(167 / 274) ラビットガール2 (167)

ドフラミンゴは傍に置いてあったベッドへアスカを寝かせた。
ゆっくりと、宝物を扱うようにアスカをベッドの上に仰向けで寝かせ、髪の毛を撫でるように整えてやる。


「ルイーズ」

「ッ、は、はい!」


ベッドの脇に座りアスカを見つめながらドフラミンゴは傍に突っ立っているだけしかできなかったルイーズを呼ぶ。
ルイーズはいつものドフラミンゴとは違う様子に唖然としていたが、ドフラミンゴに名前を呼ばれハッと我に返り慌ててベッドに駆け寄る。
場所として丁度ドフラミンゴの向かい側だろう。
ドフラミンゴは駆け寄ってきたルイーズをここで初めて見つめ…


「一つ言っておく…リサはおれの宝だ…もし傷一つでもつけることがあったのなら……―――賢いお前ならこの先は言わなくても分かるな?」

「…っ」


ドフラミンゴの言葉にルイーズは分かっていた。
だからこそ自分は彼に逆らえず今の今まで生きていたのだ。
逆らうなど恐ろしくできないルイーズはゆっくりと頷き、頷いたルイーズにドフラミンゴは笑う事はしなかったが、頷いたのを見て何も言わなかった。


「やれ」


ドフラミンゴは頷いたルイーズにそう命じた。
すでにドフラミンゴはルイーズを目もくれていないが、ルイーズはゆっくりとした動きでベッドに乗る。
王が使うため良質なベッドだからかギシリと安物のような音はなく、静まり返っているその中にはベッドのシーツの音しか聞こえなかった。
ルイーズはゴクリとまた喉を鳴らす。
それは緊張と恐怖からだった。
アスカに向けて伸ばされる自分の手を見れば見るからに震えていた。
それに気づけるほどの余裕はあるようだが、それでもドフラミンゴ達の傍にいる事自体怖くて仕方なかった。
しかしドフラミンゴが自分の能力を必要としているので逃げられるわけもない。
ルイーズの能力は人の記憶を奪うもの。
この世に不必要な能力であるかと思われるその能力だが、案外役に立つ。
自分の都合の悪い物を見られたらその能力を使えばいいし、襲われた時だってその能力を使えば逃げられる。
もちろん記憶を奪うだけではなく、思い出せなかった記憶を思い出すこともできるし、更に記憶の改ざんだってできる。
それを武器にルイーズは娘を養うため裏家業を営んでいた。
都合の悪い記憶なんて表に生きる人間からしたら恥ずかしいところを見られたとか軽いものだが、裏の人間からしたら生死にかかわるものである。
贔屓にしていたファミリーのボスが記憶を奪ってほしい奴がいるというので相手を聞いて見ればあの七武海がボスのドンキホーテファミリーだった。
本来なら断る相手だが、贔屓にしていたファミリーもそれに劣らない力の持ち主だったから、ルイーズは高額の報酬に思わず頷いてしまった。
それが人生を狂わせたのだ。
結果、ルイーズは交渉しに来たドフラミンゴにその能力を買わされ、娘を人質に言う事を聞くしか選択肢はなかった。
ドフラミンゴは娘を人質にしているにも関わらず、ルイーズの待遇は良くしてくれた。
理由は知らないが、どうやら好待遇の位置にいるらしく、娘と離れ離れなのと一切連絡が出来ないのを除きは前の暮らしより贅沢できている。
ドフラミンゴ達ドンキホーテファミリーは強い。
反してルイーズはどちらかと言えば弱い。
体術もその辺の下っ端とそう変わらないだろう。
記憶を操るなどしなくても頭のいいドフラミンゴなら人の操り方など十分に知っているはずで、ルイーズなど本来ボスと共に殺される運命だったはずだ。
そうなればなぜ自分は買われたのか分からなくて余計恐怖してしまう。
しかし、ルイーズは理解する。
自分を仲間に引き入れた理由は…この目の前の少女のためだと。
ドフラミンゴとこの少女の関係は分からない。
だが、ドフラミンゴはこの少女を大切にしているように見えた。
改めてルイーズは少女を見る。
ルイーズが見下ろす少女はとても美しかった。
色白美人ではないが、海賊らしく太陽の日に焼かれ褐色の肌に、菫のようなきれいな髪に、今目を閉じているが黄金のような瞳。
体つきも同年代の子と比べれば少し成長が遅いかと思うが、悪くはない。
パーツも整っており世間一般的に言えば彼女は美少女という類に入るだろう。
そんな彼女の額にルイーズが触れる。
触れてこそルイーズの能力は発動されるのだ。
目を瞑り、娘と歳の近いこの少女の記憶を改ざんしはじめた。

―――次に目を覚めたら彼女は別人となっているのだろう。

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