(120 / 274) ラビットガール2 (120)

すでに周りは宴会になりつつあり、境界線を作っていた海兵達もサンジの作った料理を目当てに停戦となり酒まで仰ぐ始末。
それでも麦わら一味からしたら見慣れた風景だった。
その中、アスカは気を失って寒さから凍りつきかけている彼らを見つめていた。


「…………」


アスカは彼らを見つめ、思う。
―――彼らなら『リサ』の事を何か知っているのではないか…と。
記憶がない空白の時間には興味はない。
どう足掻こうが、叫ぼうが、望もうが思い出してくれないのなら興味を持つ必要はない。
それが記憶を失い思い出そうとした時期を経てのアスカの考えだった。
アスカだって最初から冷めていたわけではないのだ。
思い出そうと思ったことなんて沢山あった。
だけどどう思い出そうと必死になっても記憶は欠片も思い出してはくれなかった。
だからアスカは諦めたのだ。
しかし、そう思って過ごし今を生きていたアスカだったがもしかしたら記憶を知っているかもしれないと思う存在に会えたことで少し考え方が変わった。
『姉上?』と様子の可笑しい事に気付いた直葉が戸惑いながら声をかけたがアスカには届いていない。
無意識にアスカは一歩、足を踏み出す。
しかし…


「アスカ」

「!」


前に出て気を失っている二人を起こし聞こうとしたアスカのその腕をローが掴んでやめさせた。
それにアスカはハッと我に返り、ローを見上げる。
見上げた先にいるローは少し険しい表情でアスカを見下ろしていた。


「あいつらには近づくな」

「……どうして?」

「どうしてもだ」

「…………」


アスカはローの言葉に疑問を思ったが、なぜ近づいていけないのかと聞くも明確な答えは出てこんない。
それがまた腹が立ちアスカはむっとさせる。


「アスカ〜っ!」


『だから何で』、と続けようとしたアスカのもとにナミが駆け寄ってきて、アスカとローの間に割り込む。
その際ローの腹部にゴスッと肘を当てるのをナミは忘れない。
ルフィやスモーカーならともかく、ナミ程度では痛くもかゆくもないローだが邪魔された恨みは目に宿り、アスカの直葉と繋がっていない手をギュッと握るナミの背を睨む。
ナミは本来ならぞっとさせ即謝るであろうローの恐ろし気な睨みに、過保護という名の鬼となっているため抵抗できていた。


「な、なに?ナミ」

「寒いから冷えたでしょ?サンジ君が暖かいスープを作ってくれたから貰いに行きましょう?」


そう聞くが、ナミは有無を言わせずアスカの手を引っ張り、アスカと直葉を引き連れてローから引き離す。
ローが何か言う前にあっという間に釜へとついてしまい、サンジはナミに『ナイス!!ナミさん!!』とグッと親指を立て、それにナミも親指を立てて返した。
それを見てナミもサンジも何をしたかったのかを察したアスカは半目で二人を見つめ、直葉はぎゅっとアスカの手を握ったまま首をかしげていた。



「おお!!直葉!!直葉ではないか!!」

「錦えもん殿!」


ローに対して疑心暗鬼の今、アスカは戻る気にもならずテーブルにつこうとした。
すると一度ガスに掛かって白く固まり復活した錦えもんが直葉に駆け寄ってきていた。
直葉はアスカから手を放し、錦えもんへと駆け寄り抱き着く。


「錦えもん殿!ご無事だったのですね!」

「直葉も怪我はないか?」

「はい!モモの助が守ってくださったので直葉は傷一つありません!」


直葉は予知夢でここに来ることも、アスカと会うことも知ってはいた。
だが、予知夢は便利に見えて、不便だ。
まるでビデオを飛ばす早送りのようにところどころしか見せてくれない。
その場面に、錦えもんと合流する場面も見たので不安はそれほどなかった。
そもそも、直葉はどの男よりも度胸がある。
だがそれでも直葉はまだ子供。
分かっているからと言って心細いわけではない。
モモの助がいるから直葉は平静でいられた。


「モモの助!よく直葉を守ってくれた!お主は立派な武士の子でござる!!」

「―――っ、はい!!父上!!」


モモの助も父に会え、一人じゃなかったとしても心細かったのか涙目になっていた。
しかし武士として、そして直葉を守らんがために色々と我慢もしていたのだろう。
直葉の生まれもそれ故の度胸の良さもモモの助は知っている。
だが、それでも武士として侍として…そして、男として女子を守るべきだとモモの助は教えられて育てられた。
赤い龍の姿だったモモの助も、今では元の姿に戻っており、錦えもんの能力で服を用意してもらっていた。


(お父さん…か…)


錦えもん達のやり取りを見て、アスカはふと思う。
父親という存在を。
義理の父であるシャンクスは優しくて離れていても大好きでいられる存在である。
それが親子というものなのだろう。
しかし、アスカは本当の親子というものを知らない。
血の繋がりがある兄弟も、両親も、親戚も知らずに育っている。
だが、同じ環境かで育った人間なんて大勢いる。
それでも家族の事を考えるのは、錦えもんから父やら母やらを聞いたからだろう。
しかし、ふとアスカは自分への違和感に気づく。


(……私、今…"お父さん"って…言った…?)


自分の言葉に違和感を感じた。
今、アスカは父と言った。
だが、いつもは『パパ』と言葉を表すのに、今、アスカは『お父さん』と言葉を表現した。
お父さんなんて一度も言ったことないのに…モモの助に釣られたとしても『父上』なら分からなくもないが今言ったのは『お父さん』だった。
アスカはその自然さに違和感があった。


「アスカ、どうした?」

「!」


口元に手を当てて呆然と立っていたアスカに誰かが声をかけてきた。
ハッとさせ振り返ればルフィが立ってこちらを不思議そうな目で見つめているのが見えた。
首を傾げながらアスカの隣に立つルフィにアスカはルフィから錦えもん達を見てポツリと零す。


「ルフィ…私のお父さんって―――」


本当にいるのかな、と続くであろうはずの言葉が切られた。
ルフィがアスカの手を握ったのだ。
グッと、直葉が握るよりも強い力で握られアスカは口を、言葉を閉じた。
ルフィを見れば、どこか怒っているような…真剣な瞳をまっすぐアスカに向け、アスカは息を呑む。


「アスカの父ちゃんは、シャンクスしかいないだろ…」


ルフィは息を呑むアスカなどよそにそう呟いた後、アスカが何かを言う前に手をそのまま引っ張りテーブルまで歩く。
ルフィが座ったためアスカも引っ張られる形で座り、アスカはルフィの様子を窺うようにチラリとみる。


「なんか…怒ってる?」

「怒ってない」

「……やっぱり怒ってる」

「だから怒ってねェって」

「怒ってる」

「怒ってねェ」

「……まだ本当にいると分からない人になに嫉妬してるの」

「………だってアスカの父ちゃんは…」

「うん、パパだけだよ」

「…………」


ルフィからしたらアスカには自分たちがいるからいいではないか、というのが本音である。
どんな理由であれ今更アスカの父親面はしてほしくはないといのも本音だ。
どうもアスカの事になれば心が狭くなるようで、どうしても見ず知らずの『アスカの本当の父親』という存在自体がイヤだし、それを思うアスカも遠い存在のようでイヤだった。
それに最近はローや直葉などなんだかモヤモヤとする事ばかり起こり、ルフィは拗ねてしまったのだろう。
父親はシャンクスだけ、というアスカの返事にルフィは『ならいいや』と呟き、機嫌を直していく。
『ヤキモチ焼き』とルフィの頬を突っつくアスカにルフィはニッと笑っておどけてみせた。


「…………」


ローは二人の背を見つめた後、シーザー達から離れルフィに歩み寄りアスカとの間を裂くように肩を掴む。


「おい、麦わら屋…ここは急いで離れるんだ……ゆっくりメシなんか食ってたら追手が来る!仲間達にそう伝えろ」

「そうなのか…よし!分かった!!」


のんびりと食べている暇はない。
喧嘩を売った相手が相手だからとルフィにクルーに早く船に乗る準備をしろと伝え、ルフィは確かに頷いた。
そう…確かに、頷いたのだ。
しかし……


「宴だァーーーっ!!!」


やっぱりルフィはわかってなかった。
急いで宴をすると訳の分からない事を言い出し海兵も囚人たちも混ざりルフィ達は楽しく宴を開始する。
ローはそれを口をあんぐりと開け唖然とし、アスカは分かっていたため肩をすくめ、ミコトは相変わらずの弟にクスクスと愉快そうに笑っていた。

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