アスカは考えた。
どうしたら坂を上れるのか、と。
一番の有力な方法は海で油を落とし崖を能力で飛んで上ることなのだが…忘れてはいけない事が一つある。
アスカは海楼石に弱いという事をみなさま覚えているだろうか…それと同じように、海にも弱いのだ。
海に入れば海楼石同様力が抜けるだけではなく気も失ってしまう。
あの幼い頃自殺しようとしたときに見た海の中は綺麗で忘れられない記憶ではあるが、だからと言って海が好きになるわけもなく…アスカは海で油を取る案を捨てた。
能力を使って崖を上る事も試したが…全身油まみれなアスカは崖に上ろうとしても滑って落ちてしまい、諦めた。
しかし、ふ、とアスカは油を敷いてある坂の方を見た。
「あれ…飛び越えれそう…」
浮かんだ案全て試したが油と言う壁は意外と厚い。
上ろうとすれば滑り、着地すれば滑る。
飛び越えようという案も正直成功率は低いだろう。
だが、こうしている間に海賊達は続々と村へ向かっているかもしれないのだ。
「まあ…やってみよう。」
待っている事に飽きたアスカは出来る限りの手を尽くし早く脱出したいと思っていた。
油が太陽の光でキラキラと光っているその光景はまあ綺麗なのだろうが、油は油。
油の役目を果たしてこその物である。
…なんか言っている意味が分からないが、アスカはとりあえずチャレンジを初めた。
足をウサギ化し、体を低くする。
そしてタイミングを計り高く飛んだ。
勢いよく飛んだアスカは予定通り油を通り越し着地したのだが…
「え゙…」
これまた予想通り、油で滑ってしまった。
更には滑って転んだ下にはナミとゾロが通った際油が垂れ、敷いてある油につながっていたため、そのまま否応なしにアスカは気持ちいいほどスタート時点に戻ってしまう。
「…………」
アスカは仰向けのまま滑り、砂がブレーキ替わりとなり海ギリギリに止まる。
青々と広がる空をアスカは親の仇かと思うほどこれでもかと睨む。
一方、戦況は予定していたより悪化していた。
坂で海賊達の引き留めには成功したが、次々とアクシデントが起こっていた。
まだ村が襲われるという事態にはなっていないが、それも時間の問題だろう。
ついにあの執事まで出てきてしまい、海賊の現キャプテンである変な男…ジャンゴがクラハドールを止めに来て逃げたカヤを追いかけに森へと入っていったのだ。
結局カヤは捕まってしまい、ジャンゴはカヤを殺すでもなく、遺書を書かせるため奮闘していた。
「目を開けねェか!小娘!!」
「いやです。」
子供を催眠術で眠らせ、あとはカヤに催眠術を掛け遺書を書かせればそれで終わる。
しかし、カヤは目を瞑り頑なに拒んだ。
「あなたの催眠にはかからないわ。遺書なんて書きません」
「ならば力ずくで目ん玉開かせて――グフッ!!」
「…!!」
催眠術は見ないとかからない。
だからカヤは目を瞑っていたが、ジャンゴは力づくでカヤの目を開けさせようとする。
それでもカヤも村の人達の命がかかっているから力いっぱい目を瞑る。
病弱な少女と海賊の男…やはり力の差は歴然としており、強い意志を持っているが、か弱い少女では男の手にはかなわず、目が少しずつ開けられそうになっていった。
だが、あと少しというところでジャンゴの頭上に白い物が降って落ちてきた。
それがジャンゴの頭上に直撃し、痛みに耐える暇なく次は横顔に衝撃が走りジャンゴは吹き飛んでしまう。
「ま、間に合った…」
「あなたは…」
突然の事で何が起こったのか分からないカヤは唖然としており、口を開けて呆気に取られていた。
そのカヤの目の前に何かが降り立ち、カヤは吹き飛ばされたジャンゴからその降り立ったものへと見る。
その降り立ったものとは、アスカだった。
屋敷で見たことがある少女の姿にカヤは目を丸くする。
―――あれからアスカは何度も油を飛び越えようとチャレンジをしたが、飛ぶ距離が足りないのか何度も滑っては戻り、滑っては戻りを繰り返していた。
しかし何度目かの挑戦でウサギを犠牲にすればいいと気づき、着地地点にウサギを一匹出現させた。
そのウサギの背を思いっきり容赦なく踏み台にし、アスカは無事油のない地面へ着地することに成功したのだ。
そして北の坂に向かっている途中、カヤ達の姿を遠目で見つけ、ジャンゴが追っているのを見て坂よりもそちらへ向かったのだ。
ジャンゴの頭上に振って落ちて来たものとはアスカの移動するためウサギ化した足をそのままの勢いで踵落とししたものであり、横顔の衝撃は続けざまのアスカの回し蹴りである。
アスカの足はすでに解除していたため、この子供の女の子がジャンゴを蹴ったのが信じられず、まだカヤは驚いた表情を浮かべていた。
「貴様!!よくも…!!」
唖然としたままのカヤを立たせようとアスカがカヤに手を伸ばしたその時、焦って蹴りが甘かったのかジャンゴは復活してしまった。
だがジャンゴはアスカとカヤにばかり気にしていたためか背後からの子供達の襲撃に気づいていなかった。
後ろから子供が3人も顔にぶら下がるように捕まっていたためジャンゴはアスカとカヤを捕まえる事が出来ずそのまま後ろへ倒れてしまった。
更に、全男共通の弱点である股間を子供の一人にバットで殴られてしまったためしばらくは立ち上がれなかった。
100%海賊であり村を襲おうとしているこの男の自業自得だが…若干、アスカはそれに関しては同情してしまう。
だが、悶えるジャンゴから逃げるには今しかなく、アスカはカヤの手を引き子供達に声をかけ森の中へと逃げた。
子供達は森へと逃げ、作戦があると言ってアスカから離れて木の上へと上る。
それを止めようとしても遅く、股間を抑えながらというかっこ悪いポーズでだがまたしても復活したジャンゴの姿にアスカは木の上ならそうそう見つからないだろうと思いカヤを連れて隠れるところを探した。
だが、アスカは子供と言う生き物をよく知らな過ぎた。
木の上に子供が再びジャンゴを襲おうとしたのだ。
しかし…
「調子に乗るな!!!」
「うわああ!!」
本物海賊がそう簡単に騙せるわけがなく、子供は捕まってしまう。
アスカは捕まった子供の悲鳴に立ち止まりカヤを突き飛ばして草むらに隠れさせた。
「あの…っ!」
「あんたはそこにいて!!」
首を掴まれた子供をジャンゴにアスカは方向転換し子供達を助けに向かう。
草むらに突き飛ばされたカヤは慌てて体を起こすも背を向けるアスカに戸惑いながらも言われた通りに身を隠す。
「てめェらガキの海賊ごっこが少々立ち入りすぎたな…!!ホンモノの海賊の喧嘩に出しゃばっちまった愚かさをあの世でよォく…―――反省するがいい!!!」
子供相手に手加減をしていたジャンゴだったが、堪忍袋の緒が切れたのか子供を近くの木に向かって投げつけた。
小さな体を木に投げつけられぶつけようとしたのだが、それをアスカが木と子供の間に入り庇う。
「ぐっ…!」
「!―――お、お姉さん!!」
子供を庇いアスカは思いっきり背中を木で撃った。
その衝撃で一瞬息が詰まったが、すぐに子供を抱え直し背に庇う。
「おーおー、お優しいこって…」
子供を庇ったアスカを見下ろしながらジャンゴは心にもない感想を呟く。
しゃがんでいた体を立たせ、アスカはジャンゴに視線を固定させながらまだ木の上にいる子供達にも向けて声を上げた。
「………みんなカヤさんを連れて逃げて!!」
「でもお姉さん…!」
「いいから早くしなさい!今はカヤさんを守るのが大切でしょうが!!」
「…ッ!!」
子供達は本物の海賊という存在に怯えていた。
気丈にふるまってもまだ子供なのだ。
足を震わせる子供達に喝を入れるように叫ぶアスカの言葉に子供達の震えていた足がピタリと止まり、木に登っていた子供2人もするすると降りて来てカヤがいる草むらへと走っていった。
アスカが庇った子供も後ずさりした後仲間と共にカヤの元へとかけていった。
それを見送った後、アスカはジャンゴを睨むように目線を戻す。
「邪魔すんじゃねェ!」
「それはこっちのセリフ!!邪魔しないでくれる!?」
カヤに遺書を書かせ殺さなければ、あのクラハドールに自分が消されてしまう。
あの男は計画を台無しにされるのが一番嫌なのだ。
その為なら仲間だろうと平気で殺せる男である。
それは副船長だったジャンゴが一番良く知っており、それを避けるには目の前の子供を殺さなければならない。
1秒でも計画の綻びを作ってはならないのだ。
だからこそ、今のジャンゴは一筋縄にはいかないだろう。
――先に動いたのはアスカだった。
一瞬の動きでジャンゴとの間合いを縮め、手をウサギ化させて渾身の一発を腹に当てた。
子供とは言え能力で強化されたアスカの拳は大男も軽々と吹き飛ばす力があり、案の定ジャンゴは軽々と言わんばかりにまっすぐ吹き飛ばされた。
木々をもなぎ倒すアスカの力にジャンゴは気を失ったかと思ったが、そこはアスカより修羅場を潜り抜けてきた海賊…強化されたアスカの拳とは言えまだひよっこの拳に完全に気を失う事はなく、腹を押さえながら弱弱しくだが起き上がる。
それを見てアスカはまた拳を握り、地面を蹴って勢いよくジャンゴに向かって飛びかかろうとした。
それに気づいたジャンゴは己の武器であるチャクラムを2つアスカに向かって投げるが、アスカには避けられてしまう。
避けられてしまったジャンゴはぎょっとさせながらも慌ててその場から飛び退き、何とかアスカの拳から逃げ出す事に成功する。
だが、ジャンゴがいた場所はアスカの拳によって抉れてしまい、地面が粉々に粉砕しているのを見て、ジャンゴは避けなければどうなったかと思うと顔の血の気を引かせる。
「あいつ能力者かよ…!!あのちっちぇェ体であの力…!バケモンだなありゃァ!!」
しかし、逃げ出すという選択肢はない。
あのクラハドールの姿がちらついて逃げ出す事ができなかった。
しかたなく戻って来たチャクラムを一つ、アスカにまた向けて放つ。
当然真っ直ぐに飛んでくる武器にアスカは避けた。
だが、
「ぐ―――っ!!!」
顔を左へ傾けて避けたアスカは足を止めず再びジャンゴへ向かおうとした。
だが、ジャンゴの武器特有の甲高い音が背後から迫っているのをウサギの耳と本来の耳で気づき、アスカはハッとさせ後ろへ振り返ろうとした。
ジャンゴの武器は既に目の前まで迫ってきておりアスカは考えるよりも体を反らせ避けた。
しかし、ジャンゴの武器は1つではない。
アスカが一つの武器に気を取られている隙にもう一つのチャクラムを飛ばしてアスカの足首に傷をつけたのだ。
足をやられアスカは熱いほどの痛みに顔を歪ませる。
足を見ればジャンゴも焦っていたのだろう…深くはないかすり傷程度の傷だが、先ほどのように踏ん張って本来の力を半減させることには成功した。
「まったく…ちょこまかしやがって…」
足から血が出ているのを見てアスカは悔しげに顔を歪め、キッとジャンゴを睨む。
アスカは手足だけではなく、体全身をウサギ化させジャンゴをボコボコにしようと思った。
しかし…
「―――アスカ!!伏せろ!!」
「…!」
ゾロの声にアスカは咄嗟に屈んで伏せた。
アスカが伏せたのと同時に――…
「くらえ!!催眠術師!!」
ウソップの叫び声がアスカの耳に届いた。
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