――夜。
サニー号では、ローの話を聞いてウソップ、チョッパーが警戒を高め錦えもんに出してもらった兜をかぶって武装していた。
「もう夜更けだ!!誰も来なかったな!!」
「もう見つからねェよな!?捜索隊は何千人だ!?何万人か!?」
錦えもんに出してもらった武装はどこかアスカが知っている武装とはデザインが違い、面白そうにルフィ達の兜や恰好をフォアマストのイスに座り見ていた。
『リサ』の事がモヤモヤしてどうしてもローの傍にいたくはなかった。
それをローも察しているのか無理にアスカの傍に行くことはなかったが、気になっているのかチラチラと見てくる。
それはアスカも同じで、アスカもローが気になってチラチラと見ていたから二人の目は何度も合い、何度もアスカが逸らす…先ほどからその繰り返しだった。
すると隣に座る直葉がこくりこくりと頭を動かしているのが見え、アスカは直葉を見下ろす。
「…ねむいの?」
そう問えば小さく頷き、アスカはナミを探す。
「そう…えっと、じゃあ…ナミに眠たいって言ってごらん」
「いやです…なおばは、あねうえといっしょにいます」
「………そう…」
アスカは面倒事をナミに押し付けようとした。
子供が苦手だからこそアスカはこの時どうすればいいのか分からない。
それを含めてナミに頼み込もうとしたのに…直葉がアスカの服をギュッと握って離さないのだ。
アスカは目を半分瞑りかけている直葉に困ったように頬をかく。
今度は保護者の錦えもんに助けを求めようと彼の方へ視線を向けるが、彼は今、ゾロになぜか喧嘩を売っていた。
刀を抜きゾロに切りかかる錦えもんは怒りの表情を浮かべていた。
「見損なったぞ!!あの国中が涙した大事件!!ワノ国英雄の"墓荒し騒動"!!犯人はおぬしであったか!!」
「違うっつってんだろ!!」
「違わぬ!!その腰の物!剣豪リューマの名刀『秋水』に相違ない!!」
錦えもんの怒号を聞いているとどうやらゾロの刀に見覚えがあったらしい。
あのスリラーバーグで貰い受けた刀はワノ国の刀らしく、それを見て錦えもんはゾロがその刀を盗んだと勘違いしているらしい。
錦えもんの刀を避けながら弁解しているのをアスカは見ていた。
彼の怒り様を見れば、アスカ達が説得しようとしても分かってくれないだろう。
しかし、ナミも錦えもんも直葉を預けられず困っていると、腕に重みを感じた。
そちらに視線をやれば、直葉がアスカに頭を預けていた。
顔を覗き込めば目が閉じており眠っているのが分かった。
ただ、アスカは違和感を感じた。
(硬い…?)
本来なら子供体温もあり、熱いくらいのぬくもりだ。
そのぬくもりに違和感はないのだが、腕にゴリッと硬い何かが当たった気がした。
直葉を見ても、ショールを頭に巻いているので何が硬いのか分からない。
「まだ騒がしいな…夜食食うのは何人だ?」
ゾロと錦えもんの喧嘩でさえ、この一味には喧騒にしかならない。
サンジが夜食の時間になり、ルフィ達に問う声が聞こえる。
直葉からサンジへ顔を上げれば、丁度サンジの夜食に釣られて喧嘩を切り上げた錦えもんがモモの助を探しているところだった。
「モモちゃんなら今ロビンとお風呂に入ってるわよ」
大人たちが争っているのを他所に、ロビンがモモの助を連れて風呂に連れて行ったのをナミは父である錦えもんに教える。
錦えもんはナミの言葉に目を吊り上げた。
父親の許可なしに子供を勝手に風呂に入れたのを怒っているのかと思ったのだが―――…
「ロビンちゃんとお風呂だと〜〜!?あのクソガキャ〜〜〜!!」
サンジもナミの言葉を聞きお風呂場へと駆けて行った。
その後ろを錦えもんとブルックが続く。
『モモの助〜〜!』と怒鳴り声をあげて息子の名を呼んでいるので、恐らく美女と一緒にお風呂に入れる息子に嫉妬しているのだなとアスカは全てを察した。
恐らく、ナミも全てをお察したのだろう。
慌てて男三人を追いかけ姿を消す。
(どうしよう…)
ナミもいない、ロビンもいない、父親の錦えもんもいない。
子供を渡せる人間がこの場には一人もいなかった。
完全に寝てはいないようだが、子供の扱いが分からないアスカは困り果てていた。
するとナミがモモの助を抱いて戻ってきた。
後ろから着替えたロビンも続き、更にはたんこぶを作り顔をボコボコにされている男三人も続いて帰ってきた。
それだけで何が起こったのか分かる。
「アスカ、次はあんたの番でしょ?空いたから入っちゃいなさい」
「でも…」
「あら、ナオちゃん寝ちゃったのね」
モモの助を抱きしめたままナミは次の順番であるアスカをお風呂へと勧める。
アスカもお風呂には入りたいのだが…直葉が眠って体を預けてきているので動くに動けない。
それにナミとロビンはやっと気づき、直葉の寝顔を覗き込むように屈む。
「可愛い寝顔」
子供好きの二人には頭巾を被っていても直葉の寝顔は可愛く見えるらしい。
しかし子供が苦手なアスカは頭巾を被っていなくても、子供の寝顔を可愛いと思った事はない。
ただ、子供嫌いだからと言って、子供達に危害を加えるのとは別問題である。
ナミの言葉に何も返さずにいると、アスカはモモの助が直葉の寝顔をポーっと見ているのに気づく。
「どうしたの、モモちゃん…ナオちゃんの顔を見つめて…」
モモの助の様子に気づいたのはアスカだけではなかったようで、ナミとロビンも不思議そうにモモの助を見つめた。
ナミの問いにモモの助はハッと我に返り慌てふためく。
「な、なんでもないでござる!!」
「でもぼうっとしちゃってたでしょ?ちょっと長風呂させすぎちゃったかな?なんか顔赤いし…」
「あ…あああ、あか…!赤くなどなっておらぬ!!そ、そんな…!直葉の寝顔見て見惚れていたとは―――!!」
「あら…へェ…そう…」
ぼーっとしていたモモの助の頬はほんのりと赤かった。
それはお風呂で体が火照っていたからではなく…どうやら直葉の寝顔に見惚れていたらしい。
慌てすぎたのか、ナミの言葉につい本音をポロリと零してしまったモモの助はハッとさせ口を手で覆った。
しかし、出てしまった言葉は取り返せない。
冷や汗をダラダラと流しながらナミを見上げれば…目と目が合ったナミは面白そうに目を細めにやにやと笑っているのが見え、ロビンは微笑ましそうに見つめていた。
「ち、違うのだ!おナミ!おロビン!!拙者は別に、な、直葉を、すすすす、好いてなどおらぬ!!」
「ふーん…そうなの…」
「わ、分かっておらぬなおぬしたちっ!?」
「うんうん、分かってるわよ、モモちゃん……青春よねェ〜」
「ナオちゃん、可愛いものね…惚れちゃうのは無理はないわ」
「だから違うと言うておるではないか!!」
モモの助は直葉が好きだった。
無自覚ではなく、ちゃんと自覚している。
だが、まだ子供なのか、それともワノ国の性質なのか、素直になりきれなかった。
そうでなくても、直葉とモモの助の関係は少々複雑だ。
「ナオちゃんはどうなのかしらね?」
「モモちゃんかっこいいから案外惚れていたりして!」
恋バナが好きなのは年齢関係ないらしい。
ナミとロビンが楽しそうに盛り上がっている中、アスカはただ三人のやり取りを見ているだけだった。
ナミの『かっこいい』という言葉にモモの助は『まことか!?』と食い気味に問う。
それが子供らしくて、可愛くて、ナミは笑みを深めながら頷いた。
かっこいいと言われ、モモの助は嬉しそうに頬を緩むが、しかし暗い表情を浮かべる。
「だが…きっと、直葉は拙者の事、好きじゃないでござる」
しょんぼりとさせるモモの助にナミとロビンが心配そうに見つめる。
アスカもモモの助の言葉が気になって彼を見た。
「大丈夫よ、モモちゃん…ナオちゃんはきっとモモちゃんの事好きよ…モモちゃんの事は嫌ってないと思うわ」
ロビンやナミ、そしてアスカから見ても、直葉はモモの助を嫌っているようには見えない。
確かに直葉はアスカ以外の表情は乏しいが、それでもモモの助を嫌っている素振りはなかった。
それを伝えれば、モモの助は首を弱弱しく振るだけだった。
「…なに…うるさい…」
小声で話していたが、それでも寝ている直葉からしたら煩かったのか、眠たそうに目を開けた。
「起こしちゃった?ごめんね、ナオちゃん」
「…ん」
眠たそうに目を擦るアスカはナミの言葉に首を振る。
目を覚ましたと言ってもまだ半分以上眠いのか瞼が重い。
重い空気になってしまったが、目をパシパシとさせる直葉にナミもロビンも顔を綻ばせる。
「もう寝ちゃおうか」
「や…おふろ、はいりたい」
「ん〜…でも眠いんでしょ?お風呂は明日入りましょ?」
「やだ…なおば、くさいの、や」
「あらあら困ったわね……じゃあお姉さんと入って、寝ちゃおっか」
「や…あねうえとはいりたい」
モモの助も直葉も何日もお風呂に入っていない。
だから女の子の直葉には耐えられず、助け出された今日こそはお風呂に入れると思った。
ナミはアスカが子供が苦手だと察してくれていたようで、アスカの事情もあるため思い名乗り出てくれた。
しかし、直葉は大好きな姉と一緒に入るのだと言って聞かず首を振る。
ぎゅっと寝ぼけ眼で姉と思っているアスカに抱きつく直葉に、ナミもロビンも微笑ましく思うが、困ってしまう。
アスカの事情とは、背中にある天竜人の烙印の事だ。
鎖国しているワノ国で天竜人の紋章の意味が分かるのか知らないが、確認もできない。
子供だからと言ってアスカと一緒にお風呂に入らせるのもできずアスカ達はどうしようかと困った。
「あ、じゃあアスカ、ナオちゃんとルフィと一緒に入りなさい」
「え…」
「は?」
「え゙!?」
眠いがお風呂も入りたい、と駄々を捏ねる直葉にナミは考えて、考えて、考えて抜いて一つ提案をした。
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