(164 / 274) ラビットガール2 (164)

石に入り込んでいる間息ができない。
暫くしアスカは水から浮き上がるように床から現れた。
やっと石から出てこれたアスカは『ぷはっ』と止めていた息を吐き出し息を荒くしながら呼吸を整える。


「…ここは…さっきの部屋…?」


蹲り息を整えながらアスカは辺りを見渡す。
どうやらアスカは最初に運ばれたドフラミンゴの…国王の寝室に戻ってきたらしい。
戻ってきてしまったことに苛立ちはあるが、アスカは息を整えた後座り込み部屋を改めて見渡した。


「窓…」


見渡せば窓があることに気付く。
部屋だし国王の窓だからあるのは当たり前なのだが、アスカは立ち上がって窓へ歩み寄って開ける。


「うわ…高…」


窓から下を覗けば街の家なんて米粒のような大きさしかなかった。
そこからここの部屋の高さを伺える。
だが、アスカは『ラビット・マットならいける…ような気もしない…』と呟きウサギを取り出そうとした。
しかしこの高さでも流石にラビット・マットでも死ぬなと思いなおしアスカは窓を閉める。
と、なると…逃げ道と言えば出入り口しかなく…扉に向かいドアノブに手をかけ捻れば…まあ、当然、カギがかかっていた。
そこでアスカはグッと拳を握りドアを壊そうと試みた。
が…


「んな…っ!!」


アスカの拳がドアに届くその瞬間、上から壁が現れ、ドアの代わりに衝撃を受け崩壊し、新たな壁がまた作られた。
勿論、そんな事が出来る人物と言えば…


「ピーカ…」


イシイシの能力者以外ありえない。
覇気を使っていなかったからとも思われるが、どうせ覇気を使おうがピーカも覇気を纏い対抗するに違いなく…アスカはドアを破壊するのは諦めた。
そして壁へと標的を変える。
が、やはり壁も同じ結果である。


(床も同じかな…)


次は床を標的にする。
アスカは立っているその場の床に向かって素手で床を叩き割った。
今度はピーカに邪魔されず、アスカは下に降りれると重力に向かって落ちていくのを感じながら喜んだ―――のもつかの間………ピーカの能力によって液状となった石に着地どころか体が部屋から落ちる前に押されて元の部屋へと持ってしまう。


「………」


アスカは元の部屋に戻った事に苛立ちを覚えた。
何をやってもピーカに邪魔されてしまうとやっと理解したアスカはむすっとした顔のまま怒りを表すように音を立ててベッドまで歩き、その上にドスンと座る。


「もう逃げないから瓦礫片付けて!!」


アスカは顔を上げて監視しているであろうピーカにそう告げる。
その言葉を信じたのかアスカの破壊行動の末出来た瓦礫が氷が解けるように消えていき、いつもの掃除が行き届いている王の寝室へと戻る。
アスカはそれを見送るとベッドに体を横たわる。
見えるのは天井。
でも、アスカの目には違う物が見えていた。
それは、兄、エイルマーの顔。
記憶を失っていた頃は夢でしか会えなかった彼だが、今は目を瞑っても会える。
最後にエイルマーと話したのは…10年以上も前…まだアスカが少女とも呼べぬ年齢の頃。
記憶を取り戻した今、その最後の彼の姿をアスカはまだ覚えていた。
アスカが見た最後の姿は…兄の後姿。
待つように言われて待っていたらドフラミンゴが来て海兵に襲撃を受けたからと船に戻ったのだ。
そして兄を迎えに行ったディアマンテがエイルマーが海兵に殺されたという知らせを受け、アスカは兄の死を知った。
その後の事は曖昧だった。
どうしてドフラミンゴから離れたのかも、そしてどうして森の中にいたのかも、アスカには分からなかった。
アスカは目を瞑り、とりあえず今の現状を把握しようとする。


「王宮にいるのは…誰だろう…ピーカとドフィは確実だけど……あの時のままだったら…ベビー5、バッファロー、グラディウス、ディアマンテ、トレーボル、ラオG、ジョーラ、マッハバイス、セニョールピンク、まだ赤ん坊だったけどデリンジャー……そして…コラさん…そうだ…コラさん…!コラさんがいる!!コラさんだったら頼めば助けてくれるかも…!」


あの当時いた幹部達を思い出し、ある人物を思い浮かべ、ガバリとベッドから起き上がる。
ピーカとパンクハザードで会ったベビー5とバッファローとヴェルゴは今の顔を思い出せるが、それ以外の幹部達の顔は以前のまま。
そしてアスカは最後に…コラソンの顔を思い浮かべた。
コラソン……ドフラミンゴの実弟。
昔自分と同じく血の掟に当てはまっていたのが彼だった。
しかしコラソンというのはコードネームのようなモノ…だと昔聞いたことがあるのだが、本名はドフラミンゴから聞いて知っている。
だが、言い慣れているのはコードネームのコラソンという名前なため、自然とアスカはロシナンテではなくコラソンと言ってしまう。
そこはローと同じだろう。
あの心優しいコラソンなら、助けてくれるかもしれない…そう思ったアスカだったが、不意にローの言葉を思い出した。
それはエースを失ったばかりの頃…


『……おれも…大切な人を亡くしたことがある…それも二人だ』


という、ローの言葉。
その後にローは『一人は命の恩人』、『もう一人は恩師』だとも言っていた。
あのファミリーの中で唯一の医師だった兄にローは勉強を教えられていたのを思い出したため、恩師というのは兄エイルマーのことだろう。
そして…ローの命の恩人…


「ローの…命の恩人って……コラさん…?じゃあ……コラさん、は…しん、だ?」


ここに来る途中、記憶を取り戻すなと言われた時、自分の事さえも思い出さないでくれと言われ、その中に兄もおり、そして…ローは『コラさん』の名も出していた。
その口ぶりからしてアスカはもしかしたら…と予想した。
だが命の恩人だからと言ってその人が死んだというのは無理矢理な感じはする。
しかし、思い出してみればローは二年前に傷の手当てをしてくれた時言ったのだ…―――『大切な人を亡くしたことがある』と。
その人は恩師と命の恩人と言っていた。
それでもアスカがコラソン=死亡と考えるのは無理矢理である。
その理由は…


「でも…待って……だって…コラさんって…子供が、嫌いだったんじゃ…それにローもコラさんの事嫌ってたし……」


あの時、ローも子供だった頃…コラソンとローは犬猿の仲だったのだ。
コラソンは子供嫌いで、アスカ以外の子供に対して暴力を振って追い返していた。
ベビー5やバッファローはそれに耐え、不思議と彼に懐いてもいたのだが…世界を憎んでいた頃のローは邪険に扱うコラソンを特に嫌っていた覚えがあった。
それが…そんなローが…コラソンを命の恩人と呼ぶだろうか?
兄、エイルマーなら分かる。
あの頃ローに医学を教えていたのは現役の医師でもあったエイルマーだった。
二年足らずだが、兄とローの関係は師弟でもあったのだ。
その兄に対してのローの『恩師』というのは分かる。
だが、どう考えても…アスカが覚えている限りローとコラソンは結びつかなかった。


「じゃあ…コラさんは死んでなくて、今もドフィの傍にいて………でも……ローは『コラさん』って呼んでた…あの時は『コラソン』とか『お前』とかだったのに…」


アスカの思い出した記憶の中のローとコラソン、そして今現在のローのコラソンへの態度…考えれば考えるほど分からなかった。
そもそも不意に思いついただけで本当にローの命の恩人がコラソンだという証拠もない。
堂々巡りの考えにアスカは再びベッドに座り直す。


「リサ」

「…!」


暫くするとドフラミンゴが帰ってきた。
ハッとさせ扉へと顔を上げればそこにはドフラミンゴは勿論、護衛にグラディウスとピーカがいた。
ドフラミンゴはいつもの笑みが消えており、ベッドに座るアスカに歩み寄ってきていた。
その後ろにはグラディウスとピーカが続いて部屋に入る。


「リサ、頬を見せてくれ」

「……」


歩み寄ってきていたドフラミンゴの手をアスカは咄嗟に立ち上がって避ける。
大げさに避けたのではなく、数歩足を後ろへ下げただけだが、先ほどアスカを叩いてしまったというのもあって流石にドフラミンゴは怒りや訝しむよりも罪悪感が強いのか、差し出した手を止め引っ込める。
警戒をしているようにじっと見つめるアスカを見てドフラミンゴはこれ以上一歩も近づくことはなかった。


「リサ…叩いてしまってすまなかった…怒っている…よな…」

「………」

「もし…許してくれるのなら…頬を見せてくれ…」

「………」


アスカは一歩も近づかないドフラミンゴの言葉にグッと言葉を呑み込んだ。
言いたいことは沢山ある。
しかしそれは恐らく先ほどと同じく堂々巡りのやりとりになってしまうだろう。
だからアスカは何も言えなかった。
既に痛みは消えているのだが、先ほどの事を思い出せば今でもなお頬がジンジンと痛むような気がして、アスカは今はまだドフラミンゴと言葉を交わしたくはなかった。
だが、弱弱しいドフラミンゴの声にアスカは思わずドフラミンゴに歩み寄ってきてしまう。
アスカが歩み寄ってきてくれた事にドフラミンゴはホッとさせる。
アスカは上目遣いでおずおずと言った様子だが、それでも許してくれたような気がした。
ドフラミンゴは怖がらせないようにアスカへ手を伸ばす。


「…よかった…赤くなっていない…腫れてもいないな…」

「………」


叩いた部分を触れないようそっと顎へ指をかけアスカの顔を上げさせる。
ちゃんと痛まないようにしてくれたおかげで見上げた時首が痛むことはなかった。
アスカの褐色の肌が赤くなり腫れていないのを確認しドフラミンゴはあからさまにホッと安堵の息をつく。

164 / 274
| top | back |
しおりを挟む