コンコンとアクアリウムバーの扉が叩かれた。
ノックの音にアスカとルフィはお互い顔を見合わせる。
お互いサンジかと思った。
ずっと食事を運んでくれた彼がまたお夜食と言ってアスカの様子を見に来てくれたのかと思った。
「…おれだ…入っていいか」
しかし、二人の予想外にもアクアリウムバーに訪ねてきたのはサンジではなく…ローだった。
ローの声にアスカは息を呑む。
その気配にルフィは扉からアスカを見た。
「なんの用だ?」
「アスカと話がしたい……できれば、二人きりで」
「……………」
アスカも扉へ顔を上げており、その表情は少し硬い。
落ち着いたと言ってもあれだけ酷い事を言ったため少し気まずいのだろう。
ルフィはアスカの顔を見て、そして『二人きり』という言葉に黙りこむ。
ローとアスカが二人きり…ルフィはそれを想像すると何故か胸のあたりがチリチリ痛くなるのだ。
それにムカムカと苛立ちに似たような負の感情が溜まっていくのも感じる。
不思議とアスカがウソップやブルック、サンジ、ゾロ、チョッパーと二人きりでも感じないのに、何故か相手がローだと嫌だと思ってしまうのだ。
だからルフィは断ろうとしたのだが…それを誰でもない、アスカが止めた。
「ルフィ…」
「でもお前…」
「大丈夫だから…もう、平気…だから明日に備えて男部屋に戻ってて…」
「…………」
『駄目だ』、と言いかけたルフィの手をアスカが握り返して制止した。
ルフィが何が言いたくて、何を言いかけたか分かっているアスカは首を振る。
もう大丈夫だというアスカのその顔は少し引きつっていたがこれ以上強く出れず渋々頷いた。
ずっと付き合わせておいて都合のいい時は追い払うようなやり方にアスカは罪悪感があったが、明日はドフラミンゴとの決戦。
少なからずお互い無傷ではいられないだろうというのは分かっている。
この中でドフラミンゴに対等で戦えるのはローとルフィだけ。
だからルフィには明日に備えて眠ってほしいというのも本音だった。
「………」
「………」
ルフィが納得してくれたから、今度はアスカが入室の許可を出した。
ローはアスカの声に少し間を置いてから扉を開けて入り、ルフィとローはお互い目線を合わせていた。
それはお互いの隙を探っているようにも見える。
空気がギスギスしはじめたのをアスカは気付き、アスカは『二人ってこんなに仲悪かったっけ?』と思いかけたが、『そういえば』、と朝ローと自分が喧嘩した事を思い出す。
ルフィはアスカを守ろうとしてくれているのだろうとアスカは分かった。
「ルフィ、ごめんね……あと、ありがとう」
このままではローとルフィの喧嘩が勃発し、ドフラミンゴを倒す前に戦力がガタ落ちしてしまうとアスカは慌てて間に入る。
アスカが間に入った事でクッションが出来、ルフィもローも雰囲気を戻した。
ルフィはアスカの謝罪とお礼に『お礼されることも謝られることもしてねェぞ?』と小首を傾げ不思議そうにしていた。
しかし、ルフィがそう思っていても、アスカはこんな時間まで付き合ってくれたお礼と謝罪をちゃんとしたかった。
「でも、私にこんな時間まで付き合ってくれたから」
「じゃ、お詫びくれよ」
「は?お詫び?」
「そ。」
「…今何も持ってないけど…」
ルフィにしては物欲が出たのかアスカにお詫びを請求した。
しかし今まで落ち込んでいたアスカは物なんて持っていない。
一応ポケットを探ってみたが当然、空。
『後でいい?』と問うとしたアスカにルフィは『物はいらねェ』と答えた。
「物に興味はねェ……だから、これでいい」
「――、!」
珍しいと思ったのだ。
普段食欲はあるくせに物欲はないルフィにしてはお詫びを要求するのは珍しいなと思った。
だが、その認識が甘かったのだ。
物はいらないと言ってルフィがニッと笑ったと思ったその瞬間、ルフィがアスカに近づき―――アスカにキスをした。
今までにないほど近いルフィの顔にアスカは目を丸くする。
「んぅ…っ!?ん、…ふ、ぁ……ちょ、…っ、んンッ」
それも唇と唇をくっつける軽いキスではなく、舌と舌を絡ますディープなキスだった。
アスカは不意打ちを食らいながらも身を引かせルフィの舌から逃げようとするも、それをルフィは追いかけるように舌を更に絡ませ、引かせる腰を抱き寄せ密着する。
「!―――ッ何をしてる!!麦わら屋!!」
ローはルフィの突然の行動に唖然としていたが、アスカとルフィからの水音にハッと我に返りアスカとルフィを剥がす。
アスカを腕を掴みルフィを突き飛ばすように引き離せば、アスカはルフィとのキスで息が上がっておりぼうっとしていたが、ルフィは数歩後ろに下がっただけで倒れはせず、ギロッと睨むローを口からはみ出たどちらともいえない唾液を拭いながら見返す。
暫く睨みあっていると、今回はルフィが折れたのか、何も言わず部屋を出て行った。
ルフィの姿が消えるまでローは水槽越しから見えるルフィを睨むのをやめなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
部屋を出てルフィは男部屋に戻るため外に出た。
外は夜だから暗く、もうみんな眠っている頃だが二階にあるキッチンの明かりがついているのが見えた。
サンジが明日の仕込みをしているのだろう。
「…………」
ルフィはパタンと扉をしめながら唇に触れる。
自分の唇に触れるとそれほど柔らかくはなかった。
(アスカの口の方が、柔らかかった)
男と女…体のつくりが違うから当たり前だが、ルフィからしたら新たな発見である。
ルフィはアスカとのキスを思い出す。
あれはルフィがしたいと思っていた事だった。
パンクハザードでローとアスカがしていた事。
ルフィはアスカとしたことがない事。
それを思い出し、ローがアスカと出来て自分がアスカと出来ないと思うと無性に腹が立った。
だから、実行した。
見よう見真似でやってみれば、案外気持ちよかった。
ルフィは無意識に唇を舐め、その時のアスカを思い出す。
驚いた表情のアスカの表情、抱き寄せたあの細く柔らかい腰、抱き寄せた時に香ったアスカの香り、そしてアスカの口の柔らかさ、そして味。
先ほどのアスカを思い出し、ルフィは腰のあたりがズンと重くなり熱くなった気がした。
「…?」
しかしルフィはそれに首を傾げ、寝れば治るかと軽く考えそのまま男部屋へと向かい、眠りについた。
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