アスカはドフラミンゴの気配が消え、一応ウサギで様子を見て彼らが戻ってこないのを確認するとベッドから降りる。
(いつ誰が来るか分からないから…早くここから逃げてルフィ達と合流しないと…)
アスカはそう思い音なく部屋を出る。
海楼石は眠って治療してくれてた間に取っておいてくれたのか能力が使える。
それを助かったと思いながらアスカは扉から顔を出し周りを見渡し警戒をしながら廊下に出る。
(゙あの時゙と全然違う生活だなァ…)
廊下を走っていると嫌でも目に付くのが豪華さだった。
特別派手ではないが、見るもの全てが庶民では買えない値打ちものだろうというのだけは分かる。
アスカは"あの時"…ドフラミンゴと離れ離れになる前の生活を思い出す。
あの時もそれなりに売れていたし、お金もあったためアスカはドフラミンゴが溺愛している少女として優遇され豪華な暮らしはしていたが…流石に国王級までとはいかない。
それでも贅沢ではあったのだが。
(ドフィのところにいた時はまだただの海賊だった時だったからなァ…まさかドフィが王様になるなんて…)
記憶を取り戻したからこそ、今と昔のギャップに驚いてしまう。
昔はゴミ溜めに暮らしていたドンキホーテ・ファミリーが、今や一国の主だ。
どういう事情で海賊が王様になったかは分からないが、幼い頃と今との違いの大きさに戸惑いが隠せない。
「お前…!侵入者か!!?」
「げ…やば…!」
物思いに耽っていると前方から歩いてきた下っ端たちに見つかってしまった。
下っ端に見つかるのはもう何度目なのだろうかと思いながらアスカは拳をグッとにぎり廊下を粉々にしようとした。
とにかく逃げるのなら騒ぎになって多勢に無勢になる前に片を付けようとした。
しかし、ふと気づく。
(――って私が騒ぎを起こしたら駄目じゃん!!ローの計画もまだ始まったばっかりだっていうのに!!私はルフィかっ!!)
このまま廊下を粉々にするのは簡単だ。
二年前までアスカは素手では力がでなかったが、二年の修行を経てアスカは素手でも力を出せるまでに強くなった。
それも二年前に比べて素手のほうが力が倍に増して。
手をウサギにするのは、ウサギの手の方が手加減できるからなのだが…アスカは気づいたのだ…このまま騒ぎを起こしたらヤバイ…と。
ローの計画がどれほど進んでいるのか分からないが、アスカは計画を台無しにはできない手の力を抜く。
ここに自分がいること自体計画を台無しにしている気がしているがアスカは気にしないことにした。
素早い動き故にすでに引っ込めることはできなかったが、力を抜く事は出来た。
ペチリと手を地面にくっつけたついでにアスカは別の能力を出す。
「え、えーっと………!―――"ラビットシャーク"!」
「!?――ぎゃー!!地面からウサギが!?」
「ええ!?う、うさぎ!?サメだろ!?」
アスカは能力でサメのようなウサギ…またはウサギのようなサメを発動させる。
ぶっちゃけ、これは即席の技だった。
破れかぶれでやってみたら出来た品物のサメのようなウサギは床を水のようにすいすい泳ぎ真っすぐ下っ端たちに向かって泳いでいき…一瞬姿を消したと思ったら下っ端に飛びかかり丸呑みした。
即席とはいえアスカは丸呑みされた下っ端はこの王宮のどこかに吐き出されているを分かっているし、そんなことで下っ端たちを憐れんでいたらウサギを爆破させない。
と、いうことでアスカは邪魔者もいなくなった先へ進んでいく。
「早く戻らなきゃ…!!」
とにかく、今すべきことはルフィ達と合流し、船に戻ること。
船へ戻れば一先ずドフラミンゴの手はすぐには伸ばされないと踏んでのことだった。
慣れない王宮をアスカは走りルフィかローの元へ戻ろうとした。
しかし…
『どこに戻るつもりなんだ?』
「―――ッ!!」
どこからか甲高い声が響きアスカはその声にハッとさせ立ち止まる。
その声は聞き覚えがあった。
そう思い隙を見せたその瞬間、アスカの左右にある壁が一瞬の速さで迫ってきた。
アスカはそれを考えるよりも体が動き飛び下がって避ける。
それは押しつぶすようなものではなく、壁が液体のようになってアスカを挟むようなもので、石でできた王宮の壁を操れるのはアスカが知っている限り一人しかいなかった。
「ピーカ!!」
『久しぶりだな、リサ』
(くそ…!そうだよね…!!ドフィが王宮にピーカを置いておかないわけがないか…!!)
甲高い声と共にぬっと出てきたのはガタイが良い男だった。
その男からは想像できない甲高くソプラノのような声が発せられ、アスカがもしも記憶を取り戻さず初見ならば笑っていただろう。
残念な事にアスカはピーカに慣れていて笑う事はなかった。
ピーカはイシイシの実の能力者で、石に覆われているこの王宮は彼の体の一部でもある。
城下町も石づくりだから彼がここにいてもすぐさま街にも手が出せるという余裕からドフラミンゴはわざとピーカを王宮に置いていったのだろう。
それさえ考えもせず逃げていたアスカは自分の失態に顔を歪めた。
「ピーカ!そこどいてよ!!」
『駄目だ…ドフィからお前は眠っているから騒いでる奴は始末しておけと言われて見に来てみれば……その騒ぎをお前が起こすとはな……お転婆は成長しても治らなかったみたいだな、リサ』
「煩いな…!いいからどいて!!今あんたに構ってる暇ないの!!」
『やれやれ…ドフィから離れて口が悪くなったんじゃないか?これじゃ教育し直すのも大変だ…』
アスカはため息交じりのピーカの言葉に『べっ』と舌を出し『余計なお世話!!』と憎まれ口をたたく。
昔から見てきたピーカからしたらアスカの抵抗など反抗期だとしか捕らえておらず、アスカは前がピーカに塞がれているのならと来た道を戻るが後ろへ逃げようと背を向けた。
だが…
「ッ!!―――ピーカ!!」
後ろもピ−カによって塞がれてしまう。
廊下の床から突然壁が現れたのだ。
アスカは逃げ道も塞ぐピーカをギロリと睨む。
だがピーカは涼しい顔をしアスカを見下ろしていた。
『部屋に戻れ、リサ…今すぐ大人しく戻ってドフィの帰りを待つというのなら…逃げ出そうとしたことはドフィには黙っててやる』
「舐めないでよねピーカ!!私だって海賊なんだから…!!誰が敵の手に黙って落ちるっていうわけ!?いいからそこをどいて!!」
『敵じゃない…おれ達は
家族だろ?』
ピーカの最大の妥協でもあった。
しかしアスカは決してYESと言わず、更にはアスカの口から自分たちを『敵』だとも告げられた。
これにはピーカも呆れて物も言えなかった。
しかしピーカの『家族』という言葉にアスカはカッとなり頭に血を上らせた。
「―――ッ兄さんを殺しておいてよく言えるわね!!」
『…兄さん?』
「エイルマーよ!!私の兄さんをドフィが……ッ――ディアマンテが殺したんじゃない!!」
アスカは頭に血が上りギッとピーカを睨みつける。
アスカは記憶を思い出した。
全ての記憶を……そう、兄の死をも思い出したのだ。
兄、エイルマーは殺された。
ドフラミンゴに……ドフラミンゴの手下でもあったディアマンテに、兄は殺されたのだ。
あの時はドフラミンゴの腕の中にいたしまだ幼く兄の死がショックで気づかなかったが、記憶を取り戻し成長しその世界を知った今ならアスカは分かった。
兄であるエイルマーは海兵に殺されたと聞いた。
しかしそれは間違いで、騒動を利用しディアマンテがエイルマーを殺したのだ。
ピーカはエイルマーと聞いて首をかしげる。
『リサ、それは間違いだ』
「何が…間違いだっていうの…」
『エイルマーはリサの兄ではない』
「は!?」
ピーカの『間違いだ』という言葉にアスカは呆気にとられた。
ピーカの顔を見れば至極真面目な表情を浮かべ、嘘をついているわけでも揶揄っているわけでもなかった。
『どういうことだ』と問えばピーカから出た答えは…
『リサ、お前の兄は…―――ドフィ以外にいないだろう?』
耳を疑うような言葉だった。
それを聞いた瞬間アスカは頭の中で何かがキレる音を聞いた。
「ふざけるなァァァ!!!」
疑いもなくドフラミンゴを兄だと断言するピーカにアスカはキレた。
タン、とピーカが出した後ろの壁に手をやりアスカは『ラビットシャーク』を出す。
怒りで我を失いその代わり力を倍にして発揮しているからか先ほど即席で出した複数の『ラビットシャーク』と比べて一匹しか出現しておらず、しかしその大きさは数倍の巨大さを持っていた。
『ラビットシャーク』は壁や床、天井を泳いで潜り、ピーカに向かって鋭い歯を立てるように口を開ける。
しかし…シャークの口には命のない石しかいなかった。
その石はシャークの鋭い歯で真っ二つになり、ピーカの下半身しか残らなかった。
『なんだ、遊びたいのか?血の気の多いところはドフィに似ているな』
「ッ!!――私の兄はドフィじゃない!!エイルマーだ!!」
『お前の兄がエイルマー?……あの卑怯者がか?面白味もない冗談はよせ、リサ』
「ひ…きょう、もの…ですって…?あんた……兄さん、を…今!!卑怯者と言った!?」
その石がピーカの抜け殻なのを見てアスカは周りを見渡す。
すると本体であるピーカ本人が壁から現れ、アスカは咄嗟にピーカから距離を置く。
距離を置くと言ってもスペースは限られているためピーカとの距離は広まらない。
しかしアスカはピーカの言葉にピクリと反応し、ピーカはアスカの怒りなどよそに鼻で笑う。
『ドフィを裏切り妹を奪われてもコソコソとしっぽ巻いて逃げる事しかできない男を卑怯者と言わずしてなんと言うんだ?』
「兄さんは裏切っていない!!元々あんた達の海賊団に入ってもいなかった!!兄さんがドンキホーテファミリーの船医だったのは私を守ろうとしてくれたからだ!!私を守って逃げようとしてくれた兄さんが卑怯者なわけがない!!逃げる事は時として戦うよりも勇気のいる決断よ!!兄さんを馬鹿にするな!!」
『その勇気のいる決断をしても実行も出来ない馬鹿じゃないか…!いい加減目を覚ませ!リサ!』
「黙れェェェーーーッ!!!」
兄を卑怯者呼ばわりされたと思えば今度は馬鹿呼ばわりをするピーカにアスカはグッと拳を握り素手で床を叩き割る。
その亀裂はまっすぐピーカに向かって走り、ピーカの足場を崩す。
しかしここは石に囲まれた王宮…ピーカの逃げ道などいくらでもある。
またピーカは石の中に逃げ込み、ピーカの抜け殻だけが壊された。
それは一瞬の出来事だった。
「ぅ゙―――っ!!」
アスカは体勢を整える間もなく石と同化したピーカにあっという間に捕まってしまう。
頭に血が上り判断を誤ったアスカの負けだった。
アスカは暴れたが、抵抗も空しく壁に吸い込まれるように少しずつ石と同化していく。
『ドフィのところに連れていくまで大人しく石の中で反省していろ、リサ…』
「〜〜〜〜〜ッ」
『安心しろ…"たかが反抗期"なだけで殺しはしない…ドフィもお前の"反抗期"に暴言を許しくれるだろう』
ズズズ、と石の中に吸い込まれながらアスカはピーカの言葉を聞く。
人の怒りを『たかが反抗期』と呼ぶピーカにアスカは腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えた。
『今はゆっくり眠れ、リサ……全てドフィがよくしてくれる』
しかし、アスカはその声を聞いても何もできず…意識を失ってしまった。
『愛しい、ドフィの妹……―――"アレシアではない、ドフィの妹"…リサ…ゆっくりおやすみ』
その場には、ピーカの声しか響かず…静まり返るいつもの王宮へと戻った。
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