ドフラミンゴの背後にいる影…その人物とは―――
「あ…!青雉…!!」
青雉だった。
正確に言えば、"元青雉"。
海兵は突然の大物の登場に声を上げ、ミコトはまさかのクザンの姿に驚きを通り越し唖然としていた。
それでもドフラミンゴは動揺はしておらず、クザンに後ろを取られ止めていた手を素早く動かす。
その手がスモーカーに届く前にクザンはドフラミンゴだけを凍らせた。
それは一瞬だった。
二人の動きは一瞬で、しかしクザンの氷はあっと言う間に広がり、スモーカーとミコトの下以外が一瞬にして凍り付く。
海兵達は迫りくる氷に咄嗟に飛び上がって避けたが、着地した足がピキピキと音を立てて凍っていく。
まだ足を動かせば氷を砕いて足は地面から取れるものの、次に地面につけばまた凍っていく。
「若ァーーッ!!」
「若様!!」
ドフラミンゴはその一瞬で全身が凍った。
しかしパキパキと言わせた瞬間ドフラミンゴは一瞬にして全身を凍らせた氷を割って難を逃れ、スモーカーから退きクザンと向かい合う。
珍しく息が上がっていたが、それでもベビー5やバッファローは生きていたことに安堵の息をつく。
両者睨みあっていた間の時間は長く感じた。
しかし、今回はドフラミンゴが引くことにしたらしく構えを解きクザンの横を素通りしベビー5とバッファローの元へと歩み寄る。
「お前と戦う気はない…フッフッフ!!しかしその男の口を塞げねェんならおれも取るべき行動を変えよう!―――一つ教えてくれるか」
「………」
「お前今…!!何者なんだ!!クザン!!―――……いい評判は聞かねェぞ」
「………」
クザンの横を通り過ぎる際、ドフラミンゴはクザンに問いかける。
しかしクザンは何も答えず、無言で返し、別段返答を期待していなかったドフラミンゴは鎖を取りそのままバッファローに乗ってベビー5と共に去っていく。
その意味をミコトは神妙な面持ちでクザンを見つめていた。
「…っ」
去る際ミコトにかけていた能力も解除したらしく、ミコトはそのまま重力に沿って落下する。
3メートルから落下したミコトは痛みを覚悟していたが、ミコトを抱き留めた人物がいた。
「大丈夫かい、ミコトちゃん」
「…!」
ぽすん、とミコトを受け止めたのはクザンだった。
クザンはスモーカーの傷を衛生兵に任せる指示を出した後、落ちるであろうミコトを受け止めに向かったのだ。
ミコトはクザンの声にハッとさせ弾かれたように顔を上げる。
顔を上げれば、大将の時とは違ってアイマスクがサングラスに変わっており、帽子も被り服装も当然だが違う。
何より違うものがあった。
ミコトはクザンに言葉を返すのも忘れ、ソレへそっと手を伸ばし、恐る恐る触れる。
「ん?どうした?」
「ひげを…生やされたのですね」
それはヒゲだった。
たかがヒゲ。
男なら個人差はあるが誰だって生えるものである。
だがそれが逆に時が経過しているのをミコトに知らしめ、そしてもう同じ場所を歩けないのだとも知らしめる。
触れると当然ながらチクチクし、それが嘘ではないのだとミコトに気付かせる。
ミコトの細く手入れされている手が自分のヒゲに触れているのにクザンはくすぐったいのか目を細めた。
「まあ…なんだ…手入れする暇なくってなァ」
「ふふ、あなたらしい…ちゃんとご飯は食べています?」
「あー……なんとかな」
「睡眠は?」
「それはもうバッチリ。移動中寝てばっかりよ」
好きにさせながらクザンはミコトの問いに答える。
多少の嘘は見逃してやり、ミコトは笑みを浮かべた。
「あなたが無事でいればそれでいいです…何事もなければ、それで…」
「………」
そう呟きながらミコトはそっとクザンの胸元に寄り添う。
寄り添った時、クザンから香るそのクザン本人の香りにミコトは懐かしくなり思わずツンとした痛みが鼻をさす。
しかし涙は出なかった。
そしてそれはミコトだけではなく、血に混ざってふわりと香るミコトの匂いにクザンも懐かしさを覚え、久々のミコトに涙腺が緩みそうになったが、グッとこらえ、スモーカーの傍に向かいミコトも衛生兵に治療させる。
「ところでミコトちゃん」
「なんでしょう?」
「こいつと結婚したって…マジ?」
衛生兵からはスモーカーの傷はしばらくは安静が必要だが命に別条なければ障害も残らないと告げられ、ミコトも傷痕が残ることもないと言われ、クザンはホッとさせる。
ホッとしたついでにクザンはずっと気になった事を聞く。
それはミコトとスモーカーの結婚疑惑である。
疑惑も何も新聞にデカデカと乗っているため疑惑とは言えないのだが…ミコトを可愛がっている一人として信じたくはなかった。
こいつ、と言って気を失っているスモーカーを指しミコトはスモーカーを見下ろした後クザンに向かってにっこりと愛らしい笑みを浮かべた。
「はい、結婚一年目になります」
「かァ〜〜!マジかァ〜〜〜!マジだったのかァ〜〜!!」
ミコトが頷いた瞬間、クザンは顔を手で覆い天を仰いだ。
恐らくそのクザンの姿はミコトとスモーカーの結婚が公表された時の全世界のミコトファンの姿と同じだろう。
「あ〜…まだこォ〜んなにおチビちゃんだったミコトちゃんが結婚かァ〜…幼な妻で新妻かァ〜………こいつやっぱ、殺っとく?」
「「「ギャーー!!スモやんまたまたピンチ〜〜!!」」」
「まあ、クザンさんったら」
クザンからしたらミコトはまだ小さい頃の記憶が強い。
元同僚で20歳を超えているとはいえ、クザンにとってはまだまだ子供であった。
『クザンさん!』、と今も昔も愛らしい声で呼んで後ろをくっついてきてくれていたのに…あんなにも可愛かったミコトが…今や人妻…しかも友の…30代の…しかももうすぐ40代のおっさんと結婚…まだ20代でお肌もピチピチの食べ頃であろう年齢のミコトが……おっさんと結婚…
そう思うと殺意が沸いた。
ピキピキと手を凍らせるクザンに海兵達がスモーカーを守るため何人か上から覆い被りあわあわとさせる。
クザンも本気ではないのだが、海兵達は格上の殺気に慌てふためいた。
そんなクザンを見てミコトは愉快そうに笑った。
新聞で見て衝撃が強かったが、本人から聞いてさらに衝撃が強まり若干肩を落としながらクザンは項垂れるように俯きため息をついて落ち着かせる。
「子供はまだ?」
「ええ…彼、恥ずかしがり屋さんで手を出してくれなくて…ちゃんと手が出しやすいようにしているんですけれど…」
「えーっと…因みに、どうやって…」
「裸にネクリジェ(しかも超ドエロな)を着てベッドに待機したり潜り込んだり、ベッドの中で手足を絡めたりとか…」
「う…うわ〜…それはなんていうか…大胆なことするねェ、ミコトちゃん……でもそれでも手を出さないとか…こいつ聖人か?」
「さあ?…ヒナさんの仰ったようにしたのだけれど…効果は全くなく…」
「えっ…それヒナ譲直伝!?」
「ええ…他にも色々教わったのですがどれも失敗して…ヒナさんも残念がっていましたわ」
「おいおい…勘弁してくれよヒナ譲〜!おれの天使にこれ以上穢れた事教えないでくれ!」
「クザンさんも何かいい案ありまして?」
「え゙…な、なんでおれに聞くのかな?」
「あら、だってクザンさん女性で遊ぶのお得意でしょう?」
「…ちょっと待って…なんでそんな情報持ってんの?」
「ワンちゃんと、お猿さんが新年会の時にポロリと…」
「………あいつら…今度会ったらぶっ殺す」
結婚して一年、という事でクザンはもう子供はいるのかと聞く。
クザンから見てもミコトは魅力的で、そのミコトを妻にしたというだけでも幸福だというのにすぐに手を出さない者がいるか、とやけくそできいた。
しかし幸運なことにクザンが最も聞きたい言葉が返ってきてクザンの脳内は天使が舞い降り祝っていた。
しかし、次に出たミコトの言葉に地獄に落とされる。
あの…何度も言おう、あの可愛いミコトが…天使と言っても過言でもない可愛くて可愛くて可愛いミコト(クザン視点)が……卑猥な言葉がこれでもかと出てきてクザンはノックアウト寸前である。
しかもそれを全て教えたのはヒナというではないか。
確かにミコトがそんな大胆な事を教えてもらえる人物なんていない。
部下に聞こうものなら悲鳴どころか呪いまでスモーカーに届きそうだし、祖父&おじに話せばミコトにおしべとめしべから教え込もうとするだろうし、おつるに聞くのが一番安全だろうがああ見えておつるもおつるでミコトを孫娘のように可愛がっているため教えれても実践には不向きな気がするし何より『ミコトから接点を作らなきゃ何もできない男なんかにミコトをやれるかい!!すぐに別れな!!』と言いかねない。
そしてミコトが到着したのがスモーカーの同期で友人関係でもあるヒナ、という事だった。
意外とスモーカーの結婚を自分の事のように喜んだヒナはあんな事やそんな事をミコトに教え、それをミコトが実践し…そしてことごとく失敗している、という所だろう。
それに安心していのか、スモーカーの『ED疑惑』に八つ当たりに大爆笑しザマァー!(顔文字略)をやればいいのか…それとも同じ男として同情すればいいのか…クザンは混乱していた。
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