(149 / 274) ラビットガール2 (149)

ドレスローザからの匂いに誘われ、ルフィ達は一足先に島に入っていた。


「いい匂い〜〜〜!」


サンジ以外は料理のいい匂いに誘われ…


「いい匂い〜〜〜っ!!」


サンジは女性の匂いに誘われていた。
ルフィは町中から香る匂いに鼻と胸を膨らませ、口から涎を垂らす。
アスカはローの指示通りには動かない幼馴染に肩をすくめて抗議するのも諦めた。
溜息をついていると、直葉と繋いでいる手に力を込められたのを感じた。


「…どうしたの」

「……いえ…」

「…?」


直葉を見れば、直葉は浮かない顔をしていた。
ここにはナミがいないため、ナミに押し付け…預けることもできない。
仕方なく具合でも悪いのかと思い声をかけるが、直葉には首を振られてしまった。
子供といえど、大人に気を遣い体調不良を隠すこともあるので放ってはおけないのは分かっているが、どうしても苦手な子供である直葉に一歩近づくことができない。
ナミなら上手く聞き出せるんだろうなぁ、と自分の不器用さに呆れていると、錦えもんがぎょっとした顔で直葉を見た。


「な、直葉!?なぜここに!」

「元々私と手を繋いでたんだけどルフィに引っ張られた時ついてきちゃったみたいで…」

「な、なにぃ!?では今すぐ引き返せ直葉!お主がここにいては危険だ!」


錦えもんは匂いで釣られたルフィ達に気づき、同じチームだったのもありついて来たのだがアスカと共に連れてこられた直葉には気づかなかったようだ。
直葉を抱き上げ引き返そうとする錦えもんに、サンジ達が止めた。


「待て待て!お前ここがどこか分かってんのか?」


子供が危険なチームの方に連れてこられ船のチームへ戻そうとするのは賛成だが、止めた理由はそうではない。
サンジの言葉に錦えもんは『うぐっ』と言葉を詰まらせる。


「匂いに釣られてここまで来ちまったが…帰り道を誰か覚えてるやついるか」


サンジの問いに誰一人答えられなかった。
アスカもルフィに抱きかかえられてここまで連れてこられたため帰り道は分からない。
錦えもんを止めたのは、無暗に引き返して道に迷うのを避けるためだった。
ここはドフラミンゴのいる国。
最終的に彼らと戦う事になるが、最初から問題を起こしてローの作戦を邪魔する気は勝手にここまできたサンジにもない。


「…仕方ない…いいか、直葉…戦っている間は隠れておるのだぞ?決して頭巾を取るでないぞ」

「はい、錦えもん殿」


錦えもんも来た道を憶えておらず、仕方なく直葉の同行を認めた。
降ろした直葉にこれまでに口酸っぱくなるほど言い聞かせた注意をする。
直葉も耳にタコができるくらいに聞いた注意だが、素直に頷いた。
ローとルフィに関わらなければ素直で良い子である。
錦えもんに降ろされた直葉はトトトと姉と言い切るアスカの元に戻り手を繋ぐ。
それを見て、5歳の子供をライバル視している大人げないルフィはアスカの腰に手を回してグッと自分の方へと引き寄せた。
姉とぴったりとくっ付いて幸せに浸っていた直葉だったが、ルフィに引き離され、ムッとルフィを睨むように見上げる。
アスカを挟んでルフィと直葉の間に火花が飛んだ。


「…ところで…前々から疑問だったんだが…なんで直葉は頭巾をかぶってるんだ?」


フランキーは子供の取り合いを見つめながら、ふと前から気になったことを錦えもんに問う。
指さした先は直葉である。
直葉は初めて会った時から頭を隠すように頭巾を被っていた。
それも頭巾用の布ではなく、成人女性が使用するショールを巻いている。
風呂から出てきても被っているそれに、フランキーはずっと疑問に感じていた。
ナミやロビンの話では、寝ている間も被っているらしいではないか。
その問いにフランキーだけではなく、サンジとゾロも気になったのか錦えもんを見た。
錦えもんはチラリと直葉を見た後、気まずげな顔を見せる。


「…すまんがそれは言えぬ…直葉が嫌がるゆえ」


何か事情があるのは頭巾を外さないところから分かってはいたが、仲間だからと言って人の秘密を暴こうとするほど子供ではない。
気にはなるが、本人が嫌がるのならそれ以上は突っ込む気にもならなかった。
『そうか』とだけで終わらせたフランキーに錦えもんがお礼をいったその時―――


「コラー!!待て!!返せー!!」

「ワンワン!!」

「待ちなさい!マリオ!!返しなさーい!!」


アスカ達の傍を何かが通り過ぎた。
その姿に驚き、アスカ達は思わず通り過ぎたそれを唖然とした顔で見送る。
それは犬だった。
犬が人形の腕を咥えて走っていた。
それまでは至って普通の光景である。
だがその犬を追いかけるそれにアスカ達は驚いていた。


「私の腕をーーっ!!返しなさーい!!まったくもー!困ったコだ!綿が飛び出ちまうよー!!」


犬を追いかけていたのは、人形の持ち主ではなく――人形そのものだった。
犬が咥えている腕もその人形の物らしく、追いかけている人形の片腕は千切れ綿が飛び出ていた。


「「「!!?」」」


あまりの異様な光景にアスカ達は開いた口が塞がらなかった。
その人形は糸で操られてわけではなく、自立していたのだ。
つまり、自分の意思で動いている人形である。
しかも喋り動く人形はその追いかけている人形だけではない。
その追いかけている人形に巻き込まれ女の子の人形が勢いよくくるくる回っていたのだ。


「ルフィ…あれって…」

「ぬ…ぬいぐるみ……?」


アスカは震える手で去っていった人形、そしてクルクル回っている人形を指さす。
アスカが指をささなくてもルフィどころかサンジやゾロ、フランキー、錦えもん、直葉とその場にいる全員が気づいていた。
しかし、周りを見てみると人間だけではなく人形もあちこち自分の足で動いていた。


「こんにちは!!兵隊です!あれあれ?キミ達どこかで〜〜お会いしましたかねー?んー…見た顔だ…あ!そういえば今朝の新聞に―――いて!!しまった!糸が絡まった!助けてー!!」

「こいつらオモチャ…??」

「ちょっとちょっと!助けてよキミー!」


すると前に兵隊が現れた。
その兵隊は上から糸で操るオモチャで、兵隊はルフィを見て見た顔だと気づくが、動いた拍子に糸が絡まってしまい身動きできなくなった。
助けを求める兵隊をよそに、ルフィ達はまた前を通りかかった家族を見て口をあんぐりと開ける。


「人間と…オモチャ…?」


今度はオモチャだけではなく、オモチャと、そのオモチャと腕を組んでいる人間の女性…そして人間の子供を連れており、女性の手にはベビーカーが握られていた。
そのベビーカーにはロボットのオモチャが乗っており、楽しそうにまるで家族団欒の人間とオモチャにアスカ達は言葉さえ失ってしまう。
サンジが『何なんだこの島…』と呟いた瞬間…


「わァーー!!男が刺されたぞー!!」

「!?」

「ああ、またか…」


人の悲鳴が聞こえた。
しかも男性が刺されたようで、みんな騒ぎ立てる。
だが、意外にも兵隊のオモチャは冷静そのものだった。
ゾロは騒動の方へ目をやっていたが、『またか』と呟いた兵隊のオモチャを見下ろす。


「またってなんだ?連続通り魔でもいんのか?」

「いえ、この国の女性たちは恋に情熱的で嫉妬深く男の裏切りにあったりすると…―――よく人を刺します

「コエェな!!」

「美しい人ほどまー、刺しますよ!ほんと!」


どうやら騒動は恋の抉れらしい。
恋だけではなく人は金でも憎悪でも人を刺すのでそれほど珍しくはないと言えば珍しくもないが、怖いものは怖い。
美しい人ほど刺す、という兵隊の言葉にサンジがハッとさせ何故かアスカへ振り替える。


「アスカちゃんっ!!」


サンジは錦えもん、フランキー、ゾロを押しのけズンズンとアスカに迫るように近づき、ぎゅっと直葉と繋がっていないアスカの手を握った。
その勢いに押され、アスカは思わず身を引かせる。


「な、なに…」

「アスカちゃん!!おれはアスカちゃんが嫉妬に狂っておれを刺しても…!おれはアスカちゃんを愛してるからね!!」

「……ああ…そう…」


サンジはレディファースト主義なため、世の中の女性は守るべき存在である。
だから敵が女であれば負ければ死ぬ状況でもサンジは決してレディである敵に手をかけることはしない。
どういう思考回路をしているのかはアスカには分からないが、どうやらこの国の女は刺すと聞き、更に美しい人ほど刺すとも聞き、サンジは真っ先に仲間の航海士、考古学者、そして副船長であるアスカを思い浮かべる。
確かに、ナミとロビンは美人でグラマーだ。
アスカ的思考でいけば『ミコトにはかなわないけど』が前提で付くが。
そしてアスカも二年を経て心だけではなく体も成長した。
今はまだナミやロビン達のような大人の女性へと変わる途中だから二人やミコトのようなプロポーションではない。
だが、成長途中でもカップはAから大きく変化し、くびれだって出て出るところも出ている。
ボンキュボンの出来上がりである。
だから美人の中には入るだろうが……アスカは今のところサンジを刺すどころか恋してる2人を刺す気もない。
サンジに『ありがとう』と適当に恨まず愛してくれるという心意気だけにお礼を言った。
だが…


「おい!サンジ!!」


手をぎゅっと握るサンジを見てルフィはむすっとさせ、声を荒げる。
怒ったようなルフィの声にアスカとサンジだけではなく、『またやってるよ』と言わんばかりに関わろうとしないゾロ、フランキー、錦えもんや直葉もルフィへ振り返る。
ルフィは隣にいるサンジに迫られていたアスカを子供を抱き上げるようにひょいっと軽々とアスカを持ち上げ、サンジとついでに直葉から離し、さきほどいた方とは逆の自分の隣に降ろす。
直葉はアスカと引き離され慌てて追いかけて空いていた手を握り締める。
そんな直葉を気にも留めず、ルフィはアスカをぐっと抱き寄せ、キッとサンジを睨んだ。


「アスカはおれとトラ男のモンだ!勝手に口説くなよな!」


ルフィはサンジの性格をちゃんと知っているし、気にもしていない。
しかしそれがアスカに向けられうのは嫌だった。
これこそ嫉妬なのだが、ルフィは恐らく気づいてもいないだろう。
今までルフィはサンジがアスカにちょっかいを出しても何もしなかったのに、なぜ今怒っているのかサンジ達は分からなかった。
だが、ルフィの続けられた言葉に唖然とし、アスカは『あ、馬鹿…!』とこのタイミングでのカミングアウトに顔を覆った。
ルフィの言葉に、直葉も目を丸くしてアスカとルフィを見比べるように見る。


「お、おい…ルフィ…今、なんて…」

「だーかーらー!アスカはおれとトラ男のモンだから!手を出すなっていってんだ!!アスカが愛してるのだっておれとトラ男だけだからな!!」

「はは…おいおいルフィ…お前…何冗談言ってんだ……お前、と…アスカちゃん、が……つき…つ…つ…つ…つき、つき…付き合ってる?夢でも見てんじゃねーのか?いい加減目ェ冷めろよ…戦う相手はドフラミンゴだぞ?」

「冗談でも夢を見てるのでもねェよ!!おれとトラ男はアスカと"コイビトドーシ"っていうのになったんだ!」

「…………じゃあ…本当に…お前……アスカちゃんと…」

「おう!!キスだって済ましたし、セッ―――むぐっ!」


ゾロとフランキー、錦えもんは朝の事で何となく察しがついていたから驚いたもののすぐに冷静になれた。
錦えもんはチラリと直葉を気遣わしげな視線を向ける。
直葉は『えっえっえっ…あ、姉上とサルと移動男が…つきあ…えっ』と混乱しているのか壊れたようにブツブツと言っていた。
そしてサンジ。
サンジはナミ同様過保護組としてアスカを妹として愛している。
そんなアスカがルフィと付き合っていると聞いて現実に受け止められなかった。
震える手で煙草をくわえ直すサンジに、ルフィは信じてもらおうとキスよりも過激発言をしようとしたのだが…隣にいたアスカに口を塞がれる。


「アスカちゃん…今の話……本当か?」

「えっと……うん…私、ルフィとローと付き合うことになりました…」

「そうか…ルフィとローと付き合っ………?……………ろー?………………?…………!………!!?…――――っくぁwせdrftgyふじこlp!!?」


ロビンとナミには言ったが他のみんなに言うのはもう少し落ち着いた、闘いの後にしようと思って言ってなかった。
その予定をルフィが全て台無しにし、しかしそれもまぁ予想通りと言えば予想通りで…アスカは仕方なくサンジの問いに頷いた。
サンジはルフィと付き合っていると頷くアスカにショックだったが、なんとなく仲間になってからそういう雰囲気を出していたときもあったから受け入れることが出来た。
…が、納得しかけたその時…ルフィ『とロー』というローの部分に遅くも気づいてしまう。
『ん?』と思いその言葉の意味を理解するまで数分…サンジはまるで某画家が描いた某叫びのような表情を浮かべ………気絶した。
このメンバーでサンジを受け止める者などいないため、サンジの体はまっすぐ地面へGOとなる。


「おいおい…お前…二股かよ」

「ふ、二股って……まあ…二股だけど……そうなんだけど…」

「まさか本当に逆ハーレムとやらをやるとは……今週のお前スーパーだな」

「逆ハーレムもちょっと違うような…でも違わないんだけど…」

「あっ…あああああ姉上!?お父様だってお母様以外の女性を迎え入れていないのに!駄目です!せめてお一人!せめて移動男で!!!」

「移動男ってローのこと?…いや、うん、ごめん…子供に聞かせられる話じゃなかったね…」


それぞれの反応はやはり驚きであった。
しかし4人とも軽蔑の眼差しはなく、それだけが救いである。
アスカもまだ慣れていないが、そろそろ開き直ってきていた。
ただ、5歳の直葉に聞かせていい話ではないと反省している。
流石に海賊だからと乱れた生活を子供に見せられないというのは倫理観がバグってるアスカだって分かる。
だが、そうはいっても二人に惹かれてしまったのだから仕方ない。
直葉は青い顔をして姉を見上げた。
ワノ国は一夫多妻を許されている国だ。
だが、ある誇り高い侍だって一人の女性だけを愛し、そして父だって母しか妻を迎え入れていない。
正確にいえば今現在は知らない。
だが…あの母に骨抜きな父の事だから今も新しい妻を迎え入れていないだろう。
なのに姉が一夫多妻どころか一妻多夫をしようとしているのに直葉は悲鳴を上げた。
いや、別にいいのだ。
直葉はワノ国の血は入っていないが育った国がワノ国である。
だから一夫多妻であろうと一妻多夫であろうと好き同士、お互いが納得いっているのなら構わないだろう。
とはいうものの、直葉の周りには夫一人妻一人の夫婦の形しかなかったからショックだったのだろう。


「っていうか、私あなたの姉じゃないって言ってるじゃん…」

「いいえ!姉上は直葉とお姉様の姉上です!!それは間違いありません!!!」


直葉のいう事は正しいかもしれないが、そもそもアスカは直葉の姉ではない。
直葉の姉ではないのだから二股だろうと一途であろうと好きにさせてほしいと言うのが本音である。
しかし、アスカはふと聞き慣れない言葉に気づく。


「…お姉様?」


それはお姉様という言葉だ。
アスカの言うお姉様とは、ミコトただ一人ではあるが、直葉から初めて聞くその名に首をかしげる。


「はい!直葉には3つ上の姉がおります!お姉様も姉上の妹なのですよ!」

「いや、違うけど」

「違いませんっ!!!」

「そんな力説しなくても…」


新しい登場人物が増え、アスカは姉でないことに納得してくれないのも含め、げんなりする。
姉だ妹だと言われてもアスカは記憶はないのだから納得できるはずがない。
それに、ローの話が本当なら、アスカは北の海の出身で、ワノ国との関りは一切ないはずなのだ。
だから余計にアスカは直葉や錦えもんやモモの助の言葉を信じられなかった。
そんなアスカと直葉をよそに、ルフィは男性陣に忠告する。


「そういう事だからよ!アスカには手を出すなよ!お前ら!」

「手って…こんな狂暴ウサギを相手にする奴なんざ、てめェらしかいねェだろうから安心しな」

「おれもパス」

「拙者も右に同じ」


ルフィは気絶したサンジをよそにゾロ、フランキー、錦えもんにアスカを抱き寄せて釘を打つ。
フランキーは元からアスカの事は女というよりかは娘か妹と思っており、ゾロもフランキーと同じく元々アスカを女というより身内としてしか見ていないため即答し、錦えもんもそれは同じ。
だが、錦えもんはジロジロとルフィを感心したような目で見ていた。


「なんだよ!アスカはやらねえからな!」


関心したような目線を、アスカが欲しがっていると勘違いしたルフィはアスカを抱き寄せ錦えもんから守る。
しかし、それは的外れで、錦えもんは自分がアスカを狙っていると勘違いしているルフィに慌てて否定した。


「しかし…ルフィ殿とロー殿は度胸があるでござるなぁ…」

「確かに…狂暴ウサギに手を出すような奴なんざ、てめぇら見てえな無鉄砲以外にいねえな」


しみじみ零す錦えもんにフランキーもしみじみと頷いて同意する。
フランキーからしたらアスカはいい女になったとはいえ、中身がお転婆と称したら世のお転婆娘に大大大失礼に当たると思うほど狂暴化して帰ってきた。
傍にいたゾロも頷くくらいだから、色眼鏡から外れた者の目に写るアスカは相当お転婆なのだろう。
だが、錦えもんはそうではないらしく首を振る。


「あっ、いや…拙者はどちらかといえば知らないとはこれほどまでに恐れ知らずなのかと…」

「知らない?何をだ?」

「拙者、アスカ殿の父?を思えば絶対に手を出さぬなと…モモの助もそうでござるが…流石はドフラミンゴに挑もうとする度胸がある者だなと感心しておったでござるよ」

「父親ぁ?おめえアスカの父親は知らねえとか言ってなかったか?」

「あ゙…―――――え?拙者なにか言ったでござるか?」

「おーい、誤魔化しきれてねえぞ」

「さっきお前『あ』とか言ってなかったか?明らかに言っちゃいけねえこと言ったみたいな顔してたぞ」


フランキーとゾロの指摘により、錦えもんは自分の失言に気づいた。
明らかに『あ、やっべ』という顔を浮かべ、口を自身の手で塞ぐ錦えもんにゾロとフランキーがチンピラのように囲む。


「おい実はアスカの父親の場所知ってんだろお前」

「アスカの父親はどこにいんだよ、おい」


『まだ金あんだろ、ジャンプしろよ』と言わんばかりの絡みに、錦えもんはこれ以上失言しないよう両手で強く口を塞いだ。
アスカの家族の話になるとルフィは抱きしめている腕の力を強くする。
苦しいが我慢できないわけではない。


「大丈夫…錦えもん達は勘違いしてるだけだから」

「……本当か?」

「うん…ローの話が本当ならもう家族いないみたいだから…」

「……………」


おうおう、と錦えもんに絡むゾロとフランキーを他所にルフィが不安がっているので、安心できるかは分からないが彼らの勘違いだと言っておく。
ローが言う過去もアスカにとっては『ない記憶』ではあるが、錦えもん達の言う家族よりは信ぴょう性があると思っている。
信じるならローの方をアスカは信じたい。
直葉が何か言いかけたが、面倒臭くなる気配しかしないのと堂々巡りの気配しか感じなかったので直葉の口を塞いでおく。
ルフィは全てを信じたわけではないのだろう。
だが、アスカが言うのだからと信じる事にした。
『そっか!』と安心したように笑ったその時…


「人妻がなんぼのもんじゃーーい!!!」


という鳴き声を上げながらサンジが起きた。
起きて早々サンジはあのスリラーバークの時と同じ炎を身にまとわせギロリとルフィを睨む。


「てんめェェ!!ルフィ!てんめェェェェ!!!よくもローと二人で結託して可愛い可愛い可愛すぎるアスカちゃんを穢してくれたなワレ〜〜!!この落とし前どないするんじゃボケカスゥ〜〜!!!」

「なんだよ!!やるってのか!!」

「おう!やってやろうじゃねェか!!あーん!?」

「もうお前誰だよ」


ゴオオ、と燃えるサンジを見て回りの人やオモチャは『ぎゃー!人が燃えてる〜〜!』と騒ぎだす。
アスカ達はもうすっかり慣れているが初見の周りは当然慣れているわけでもなく…騒ぎになりつつあるのを見てアスカはヤクザVS野生児の闘いを傍観するのをやめルフィに声をかける。


「ルフィ、あんたお腹空いてたんじゃなかったっけ」

「あ!!そうだった!!メシだ!メシ!!メシ屋探そう!!」


アスカはサンジを止めるよりもルフィを止めた方が簡単なのを知っている。
いつでも胃袋は空いているルフィには食べ物で釣った方が頑固になっている時以外は簡単に釣れるのだ。
アスカの思惑通り怒りが食べ物で鎮火し、ルフィは食事ができるお店を探しに忙しなく顔をあちこちに向けていた。
すでにその顔からは怒りは消えていた。
美味しそうな匂いに誘われ機嫌もよくなりサンジと言い合いをしていたことすら忘れているだろう。
匂いにつられてどこかへ向かおうとするルフィにゾロ、フランキー、錦えもんが続く。


「落ち着いた?サンジ」

「アスカちゃん…」


ルフィの背を見送りながらアスカはサンジに声をかける。
その手には勿論、直葉と繋がっている。
サンジは複雑そうな表情でアスカを見ており、サンジが何が言いたいのか分かっているアスカは困ったように笑う。


「ごめんね…でも、私ルフィとローの事、本当に好きだから…」

「……そっか…まあローは驚きだが、ルフィはそうじゃねェかと前から思ってたしな…」

「え…前から?」

「ああ…前からというか…仲間になった時からか?」

「…マジですか」

「マジです…むしろあんなに見せつけておいていままで恋愛感情がないっていうのが驚きだったな」

「………」


ルフィの気が逸れたためサンジも落ち着いており、アスカが本気だと分かったのか一応納得はしてくれたようである。
ただやはりナミと同じく妹みたいに可愛がっているアスカを取られたという気に入らなさはあるらしい。


「ま、あいつらがアスカちゃんを傷つけるなら…無理矢理でも奪ってやるけどな」


アスカはニッと笑ってみせるサンジの言葉に目を瞬いた。
ナミとロビンと同じ事を言うサンジにアスカは『なにそれ』と釣られたように笑った。

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