朝。
アスカは目を覚ます。
閉じていた瞼を開ければ、目の前には女部屋ではなくアクアリウムバーの部屋の風景が見え、アスカはそのままアクアリウムバーで眠ってしまったらしい。
ぼうっとしていると、隣が温かくてアスカは顔を上げて隣を見上げる。
そこにはローがいた。
どうやら、アスカはローの肩を枕に眠ってしまったようで、ローがかけてくれたのか体にはタオルケットがかけられていた。
アスカがもぞりと動いた気配からローがゆっくりと目を覚ます。
「おはよう、ロー」
「ああ、おはよう、アスカ」
ローが目を覚ましたのに気付きアスカはローへと目をやり、目と目が合うと笑みを向ける。
その笑みに釣られたようにローも笑みを浮かべた。
「ベッドじゃなかったから体痛いね」
ローも起きた事だし、とアスカはソファに座って寝ていたせいで硬くなった体を伸ばす。
ぐぐーッと腕を上にあげて背筋を伸ばしたり、足を浮かせて伸ばしたりとするアスカのお腹が『ぐ〜』と鳴り、ローはくすりと笑う。
その笑い声にアスカはむっとさせローを睨んだ。
「しょうがないじゃん、昨日から何も食べてないし」
「そうだったな…おれも何も食べてないから空腹だ…」
「サンジに頼んで何か食べさせてもらおう」
アスカもローも結局昨日は一日何も食べずに終わった。
ローも流石に空腹感が否めず、アスカはすでに起きてるであろうサンジの元へ行こうとローの手を掴んで引っ張って立たせる。
再会してから碌に触れることもできなかったローはアスカから手を握られた事に驚くのだが、お腹が減って仕方ないアスカは気づかずそのままローと手を繋ぎながらアクアリウムバーから出て行った。
「サンジ」
外に出れば朝を迎えたばかりなのか静かで空気が澄んでいた。
キッチンに向かえばやはり朝の支度をしていたサンジが立っていた。
サンジはアスカの声にバッと弾かれたように扉へ体ごと向け、アスカ"だけ"を視界にロックオンすると朝だというのに驚いた声でアスカの名を呼んだ。
「アスカちゃん!?」
「おはよう…お腹すいたから何か作ってくれないかな?」
「も…!!勿論さ!!アスカちゃんのためながら朝昼晩以外でもなんでも作っちゃう!!!でも…もう大丈夫なのかい?」
「うん…もう仲直りしたから大丈夫」
「(チッ)…そうか…よかった…」
サンジは一日アスカが出てこなかったことを誰よりも心配していた。
その心配していたアスカがキッチンに出てきてくれた事、そしてすっかり元気になった事に安堵していた。
ローはアスカにギュッと手を握られ、『仲直り』とサンジに繋いでいる手を見せようと手を挙げるアスカに免じて、サンジの舌打ちと心底嫌そうな顔(ちゃんとアスカには見せないようにしていた)は見なかったことにし…朝ごはんはパンだというサンジに『おれはパンが嫌いだ』と注文しておいてやった。
サンジは『へーへー』と適当に返していたが、アスカが『あ、じゃあ私もごはんでいいや』と零せば『OK〜!』とハイテンションで返した。
麦わら一味と行動してから全員全てではないがそれぞれ個性を見分けることが出来たローはもう何も言うまいと無視し、アスカの隣に座る。
まだお米が炊けていないからとアスカとローはまずはすぐに出来たちょっとした料理を摘まみながら空腹を少し満たす。
話しながら待っていると、ブルックが起きたのか相変わらずギターを奏で目覚ましよりも効果のある起こし方をしていた。
暫くしてみんな起きて準備も終わったのかゾロゾロとキッチンに集まってきていた。
「あっ!!アスカ!!」
一番に入ったのはチョッパーだった。
チョッパーはアスカの姿を見て嬉しそうに駆け寄り、アスカもチョッパーに振り返る。
「おはよう、チョッパー」
「おはよう!!もう大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫…もうローとは仲直りしたから」
「そうか!よかった!!」
チョッパーの後をナミやウソップ達が入ってきて一日ぶりのアスカの姿にホッと安堵していた。
先ほどのサンジもだが自分は大分みんなに心配かけさせたんだな、とアスカは申し訳なく思う。
それぞれ自分の席に着けば、ルフィが入ってきてアスカを見るやなや嬉しそうに抱き着きアスカを抱き上げた。
しかし…ルフィがアスカの腰を抱いて引き寄せたその瞬間―――
「…"ROOM"」
キッチンの中にドームが生まれ、ルフィの腕の中にいたアスカは一瞬にして後から錦えもん達と入ってきた直葉に代わり、アスカはローの腕の中にいた。
ルフィはアスカがいきなり直葉に代わり、直葉もモモの助の隣でアスカを抱きしめるルフィをぷんすかと怒って見ていたと思えば誰かに強く引っ張られ、『えっ!?』と驚いていると目の前がルフィのドアップとなりお互い悲鳴を上げた。
「ぎゃーー!!アスカが子供になった〜〜!?」
「きゃーーっ!!!」
アスカが子供に代わったと驚くルフィと共に直葉も父や知人たち以外で初めて殿方に抱きしめられ悲鳴を上げる。
その瞬間、ふわりと甘い香りが周りを包んだと思えばルフィの頭上からドバーッと花びらが大量に振って落ち、ルフィと直葉が埋もれる。
「えっ!?花びら!?」
「ぎゃ〜〜!!て、敵襲!?」
アスカと直葉が入れ替わった事よりもルフィと直葉の頭上から花びらが落ちてきた事にナミ達は目を丸くする。
「えっ!?な、なんだ!?」
「どこから出てきたんだこの花は!?」
アスカとナミは花や香りに見覚えはあったが、突然兆候もなく表れて驚いていた。
そして、二人はある人物を見る。
ナミとアスカの視線の先には…花の塊から頭を出した直葉であった。
「こ、こら直葉!」
同時に錦えもんが慌てた様子で直葉に駆け寄り、軽く叱りながら脇に手を差しいれ抱き上げた。
お陰で埋まっていた体は花びらの塊から脱出できたが、咎めるように名を呼ばれ不服そうに頬を膨らませて錦えもんを見上げる。
「ね、ねえ…パンクハザードから思ってたんだけど…その花びらって…ナオちゃんが出してるの?」
錦えもんも驚いたから出してしまった事は理解しているのか、それ以上叱ることはなかった。
だが、一応は助けてくれた相手にそれを向ける直葉に形だけでも叱る。
それは直葉も分かってはいるが、納得できないことは納得できない。
八つ当たりに花びらから脱出したルフィを睨むが、ルフィもルフィで納得できないと睨み返し、二人は睨み合う。
むすっとさせる直葉と、直葉を降ろす錦えもんに、ナミが戸惑いながら声をかける。
その問いに錦えもんが答えた。
「おう!話していなかったでござるな!直葉も"世に珍しき果実"を食しているのでござる!」
「世に珍しき果実って?」
「悪魔の実の事らしい」
「へえ!なにを食べたんだ?」
錦えもんの言う『世に珍しき果実』がなんのことか分からないウソップやロビン達に、パンクハザードで一度聞いたことあるサンジが答えた。
直葉も悪魔の実の能力者らしく、それを聞いたウソップがルフィといがみ合う直葉に問う。
その間にローはアスカの腕を掴んでいた手をそのまま腰に回し、抱き寄せルフィ対策に少し移動して二人から離れた。
そんなローに気付かず、直葉はローとルフィ以外では礼儀正しい子供のため、ウソップの問いに『はい』と返事をして自分の能力を話し始めた。
直葉は手を差し出し、手の平にポンと一輪の桃色の花を出した。
「私は花を自在に操ることができる能力を持っております」
「花?じゃあハナハナの実か」
「ハナハナの実ならロビンと一緒ね」
「そうね…私のは体の一部をあらゆる場所から花のように咲かせるれるけど…ナオちゃんの能力は本物の花ね」
「じゃあモデルは何かしら?」
花を咲かせる、ということは系統はロビンと同じとなる。
しかしロビンは体の一部を花の様に出すことができるだけであって、悪魔の実は同じ実は一切出ない。
それにパンクハザードの時も同じ状況でルフィに花びらを落としたのだ。
それでロビンと同じというわけではないだろう。
花びらを拾ってみても一つの花ではなく、一枚の花びらでしかないため推定ができない。
直葉に聞くと、
「はい!私は桜の花しか出せないのです!」
と答えた。
そうなればもう答えが出た。
直葉はハナハナの実・モデル桜、と判明した。
桜は珍しいく、ナミ達は桜と言えばチョッパーのドラム島で見たあの光景。
あれは本物の桜ではなかったが、とても綺麗でナミ達も覚えていた。
悪魔の実の能力とはいえ、本物の桜を初めて見たナミ達はチョッパーを見る。
チョッパーは直葉が能力を出した時から桜だと気づいて嬉しそうにしていた。
その顔があまりにも嬉しそうだったため、ナミ達も釣られて頬が緩んでしまう。
その時―――
「あーーっ!!トラ男!!お前〜〜!」
ルフィが騒ぎ始める。
その声にナミ達もルフィへ振り返れば、ルフィがローを睨み駆け寄っているところだった。
ローは『バレたか』と嫌そうな顔を作りながらこちらに駆け寄ってくるルフィからアスカを自分の背に隠す。
ルフィは自分からアスカを隠すようなローにむすっとした顔でローを睨みつけた。
「アスカを返せよ!」
「断る」
ローもルフィを睨み返し、その場だけ険悪なムードが流れる。
巻き込まれた(だが原因でもある)アスカはローの背から顔をのぞかせ喧嘩を始めるかの如く睨みあうローとルフィを見る。
だが、それがいけなかった。
「ちょっと、なに?どうしたの、ルフィも、ローも…」
「アスカ!!」
「は、はい!」
「アスカはどっちを選ぶんだ!?」
「…は?」
珍しくルフィに怒鳴られアスカは思わずビシッと背筋を伸ばす。
しかし、振ってきた言葉にアスカは呆気にとられる。
『どっちって…どっち?』と首をかしげてみせればルフィが『おれか!ローか!お前どっち選ぶんだ!?』と全くもって話しの読めない事を言いだす。
大体どっちを選ぶも何も…何に対して二人のうち一人を選ぶのかがアスカに話が通っていなかった。
しかし周り(一部例外)は分かっているらしく、特にナミとサンジはいつの間に作ったのか分からないが『絶対ルフィ!』という旗まで作っており、アスカはまたまた意味が分からなくなってしまう。
チラリと口出しをしないローを見て助けを求めれば…
「…………」
「…………」
ローはじっとこちらを見つめていた。
それはアスカが選択をするのを待つかの如く。
その期待に満ちた目を見た瞬間、アスカはローは使えないと切り捨て、ならば、とロビンを見た。
が…
「…………」
「…………」
ローと同じだった。
ローとの違いは期待に満ちた目ではなく面白い物を見るかの目であり、真剣な表情のローに対してロビンはニコニコと楽しんでる表情を浮かべていたが。
そしてダメ元でアスカは周りを見た。
ナミとサンジは最初から切り捨てており、ウソップを見ると速攻目を逸らされ、チョッパーは分かっていないように首をかしげており、ゾロは我関せず、フランキーは『おーおー大変だなァアスカ』と他人事のように傍観しくさり、ブルックは『青春ですね〜』とおじいちゃんになっていた。
錦えもん一行は元から数には入っていない。
ぐぬぬ、と味方が1人もいないアスカは頭を掻きむしりたい衝動に駆られる。
「アスカ!!」
「あーもーーっ!!はいはい!!分かりました!!」
一体ルフィとローは何を揉めているのかが分からず、頭を抱えていたアスカに痺れを切らしたルフィに名前を呼ばれ、アスカは声を大にして返事を返す。
『意味が分からない!!全くもって分からない!!』と思いながらアスカはローとルフィの腕を掴む。
最初は傍にいたローの腕を掴んだ。
するとローが嬉しそうな表情を浮かべたのと同時にルフィが憮然とした。
しかし続いてルフィの腕を掴むと二人とも怪訝とした表情を浮かべた。
「ルフィはこっち座って!ローはここ!!」
アスカは二人を引っ張って席につかせる。
ルフィとローの間を開けて座らせた後、その開いた二人の間にアスカが席に着く。
クエスチョンマークを浮かべる二人にアスカはまだ文句あるのかとギロリと睨みつけ、『まだ何か?』と凄めば2人は『なんでもありません』と同時に首を振った。
正直アスカは空腹が限界に近かった。
だから何でもいいから強制終了したのだ。
だが…
「えっ…さ、3…P…?」
「ま、まじでか……アスカちゃん…おれの天使が…」
「あらあら…意外な結末ね」
「逆ハーレムって奴だったか、あれ……アスカもスーパーな事を考えついたもんだな…」
「まァ、あれだな…絶対あれ、分かってないだろ…アスカ…」
「??」
「一夫多妻制ならぬ一妻多夫制ですね、ヨホホ!」
「なんにせよ巻き込まれねェんなら何でもいい」
アスカの選択にナミとサンジは愕然とし、ロビンも驚いてはいたが愉快そうに笑みを浮かべ、フランキーはアスカの選択に肩をすくめ、ウソップはアスカが分かっていない事を理解しており、チョッパーは終始首をかしげ、ブルックは呑気にも笑い、ゾロは溜息をつく。
それぞれの反応などよそにアスカはサンジに『サンジ、お腹すいたんだけど』と中々キッチンに戻らないサンジに催促するも、サンジはナミと共に別次元に行っていた。
その後サンジが返ってきたのは一時間後だったという。
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