ドサリ、とドフラミンゴは手土産をハートのイスに放り出した。
電伝虫から映し出される画面を見つめながらドフラミンゴはクツクツと笑う。
「フッフッフッフッフッ!観たか!今のを!運の強い女だな、"お前の孫"は!――しかし…まさか孫と揃って会場出場とは…なァ!リク王!!」
ドフラミンゴが先ほどから見ていたのはこの国で行われているコロシアムの闘い。
すでに最終のDブロックの終わりを告げる鐘が鳴っていたが、それよりもドフラミンゴの興味を誘うのはメンツよりも勝ち進んだ人物だった。
ドフラミンゴは笑いながら振り返る。
そこにいたのは一人の老人。
その姿はコロシアムの人物たちと同じく薄着に僅かな防具のみ。
その体は傷だらけで怪我を負っていた。
その人物こそ、ドフラミンゴが追い出したと言われる暴君と化した前王…リク王だった。
リク王はドフラミンゴの言葉に無言で返す。
「元国王が"悪魔の実"を欲するとは…ずいぶん追い込まれたな…今日はお前の一族の行動が目に余る…ヴァイオレットにしてもそうだ!今日はなんの記念日だ?」
「貴様が今朝とった行動はこの国の全てを諦めるのに余りある事件だった!!…それだけだ」
「フフフッ!"お前は"そうか…――だが"ヴィオラ"は違う…!!あいつは計算高い女だ…!"賭け"に出たのさ!!――このおれに楯突いてきた期待の新人"七武海"!トラファルガー・ローと凶悪な血筋を持つ二年前の"時の男"モンキー・D・ルフィの『海賊同盟』におれが破れることを望んでやがる!!」
そう言ってドフラミンゴはさきほどの手土産を見やる。
その手土産とはローだった。
ローはシーザーを引き渡す手筈だったが、ドフラミンゴの報道が嘘だと知りやり合った。
しかし結果は見ての通り惨敗。
血を流しボロボロとなっているローを海楼石で繋げ、ドフラミンゴは嫌みを込めてハートのイスにローを座らせた。
すでに気を失ているため大人しく座るローにドフラミンゴは笑みを深める。
「だが…ローはすでにこの通り…!"麦わらのルフィ"はもう『コロシアム』から"人間として"出てくることはない!!」
クツクツとドフラミンゴは笑った。
今、麦わら達の動きといえば、フランキーが1人『オモチャの家』を襲撃していところだけだろうか。
しかし、その『オモチャの家』にも幹部を配置しているため敵うわけがないと思っている。
そして、残るはゾロ、錦えもん、ロビン、ウソップの4人。
彼らの狙いは大体読めていた。
『オモチャの家』、『王宮の玄関』のこの二か所以外に彼らの狙いの『工場』への入り口はない。
そこでも幹部達が配置されているのだ。
そう簡単に抜けられるわけがなかった。
『ドフィ』
「ん?どうした、ピーカ」
ローを見下ろしていると不意にピーカに呼ばれ、ドフラミンゴは声のする方へと振り返る。
ピーカはリク王のそばの壁から顔だけを覗かせ地面から少女を出現させる。
(この少女は…確か麦わら海賊団の副船長…?なぜここに…?)
リク王はそばに現れた少女…今は気を失っているアスカの顔に見覚えがあった。
そう、それは手配書だった。
身を隠しながら生活していても話題に上がる人物の顔や名前は知っており、話題のルーキーである一味の副船長の顔も当然知っていた。
船長共々孫娘と変わらない少年少女なのに海賊として億越えをしていると印象深かったという事もあって覚えていたのだ。
ドフラミンゴは寝室で寝ているはずのアスカの姿に目を丸くさせ駆け寄る。
「リサ!?寝室で眠っているはずだが……ピーカ!一体どうした…!」
ドフラミンゴはアスカをそっと抱き上げる。
その慌てようも相まってリク王はドフラミンゴの様子の可笑しさに怪訝としていた。
しかしドフラミンゴはリク王の様子など気にも留めず、ピーカに状況を聞く。
『逃げ出そうとしたから捕まえた』
「逃げ出そうとしていた?リサがか?そんな馬鹿な…」
『リサはエイルマーの死でおれ達に反発感情が生まれているらしい』
「エイルマー…!!またあいつか…!」
『きっと目を覚ませばまた暴言を吐くだろう…だがドフィ…リサを許してやってくれ…』
「ああ、分かっているさ…リサの本心ではないってことはな…記憶を取り戻したばかりなんだ…本人も混乱しているんだろう……すまなかったな、ピーカ…駄々を捏ねたリサの相手は骨が折れただろう」
『なに、可愛い妹のほんのちょっとした愛らしい反抗期だ…なんともないさ』
「そう言ってくれるとありがたい」
寝室で眠っているはずのアスカが逃げ出そうとしていた事にドフラミンゴは驚いていた。
アスカのあの態度から記憶を取り戻しまた昔の様に傍にいてくれると思っていたのだから余計に。
ドフラミンゴはピーカが能力で作り出した石の長椅子にアスカを寝かせ、アスカに膝枕をしてやりながらアスカの反発を反抗期として許してくれた家族に心からのお礼を告げる。
「…っ」
「ああ、起きたか、リサ」
「――――っ!!」
暫くドフラミンゴはアスカの髪を梳くように撫でていたが、アスカの閉じられている瞼が震え、ゆっくりと目を開ける。
その気配に気づいたドフラミンゴが声をかければ、アスカはドフラミンゴの声にハッとさせ起き上がった。
「ドフィ…っ!!」
「フフフッ!!ピーカから聞いたぞ、リサ…お転婆もいいが、あまりあいつを困らせてやるな」
「…ッ」
長椅子に座った状態でアスカは目を丸くし後ずさる。
そんなアスカにドフラミンゴは座ったまま目を細め微笑みそっとアスカに向けててを伸ばし、アスカの紫色の髪を一房梳くように掬い上げ、滑るように降ろし、アスカの頬を指の背で撫でる。
アスカはそのドフラミンゴの手をパシンと振り払う。
「リサ?どうした?」
「…あんた達が…した、行い、は…絶対に許さない…!」
「行い?」
アスカの態度にドフラミンゴは目を見張った。
寝室の時は大人しかったアスカが、昔から慕ってくれていたリサが…初めて自分に反抗したのだ。
アスカでなければその時点でドフラミンゴは暴力の一つや二つくらいは食らわせてやり身の程を知らせただろうが…相手はリサ。
妹と可愛がっている少女である。
そんな少女にドフラミンゴが無体などするわけがない。
『行い』と言われても身に覚えのないドフラミンゴは首を傾げる。
それがアスカにはわざとらしく見えたのかカッとなった。
「忘れたとは言わせない!!あんたは私の兄さんを殺した!!!」
「………兄さん、だと?」
ドフラミンゴはアスカの言葉にピクリと反応する。
兄、と言われて思い出すのは忌々しい男の顔。
既にこの世にいない男を思い出しドフラミンゴも苛立っていた。
『リサ』と名を呼び、石の長椅子の隅へと後ずさったままのアスカにドフラミンゴは迫るように近づく。
片腕を背もたれに掛け、もう片方の手をアスカの背にあるひじ掛けへと伸ばしアスカを腕の中に閉じ込める。
アスカはドフラミンゴに迫られ一気に緊張が走った。
アスカとドフラミンゴの実力差など試すことしなくても分かり切っていた。
だからアスカは今…一種の緊張状態になっていた。
声を低くするドフラミンゴにアスカは必死に我慢しているが、内心ビクリと肩を揺らし怯えていた。
幼い頃から溺愛されてはいたが、彼の恐ろしさは傍にいたからこそ記憶を失っても体が覚えているものだった。
しかし記憶を取り戻した今…アスカは決して怯えを見せるわけにもいかず震えそうな声を隠そうと顎を引いてドフラミンゴを睨んで必死に耐える。
「っ……エ、イルマー……それが私の兄さんの名前…」
「…違う」
「エイルマーは私を守ろうとして…私をリサと名乗らせた…リサは実在しない…」
「……違う」
「エイルマーは…ッ兄さんは私を守ろうとしてドフィ達に殺された!!兄さんが守ってくれたから今の私がある!!!」
「違う!!!」
「――ッ!!」
アスカの叫びにドフラミンゴが声を上げた。
その瞬間その場にいる者たちの体に威圧感が襲い、ピーカは幹部なため平気であり、ローは元々気絶しているが、リク王は気絶しかけた。
それは覇王色の覇気。
ドフラミンゴは覇王色の覇気の持ち主でもあった。
覇王色の覇気にアスカも耐えれるほどの力の持ち主だが、アスカは覇王色の覇気よりも、この怒りを表すような体を刺すチリチリとした痛みに顔を強張らせた。
アスカがビクリと肩を揺らし怯えたのも気にもせずドフラミンゴは声を上げる。
「お前の兄がエイルマー!?何をふざけたことを…!!あいつはお前を連れて逃げ出そうとしたんだぞ!!お前はおれの妹だというのにだ…!!」
「ッ、私は…!ドフィの妹じゃない!!!私はアレシアの代わりじゃない!!」
「当たり前だ!!アレシアはアレシア!お前はお前だ!!…お前が…リサであろうと…!アスカであろうと…!!この際どうでもいい…!!名前なんてどうでもいい!!お前がお前でいてさえすれば名前など小さな問題だ…!!だが…お前の兄はあの腰抜けじゃねェ!!おれだ!!!」
「兄さんは腰抜けじゃない!!私を守って、―――ッ!」
パシン、と乾いた音がスートの間に届く。
その音はドフラミンゴがアスカの頬を叩いた音であり、ドフラミンゴが初めてアスカに手を挙げた音でもあった。
アスカは叩かれ目を丸くして唖然としていた。
ピーカでさえまさかドフラミンゴが溺愛しているリサに手を出すとは思っていなかったのか言葉を失いアスカ同様目を丸くして驚いていた。
静まり返るなか、言い争いで荒くなったドフラミンゴの息だけが響く。
「おれの前で…あの腑抜けを兄と呼ぶな…!!」
「…ッ」
「あいつは…おれからお前を奪おうとしただけでなく…!!あの騒ぎに乗じてお前と逃げようとしやがった…!!ファミリーをおれの許可なく抜けようとした奴だぞ!!それを制裁して何が悪い!!」
「兄さんは―――ッ」
また、パシン、と乾いた音が響いた。
またアスカはドフラミンゴに叩かれたのだ。
ジンジンと痛む頬に、ドフラミンゴから放たれる覇王色の覇気…アスカとドフラミンゴ以外凍り付いたように息を飲んでいた。
「だから…おれァ、言ったよなァ…リサ…!あの男を兄と呼ぶなと!!」
「―――ッだって兄さんは兄さんじゃない!!兄さんはドフィから守ってくれた!!でも…ドフィは…私から兄さんを奪った…ッ!!それでどうしてドフィを兄と呼べるの…!!」
「あいつはお前を守ろうと足掻こうが結局お前を守り切れなかった野郎だろうが!!おれに傷一つもつけようともせず歯向かうこともせずあいつは背を向けておれから逃げる選択をしたマヌケだろうが!!逃げようとする奴など兄と呼ばねェんだよ!!」
「―――ッ」
また、ドフラミンゴは手を上げる。
それにアスカはまた叩かれるかと思い目をギュッと瞑り頭を庇う仕草を見せた。
それは自己防衛であり、無意識な物だったのだが…ドフラミンゴはその姿にハッと我に返る。
「…っ」
そして、自分が感情に任せアスカにした仕打ちを思い出した。
ドフラミンゴは怯えるアスカに上げていた手をそっと伸ばす。
アスカはドフラミンゴの気配にビクリと体を揺らし、その反応がまたドフラミンゴは自分のしでかした失敗を自覚することになりアスカに触れるのをためらう。
だが、体を震わせるアスカをドフラミンゴは怖がらせないようにそっと頬へ手を伸ばし顔を上げる。
頬は少し赤くなっており、それがまた痛々しく見えた。
「ピーカ…リサを部屋に閉じ込めておけ…決して逃がすなよ」
椅子から退いたドフラミンゴは控えていたピーカにアスカを部屋に閉じ込めるよう命じた。
アスカはそれを聞いて椅子から降りようとしたがドフラミンゴが能力で動きを奪い、その隙にピーカは再び石にアスカを吸い込ませる。
アスカは抵抗も空しくその場に消えた。
その場にはドフラミンゴは胸糞が悪くなり舌打ちの音だけが大きく響いていた。
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