その夜…アスカとルフィはあれから昼になっても夜になってもナミ達の前に姿を現すことはなかった。
閉じこもると言っても狭く、密室状態だから場所はすぐに特定出来た。
アスカとルフィは一階にある『アクアリウムバー』に籠っていた。
籠っていると言ってもカギが掛かっているがノックすればルフィが答えてくれて、用事があれば開けてくれる。
ただアスカの心情から、チョッパーからルフィもいるからしばらく放っておいた方がいいと言われているため誰も寄り付かなかった。
ただし、サンジは飲食を管理するのが役目なため朝食、昼食毎に食事を運んでいたが。
ルフィも何も言わないため、夕飯を運びに三度目のアクアリウムバーに足を運ぶ。
「入るよ、アスカちゃん」
コンコン、とノックするとルフィの声が聞こえた。
声をかけながらサンジはゆっくりと部屋に入り、部屋の中を見てアスカを探す。
アスカは壁一面の水槽を背景に中央にある机に腕をクッションのように突っ伏して座っていた。
その隣にはルフィもおり、サンジはチラリと空いている席の前に置かれている二つのトレイを見た。
「またお前が食べたのかよ、ルフィ」
二つともお昼に出したトレイだった。
一つはルフィの、そして二つ目はアスカの分だった。
ルフィは大食いだからそれなりの量を入れて、アスカの場合二年になってやっと一人前を食べれるようになったがまだ小食なため少なめに。
朝も昼も全てアスカが大好きだと言ってくれた料理だった。
しかし、料理人としてクルーの食べ方くらい見分けれるサンジはアスカのトレイを見てルフィが食べたのだと気づいていた。
それも朝と昼全て。
食べる気がしないというアスカの心情はよく理解している。
精神科ではないサンジだが、記憶がないアスカが一番辛いという事も。
だからずっと机にうつ伏せで顔も上げてくれないのだろう。
サンジの言葉にルフィはニッと笑って見せるだけで何も言わない。
騒がないルフィはらしくはないが、サンジは肩をすくめて返し、ルフィの前にルフィ用のトレイを置いてやり、アスカの隣の席にアスカ用のトレイを置く。
恐らく、この食事もアスカは手を付けないだろうと分かりながらも。
◇◇◇◇◇◇◇
ルフィは自分も机に頬を付け、突っ伏しているアスカを観察するように見つめていた。
先ほどサンジが来て食べた皿を下げてくれたついでに温かい気候と言えど夜は冷えるとタオルケットを持ってきてくれた。
ここは水槽もあるため同じ階にある男部屋よりも冷える。
アスカの肩へと目をやればサンジがかけてくれたタオルケットがかけられており、アスカが息を吸うごとに背中や肩が上下に動くのを見てルフィはアスカが生きているということに安堵していた。
ローの前から逃げるように消えたアスカの表情はなんだか見ていられないほど罪悪感や悲しみでくれており、机に突っ伏して動かないアスカを見ていると死んでいるのではないかという不安もあった。
ルフィは暇を持て余しアスカをツンツンと突っつく。
しかしアスカからはなんの反応もない。
そしてルフィはまた暇を持て余しツンツンとアスカを突っつく。
「……なに」
それを繰り返しているとやっとアスカから返事が来た。
その返事は面倒臭そうに低かったが、ルフィはにししと笑って『お、生きてる』と返す。
その返しにアスカは『意味わかんない』と零しながら顔をずらしてルフィに向ける。
お互い机に頬を付けており、アスカもルフィもお互い笑い合う。
ルフィはやっとアスカが笑顔を浮かべれるほど安定したことにホッとさせる。
「ルフィ」
「ん〜?」
「私って、誰なんだろうね」
「?」
アスカもずっと一人で考えていた。
ルフィがいたからアスカはきっと落ち着いて考えられたのだと思う。
ルフィの傍は落ち着くことが出来て、アスカは好きな場所だった。
きっとどんな場所…そう、命が散っていく戦場でもルフィの傍だと怖くなくなるだろうと思うほど、ルフィの傍は居心地がいい。
ルフィはアスカの言葉に机を頬にくっつけながら首を傾げた。
その仕草にアスカは目を細めながら手を机に置く。
「私って、アスカ?それともリサ?どっちかな…」
アスカも馬鹿ではない。
ローとドフラミンゴの会話でリサが誰なのか気づいた。
リサは、自分だ。
証拠も何もないが、そう思った。
そうと分かるとローに怒っていた感情を理解する。
アスカは、嫉妬していたのだ…自分に。
自分に嫉妬するというのもなんとも笑える話である。
だがリサの正体が分かったが、アスカは自分の本当の名前が分からなくなる。
ドフラミンゴはリサと呼び、ローはアスカと呼ぶ。
リサが誰なのか彼らの会話で分かったが、それはあくまで理解したまでの話。
記憶を取り戻したのとは違う。
だからこそ自分の本当の名前が分からなかった。
ルフィはアスカの問いに机に手を置くアスカの手の上から自分の手を重ねるように置いた。
「どっちでもいいよ」
「え?」
「だっておれにとってアスカだろうとリサだろうと、お前はお前だ。アスカだって言ってただろ…おれの幼馴染で、シャンクスの娘で、エースとサボと姉ちゃんの妹、出身は東の海にあるフーシャ村で、ずっとおれと姉ちゃんと一緒に暮らしてた女の子…それがお前」
ルフィの言葉にアスカは目を見張った。
その言葉はまさしく空島でルフィが弱っていた時にアスカが言った言葉だった。
覚えてたのかという驚きもそう…そして、その言葉がアスカの沈みきった気分を明るく照らしてくれた。
恐らくこれはアスカが自分に言っても誰がアスカに言っても響かない言葉。
ルフィがアスカに向けて言わないと心に響かない言葉だっただろう。
アスカはじわりと涙が溜まり、『違うか?』と小首を傾げるルフィに首を振って答えた。
その際溜まってた瞳から涙がぽつりと零れ机に落ち、ルフィは首を振って答えたアスカに笑みを浮かべ重ねていたアスカの手をギュッと握った。
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