ウソップは下準備をしようと持ってきたモノを坂に流し込む。
「よし完璧だ!これで奴らはもうこの坂道を登れない!!ここに敷き詰められた大量の油によってな!」
ウソップが仕掛けたのは大量の油だった。
正直こんなのに引っかかってくれる海賊なのかは不安ではあるが、坂だけの一本道なら効果はありそうである。
そうしている間に太陽が海から顔を出し、ナミやウソップの緊張が更に高まっていった。
だが…
「………来ねェな…朝なのに……」
「寝坊でもしてんじゃねェのか」
「まさか…あんたじゃあるまいに」
日の出となり、襲ってくるであろう海賊を待てども海に船の影は一隻も見当たらなかった。
それも漁船や客船ですら。
中々来ない海賊達にルフィがポツリと呟き、ゾロが付け加え、そんなゾロにアスカが突っ込んだ。
暇を持て余しついに朝日は完全に海から姿を出してしまう。
「……あのさ…気のせいかしら……北の方で『オー』って声が聞こえるの…」
「き、北!?」
無言が続き波の音だけが耳に届く中、ナミが重い口を開く。
ナミは北の方へ耳を傾け、何やら声が聞こえると言い始めた。
アスカ達はナミの言葉に首を傾げていたが、唯一5人の中でこの島の地理を知っているウソップは『北』と聞いてハッとさせた。
村に続く道はここ以外にもあったらしい。
ここで海賊2人が密会していたことあって、この入口から来るとばかり思っていたせいで北の道は忘れてしまっていたらしい。
「急ごう!村に入っちまうぞ!!どこだそれ!」
「ここからまっすぐ北へ向かって走れば3分で着く!!地形はここと変わらねェから坂道で食い止められりゃいいんだが!」
海賊の奇襲を全て嘘にすると決めたのだからこのまま見過ごすことはできず、ルフィはその北の入り口の道を聞いた。
ナミはその説明を聞きハッと気づく。
「まずい…っ!北の海岸って言ったら私達の船がある場所だ!船の宝が取られちゃうっ!!」
北、と言えばそこにはルフィ達の船があり、そして無防備にもバギーから奪った財宝が置いてあった。
財宝が自分の身よりも大切なナミからしたら一大事である。
道筋を教えてもらったルフィは3分で着くらしい道を20秒で行くと言い出し、一目散に向かっていった。
走り出した幼馴染にアスカはある事に気付きルフィを止めようとするが…
「ルフィ!!ちょっと待っ―――」
ルフィは実は方向音痴ではないが、北や南と言って分かる人間ではない。
とりあえずウソップからの説明に北=まっすぐという認識が生まれてしまったことは確かである。
そして北とは寒いところという認識からきっと別方向へと走っていっただろう。
アスカはそれを防ごうとルフィに振り返り追おうとした。
だが…
「―――え。」
一歩足を踏み出し走ろうとしたその時…アスカは後ろから誰かに服を掴まれてしまう。
更には油まみれの地面に足を踏み入れてしまったのかツルッと滑ってしまった。
振り返れば自分の服を握っているのはゾロだった。
「手ェ離せバカ!!」
「あ、ごめん」
「ゾロー!!あんたこそ手を離せ!!!」
「あ、わりぃ」
ゾロもまた滑りそうになったナミに服を掴まれてしまい、こける寸前目の前にあったアスカの服を掴んだのだろう。
ナミに手を放せという前に己が手を放せ!とアスカが叫んだがナミ同様謝るだけである。
ナミはアスカに謝るゾロの隙を突き、ゾロの上に乗って油まみれの坂から脱出した。
「悪いっ!宝が危ないの!!なんとかはい上がって!!」
「あの女殺す!!」
「私はお前を殺したい!!!」
ナミは自分曰く"アリ地獄"から脱出に成功し、そしてゾロに謝る事は謝るが…それが立派な謝罪になっているかは分からない。
恨みつらみが籠ったゾロの呟きにアスカもゾロに向かって恨みつらみを叫んだ。
『ゾロのせいで私まで油まみれなんだからね!!!』とアスカは声を上げ、ゾロは『あ、すまん』とだけ返した。
それにカチンときたアスカは本気ではないが油まみれの手で油まみれのゾロの頭を叩く。
そうこうしている間に海賊達は船を下りて坂を上がろうとする。
「ぎゃーっはっはっはっはっは!!!暴れてやるぜ!!」
暴れる気満々の海賊達は誰もいない坂を上がって村を襲いに向かおうとした。
だが何人かが何者かの攻撃で倒れてしまい、仲間の海賊は立ち止まる。
「坂の上に誰かいるぞ!!」
海賊の一人が人影を見つけ、その声で全員坂を見上げた。
その坂の上を見るとウソップが立っていた。
(な、何だ…おれが一番乗りか!?…あいつ、おれより先に突っ走ってったハズなのに…!)
ウソップはルフィがいると思い乗り込んできた。
あの中でルフィとゾロが一番強そうで、ゾロはナミによって阻まれたが先に走っていったルフィはいるであろうと安心して北にあるこの坂へと向かったのだ。
だが案の定アスカが危惧した通り、ルフィは北に正しく向かう事が出来ず迷っていた。
(おいおいおいおい!!マジかよ!あいつら!!こんな時に役に立たねェなァおい…ッ!!!)
憎まれ口を叩くも、それは仕方のない事である。
ウソップは本来本当の戦いも知らない村人であったはずなのだ。
それに性格もあるが、その腕前からして援護を得意とする後衛にいる立場であるのだ。
泣き言を言うのも無理はなかった。
その頃、見捨てられた可哀想なアスカとゾロは…
「ゼェ…!!ゼェ…!!畜生!ナミのヤロー許さねェ…!!」
「……がんばれ」
まだ坂にいた。
ゾロは必死に油まみれの坂を上ろうと足を動かすも先ほどから1ミリも動いてないどころか何度も滑ってはアスカのいる場所へと戻っていた。
それでも負けじと油まみれの坂を上ろうとするのだから偉い者である。
そういうアスカはというと…全くやり気がそがれてしまい、心篭っていない声でゾロを応援をしていた。
「こんな油の坂くらい…!!!」
いつまでも足で坂を上っていたゾロはやはり今回もアスカの隣へと滑って着地する。
ゼーハーゼーハーと息を荒くし倒れている体を起こしかけた時、ゾロはある物を目に止め、ハッと気づく。
気づいたゾロが取り出したのは…二本の刀だった。
その己の腰に差していた刀を使い、ゾロは上へあがっていけるのではないかと思いそれを実行した。
そして…
「おっしゃ抜けたァ!!!……北の海岸ってのはどっちだ!!」
「ゾロー!北はあっちー!」
「そうか!!!」
ゾロもどうやら方向音痴らしい。
すでに上る気力すらないアスカは指さして北を教え、『そこから真っ直ぐだからァーー!!』と念押しし、ゾロから元気な声で返された。
元気に返されるというのは若干不安要素があるが、本人に聞こえて納得したのならいいかと…本音的にこれ以上案内は出来ないとアスカはその場に座り込む。
46 / 293
← | top | back | →
しおりを挟む