(126 / 274) ラビットガール2 (126)

ドフラミンゴと戦うよりも疲れがドッと襲い、ハァァァァ、と先ほどより重いため息をついた。


「っていうかさ…別にそんなに急いで子供作らなくても良くない?」


そして思ったのだ。
なぜそこまで急ぐのか、と。
女と違い、男はどんな年齢でも立ちさえすれば子供を孕ませる事が出来る。
だからスモーカーがその気になれば子供などいつでもできるのだ。
ミコトはまだ23…子供を産むには少し早すぎではないのか?―――とクザンは足掻く。
だが、ミコトからは意外な言葉が返ってきた。


「ですが子を作らねばいずれ見ず知らずの男性と結婚させられますし…下手したら離婚はせず子供だけは夫ではなく、見ず知らずの血筋を引く事になってしまいますわ」

「…………は?」


クザンは何を言われたのか理解できなかった。
今、ミコトの言葉を理解できなかったのだ。
というか、理解、したくはなかった。


「ちょちょちょ…!ちょっと待って!!……一応さ、確認だけど……ミコトちゃんとこいつって…恋愛結婚だよな…?」


クザンは自分が退職後にミコトとスモーカーの結婚を知った。
それを知ってまず思ったのが『え…二人って付き合ってたの?』だった。
クザンは両方とも接点があり、深い仲だからどちらかがどちらかと付き合っていたのなら必ず気づくはず。
だが新聞に出るまでクザンは二人が結婚するような仲だとは知らなかった。
それを指摘すればミコトからは首を振られ、事情を説明された。
ミコトの説明にクザンは『おいおいおい!!!しっかりしてくれよ!!サカズキィィ!!!』と元同僚を恨んだ。
この話題は恐らくセンゴクの時からあったのだろう。
しかしクザン同じくミコトを可愛がっているセンゴクがそんな情もなにもない結婚をミコトに言い渡すわけがない。
センゴクは全て蹴っていたと思われる。
だが今回クザンと戦い勝利したのはサカズキ…海軍の中ではミコトと不仲と思われがちの彼である。
クザンは頭を抱えてしまった。


「わたくしとしてはこの人との子を生みたいのですけれど…中々手強い方で……クザンさんはどうしたらいいと思いますか?」

「………えっ…なんでおれに…ってそれはもういいか……なに?ミコトちゃん、スモーカーとの子供欲しいの?」

「ええ」

「なんで?だって恋愛でもなんでもないんでしょ?だったら別にスモーカーの子じゃなくてもよくない?子供だけ欲しいなら"あいつ"に頼んで子供作ったらいいんじゃないの?」


クザンは自棄だった。
もうどうにでもなれ、と自棄だった。
結局すでに海軍を辞めた身であるクザンがどう足掻こうとミコトが離婚する気もなければ離婚したらしたでどこかの馬の骨に貰われるだけで悪化するだけ。
ならばスモーカーに諦めてもらうしかないのだ。
しかしどうしてもスモーカーの子が欲しいというミコトに一つ疑問が残った。
事情は分かった。
だがそれならば、ミコトにメロメロの骨抜きのあいつ…赤髪のシャンクスに種だけもらえばいいのではと思った。
いくら世界政府でも夫婦の夜まで監視することはないだろうし、スモーカーもどうしてミコトに手を出さないかは分からないがどうせ手を出さないのなら仮面夫婦を続けてもらいたくはある。
どこかの馬の骨にミコトをやるくらいなら、愛はないが昔から知っている友人にミコトを預けた方がマシである。
『預ける』―――ここは大事である。
ならば密かに子供だけ別人の子でもスモーカーは気にもしないし、スモーカーの性格上流石に子供を無碍にはしないだろう。
クザンは海賊との恋は反対だが、女としてミコトには子供だけは好きな人との間に作ってほしかった。
名は言わずもクザンの言う『あいつ』が『シャンクス』だという事を理解したミコトは悲し気に微笑み、首を振った。


「……あの人とは別れました」

「別れた…?」


クザンは怪訝とさせる。
ミコトの言葉を聞いて、まず思ったのが『ありえない』だった。
クザンが見る限りミコトもシャンクスも両者共に両想いだったはず。
特にシャンクスはミコトへの執着が凄く、10歳から片思い中だったのだ。
それにシャンクスは四皇の中でも信頼はあり人情もあっても所詮は海賊…欲しい物を奪ってでも手に入れるのが海賊だ。
そんなシャンクスが簡単に惚れた女を諦めるわけがないとクザンは思った。
怪訝とさせるクザンにミコトはこれも説明してやる。
シャンクスに助けられたこと、そしてシャンクスがミコトの命を狙っている事…祖父やオジには決して話せない事を全て。
クザンはそれを聞いて罪悪感が積もった。
ミコトの言葉にクザンは手で顔を覆う。


「…すまない、ミコト…おれがあんなこと言ったから…」


クザンはミコトの決意に責任を感じた。
あの時…戦争前の時、自分が『覚悟』を語らなければミコトはもっと楽に生きていたかもしれないと思うとどうしても自分が許せなかった。
あの時、ただクザンは逃げてほしかったのだ。
弟を助けるために裏切ってでもいい…そのまま海軍から逃げ出してでもいい…ただミコトを弟殺しをさせたくはなかったのだ。
しかし、ミコトが選んだのは―――弟殺しを背負う覚悟。
クザンはミコトが自分の前に現れた時落胆した。
そして『馬鹿野郎』と心で叱りつけた。
『何故逃げなかったのか』、と叫んだ。
しかしミコトはクザンの謝罪に笑みを浮かべた。


「なにを謝る事があるんです?これはわたくしが選んだ道です……確かに…エースの事は残念な結果となりました…ですがこれは仕方ない事…エースが…あの子が選んだ道です…あの子は海賊である道、そして仲間達を誇りに思っておりました…そんなエースをわたくしは誇りに思っております…それにルフィを…弟達を庇って死ぬなんて、エースらしいですわ…」

「…………」

「だからこそわたくしはあの時選択し覚悟をした事を悔いてはいません…自分が選んだ道を誇りに生きる事こそ死んでしまったエースへの弔いだと、わたくしは思っております…だからこそわたくしは死ぬわけにはいかない」

「ミコトちゃん…」


ミコトは決してクザンのせいとも、クザンの言葉で決めたとも思っていない。
ミコトはミコト自身でこの道を選んだ。
それで悔いうるのも、悲しむのも、苦しむのも、ミコトの自業自得。
だからクザンは何も悪いと思っていなかった。
ミコトの言葉に、そして決意にクザンは何も言えなかった。
クザンは何も言わず、胸を張るミコトの頭を撫でた。
その手にミコトは嬉しそうに笑みを深める。
その笑みにクザンは久々に安堵や温かさを感じた。

126 / 274
| top | back |
しおりを挟む