アスカの記憶の改ざんを終えルイーズは死んだ。
その死を見送ったのか暫くしてグラディウスが戻ってきた。
寝室に戻ってきたグラディウスを見てドフラミンゴは丁度いいと言ってアスカへ向き直す。
「リサ、着替えてこい」
「着替える…?――あっ!忘れてた…城下にいた時麦わら達に襲われたんだった…」
そう言ったアスカはハッとする。
アスカの今の記憶では、ドフラミンゴが大事にしすぎて城から出たことがないことになっている。
だが、そんな生活では服がボロボロになっている説明がつかない。
そのため、ルイーズはお忍びで城下に行ったことにし、その際に麦わらと対峙したという記憶に書き換えた。
だから、ドフラミンゴの許可なく城下に行っていたことがバレたと思っているアスカは恐る恐るドフラミンゴを見る。
「ドフィ…怒ってる?」
服の事もそうだが、ドフラミンゴの許可なく城下に行ってしまったことで怒られると思ったのだろう。
本来なら叱らなければならない事ではあるが、ドフラミンゴはそれを許すことにした。
可愛い妹が戻ってきてドフラミンゴの機嫌もいいのもあるのだろう。
ドフラミンゴは笑みを浮かべ、しょんぼりとさせるアスカの頭を優しく撫でてやる。
「怒っていない」
「本当?動きにくいから服を破っちゃったけど…」
「服なんざいくらでも作らせればいい…リサが無事ならそれでいいさ」
それは上辺ではなく、ドフラミンゴの本心である。
ドフラミンゴが怒っていない事にアスカは安堵する。
しかし、改めてアスカの姿を見る。
アスカは靴を履いておらず裸足で走り回っていたから足の裏が汚れていた。
その上膝から下は破かれており、太ももが丸見えなほどミニスカートになっていた。
兄のような存在のドフラミンゴにこんな格好を見られるのがちょっと恥ずかしくてほんのりとアスカは頬を染めていた。
あのまま死んだはずのエイルマーに攫われずドフラミンゴの手で育てられていたら今よりも女性らしく成長しただろう。
ドフラミンゴはピーカに呼ばせ控えさせていた2人のメイドへ目を向けた。
「…おい」
「はい」
「リサの身支度を手伝ってやれ」
微笑ましくアスカを見つめていたドフラミンゴだったが、メイド達へ向ける声は少し低い。
それは家族ともいえる幹部達と、妹のように思っているアスカ以外の人間に向けられるものだ。
メイド達からしたらアスカに対してのドフラミンゴの態度の方が驚きなのだろう。
しかしそれを顔にも態度にも出さないのがプロというもの。
国王であるドフラミンゴの命令にメイド達は深々と頭を下げ、国王の寵愛を受けているらしいアスカを連れて寝室に繋がる個室の衣裳部屋へと移動する。
その三人にグラディウスがついていき、妹のような存在とはいえ少女でも女性であるためグラディウスは唯一の出入り口である部屋の扉の前に待機し警護に当たっていた。
ここにベビー5がいれば中まで入れるのだが、残念ながら彼女は今幹部達の招集に当たっているためおらず、もう一人の女性であるジョーラは治療中である。
『グラディウスがいるとはいえ…メイド達とリサを一緒にさせて大丈夫なのか?あいつらはリサが天竜人の奴隷だったことを教えたんだろう?』
「ここに入れる前にチェック済みだ…ナイフや銃などの危険物は持っていないから大丈夫だろう…外に待機する形だが何かあればグラディウスが対処する…背中の焼印の事は心配するな…あの二人にはおれの寄生糸をつけてあるからな」
『寄生糸?』
「ああ…リサの着替えが済めば用済みだからな…用の済んだゴミは片付けなければならないだろう?」
『なるほど…』
ドフラミンゴが信用する女性であるベビー5とジョーラが今すぐ連れてこれない分、この城で働くメイド達に動いてもらわなければならない。
アスカの過去を思えばできる事ならベビー5に任せたいが、先ほども言った通り彼女は今忙しい身である。
流石にいくら優秀な部下とはいえ無理は言えなかった。
だからドフラミンゴは口の堅い秘密厳守ができるメイド二人を選んだのだ。
勿論ドフラミンゴの大切な妹という説明もしてあるし、大切が故にと簡単な身体検査も終えている。
更に言えばアスカの着替えを手伝わせるためアスカの背中に何があるのかも話してある。
流石王宮付きのメイドと言うべきか…元世界政府の奴隷というのを聞いても彼女たちの顔色はひとつも変わらなかった。
心内ではなにを考えているかは分からないが、後々彼女たちはどうせ死ぬのだから多少の無礼など気に留めるつもりはなかった。
そう…2人にアスカの死んでも守らなければならない秘密を話したのは―――最初から殺すつもりだったからだ。
即席のメイドとして彼女は選ばれた…彼女たちは使い捨てだったのだ。
後に信用できる女を手配しようと考えているドフラミンゴには彼女たちへの罪悪感もない。
それはピーカも同じなのか、クツクツと笑うドフラミンゴに納得したように頷いた。
「ところでカイドウの娘はどうしている」
メイドの命など、アスカどころか幹部の命とは比べられないほど軽い。
ドフラミンゴはすでにメイド達の事は忘れていた。
そして、思い出したのはカイドウの娘である直葉だ。
定期的に様子を見るよう指示を出しているので、ピーカに問えばすぐに答えてくれた。
『飲み物やお菓子を食べたり渡された本を読んだりと…大人しくしているようだ』
「そうか…面倒を起こさなくていいが……相手はガキとはいえカイドウの娘だ…父親の元に戻る気もないようだから大人しいからと言って油断はするな…注意しておけ」
その忠告にピーカは頷く。
カイドウの血を継いでいるのなら、油断はできない。
あれほど父親の元に戻りたくない様子を見せておきながら、大人しくしているのが逆に怪しい。
父親との会話で、娘の頭の良さも伺えた。
意外とああいうお淑やかなタイプは腹に一物を抱えているものだ。
ドフラミンゴは可愛い妹が戻ってきたのはいいが、面倒くさいオマケもついてきたことに気分が萎える。
カイドウに子供が三人いるのは知っているが、顔を合わせたのは上の子供だけで中間子と末っ子は一度も会った事がない。
大看板の一人であるクイーンとキング曰く、上と中間子の二人は母親に、末っ子は父親に似ているという。
しかし、それを確認するにもドフラミンゴはカイドウの妻に一度も会ったことはない。
それどころか、カイドウの妻は大看板以外の幹部でさえ会ったことがないという。
娘とのやり取りを見ている限り、それは恐らくはカイドウの独占欲だろう。
現にクイーンとキングから、妻を入手する際に妻の故郷を滅ぼしたと聞いている。
カイドウほどの男が骨抜きにされている女に興味がないわけではないが、ドフラミンゴも流石に女のために死にたいわけではない。
ローと麦わらの連中だけならまだいいが、それに加えてカイドウという面倒な男の娘にも人を割かなければならず、ドフラミンゴが溜息をついてもそれは仕方ないことである。
◇◇◇◇◇◇◇
アスカは個室に案内され脱ぐように言われた。
だが服を脱ぐという事は背中を見られる可能性があるという事。
しかし自分の背中を知っているドフラミンゴがその辺のメイドに頼むなわけがないと思いメイド達に着替えを任せることにした。
「二人は…背中のこと、知っているんだよね?」
「はい」
「国王様から伺っております」
確認のために問えばメイドからは予想通りの言葉が返ってきた。
チラリとメイド達を見れば反応がないところから、流石ドフィが選んだメイド達だな、と思った。
内心どう思っているか分からないが、ドフラミンゴが選んだのなら信用できると思い選んだ服へ着替えようと今着ている服を脱ぐ。
「わっ!!服が消えた!?」
服を脱ぐとドロン、と音を立て煙と共に消えアスカは驚きの声を上げた。
メイド達も驚いたもののアスカのように声を上げることはなく目を丸くするだけだった。
するとアスカの驚いた声が聞こえたのか扉を叩く音とグラディウスの声が聞こえた。
「リサ!どうした!?」
着替えの途中とはいえ、アスカの驚く声に護衛を任されたグラディウスは慌てて中に入る。
だが、敵はおらず驚く三人の女のみがいるだけだった。
「グラディウス!!私の服が消えた!!」
「は?服…?」
もう麦わら達が侵入したのかと思ったが、駆け寄ってきたアスカの言葉にグラディウスは首をかしげる。
しかし、確かにアスカのボロボロだった服は脱いだ後もなく消え、アスカは露出の高い普通の服を身に包んでいた。
「お前達!リサに着せるにはその服は露出が高すぎるぞ!もう一度着替えさせろ!」
「え!?これだめ!?」
「駄目だ!足も手も出しすぎだ!変な男が寄ってくるだろ!」
ボロボロだったあの服は錦えもんの能力で出したとは知らないグラディウスはメイド達が露出の高い服をアスカに着せたと勘違いし、もう一度着替えさせるよう命じた。
アスカは、今の服を見る。
ショートパンツにノースリーブというシンプルな服装だった。
この服装は動きやすいからアスカは嫌いではないが、グラディウスには不評だった。
言い返す言葉も許さないと言わんばかりに部屋を出て行ったグラディウスにアスカは『えー…これだめなんだ…』とガクリと肩を落とした。
「さあ、リサ様…お召し替えいたしましょう…」
「国王様がお待ちかねです」
メイド達からも露出の高い服はあまり好評ではなかったようで、アスカに次々新しい服を持ってきては選ばせる。
アスカは記憶を改ざんさせられてもファッションにそれほど興味がないのか、結局動きやすい服装をと注文した後メイド達に全てを任せる事にした。
「ん?もう終わったのか?」
「…うん」
部屋を出れば、落ち着きを取り戻したグラディウスが待っており、出てきたアスカを見て壁に寄りかかっていた体をアスカに向けた。
最終チェックをグラディウスがすることになっており、頭のてっぺんからつま先までアスカをチェックする。
アスカの服装は、フリルをあしらったシルク素材のブラウスに黒色の総レース素材で作られているひざ丈のフィッシュテールスカート、靴はカッターシューズ。
王宮という場ではシンプルになる組み合わせだ。
てっきりドレスになるのかと思ったグラディウスはシンプルな服装にアスカに確認してしまう。
「そんな恰好でいいのか?」
「うん…動きやすい格好の方が好きだし」
「そうか…お前がそういうのなら構わないが…」
ひざ丈スカートの時点で動きやすいのかは男のグラディウスには分からないが、アスカが納得しているのならいいだろうとグラディウスは変な露出もないため口を挟まないことにした。
ただ、このアスカの服装は露出を自然と選ぶアスカとの戦いに勝利したメイド達の血と涙の結果である。
また衣装室に放り込まれると面倒だと思ったのか、アスカはそのままグラディウスを置いて寝室を出て行った。
それをグラディウスは追う前に、メイド達を振り返る。
「ああ、お前たちは少しその部屋で待っててくれ…事が終わればベビー5にリサの服を適当に見繕ってもらう予定だ…お前たちはあらかじめリサに合うサイズの服を準備してもらいたいんだ」
「承知いたしました」
メイド二人はその説明に疑問も思わなかったのか納得し一礼した後、引き返した。
それをグラディウスは見届けた後先にドフラミンゴのもとに戻ったアスカの後を追うように通路から寝室へと向かった。
―――後に、2人のメイドはこの戦いが終わった後死体となって発見される。
その二人の死体にはお互い殺し合ったような爪痕が残されていたという。
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