか手を出すことはなかった。
ただ、アスカがロビンに奪われ直葉は『姉上〜〜っ』とアスカに駆け寄りギュッと抱き着いたが、ロビンも子供に弱いのか『姉上』というのには気になるが、可愛い妹に懐く子供を微笑ましく見つめていた。


「アスカ!どういう事!?」


当然その機を逃すはずもないナミが問いただそうとしたが、同じくロビンに急かされ終わりを告げる。


「ふふ、アスカ、モテて大変ね」

「お姉さまっ!」


ロビンに背を押されアスカはトロッコの中に入る。
大きなトロッコと言えど生き残った囚人に加えローや麦わらの一味、海兵達と加われればそれなりに人数がおりキツキツではないが狭い。
しかし文句を言える立場でもそんな時間もなくアスカはミコトの声に反応し狭いトロッコの中座り込むミコトに駆け寄る。
だが駆け寄った先に忌々しい愛しい姉の夫がおり、更にミコトに寄り添う(どちらかと言えばミコトが寄り添っている)形で座っているのが見え、アスカは立ち止まりムスッとした表情でミコトの夫…スモーカーを睨む。


「なぜこの男がいるの」

「あら、なぜって…わたくしの夫ですもの」

「………」


むすっとさせるアスカを揶揄うように、ミコトはピトリとスモーカーの肩に頭を預ける。
ミコトの口から『夫』という言葉が出るどころか、ミコトからスモーカーにくっつくのを見てアスカは更にむすっとさせる。
スモーカーは殺さんばかりの目線を貰いながらもうんざりとした表情で見返し葉巻を吸っていた。
その態度もミコトの夫になった事も何もかも気に入らないアスカはカチンと来たのか、ミコトは怪我をしているためミコトではなく、スモーカーの隣に周りスモーカーの太い腕をウサギの手で引っ張りミコトと離れさせる。


「てめ…何すんだ!」

「お姉さまの隣は私とルフィの!!あんたのじゃない!!」

「おれだって好きでそこにいるんじゃねェよ!!」

「なんですって!?お姉さまの隣に座っておいてその言い草…!!お姉さま!なぜです!?なんでこんな男を選んだんですか!!」

「まあまあ…ふふ」


ミコトとスモーカーの間に一人座れる程度の隙間を開け、アスカはその隙間に座る。
勿論、ミコトが怪我をしているようなので、スモーカーの脇腹に肘を突き付けながらミコトを避けて座り、そのアスカの膝の上に直葉がご機嫌で乗った。
むぎゅっと体を詰め込むように座るアスカにスモーカーは苛立ち本来ならその場から立ち去るのだが、海賊のために席を譲るのは腹立たしく、つい19歳の少女にむきになってしまった。
ミコトは可愛い妹と、夫との言い争いにくすくすと呑気に笑っていた。

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