突然のコネッホ…否、エイルマーの話にルフィは目を瞬かせる。
ルフィが黙り込んだためその場に静まり返るが…その数秒後、サボに抱き着いていたルフィはサボから落下し驚きの声と表情をエイルマーに向ける。
「ええええええ!!!?コネッホがアスカの兄ちゃん〜〜〜!?――――ハッ!ということはアスカは人間じゃなくて…ウサギだったのか!?」
「あ、いや…そこは違うよ…」
『どうりで恐ろしいと思ったんだ!!』、とアスカのおかげで『ウサギ=狂暴』という認識が定着してしまったルフィはどうしてか納得してしまった。
しかし兄としてそこはちゃんと否定しておく。
驚きが隠せないルフィの言葉にエイルマーは苦笑いを浮かべる。
「ぼくは一応人間さ…まァ、『元』がつくけど」
「?」
「信じないと思うけど…ぼくはもうこの世にいない人間……言ってしまえば"幽霊"ってところかな?」
「ゆーれいィ?」
ルフィは自分を指さすエイルマーのあっけらかんとした言葉に驚きの声をあげ、尻もちついていた腰を上げてエイルマーに駆け寄りペタペタとエイルマーの体を触る。
「おい!幽霊って嘘じゃん!!」
「嘘じゃないさ…ぼく、もう死んでるし」
「嘘だ!!だってお前…!触れるぞ!?お前幽霊ってなんだか知ってんのか!?触れない不思議生き物の事だぞ!!」
「あー……いや、うん…ちょっと違うよ、それ…」
ルフィは幽霊と言われまず触れれるかと確認する。
確認すればふっさふさの手触りのいい毛の感覚が手で感じられ、エイルマーが幽霊ではないという結果が出た。
頑固な部分があると察したのか、エイルマーは自分が幽霊かそうじゃないかなど今は重要視していないため流すことにした。
「ぼくがここにいる理由は……ぼくも"メラメラの実"を手に入れるために来たんだ」
「!?――"メラメラの実"を!?だ、駄目だぞ!メラメラの実はサボが―――」
「それは大丈夫…サボ君とも話し合って彼に食べてもらうつもりでいるから」
「そ、そうか…」
エイルマーの言葉にメラメラの実をサボに預けることで落ち着いたはずだったのだが、ルフィは焦ってしまう。
あわあわとさせるルフィにエイルマーは『どうどう』と落ち着かせようとここに来る前に話し合った事を告げる。
あの時…サボが声をかけてきたとき、エイルマーも本当の事を伝えた。
アスカの義兄だという男を疑うなど実兄として出来なかった。
サボもエイルマーの言葉には驚いたが出会ったときのアスカに記憶がなかった事や、エイルマーの話す時期が疑う余地もない事から納得し、二人で話し合った結果、ルフィが許すのなら勝つ見込みのあるサボに食べてもらうことにした。
ルフィはサボがメラメラの実を食べる事に変わりはない事にホッと安堵し、胸を撫で下ろす。
ほっとさせるルフィにエイルマーは目を細めた。
「ぼくが君に近づいたのはメラメラの実が欲しかったわけじゃない…ぼくはメラメラの実が食べれないから貰っても意味ないし、ぼくじゃ決勝には勝てないだろうしね……ぼくが君に近づいたのは……あの子の事を聞きたかったから…」
「あの子……アスカか?」
紹介された時にアスカの兄だという事を聞かされていたルフィは覚えていたようで、ルフィの言葉にエイルマーは頷いた。
「そうだよ…そう……あの子…アスカは元気かい?」
「おう!元気だ!」
「君とアスカは幼馴染なんだそうだね…小さい頃のあの子、どんな感じだったかな…記憶喪失だったってサボ君から聞いたけど…ぼくのことも全く覚えていないのかい?あの子はちゃんと笑えてるかい?ちゃんと三食昼寝付き三時のおやつも出て快適に船の上ライフを送っているかい?」
「ちょっと待て待て!!そんないっぺんに聞かれても答えられねェよ!それにおれ急いでるから全部は答えられねェ!」
「そうだったね、ごめん…じゃあ一番重要な事を聞こう」
アスカの事を聞きたがっていたエイルマーは大体をサボから聞いた。
といってもサボは幼い頃生き別れてしまってエースやルフィよりも情報は少なかったが、それでも妹を愛する兄として大いに盛り上がった。
恐らくここにエースを投入すれば宴会騒ぎの不眠コースだろう。
妹に対し、彼らは苦を感じないタイプのお兄さんだった。
時間もないというルフィの言葉にエイルマーの中で一番重要な事を聞くことにし、ガシリとウサギの太くふんわりとした手でルフィの右側の肩を掴む。
「アスカに彼氏はいるのかい?」
エイルマーはこの時、にっこりと笑っていた。
ウサギの愛らしい顔つきに加え、エイルマー自身の人柄もあってその笑みは優しく誰一人警戒心を持たせないような笑みだった。
だがしかしその背後にはゴゴゴと唸るような不気味な音が聞こえ、暗黒のような黒い靄のようなものが生まれた。
それは幻影と幻聴なのだが、それがはっきりとサボ以外の三人に見え聞こえるほどの迫力だった。
てっきり一番重要と言うから何かと身構えていたルフィだったが、一番重要で一番聞きたがっているのが『彼氏』の話で呆気にとられた。
そしてそれは後ろの二人もである。
更に左側の肩にポンと人の手が置かれた。
エイルマーの質問に顔を引きつらせていたバルトロメオとベラミーは顔を引きつらせたまま、エイルマーから視線をずらす。
ルフィの肩を叩いた人の手などこの中では一人しかいない。
その人物とは…
「ちゃんと害虫駆除してくれてるよな?ルフィ?」
やっぱりサボだった。
二人のシスコン度の強さにもはや顔を引きつらせるどころか呆れ返るしかなかった。
だがそれはどうやらベラミーだけらしく、バルトロメオは先ほどから『大先輩たちに愛されてるアスカ先輩流石だベ〜〜〜っ!!!』と1人で盛り上がっていた。
そんな彼をスルーするとし、ルフィがこの分厚い壁をどう乗り越えるのか…なんとなく見守っていると…
「そんなもんおれが許すわけねェ!!」
ルフィの断言を聞いてベラミーは『あ、こいつもか』と思った。
しかしルフィの断言に隣にいたバルトロメオは『ルフィ先輩かっこいいべ〜〜!!』とそのままのテンションで褒め契り、ルフィの言葉を聞いてシスコン兄二人はホッとした表情を浮かべた。
しかし、まだ続きがあった。
「アスカはおれとトラ男の女なんだぞ!!なんで他の奴にやらなきゃならねェんだ!!」
「「……は?」」
ベラミーはドカーン、と静かに仕掛けられていたらしい爆弾が一気に爆発する幻聴を聞いた。
そしてベラミーも二人と同じ反応をし、バルトロメオも流石に同じくキョトンとなっていた。
いい意味でムードメイカー、悪い意味で空気読めなルフィは4人の反応に気付いていなかった。
「ちょちょちょ…ちょっと待とうか、ルフィ……えっと…え?今…なんて…」
「だーかーらー!アスカはもうおれとトラ男の女だってば!なのになんで他の奴なんかにアスカをやらなきゃなんねェんだよ!おれは浮気は反対だぞ!!」
「ああ、うん…そうなんだ…ぼくも浮気は反対だよ?でもちょっとおかしい言葉が聞こえたんだけど……えっと……まずソフトな質問しようか…直球で聞くとぼくとサボ君の心臓が爆発しそうだし…で、アスカは今好きな人いるのかな?」
「おう!いるぞ!!」
「!!――そ…そ、そ……そっか…いるんだ…いや、うん…そうだよね…だってアスカ、年頃だし彼氏の一人や二人くらいいてもおかしくないよね……」
「そうだな…アスカは可愛いからモテるんだろうな……で、ルフィ…その好きな人は誰かな?勿論ルフィっていうのは聞いたんだけどちょっとお兄ちゃん耳が遠いのかトラ男っていう輩が聞こえたような……っていうかトラ男って誰だ?」
「トラ男はトラ男だ!おれと同盟してるんだ!」
「ああ…トラファルガー・ローか…………で、ルフィ…アスカと付き合ってるのはお前だよな?」
(頑として認めねェつもりだ…)
ぶわっとこれでもかとサボとエイルマーの顔に脂汗が流れる。
可愛い可愛い妹に彼氏が出来ただけではなく…どういうわけか二人の名前が浮かび上がったのだ。
妹を美化している二人からしたら認めたくない何かがあった。
アスカと付き合っているのはルフィだと言い張るサボにベラミーは呆れたような目線を送る。
しかし待ったをかけた者がここに一人いた。
「ちょっとちょっとサボ君、何言ってるんだい?アスカの彼氏はどう考えてもローでしょ?なんたってローはアスカが初恋だし、あの子はドフラミンゴにだって認められるほどの根性があるんだし、あの子は医者だよ?ぼくの一番弟子でもある…将来アスカに楽をさせれる職業についているんだし……なによりローの手配書見たかい?あれが世にいうイケメンっていうやつさ」
「はは、何を言ってるんだ、はこっちのセリフなんだけどなァ?アスカが初恋?だからなんだ?知ってるか?初恋って実らないってジンクスあるんだぜ?っていうかおれがそのジンクスを実体験してるから事実なんだよ、残念だったな………本当…なんであんな奴と結婚しちまったんだよ…姉さん………ってそうじゃなくてだな、大体根性なんか本人次第だしうちの弟もそちらさんと負けないくらい根性ありまくりなんですけどね?知ってるかな?うちの弟七武海に挑んだのこれで三度目なんだよねェ?しかもそのうち三人は味方につけてるほどのカリスマ性を持ってるんだよ、うちの弟は…あとイケメンならルフィも負けてないし。」
「いや、アスカの彼氏はおれとトラ男だって」
「「お兄ちゃんは二股交際なんて許しませんよ!!」」
「なんでだよ!」
「「お付き合いというものは一対一でするものです!!」」
「んなもん関係ねーよ!おれ達は海賊だぞ!?海賊が世間のルールを守ってどーするんだ!!」
「「意味があるからルールがあるんです!!とにかく不純な交際は認めません!!」」
こういう時だけは息が合うようで、いがみ合っていたサボとエイルマーは声を揃える。
まさか自分とアスカの兄二人から交際を認めないと言われるとは思ってもみなくて、ルフィはぐぬぬと空は空なりに頭を働かせる。
そしてルフィはエースを思い出した。
「そういえば…ナミもサボとコネッホと同じで反対しててよ…アスカが言ったんだよ…」
「「?」」
「―――認めてくれないと嫌いにな…」
「「
仕方ないな!交際を認めよう!!」」
ルフィとしては頭が働いていた。
それもこれもアスカとの交際を認めてほしいからだろう。
エースがアスカにメロメロなのを思い出して浮かんだ作戦は成功した。
流石兄ちゃんだな!、と思いながらグッと親指を立てて認めてくれたサボとエイルマーにルフィはパアと嬉しそうに笑う。
「ほんとーか!?」
「ああ!よくよく考えればトラファルガー・ローも中々骨のある男みたいだしな…ルフィ以外に七武海を敵に回すどころか四皇も敵に回すなんて事考えて実行できねェよ…流石だわ…それにルフィには敵わないがトラファルガー・ローもよく見て見ればイケメンだし、七武海と敵対するほどの自信と実力を兼ね備えているし、エイルマーの弟子だから外科医として優秀だろうしな!」
「そうだね!ルフィ君も天然入ってるけど三人の七武海を相手にするメンタルの強さや実力があるし、ローの足元にも及ばないけどルフィ君もそれなりにイケメンだしね!それになんたって仲間を見捨てない優しい心がある!中々できないよ、兄の形見を他の人に預けて仲間を救いに行くって選択は!」
二人はルフィが言い終わる前に交際を認める。
あんなにも反対し、アスカが付き合っているのはルフィだのローだのと言い争っていた二人だったが、ルフィの言葉でコロッと態度を180度変えた。
その早業にベラミーは『変わり身はやっ』と柄にもなくそう心の中で突っ込んだ。
ルフィはとりあえず認めてくれさえすれば満足なのかにししと笑っている。
「未来の義弟の顔も見られてよかった……ルフィ君」
今までの鬼の形相が嘘のように穏やかな表情を浮かべるエイルマーにその場の空気も変わる。
ルフィと出会って数えれる程度しか会話をしたことはなかったが、彼の人柄はなんとなく理解した。
嘘がつけない真っすぐな性格の彼をエイルマーは可愛い妹の彼氏として認める。
ルフィは名前を呼ばれ、エイルマーへと顔を向ける。
「君に頼み事があるんだ」
「頼み事?」
「ああ…君だけじゃない…ローにもだ」
自分だけではなくローにも頼み事があるというエイルマーにルフィは首を傾げた。
そんな仕草が幼く見え、エイルマーはふと微笑ましく見つめる。
「ぼくはもうアスカを守る事はできない……だから………だから、どうか…アスカを守ってほしい」
「!」
「ぼくの代わりに…あの子を守ってくれ…」
兄としての役割はあの時にすでに終了している。
否、終了させられた。
本当ならアスカが成人するまでもっとそばにいてやりたかった。
10歳にも満たない年齢の時にアスカと離れ離れになってしまった事だけが薄れていく意識の中悔みながらエイルマーはこの世を去った。
頭を下げるエイルマーにルフィは目を丸くするも、すぐニッと笑ってみせる。
「そんなの当たり前だ!」
エイルマーはルフィの言葉にゆっくりと下げていた頭を上げ、ルフィの笑みを見つめ、彼もまた笑みを浮かべた。
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