外に出て見れば、すでに事が終わっていた。
外に出ていたフランキーがロボに乗って作業していたため、回収しに来たドンキホーテファミリーの二人を相手に戦っていたらしい。
ロボに乗っていたため毒が効かず、回収しに来た一人が風を起こし毒霧を吹き飛ばしてくれたおかげでその場にはすでに毒が消えていた。
すでにフランキー相手にボロボロだった二人は逃げ腰の敵には強いウソップとナミが倒し、一人で逃げようとしたシーザーをウソップが海楼石の手錠を飛ばし捕獲する。
「いいか海賊共!!タンカーはお前ら海賊チームのもの!!これ"正義"の境界線!!この線からこっちへ入ってくるな!!分かったか麦わらの一味!!」
捕獲も終え、闘いの一休みに海兵たちはインクで斜めに線を引き海軍のマークと海賊のマークを描き境界線を作る。
そんな幼稚なマネをする部下にスモーカーは呆れた目で見た。
「誰がこんな仕様もねェマネしろと…海賊共と慣れ合うなと言っただけだ」
「やるなら徹底的にでしょ!!スモ中将!!」
「なお!!医療班に境界線はナシとします!!」
ビッシッと衛生兵が親指を立て、部下が敬礼をするのを見て溜息をつく。
G−5の基地とも連絡が取れ、あとは軍艦がくるまで待機という形になった。
夫の部下を微笑ましそうに見つめていたミコトはチラリとアスカやルフィを見た。
ルフィは捕まる事を選んだ茶ひげと話しており、いつもつかず離れずのアスカがいない事に気付く。
アスカを探してみれば、アスカは捕まったシーザー達をじっと見つめていた。
「あらたしぎ、どちらへ?」
その姿がどこか迷子の子供のような気がしてミコトは心配そうに見つめていたが、骨折は今治している途中なためまだ上手く歩けない。
歩けるとしても小鹿の足のようにプルプル震えてしまうだろう。
すると傍にいたたしぎが海賊達のところへと足を向けているのを見てミコトはつい声をかけてしまった。
声をかけられたたしぎはミコトの問いに答えてくれる。
「あ…ミコトさん……海賊達に子供たちを預けてくれるようお願いしようかと…」
「放っておけ…子供はあいつらに懐いてるんだ…子供も懐いてるあいつらと一緒に居た方が安心するだろうしな」
「そうですけど…その…」
「子供たちを助け出し救ったのは、実質麦わらの一味ですものね…ですがたしぎも子供たちの事を心配しての事でしょう…たしぎの気持ちも十分わかりますわ…―――いいでしょう、説得してみなさい」
「!…ミコトさん…!」
「ただし、あなたの事だから無理強いはしないでしょうけれど…"彼女"が首を縦に振らなければ諦めなさい…それが条件です……いいですね」
「はい!!ありがとうございますっ!!」
たしぎは、子供たちを海兵に預けてもらえるよう頼みに行こうとしていた。
上司の性格をよく分かっているたしぎはミコトに引き留められビクリと肩を揺らした。
スモーカーも部下の性格を分かっていたから予想しており溜息をついた。
そんな夫を尻目にミコトは素直なたしぎに目を細め笑みを浮かべ、許可を出した。
上官の許可を出すほどの事ではないが、背中を押されたような気がしたたしぎは嬉しそうな笑顔をアスカに向ける。
勝手に決めたミコトにスモーカーはギロリと睨む。
「おい!」
「あらいいではありませんか…部下の長所を育てるのも上司の役目ではなくって?」
「お前今一般人だろうが!」
まるで大将のように自分の部下に対応するミコトにスモーカーは気に入らなかった。
そんな夫の気持ちなど十分に分かっているミコトは『あらあらそうだったかしら』と惚けてコロコロと笑って見せる。
あからさまに惚けるミコトに『てめェなァ…!』と更に文句を言おうとしたスモーカーをミコトはちょんとスモーカーの唇に人差し指を寄せた。
反射的に黙り込んだスモーカーにアスカはそのまま人差し指を自分の唇に寄せ『いい子』と笑みを深める。
そして何か言う前にたしぎへと向き直す。
「もし"彼女"が納得してくださったのなら、伝言を頼みます」
「はい!なんて伝えればいいですか?」
「"子供たちの事はDr.ベガパンクに診てもらうのでご安心を"と」
「え…で、ですが…いいのでしょうか?」
「ええ、構いませんよ…これはいわば海軍の失態…ならば海軍が尻拭いすべき問題ですもの……それにベガパンクが何を言おうと、わたくしが許しません」
「ミコトさん……っ私の我儘を聞いてくださり本当にありがとうございます!!」
「あら良いのですよ…今回わたくしは足手まといでしたからね…これくらいはさせてくださいな」
ミコトの心遣いにたしぎはもう一度お礼を言って頭をさげた。
そんなたしぎにミコトは笑みを深める。
本当言うと"足手まといだっただから"ではなかった。
たしぎがあの時…ヴェルゴと戦っていたときに『仲間』と言ってくれたお礼だった。
本当なら大将という扱いづらい存在なのに、たしぎは『仲間』と思ってくれて、親しく接してくれた。
ミコトは大将となってから同性…特に近い年齢の女性達からは憧れの存在として見られはするが、たしぎのようにあちらから声をかけて来たりするでもなく、更にはこちらが声をかければ恐縮したように緊張し身を縮めた反応ばかりだったのだ。
だからたしぎのように接してくれるのはミコトにとってとても嬉しい事だった。
許可を得て、更には海軍最高の科学者に治療してもらえると知り、たしぎはさっそく"彼女"…ナミの元へと向かった。
それをミコトが折れていない腕で手を振って見送る。
「………」
そんなミコトをジト目で見てくる人物がいた。
勿論、それはスモーカーである。
ジロ目で見てくる夫など気にもせずミコトはニッコリと嬉しそうな顔をスモーカーに見せるだけ。
そんな妻(仮)にスモーカーは疲れたようにため息をつく。
「"海軍の失態"、"海軍が尻拭いすべき問題"とはよく言ったものだ」
「あら何が仰られたいので?」
「……お前、知ってたんだろ」
「何をです?」
「―――この島に、何があり、誰がいて、後ろには何者かがいるのか、をだ」
「…………」
額に手をやる夫の言葉にミコトは笑みを崩さず小首を傾げて見せる。
その笑みはすでに作り物と変わっていたが、それを見抜くほど今のスモーカーとの間に絆はない。
そして、スモーカーが何がいいたいのかミコトは分かっていた。
ミコトの予想通り、スモーカーはそれを突いてきた。
横目で見つめるスモーカーにミコトは表情を変えないまま少し間を置く。
そして、ミコトは…
「ええ、存じておりました」
素直に答えた。
その言葉にスモーカーの手がグッと握られたのを見ながらミコトは『これから言う事に嘘偽りはございません』と告げた後、スモーカーに言い訳を一つ零す。
「あなたは全て知っていると思っているようですが、それは違います」
「?」
「わたくしは確かにここにシーザーがいる事も、モネがいることも、そしてヴェルゴが海賊だということも、その裏に誰がいることも知っていました……恐らくあなたはヴェルゴ達の様子で気づいていたのでしょう?」
ミコトの言葉にスモーカーは頷く。
あの時…檻に捕まっていたとき、彼らの会話や様子で何となく察しはついていた。
その答えにミコトは『そう』とだけ答えて続ける。
「ですがわたくしは全てを知っているわけではございません…例えば子供たち…わたくしはこの施設に子供がいる事自体、存じておりませんでした」
「…………」
「確かに、ここには一度来ていますわ…それも"ジョーカー"…ドフラミンゴに連れられて。」
「!?―――じゃあてめェは"ジョーカー"と…!闇との繋がりがあるのか!?」
ミコトは予想したようにジョーカーとの繋がりがあった。
それを知りスモーカーはミコトへ振り向き睨むように見つめたがミコトには首を振られてしまう。
首を振るミコトをスモーカーは怪訝とさせる。
「彼はわたくしと接するとき、ジョーカーとしてではなく海賊のドフラミンゴとして接してきました…勿論、ジョーカーが彼だということも存じておりました……ここには部下の紹介という面目で来ただけですのでそう長い間滞在してはいませんでした…だからわたくしはここの施設で人造の悪魔の実を作っているという事は教えられましたがそれ以外の事は全く…信用はされていませんでしたのでしょう……わたくしは海兵でしたから」
「ただの海兵ならお前にそこまで教えはしねェだろ…本当にお前、ジョーカーと繋がってねェんだな?」
「ええ…あの方は本気でわたくしを好いてくださっているようで、恐らく裏の顔をあまり見られたくはないのでしょう……」
「…………」
ミコトの言葉が本当か嘘か…それを見極めることは出来ない。
だからスモーカーは信じる事を決めた。
疑ってもキリがないと思い、そして大将としてのミコトを信用したのだろう。
「……お前は…お前の"正義"は何の為にある?」
そして思った。
ミコトの正義が知りたいと。
闇を知りながらも海兵であるはずのミコトは動かずこうして被害が広がった。
本来ならばこの事件は未然に防げたはずの事件であった。
ミコトはそれを分かっていながらなんの対策もせずここにも平然と子供たちと立っていられる。
脅されたという考えは浮かんだが、ミコトの様子ではそれはないと、その考えは消した。
そもそもミコトが脅されて言う事を聞くタマならば海軍大将なんて座にはついていないだろう。
スモーカーはだからこそ気になったのだ。
何故ミコトは海軍に入り海兵となり…なんの正義のために生きているのか、を。
そんなスモーカーの問いにミコトは本物の笑みを浮かべた後海賊側にいるルフィへ目線を送り、そして…
「全てはわたくし自身のため……わたくしの正義はわたくしのためにあります」
そう答え、ミコトは弟の背を…愛おし気に見つめた。
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