(155 / 274) ラビットガール2 (155)

―――一方、ヒールとスカートに苦戦しているアスカは…


「待ちやがれ〜〜!!」

「くっそー!なんでバレたんだーーっ!!」


災難な事に敵に顔がバレてしまい、4人の下っ端に追われていた。
アスカはスカートを摘まみあげて必死に逃げる。
慣れない靴でついに靴擦れを起こして足が痛いが、それどころではない。
追われているからではなく、ついに直葉と逸れてしまったのだ。
下っ端を伸している途中で逸れてしまい、今現在下っ端を連れて捜索中である。
下っ端を放置しているのは、倒しても倒してもどこからでも沸いてくるからだ。
だからもう放置することにした。
どうせルフィが大暴れしてローの作戦を台無しにするのだろうし。
しかし、慣れない土地での逃亡はアスカが不利となり…アスカは行き止まりに当たってしまう。


「しまった…!!」

「へへ!!もう逃げられねえぞ!大人しく捕ま―――ぐほあっ!!」

「そう簡単に下っ端に捕まってられるか!笑われるわ!!」


目の前は家の壁側となってしまい、左右も家が立ち並ぶ所謂裏路地を走っていたようだった。
行き止まりに左右も家の壁…逃げ道と言えば自分たちで塞がっているということで下っ端たちはアスカを捕まえられると高を括っていた。
だがその瞬間ニヤニヤしていた男の懐にアスカが一瞬にして入り込み、男が言い終える前に回し蹴りを食らわし吹き飛ばした。
一瞬の出来事に唖然としているあと3人の下っ端にも蹴りや拳を食らわし、そこにはアスカしか立っていなかった。


「―――はっ!そうだ!!靴脱げばいいんじゃん!!」


ハアハア、と息を荒くしながらアスカはハッと思いつく。
靴で走りぬくく痛くて闘いにくいのなら靴を脱げばいい。
そして、


「長いスカートも邪魔だから破っちゃお」


足元までのロングスカートも大胆にミニスカートへ変えた。
ビリビリと破りその辺に布と靴を放置しながらアスカは倒れる男達を飛び越え邪魔者もいなくなり妖精と並走して直葉を探しに走った。


「ゾロもいないし!妖精もいないし!!あの子もいないし!!私のシュラハテンはどこよーっ!!」


前を走っていたはずのゾロとは直葉よりも随分前に逸れ、どちらが迷子か分からない状態となった。
もし今この時…ゾロに会い、ゾロに『なんだお前…迷子か』と言われたら否定はできない気がした。
だが、もしそうなったのならアスカは迷子常習犯に迷子確定され更には否定できない自分に腹が立ち、ゾロに八つ当たりをするかもしれない。


「いたぞー!!冷酷ウサギのアスカだ!!」

「げっ!!もう見つかった…!!」


スカートを裂き、裸足状態の今…アスカはいかにも何かに巻き込まれた女性だった。
それでもアスカはアスカだから表を平然と走っていると…やっぱり見つかった。
格好はどうであれ顔は一応帽子を深くかぶりサングラスをかけているという出で立ちなので、髪の毛も帽子に仕舞いこんでいるので、怪しまれることはあっても一発でバレる事はないはずだった。
だがそれがどういうわけか一発でバレてしまいまたアスカは追われる羽目となる。
今度も恰好がほぼ一緒だからまた下っ端なのだろうというのだけは分かった。
アスカは表通りよりも裏路地の方が狭く迷いやすいが人目に付きにくく狭いからこそ戦いやすいというのもあり裏路地へとまた入っていく。


「待て〜!!」

「しつこいなァ!!!もう!!こっちはゾロに妖精にあの子を探さなきゃいけないっていうのに!!」


例えゾロのように迷ったとしてもまた倒せばいいし、逃げるにしても上を飛び越えればいい、と軽く考えアスカは走っていた。
だが、迷子と妖精を探している身として弱い下っ端とは言えこう多くエンカウントすると鬱陶しい他にない。


「ちょろまかとしやがって…!いい加減にしやがれ!!」

「そっちこそいい加減諦めたら!?しつこい男は嫌わるよ!!」


右を曲がったら左へ、左を曲がったらまた左へ、そして時にはまっすぐに、と良く知りもしない場所だからこそなんとなく走っているとアスカの目の前にもう一人現れた。
どうやら下っ端はもう一人いたらしく、裏路地に入ったアスカを見て先回りしていたらしい。
また逃げ場を失ったアスカだが、壁を蹴って上から逃げるか、はたまたそのまま先ほどの3人のように倒そうかと考えていたその時―――もう一人の下っ端が上からアスカを目がけ水をかけた。
バシャリと音を立てアスカはあっという間に全身を濡らす。
全身を濡らすだけならまだよかった。
アスカの全身を濡らしたその水は…


「ち、からが…っ」


海水だった。
アスカは初歩的なやり方でミスを犯すというマヌケさを見せてしまう。
人一倍能力者の弱点に弱いアスカは海水を掛けられると力が抜けてきてしまい、その場に座り込む。
へたりと座り込むアスカは自分のマヌケさに『うぅ…私のバカ…!』と呪う。
しかし、海楼石や海の中に常にいるとは違い満足にとはいかないが動けることである。
下品な笑い方をしながらこちらに向かってくる男達の手に手錠を見てアスカはやばいと思った。
その後は考えるより体が動き、気づいたら下っ端全員地面に倒れていた。
アスカはダルい体を壁に手をやって支えながら深呼吸をする。
海の中にいるわけではなく海水を被っただけなのでしばらくすれば体調も戻るだろうと少し休むことにした。
しかしその油断がいけなかった。
―――アスカは上から襲われたのだ。


「…っ!!」

「捕まえた〜〜!!お前ら!今だ!!」


上から降ってきたのはアスカに海水を賭けた男だった。
その男によって周りで倒れていた男達も続きアスカを拘束する。
男達は確かに倒された。
だが、海水によって力が半減したアスカの攻撃では完全に気を失わせるのは難しく、すぐに意識を回復してしまったようである。
アスカの隙をついて一人がアスカを羽交い絞めし、その隙にもう一人がアスカの手に海楼石を嵌める。
ガシャン、という音と共にアスカは力が失っていくのを感じた。


「よっしゃ!!早く若様に連絡を取れェ!!」


アスカの抵抗の力どころか体から力が抜かれ、羽交い絞めしていた下っ端はアスカから手を離した。
支えがなくなったアスカはその場に座り込む。
座り込んだアスカの腕を下っ端の一人が掴み、そのまま逃げださないよう行き止まりに放り投げるように置く。
アスカは乱暴に放り投げられ壁に背中を打ち付けてしまう。
力がでないアスカはその痛みに顔をしかめながらも状況を把握しようと周りを見渡す。
アスカの後ろ、左右には壁。
そして前方には数人の下っ端がいる。
海水と海楼石のせいで体の自由を奪われ、頼りになるシュラハテンも盗まれて今は不在。
どうすべきかと考えていると、ファミリーに連絡していた男が電伝虫を切る。


「連絡を入れたぞ!」

「若様なんて言ってた?」

「"すぐに向かう"―――と隊長が言ってた」

「若様じゃねェのか…」

「仕方ねェよ…おれら下っ端の下っ端だぜ?若様なんてファミリーのボスじゃねェか…下っ端が天辺のお人にそう簡単に会えねェよ」

「まあ…そうだよなァ……でもよ、こいつ捕まえたんだから少しは昇進もすると思わねェか?」

「思う!」

「…っていうかなんで若様達はこいつなんかを『捕まえろ』なんて命令出したんだ?こいつら敵だろ?」

「見せしめに殺すんじゃねェの?なんかこいつ弱そうだしよ」


仲間の言葉に男達は『ああ、なるほど』と頷き納得する。
電伝虫に出たのは下っ端たちを纏める隊長の一人だった。
分かっていたが、若様なる人物が出てほしかった男達は落胆した。
アスカは男達の会話を聞いて嫌な予感がした。
下っ端達の言う『若様』が誰なのかは分からないが、『捕まえろ』と言っていたから今すぐ殺されることはないだろう。
連れていかれて見せしめにされるならまだいいが、ローの話を信じるならきっとアスカはこれからローが望まないことになる。
ドフラミンゴの手に渡れば、いくら強いとはいえアスカの実力では逃げる事もできない。


(相手は私を弱いって思ってるみたいだし…その『若様』っていう人がいつ来るか分からないし…逃げるチャンスは今しかない…)


アスカはどちらかと言えば顔は整っている方である。
その分変質者に狙われやすいが、油断してくれもする。
今回はそれを利用する手はないとアスカは隙だらけの目の前の男の距離を一気に詰める。


「なッ――、ぅ!」


海楼石はそれほど度数が高くないものらしく、体が怠く能力が使えない事以外は普段通りである。
アスカは能力者故に能力ばかりに頼りすぎており、体術は学んでいなかった。
それを心配したレイリーが修行の一環としてアスカには体術も教えてくれた。
アスカはほとんど身動きができないほど力が弱まっていた。
だが、ローはドフラミンゴの手にアスカが渡ることを恐れていた。
アスカだって敵の手に落ちるのは嫌だ。
アスカは気合で体を動かす。
怠さで体が重い。
それを無視し、近くにいる男の足を払う。
油断していた男は足を払われ受け身をする暇なく倒れた。
土ではなく硬い地面に受け身をとれず倒れるのは予想以上に痛い。
海楼石で動きを封じていた油断もあって、突然の反撃に下っ端は驚く。
その隙にもう一人の懐へ飛び込み体当たりし、男は受け身を取れず仰向けに倒れてしまった。


「て、てめェ!!」

「逃げる気だな!?」


仲間が倒されたのを見てやっと我に返った下っ端達は目くじらを立てながらアスカへ手を伸ばす。
手柄を立て昇進する機会を失うのがいやな下っ端は怒りにまかせ一斉にアスカへ襲い掛かる。
それを見てアスカは何もせずじっと体当たりした下っ端の体の上に乗っていた。
しかしあと少しでアスカに触れると思ったその時、アスカは素早い動きで後ろに飛び下がる。
すると勢いを殺し切れなかった下っ端達はお互いの頭と頭を打って倒れてしまった。
『こいつらチョロすぎじゃない?』と思いながらアスカはとにかく逃げようと思い起き上がって走ろうとした。
行き場は考えていない。
もはやここがどこなのかもわからないし、裏路地ではなく表通りに出たほうが賢明かと思っていた。
その後、サンジでもゾロでもいいから誰かと合流したいとも思った。
しかし…


「てめェ!!いい気になるなァ!!」

「!、―――ぐ、ッ!!」


最初に倒された男が起き上がり、背を向け逃げようとするアスカの肩を掴んで体の向きを自分の方へと向けさせた。
そして、怒りに任せて思いっきりアスカの顔を殴り飛ばす。
海楼石のせいで能力者ではなくなったアスカは頬辺りを殴られ勢いよく地面に倒れてしまった。
息を荒くしながら男は横倒れになっているアスカを睨みつけ、アスカは痛みを走らせながらもまだ逃げることを考えていた。
すぐに起き上がろうとするアスカにまた別の男が腕を掴み無理矢理立たせ、思いっきり力任せに壁へと叩きつけ元の位置に戻した。
苛立っていたのか先ほどより強く突き飛ばされたアスカは体を強く強打する。
壁に体を預けながらズルズルと力なく座り込むアスカを見て観念したと思ったのか男達からの暴力はもうなくなったが、逃げ出そうとしたせいで下っ端達に警戒させてしまい隙が無くなってしまう。
アスカはそれを横目で見つめながら舌打ちを打つと不意に口の中が鉄の味がしている事に気付く。
どうやら殴られた拍子でどこか切れたらしく、腕もジンジンと痛い。
腕を見れば倒れた時に地面に擦れたようで、すりむいてはいないが赤くなっていた。


(失敗した…やっぱり止めさしときゃよかった…)


口の中の血に混じった唾液をペッと出しながら、自分の失敗に顔をしかめた。
レイリーからは幾つか体術とともに防衛も教えてもらっていた。
敵の止めを刺す場合も教えてもらったし、その逆に逃げるのを優先する場合も教えてもらった。
その数々の教えから今回アスカが選んだのは…止めを刺さずに逃げることを優先したものだった。
理由は勿論、海楼石による弱体化。
だがアスカはそれを悔むが、それを悔んでも仕方ないと頭の切り替えをした。
まずは切り替えしても変わらない。
若様と呼んでいた人物が来る前に『逃げる』方法を考える。


「へへ!こいつさっきと違い大人しくなったぜ!」

「おれのパンチが効いたんだろうな!」

「で、でもよ…いいのかよ…」

「あ?何がだ」

「こいつに傷を付けても、だ」

「「「?」」」

「だから、若様から言われてたろ…こいつを傷つけず無傷で捕獲しろって!」


あの麦わらの一味に一発を入れた男は自慢げに拳を握る。
すでにそちらに気を取られアスカには気を逸れたが、アスカは先ほどの失敗もあって安易に行動に移すことはしなかった。
しかし頭の中では『こんなんだからあんたら下っ端なのよ』と毒を吐きながらそれでも様子見をしていると一人の下っ端が心配そうにポツリと呟く。
それはアスカを傷つけた事であった。
どうやら他の男達は忘れているようだが、下っ端たちは何故か若様という人物に『アスカを無傷で捕まえろ』という命令を下されていたようで、アスカはそれを聞いて怪訝としてしまう。
しかし…


「大丈夫だろ?だっておれら抵抗されて殴られたんだぜ?正当防衛だよ、正当防衛!」

「そうそう!正当防衛だから若様も許してくださるさ!」

「…そうだといいんだけどなァ…」


アスカを睨みつけながら呑気に答える男に下っ端はまだ心配なのか不安そうに呟いた。
アスカは睨みつける下っ端たちを睨み返しながらここから先どう逃げ出そうかと考えていると…―――カツン、と音が裏路地に響く。


「フッフッフッフ!ご苦労だったな、お前ら!」

「…っ!!」


アスカは聞いたことのある声に息を呑み、声のする方へ…下っ端の背後へ目をやる。
そこには…


「若様!!」


―――七武海であり、ドレスローザの国王でもあった……ドフラミンゴが立っていた。

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