(156 / 274) ラビットガール2 (156)

ドフラミンゴは部下からの報告で王宮から文字通り飛んで来た。
アスカはドフラミンゴの姿に息を呑む。
前回は戦争の時は謎のウサギのおかげで逃げれたが、今回もそんな奇跡は頼れないだろう。
何より海楼石がはめられてるし、ここは敵陣…仲間の助けは頼れない。
アスカの額に冷や汗が流れる。
下っ端たちは壁に沿って整列し、ドフラミンゴはそれを当たり前のようにアスカの元へまっすぐに向かって歩み寄ってくる。
近づいてくるドフラミンゴの靴音が大きく聞こえ、アスカは息が詰まりそうだった。
チラリとドフラミンゴを見上げればドフラミンゴは上機嫌の表情を浮かべ、こちらに歩み寄ってきていた。
しかしアスカとの距離が縮まり、アスカが顔を上げてドフラミンゴに顔を見せるとドフラミンゴの足は止まり、機嫌のいい表情も崩れた。


「おい…」

「は、はい!」


アスカとドフラミンゴの距離はそう短くはない。
ドフラミンゴはその距離からアスカの顔を見て表情を険しくさせ、近くにいた下っ端に声をかける。
下っ端はボスであるドフラミンゴに声をかけられ舞い上がり声が上ずり姿勢も更に真っすぐ伸ばす。
そんな下っ端の心境など気にもしていないドフラミンゴはアスカに歩み寄り、アスカの前にしゃがみ込む。


「これはなんだ」


そう言ってドフラミンゴはアスカの顎に指をひっかけ顔を見た。
正確に言えば頬である。
アスカの頬には殴られたような跡があり、口端からも血が垂れていた。
更には腕がすりむいた様に赤くなっていたのだ。
しかも服は破れ、靴もなく裸足の状態。
服や靴は下っ端と無関係だが、それを今ドフラミンゴが知る術はない。
ボロボロの状態のアスカを見てドフラミンゴには予想していたが、あえてそれを下っ端に問う。
舞い上がっている下っ端はドフラミンゴの低く震えた声に気づかない。


「ああ、それはおれがやりました!!」

「…なに?」

「でも最初に手を出したのはそいつですぜ!!だからおれ達のはせいとうぼう―――」


下っ端は自慢するように語る。
だが、語っていたその言葉は途切れ……そしてその場にいる下っ端たちの悲鳴が響く。
自慢げに話していた下っ端はべちゃべちゃと音を立てその場に崩れ落ちた。
そう…文字通り、粉々になって。
ドフラミンゴの食べた悪魔の実であるイトイトの能力でその下っ端の体はバラバラ死体となってその場に崩れる。


「ひぃーーーっ!!!」

「わ、若様!?なんで…!!」


バラバラになった仲間に悲鳴が上がる。
下っ端だった肉の塊から、そしてドフラミンゴから避難するように下っ端たちは後ずさる。アスカはドフラミンゴの体が壁となり何が起こったのか分からないが、ベチャベチャとした音と男達の悲鳴、そして血の匂いで予想は出来る。
ドフラミンゴはアスカの頬の傷を避け頬に触れていたが、下っ端たちの言葉にピキリと青筋を立て立ち上がる。


「何故だァ!?おれは言ったはずだ!!リサに傷一つつけず捕まえろと!!」

「で、ですが!こいつが最初におれ達に襲い掛かってきて…!!でもおれ達は若様のためにこいつを捕まえるのに必死で…!!おれ達のは正当防衛でしたよ!!?」

「おれのため!?だったら無傷で捕まえろ!!!そんな簡単なこともできねェんだったらお前らはうちのファミリーにはいらねェ!!おれは言ったよなァ…!"リサに切り傷一つでもつけた奴はおれが死を与える"と!!」


下っ端たちはどうしてドフラミンゴが怒りを露わにするのか分からず混乱する。
しかしもうすでに一人が粉々になって切り刻まれて死んでおり、男達はドフラミンゴから逃げる為唯一の逃げ道へむかって走る。
しかし…


「ぎゃ〜〜!!」

「ど、どうした!?」

「て、…!!手があああ!!!」


逃げようと先頭を走っていた男の手がプツリと三等分された。
逃げ道へ走っていた際振り子のように挙げられてた手が斬れたのだ。
逃げ道を見れば何もない場所に男の血がついており、真っすぐ何かに伝って下に落ちているのが見えた。
そこは本当に何もなく、アスカを連れてこちらに来た時だって何かに触れたとかも全く感じなかった。
しかし、そこにはドフラミンゴが男を粉々にした際に能力を発動させて逃げられないようにしており、男達には見えない何かが張り廻られていた。
手を抑える男の二の舞は嫌だと立ち往生している背後にドフラミンゴの靴音が響き、男達はビクリと肩を揺らす。


「わ、若、さま…!!」

「ゆ、許してください!!」

「謝罪なんざ欲しくねェ…お前らは"血の掟"を破った……死して償え!カス共!!」


何がドフラミンゴの逆鱗に触れたのか分からないまま男達はドフラミンゴの怒りのままに死を与えられる。
アスカはそれをただ見つめていた。
唖然…ともいえる。
するとアスカの視界に血が見え、そちらに目を向ける。


「血…」


そこにはこちらに流れてきている血が見えた。
その元へ見れば、最初に粉々にされた下っ端からの血だった。
アスカは人だった形がただの肉の固まりとなっているのを見ても何も感じない。
そんなもの奴隷時代にいくらでも見てきたのだ…怯えるほどアスカは普通の感性を持ち合わせていない。
しかし、男達の悲鳴、少しずつ近づいてくる血を見てアスカは既視感を感じた。
その血を見つめていたその瞬間―――アスカは強い痛みに頭を抱えて蹲る。


「―――リサ!?」


うう、というアスカの小さな唸り声もドフラミンゴの耳には届いており、最後の一人を切り殺した後アスカへ振り返る。
振り返った先にいる蹲るアスカを見てドフラミンゴはアスカに駆け寄った。


「リサ!!どうした!?」

「…っ」


アスカへ駆け寄るとアスカは顔を上げず頭を抱えていた。
何も言葉を返す事が出来ないアスカにドフラミンゴは慌ててアスカを抱き上げ、その場から姿を消した。
アスカはドフラミンゴの腕の中…眠るように気を失う。
そのドフラミンゴの腕の中をアスカは―――懐かしいと、思った。


「待ってろ!今すぐ王宮で手当てしてやるからな!」


アスカが気を失いぐったりとさせているのを見て、ドフラミンゴは慌てて糸を雲に伸ばし文字通り飛んで王宮へ戻ろうとした。
しかし―――


「"桃色雪崩(ももいろなだれ)"!」

「―――!」


飛ぼうとしたドフラミンゴの上から大量の桃色の花びらが降って落ちてきた。
勢いよく雪崩れ込んできた花びらは後ろ以外に道がないのもありあっという間にその場を埋め尽くす。
血生臭かった空気が、一瞬にして桜の甘い香りに包まれた。
それと同時に、建物の屋根にトンと小さな影が着地した。


「"桜腕(おうわん)"」


ポツリとその影が呟き、腕をグッと上に持ち上げるような仕草をする。
それに合わせるかのように桜の花びらがアスカを腕で掴むような形が形成されアスカを持ち上げ影の下へと連れて行く。
そっと影の傍にアスカを降ろせば、影はアスカに駆け寄り、アスカが気を失っているだけだとホッと安堵の息をつく。
だが、その油断がいけなかった。
アスカを起こそうとして手を伸ばす影はグイっとしたから引っ張られるように屋根から落ちてしまう。


「―――ッ」


影が花びらの中に入ると、積まれた花びらがふわりと舞う。
だが、花びらに影が埋まるのと同時に花びら達は粉々に刻まれ吹き飛ばされた。


「フッフッフッ!なんだ…まだ子供じゃねえか…」

「…ッ」


吹き飛ばされた花びらがパラパラと落ちて来る。
花びらの中から現れたのはドフラミンゴと…影、直葉だった。
直葉は逸れたアスカを探して見つけ出したのはいいが、ドフラミンゴが現れ連れていかれそうになっている姉を救うべく姿を現した。
引きずり込まれたのは、ドフラミンゴのイトイトの実の能力だろう。
ドフラミンゴは直葉の首を絞めるように持ち上げ、重力で締め付けられている直葉は苦し気に顔をしかめる。
しかし、それでもドフラミンゴを睨むのをやめない。
ドフラミンゴは子供ながらに泣くでも怯えるでもなく睨む度胸の良さに機嫌よく笑った。
しかし、ふと気づく。


「…お前…まさか…」


ショールを頭巾代わりに被っている子供を見て、ドフラミンゴは気づいた。
しかし、それに正確性はなく、ドフラミンゴは首を締めあげながら直葉の被っている頭巾に手を伸ばし取ろうとする。


「取るな!」


直葉は頭巾を取られると気づき暴れる。
首を振って取られないようしようとするが、実力があり大人であるドフラミンゴには無駄である。
嫌がる直葉を気にも留めず、ドフラミンゴは頭巾にしているショールをグッと掴みそのまま頭巾を解いた。
するとふわりと黒い髪が舞うように散らばる。


「やはり…お前…―――フフフ!今日は良い日になりそうだ!」

「…っ」


ドフラミンゴは予想通りの姿に、ご機嫌に笑う。
直葉はその笑みに悔し気に顔をしかめ、ギロリとドフラミンゴを睨んだ。
睨まれても痛くもかゆくもないドフラミンゴは糸で直葉を拘束し、屋根にいるアスカを抱き上げそのまま姿を消した。

残ったのは、下っ端の遺体と…甘い花の香だけだった。

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