(133 / 274) ラビットガール2 (133)

朝。
女部屋には直葉とモモの助の子供二人も一緒に眠っていた。


「ア〜〜サでーーす!!ヨホホホ〜〜〜♪アーイエ〜〜〜♪しーんぶんが〜〜♪きてますよ〜〜♪ヘイッ!カマン♪」


新聞が届く早朝。
この船の中で一番年上であるブルックが朝その新聞を取り、ギターを奏でる。
ブルックの起こし方が目覚まし時計より起きる確率が高く、今日も全員目を覚ました。


「載ってればよし、載ってなければ…」


男部屋ではなく、シーザーを見張るという意味でもローは外で眠っていた。
朝日と共に目を覚ましたブルックの気配で起きたローはむくりと起き上がると丁度ルフィ達全員が甲板へ集まってきた。
ルフィがブルックから新聞を受け取り、円になって集まったみんなの前で新聞を広げれば、その新聞にはデカデカとドフラミンゴの顔が載っていた。
記事にはこう書かれていた―――『ドンキホーテ・ドフラミンゴ『七武海脱退』!!ドレスローザの王位を放棄!?』


「本当に辞めやがったァ〜〜!!」

「お…王位!?王様だったんですか!?」

「王様〜〜!?鳥の国か〜〜!?」

「こんなにアッサリ事が進むと逆に不気味だな…」


それぞれ記事に衝撃を受けていた。
本当に辞めた事、王位と聞いて王様だったことを初めて知った事、ルフィなど王様と聞いて鳥の国と言いだす始末。
アスカはルフィの後ろで覗き込みじっとドフラミンゴの顔写真を見るだけだった。
新聞にデカデカと乗っているこの彼もまた『リサ』を知る者である。


「これでいいんだ…奴にはこうするしか方法はない」

「―――で、なんでおれ達の顔まで載ってんだ?」

「「「…は?」」」


ルフィの言葉にそれぞれ騒いでいた面々がピタリと止まる。
再び新聞を見ればそこにはルフィとローとの同盟が報じられており、新聞ではローに対する政府の審判は不明とも書かれていた。
同盟が報道され唖然としている麦わら一味にローは顔を上げる。


「これがいかに重い取り引きか分かったろ?おれ達はただシーザーを誘拐しただけ…それに対し奴は10年間保持していた『国王』という地位と略奪者のライセンス『七武海』という特権をも一夜にして投げうってみせた……この男を取り返すためにここまでやった事が奴の答え!!こいつを返せば取引成立だが…」


世間は今頃大騒ぎだろう。
世界政府公認の海賊が1人、辞め、更には王位も放棄するとまで書かれているのだからロー達のやり取りを知らない一般人からしたら驚きの連発である。
するとローはパンクハザードから持ってきていた電伝虫をフォアマストのイスに乗せる。


「それは?」

「奴に繋がる電伝虫だ…パンクハザードから持ってきた」

「奴って…まさか…!」

「ドフラミンゴだ」

「やっぱり〜〜〜っ!!」


自分たちの電伝虫ではないその電伝虫にロビンが問う。
その返ってきたローの言葉にウソップは嫌な予感がよぎったが、その予感程当たる物はない。
当然のように答えるローにウソップをはじめとするビビリ一派がおどおどとさせた。
するとその繋がる相手が相手なため電伝虫でも怖く見えたその時―――電伝虫が眠って閉じていたその目をパチリと開け『プルルル』と鳴きだした。
それにウソップ、チョッパー、ナミ達はビクリとさせ、アスカはウソップ達とは違った意味でドキリとさせ、緊張したように心臓の鼓動が高まる。
ローは騒ぐウソップ達をよそに電伝虫の受話器へ手に伸ばす。


≪おれだ…『七武海』をやめたぞ≫


当然、相手はあの七武海であるドフラミンゴの声だった。
といってもルフィとローとアスカ以外その声がドフラミンゴかなど分からないが。


「出たぞ!」

「出た!!!」

「ドフラミンゴか!!」

「しーーっ!!しーーっ!!お前ら声入るだろ!!」


七武海が相手にした事は初めてではないのに、チョッパー達はびくびくと怯えていた。
更にローが返事を返す前に、


「もしもし!!おれはモンキー・D・ルフィ!!海賊王になる男だ!!」

「お前黙ってろつったろ!!」


ルフィがローの横から大音量で自己紹介を始めた。
それはもうお約束のようで、アスカはローとルフィの同盟やパンクハザードでしでかしたことなどあちらに筒抜けなため今更隠しても仕方ないと好きにさせている。
ルフィはウソップのツッコミをよそに続ける。


「おいミンゴ!!"茶ひげ"や子供らをひでェ目にあわせてたアホシーザーのボスはお前かァ!!シーザーは約束だから返すけどな!!今度また同じ様な事しやがったら今度はお前もブッ飛ばすからな!!」


ルフィはシーザーを指しながら怒鳴っていた。
それでもドフラミンゴは最後まで聞いてやる余裕を見せ、鼻息を荒くするルフィにクツクツと喉を鳴らし笑う。


≪"麦わらのルフィ"!兄の死から二年……バッタリと姿を消しどこで何してた?≫

「!…それは!!絶対言えねェ事になってんだ!!」

≪フッフッフッ!!おれはお前に会いたかったんだ≫

「!」

≪お前が喉から手が出るほど欲しがる物をおれは今…持っている≫

「お…おい…それは一体…!!どれほど美味しいお肉なんだ…!!」

「麦わら屋!!奴のペースにのるな!!」


二年間のことはルフィは誰にも言えなかった。
仲間には教えていたし、アスカは同じ場所にいたが、ドフラミンゴや他の人間に知られると色々と迷惑が掛かるのだ。
まだ身軽のレイリーはいいが、現七武海のハンコックにこれ以上迷惑はかけられない。
そう思って動揺しながらもルフィは隠し通す。
だが二年前の消息などドフラミンゴはそれほど重要としていない。
それよりも、とドフラミンゴは勿体ぶりながらルフィに伝えた。
ルフィは『喉から手が出るほど欲しがる物』と聞き、真っ先に思ったのが―――肉だった。
ルフィらしいが、まんまと乗ってしまうルフィにローが押しのけ、受話器を取り上げた。
その隙に肉の事しか頭にないルフィにウソップが正気に戻るように頬をビンタしはじめる。


「ジョーカー!!余計な話はするな!!約束通りシーザーは引き渡す!」

≪そりゃその方が身の為だ――ここへきてトンズラでもすりゃあ…今度こそどういう目に合うか…お前はよくわかってる…いや、"お前達"か?≫

「…………」


単純なルフィを惑わかすドフラミンゴに取引を持ち掛けて気を逸らすが、逆にやり返されローは口を閉じてしまう。
『お前達』という言葉をナミ達は恐らくローとルフィ達全員の事を指していると思っているだろう。
だが、ローは違った。
『お前達』という言葉にローはチラリとアスカを見る。


≪フッフッフッフッ!!さァ…まずはウチの大事なビジネスパ−トナーの無事を確認させてくれ!≫

「…………」

「ジョーカー!!すまねェ!!おれのためにアンタ七武…――!」


シーザーの無事を確認させろというドフラミンゴの言葉にローは受話器をシーザーへと向け、シーザーはドフラミンゴに謝罪した。
しかしその途中、ローに手で止められ口を閉じてしまう。


「明日!『ドレスローザ』の北の孤島『グリーンビット』"南東のビーチ"だ!!『午後3時』シーザーをそこへ投げ出す!!勝手に拾え!―――それ以上の接触はしない!」


まだ、ドレスローザに着くには時間があった。
順調に行けば明日の午後にはつくはずで、ドフラミンゴは必要以上の話をしないローに笑う。


≪フッフッフッフッフッ!淋しいねェ…成長したお前と一杯くらい飲みたかったんだが…話はそれだけか?なら……―――リサに代われ≫

「…!!」


ドフラミンゴの言葉にアスカは息を呑んだ。
ここでリサの名を聞くとは思っていなかったのだ。
ローはリサの名が出て動揺したのか細かい指定をしないまま切ろうとした。
しかし、


≪切るな!!≫

「………」


切ろうとするローにドフラミンゴが声を上げる。
その声にローの手は止まった。


≪リサの声が聞きたい≫

「…………」


ドフラミンゴは嘘偽りなく言った。
それはローも分かっていた。
だが……ローはチラリと動揺が隠せないアスカを横目で見た。
周りは聞き慣れない『リサ』という名前に首を傾げ、傍にいた仲間と目と目を合わせ怪訝とさせていたが、アスカはじっと電伝虫を見つめているだけだった。
ローはアスカから目線を電伝虫を通したドフラミンゴへ戻し、重い口を開く。


「……それは出来ない」

≪理由を言え≫

「……リサはあんたを覚えていない」

≪あ?どういう意味だそれは…≫

「………記憶を失っている…だからお前の事も"あの人"の事も知らない」

≪…………≫


アスカはローとドフラミンゴの会話に違和感を感じた。
ドフラミンゴはローのその言葉に無言を続けていたが、次第にクツクツと笑い声を零し、大声で笑い出した。


≪フッフッフッフッフッ!!!おい!ロー!それはどんな冗談だ!?リサが記憶喪失!?おいおい………いい加減な事言ってんじゃねェぞ、クソガキ≫

「嘘は言っていない…おれも知らないと言われた」

≪……リサに代われ≫

「それは出来ない。今のお前は無関係の―――」

≪記憶を失おうが何だろうがリサはおれの妹だぞ!!!無関係なわけあるか!!いいから代われ!!ロー!!≫

「リサの兄は"あの人"だ!!お前じゃない!!」


ガチャン、とローは勢いのまま受話器を置いた。

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