ロビンが気づいたことは別段驚きもなにもない。
リサ・記憶喪失、そして先ほどの自分とアスカのやり取りでほとんどの人間が気づいていた事だろう。
ロビンは言うまで解放しないと言わんばかりに微笑んでおり、その笑みにローは睨みを強くする。
「だとしたらなんだ…今回の取り引きとその事は何の関係もない」
「そうね…でもアスカに関することだったら私達は聞く権利はあるわ」
「………」
聞く権利…確かにロビン達もある。
それは仲間だから…そして、家族だから。
ローにはそれが今一番腹立たしいことでもあった。
アスカの家族は"あの人"や自分達だけだというのになんでお前たちがしゃしゃり出てくる…という気持ちが今強い。
ローは溜息をついて気持ちを落ち着かせ、仕方なく話す。
それしか選択肢がなかった。
「…確かに、『リサ』はアスカだ」
「それってどういう事?だって私達はずっとアスカといるけど一度もリサって言葉聞いた事はないわよ」
アスカが"リサ"だった、という事は分かった。
しかしナミは少し納得いかなかった。
ドフラミンゴもローもリサと呼んでいたアスカからは、一度もリサという名前を聞いた事もなければ、先ほどの口論を聞いている限りアスカも知らない様子だった。
それを疑問視すればローは『当然だ』と零し、ナミ達は怪訝とする。
「当然ってどういう意味だ」
「アスカが『リサ』と名乗っていたのは記憶を失う以前の事だからだ…だからアスカが知らないのも無理はない」
「ちょっと待て!…じゃあ、お前とアスカって…」
「ああ…おれとアスカは幼い頃出会っている。」
「!!」
「…あなた、パンクハザードで捕まった時…あなたもジョーカーの…いいえ、ドフラミンゴの部下だったと言っていたわよね?」
「ああ」
「ええ!?じ、じゃあ!アスカさんもドフラミンゴの部下だったんですか!?」
「で、でもドフラミンゴはアスカを『妹』だって言ってたわよ!?」
「じゃあ!アスカは七武海の妹なのか!?すげェ〜!」
「どこに感動してんだよ!」
ナミ達はローの話に混乱していた。
色々ちぐはぐに知識が増えたせいでもある。
整理もできないまま相変わらずな麦わら一味をよそにローは無駄な話は今はしたくはないため『正確には言えば違う』としか返さなかった。
するとわいわいと騒いでいたナミ達が怪訝とした目でローを見る。
「違う?アスカがドフラミンゴの部下じゃなくて、妹っていう意味?」
「いや、それも違う…アスカは『リサ』と名乗ってファミリーにいた…ドフラミンゴがアスカを妹と呼んでいるのは"妹のように可愛がっている"からだ…アスカとドフラミンゴに血縁の関係は一切ない。」
「じゃあ何が違うんだ?妹みたいって言っても部下は部下だろ?」
「妹のように可愛がっているからこそだ」
「?、だからわかんねェよ…妹だからなんだ?」
「ドフラミンゴはアスカを気に入っていた…だから海賊家業に関わることも裏に関わらせることも拒み続けた…アスカはドンキホーテファミリーの中ではおれ達部下とは違う存在……"異質の存在"の一人だったんだ」
『これで全部だ』とローはこれ以上の質問を受け付けないと席を立ちどこかへ消えた。
◇◇◇◇◇◇◇
ローが消えた後もナミ達は話し合っていた。
先ほどのこともありローが向かった先はアスカのところではないのは確かだが、ナミ達はやはりまだ釈然としない。
「トラ男の言う事信じられると思う?」
「さあな…確かめようにも肝心のアスカは記憶がないんだろ?」
「アスカもリサと聞いてなんの記憶も思い出さないものね…記憶喪失って具体的にはどういうモノなの?」
「記憶喪失は障害なんだ…一般的に"記憶喪失"は"健忘"に含まれる概念なんだよ…意識障害で起こる症状で、その症状によって失う量も異なるんだ…軽い人もいれば、アスカと同じで全てを忘れる人もいる」
ナミの問いにゾロが肩をすくめて答えた。
その気なしな答えにナミはムカッときたが、これはゾロの態度に対してであり、ゾロはゾロでアスカを心配しているのはナミも分かっていた。
だからゾロに突っかかることはなかったのだが、ロビンの呟きに医師であるチョッパーが答えた。
アスカが記憶がないという事は二年前のあの騒動で知った。
ルフィもアスカも、お互い自分の事は多くは語らない。
だからゾロ達は恐らくあの天竜人の事件がなければ今もアスカに記憶がない事を知らないままだったろう。
チョッパーのその説明に今度はサンジが問う。
「原因は」
「それも様々なんだ…まず挙げられるのは頭に外的衝撃が加えられることによる外傷性。次に病気とか薬とか、飲酒で意識を失った拍子に起こるものもある。後は心的な衝撃やストレスによる脳の防衛本能だね…これは現実逃避しようとするのが原因で起こる心因性なんだ…あと有名で言えば認知症だね…これも記憶喪失の原因に含まれてるんだけど流石にアスカは当てはまらない…と、なると…多分アスカは外傷性か、心因性のどちらかだと思う…」
「記憶は戻るの?」
「うーん…これも一概に言えないんだよ…ずっと記憶を失ったままの人もいるけど、何かの拍子で記憶を戻る人もいるんだ…でもその中で一番厄介なのは『記憶を失った時の記憶』を忘れてしまう事だ」
「記憶を失った時の記憶?ややこしいな…どういう症状だ?」
「例えばだよ?例えばアスカが記憶喪失になった後この中の誰かと付き合ったとするだろ?」
「おいチョッパー…それは勿論、おれだよな?」
「……まあ、別にサンジでもいいけど……じゃあサンジとアスカが恋人同士だとする…でもなんらかの拍子でアスカが記憶を取り戻した時、その恋人同士だった記憶や記憶を失っていた間の記憶を全て忘れるんだ」
「な…なにィィ!?じゃああれか!!アスカちゃんが記憶を取り戻したらおれと恋人同士だったことも忘れてちまうかもしれねェってことか!?」
「
どこにくいついてんだよ!!ちげェだろ!?お前のは例えだろ!例え!!」
「じ、じゃあ…もしかしたらアスカが記憶を取り戻したとき…下手したら私達の事も忘れてしまう可能性があるって事!?」
「うん…その可能性は高くはないけど…決して絶対にないとも言えない」
改めて記憶喪失の事を説明され、そして最後の説明にナミ達は言葉を失う。
確率は高くはないと言ったが、実際忘れていた時の記憶がない人もいると聞き、皆不安になる。
もしかしたら、記憶を取り戻したアスカは仲間である自分たちの事も、そして今までずっと一緒に冒険をした記憶もないかもしれない…そう思うと、みんなアスカの記憶が戻ることが怖かった。
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