その反応に、ロビンはにっこりと笑い、ナミはジト目でアスカを見る。
「嘘ね」
「嘘だわ」
「ほっ!本当だよ!?してないよ!?だって考えてみてよ!!これからドフラミンゴと戦うっていうのになんでエッチな事しなきゃいけないわけ!?相手は七武海だよ!?そんな余裕回せないでしょ!普通!!」
「あ、その首筋の赤いの、どうしたの?」
「―――ッ!!」
ロビンとナミは信じなかった。
というか、信じる要素が全くない。
それでもアスカは手をブンブン振ってしていないと言い張る。
そんなアスカにナミが何かに気付き、アスカを指差す。
指差した場所は首。
アスカには見えないが恐らくつけられたのだろう…―――キスマークを。
アスカは顔を真っ赤にして指さされた首筋を手で隠した。
しかし…
「やっぱり……やったのね…」
「っ!?」
そこには何もなかった。
ここには鏡がないし、アスカには見えないが、ナミの言葉に鎌をかけられたことに気付く。
「ナ、ナミ〜っ!鎌をかけたの!?」
「鎌をかけなくても分かるわよ…あんた、お風呂、入ったでしょ」
「…っ!」
アスカの真っ赤な顔が更に赤く染まる。
確かにあの後、アスカは二人とナミ曰く『あんなことやこんなこと』をした。
そして後始末として一緒にお風呂も入った。
その後ルフィをたぶらかしたとしてロビンに抗議しに来たのだ。
アスカが横を通った時に香った香りが、シャンプーやボディソープなどの匂いだったのだ。
被害妄想であんなことやこんなことを想像していたからナミはすぐに気づいた。
そしてそれは正解だった。
アスカの赤かった顔が更に赤くなりむすっとした表情に変わったのだ。
「し、仕方ないじゃん…」
「何が、仕方ないの?ルフィはともかくトラ男と寝た事の何が仕方ないわけ?」
「…す……好き、だから…仕方ないもん…」
「好きってねェ…あんた……ルフィは分かるわよ?あいつとあんた、幼馴染だし…でもトラ男なんて二年前に助けてもらっただけの縁でしょ?」
「……ローは…昔会ってた」
「それは知ってるわよ…でも認めないわよ、私は…トラ男なんて…」
「なんで…」
「アスカ…?」
ぶすっとしているアスカにナミは溜息をつく。
どうしてもナミとしてアスカの彼氏は認めたくはなかった。
アスカを本当に妹として愛しているからどうしてもその理想を押し付けてしまうのだ。
ナミは鼻を鳴らしてローを認めないと断言した時、アスカがグッと言葉を呑み込み、下唇を噛んだが、顔を逸らしそっぽを向いていたナミには気づかなかった。
ナミはアスカのぽつりとした声にそっぽを向いていた顔をアスカへ向け、ギョッとさせた。
アスカの金色の目には涙が溜まっていたのだ。
「アスカ!?どうしたの…」
「なんで…っ!なんでナミにそこまで言われなきゃいけないの!?」
「…!」
泣きそうなアスカを見てナミは目を丸くした。
いつもアスカはあまり感情を激しくあらわにすることはない。
泣くことだってあまりないし、本気で怒ることもあまりない。
先ほどのロビンの時でさえ珍しくて驚いたが、今はロビンの時よりもさらに深い怒りを向けられナミは息を呑んだ。
そんなナミをよそにアスカはグッと拳を握り声を荒げる。
「私が誰を好きになろうがナミには関係ないじゃん!!なんで口をはさんでくるの!!」
「落ち着いて、アスカ…ナミはあなたを心配して…」
「心配!?私が好きになった人達を分かろうとしないで否定してるのに!?そんなの心配じゃない!!ただのナミの我が儘じゃない!!いい加減にしてよ!私ナミのお人形じゃ―――、」
昔からナミは『アスカの理想の彼氏像』を押し付けてきた。
アスカはその時は彼氏なんて作る気がなかったし、興味がなかったからナミやサンジを放置していた。
しかしそれが間違っていたとアスカは今後悔している。
ナミはルフィならまだマシだと言っているが、ルフィでもあまりいい顔しないのを知っている。
ナミは自分を想って言ってくれていると…自分を本当に妹として愛してくれているから口煩くなって心配性になってしまうのだと分かってはいるのだ。
だが、それが正直今は苛立ってしまう。
しかし、苛立ちや怒りは思ってもいない心無い言葉を相手に投げつけてしまう。
アスカはロビンの宥めも振り切り、ナミに『自分はナミの人形じゃない』と言いかけた。
しかしその瞬間―――アスカの脳裏に『ある風景』が浮かび、言葉を切った。
(なに…今の……)
その風景とは…あの、夢で憑依する女の子と、一人の派手な服を着た男。
その男の顔は夢のように見えない。
でもどこか見たことがあるような感覚に襲われていた。
その男はアスカが憑依している女の子を腕に抱き笑っていた。
腕にいる自分も幸せそうに笑っていた。
その風景は本当に一瞬に浮かんだのだが、まだその風景が脳裏に残っており、それほど先ほどの風景のインパクトが強かった。
「アスカ…?」
「…!」
固まり、口を閉ざすアスカにロビンが恐る恐る声をかける。
その声でようやくアスカはハッと我に返る。
その時にはもう冷静になっており、自分がナミに何を言おうとしていたのか、そしてナミを傷つけようとしたのに気づき顔を青ざめる。
「ご、めん…ナミ……今の、は…言いすぎた……」
「いいえ…私も、少し…やりすぎたわ…ごめんなさい…」
ナミを恐々と見れば、やはり傷ついた表情を浮かべていた。
それを見てアスカは体を震わせる。
彼女を自分は言葉で傷つけた…あんなに優しくて自分を一番に思ってくれている温かい人を…自分は傷つけたのだ…そう思うと怖かった。
ジワリと涙が溜まり、溜まり切れなかった雫がアスカの頬を伝う。
罪悪感から俯けば重力に逆らわず涙がポツポツと落ちていく。
アスカもナミもお互い罪悪感に苛まれていた。
アスカはおぼつかない足で壁に沿って組み込まれているソファに座り、涙を拭って落ち着くように息を吐く。
「ロビン…ナミ……私さ…前…奴隷だって、言った事…あるよね…」
アスカは座り、少し深呼吸をし、突然奴隷だった時の事を話し出した。
ロビンとナミは突然なんの脈絡もなく奴隷時代の話したくもないであろう話を自分から話し出すアスカに戸惑いながらも頷く。
その頷きにアスカは続けた。
しかし膝の上には手が組まれて置かれており、その手は少し震えていた。
アスカはナミ達が自分が奴隷と知っているとしても、あの地獄を話すのが怖い。
しかし恐怖を抑えて話す理由があるのだ。
「ここから話す事は…ルフィも、知らないし…ローやゾロ達にもあまり知られてほしくない事なんだけど……………私ね…―――性奴隷だったの」
「…っ!!」
ロビンとナミは目を丸くし、言葉を失った。
妹のように可愛がっていたアスカが奴隷だっただけではなく、性奴隷だったという事を聞いてショックが隠せなかった。
しかも話を聞けば当時奴隷だった時は10歳にもなっていない時だったという。
10歳にも満たない子供なんて本来大人の欲情なんて知らないでいいのに、アスカはその頃から男達に弄ばれていたらしい。
それを聞いただけでもアスカを奴隷として、そして欲情し穢した男達に殺意が沸いてしまいそうになる。
「天竜人はまだそういう対象で見ていなかったけど…だけど、その後売られた貴族や海賊には体を触られてきたの……あいつらさ…あの変態達、さ…ちゃんと勃つんだよ?初潮もきていなかった子供にだよ?二年前も子供体系だったけど、あの時は本物の子供だったのに、だよ?しかもあいつら信じられない事にビンビンに勃ってるのを子供のあそこに慣らしもしないで入れるんだよ?あれは痛かったなァ…毎日死ぬかと思ったもん」
「アスカ…」
「ああ、ごめん…不快だったね…」
「違うわ…そうじゃないの…」
「うん、大丈夫…ナミ達が私を心配してくれてるのは分かってるよ…でも、聞いてほしいの…不快な思いをさせてしまうけど……最後まで、聞いて…」
アスカは性奴隷だったころの…貴族と海賊の奴隷だった時の事を思い出し、また手を強く握る。
痩せ我慢をしているのか汗も額から頬にかけて伝って流れていく。
それなのにアスカからは軽い口調と笑い声が零れ、それが逆に痛々しくて見ていられず思わずロビンがアスカの名前を呼んでしまった。
名前を呼ばれたアスカは『ん?』となんでもないように小首を傾げたが、言いにくそうにしているロビンとナミに気付き、何を言いたいのか察したアスカは謝った。
いつもの癖で『不快』だと言ってしまったアスカだがナミとロビンがアスカを想って止めてくれようとしているのは理解した。
だけど、話を聞いてほしかった。
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