――パンクハザード。
雪が降り騒動も収集付き落ち着いた体がその寒さが更に堪えるころ…スモーカーは目を覚ます。
「最初から…世界政府が全てとは思っちゃいねェよ…海軍に所属しなくても実行できることはある…所属しねェから見えてくるもんもある…」
「おれァ…今…死んでた」
スモーカーの言葉にクザンは目を細めた。
「フフフ…んん……ここへ来たのは縁って奴だ」
「何しにここへ…?」
「お前の顔を見によ」
『そしたらミコトちゃんもいるじゃない?おれァ、驚いたぜ』とおどけてみせ、『ね〜、ミコトちゃん』とミコトと顔を顔を見合わせ小首を傾げて見せる。
ミコトも同じ仕草をし笑っていた。
クザンを挟んだ隣にいるミコトにスモーカーは溜息をつき、そしてクザンに…
「なぜここが分かった」
そう問いかけた。
純粋の問いかけと、確信犯の問いかけの両方だった。
クザンはその質問には答えず、ミコトはチラリとクザンを見上げる。
「…まさか"闇"に通じてる訳じゃねェだろうな、アンタ…今…」
「!!?」
「も…!元大将が…!や…!?」
「手当てが済んだらあっち行ってろ!!」
「「「だァ!!」」」
スモーカーの言葉に部下の海兵達は一声いにギョッとさせた。
闇、という言葉が恐ろしくて言えず、しかし言う前にクザンが海兵達を追い払い、海兵達は会話が聞こえない距離まで下がっていった。
その場にはミコト、クザン、スモーカーしかいなくなる。
「……おれはおれよ…スモーカー」
海兵達がざわつきながら三人をハラハラと見守っている中、クザンはそうポツリと呟き、スモーカーも『ならいい』と返した。
ただミコトはいつもの笑みを浮かべていた。
「――とにかくお前ら…ドフラミンゴから目を離すな…奴は『七武海』にしてドレスローザの現"国王"…九蛇の蛇姫とはまた違った極めて異例づくしの海賊だ……サカズキに伝えて『大将』達を動かせ……最悪の場合歯車はみるみる食い違い…―――サカズキの新『海賊本部』始まって以来のドデケェ山になる」
「…!!」
クザンのその言葉にスモーカーは目を丸くし、ミコトは目を細めた。
ミコトはローがこの騒動を起こしたことでこれからどう世界が変わるのか大体は予想していた。
恐らくドフラミンゴは敗れるだろうことは予測はできる。
漫画だからとか、原作がそうだからとか、主人公補正とかではなく…ルフィが強運の持ち主だからだ。
これが漫画の世界ではなく現実だということはミコトも二年前に自覚し受け入れた。
だからこそルフィがこの先勝つ保証はないが、どうしてか、負ける気もしなかった。
だからドフラミンゴに負けるなど思ってもいない。
クザンの言う通りサカズキが元帥となり最初の『ドデケェ山』となるのは確かなのだ。
「ミコトちゃん」
「はい?」
「ちょーっと席外してもらえないかな?」
「なぜです?」
「いや、ちょーーっとスモーカーと男と男の話があってね」
大将を休止しているミコトは機密を聞く資格はないが、席をはずせと言われれば誰だって理由を問いてしまうもの。
反射的に聞いてしまったミコトにクザンはそれを説明しながら海兵を一人呼んだ。
スモーカーと二人で話したいと言われたミコトは仕方なく頷き、海兵に抱きかかえられて退いていった海兵達の元へと向かった。
それをスモーカーはクザンに怪訝としながら目でミコトをなんとなく追っていると、上からクザンに呼ばれた。
ミコトを目を追い、海兵達が近くにあった岩に自分たちのマントを敷いて座らせ女王様のように接する部下たちを呆れて見ていたスモーカーは、満更でもなさそうなミコトから視線を外し、クザンを見上げた。
「なんだ」
「お前、本当にミコトちゃんと結婚したんだよな?」
「……認めてねェ」
「いやそれこっちのセリフなんだけど……まァ、粗方ミコトちゃんに事情を聞いたんだが……単刀直入に聞くけど…―――お前、EDなの?」
「…………は?」
スモーカーは何を言われたのかさっぱり分からなかった。
そして今、元大将の口から出た言葉を考える。
『ED』…"E"rectile "D"ysfunctionの略で、インポテンツ、勃起不全―――つまり役立たずという事。
何が、とは聞かないでほしい。
というか勃起不全で答えが出ている。
スモーカーは男の致命傷のその病気と疑われていると知り口が開いて塞がらずポカーンとクザンを見上げた。
その表情に何を勘違いしたのかクザンは『ああ、いや、すまない…』と謝り、同情めいた声を零す。
「いや…うん…別に恥ずかしい事じゃねェよ、ソレ…ちゃんと治療法もあるみたいだしさ、自費診療みたいだから高くなるだろうけど…治らない病気ではないみたいだし」
「…いや、おれはEDじゃないんだが」
「そんな隠さなくていいって…今おれだけしかいないんだし、ミコトちゃんにも部下たちにも言わねェし。」
「だからおれはEDじゃねェっていってんだろ!健全だ!!」
「じゃあなんでミコトちゃん相手に勃たないわけよ!!」
「なっ…!?」
『なんでそれを!?』、とスモーカーは叫びたかったが、言葉にならなかった。
そしてその犯人である押しかけ女房をギロリと睨んだが、ミコトは部下たちと和気あいあいと喋っていてスモーカーの睨みには気づいていない。
むしろミコトに群がっている部下が邪魔でミコトの姿が見えなかったりもする。
そんなスモーカーをよそにクザンは『信用できて腕のいい医者紹介しようか?』と言い出しはじめ、スモーカーは頭痛がしはじめる。
『今の本部近くだと〜』と本気で病院をお勧めし始める元上官にスモーカーは誤解を解こうと恥を忍んで事情を説明し始める。
「…黒蝶の誘いに乗らないのは―――」
「EDで乗る気がない…というか乗れないからでしょ?」
「だから違う!!」
「なに、じゃあおれたちの愛する可愛い天使にお前反応するの?」
「………」
この野郎ォ…、とスモーカーは心の底から思った。
反応しないとEDだという烙印を押され…反応すると言えば結局白い目で見られ…正直何がしたいんだよお前はと言いたい。
この際だから正直に言おう。
ミコトに毎晩夜這いされているスモーカーはちゃんと………反応している。
が、それを我慢しているのだ。
ミコトが来てから毎日が理性と性欲の戦争である。
大体冷静になって考えてみてほしい。
スモーカーだって男である。
30代後半だが、立派な、男である。
女性だって人並みに触れてはいる。
その健全な男の前に、だ。
その男に変な性癖を持っていない限り、だ。
そんな男の前に絶世の美女とも言われ23歳という若さを持ちその上にプロポーションも23歳かと思うほど完璧でその体に卑猥なベビードールからまさに自分好みのベビードールを着て迫られたらどんな男だろうと落ちるに決まっているだろ!―――と逆キレ気味でスモーカーは思うだけで決して口にはしなかった。
したら最期だと悟ったのだろう。
「…黒蝶の誘いに乗らないのは、乗ったら負けだと思っているからだ」
グッと理性を保ち鋭く光るクザンの目線を掻い潜ってスモーカーはこの戦いに勝った。
クザンは『誘いに乗ったら負け』と思っているスモーカーの言葉に怪訝とし話を逸らすことに成功する。
「負け?どういう意味だ?」
「…おれは一度あいつに聞いた事があるんだ…『お前は好きでもない男の子供を産んでも平気なのか』とな…その問いにあいつは『政府がそうしろと言うのならそれに従うのが自分の仕事』だと答えた……あいつを猫かわいがりしてるあんたらには悪いが…おれは仕事だからと好きでもない男に嫁ぎ仕事の一環で子供を生む女など願い下げだ」
「………」
先ほどが先ほどで嘘くさくはあるが、本音の一つでもある。
押しかけて来た時、スモーカーはミコトに聞いたことがあった。
その答えにミコトは『仕事だから』と答えた。
何だかんだ言ってスモーカーも男だから、理性が負けそうなこともあるほどミコトは魅力的だ。
そこは認めざるを得ない。
恐らくミコトで勃たない男はあのミコトが『下僕』と呼んでいるベガパンクくらいではないだろうか…もちろん恐怖的な意味で。
ミコトを嫌っている赤犬も政府の命令であれば恐らく子供も平気で作れるだろうし、恐らくはクザンも。
だが、セックスや子作りを『仕事』と考えている女を抱く趣味はない。
正直それを知ってから反応しなくなったのは確かである……ここは決して誰にも言わないが。
クザンはそれを聞いて顔を覆い溜息をついた。
それは両者へと向けられた溜息である。
一つは勿論ミコト。
そして…
「ミコトちゃんもミコトちゃんだが…お前もお前だ、スモーカー…」
「は?」
「妻の…いや、女の本心を読めねェとは情けねェ…」
「はあ?何だいきなり…」
クザンはミコトがそれが本音ではないことを察した。
そして同時に『相変わらずだなァミコトちゃんったら』と呆れてもいた。
クザンだってそのミコトの悪い部分をたかが一年の間仮面夫婦をしているスモーカーが気づけというのが間違いなのは百も承知である。
特にスモーカーは面倒ごとを押し付けられた部分もあるから素直にミコトと接するわけがなかった。
一年の間で妻を受け入れるほど器用な男ではないのも知っているつもりだった。
それでもどこかクザンはスモーカーに期待をしていたのだろう…スモーカーなら、ミコトをミコトとして見てくれるだろうと。
ミコトは若くして大将となった身だからこその苦労がある。
実力をちゃんと見極めてくれる人物が少ないのと…友の存在。
ミコトには友がいない。
だからこそあんな面倒臭い性格になり、誰にも本音を零し愚痴ですら零せないようになり内側に溜め続けてしまったのだが…
それをスモーカー自身が気づかなくても無意識に気づいてくれると思っていた。
それが…一年の間ミコトという人間性を見極める時間は十分にあるはずだったのにそれをずっとミコトの本音を隠した言葉を信じきっているスモーカーにクザンは呆れていた。
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