(171 / 274) ラビットガール2 (171)

グラディウスの言う通り、すぐに階段があり、それを上がるとスートの間に着いた。
アスカは慌てて扉を開け入ると真っすぐにドフラミンゴの元へと向かう。


「ドフィ!!大変なのっ!!」


扉を力任せに開け、真っすぐ自分の胸に飛び込むアスカを受け止めドフラミンゴは怪訝とさせた。
肩で息をし荒くなった息を整えるアスカを抱き寄せ顔を覗き込む。


「どうした、そんなに慌てて…」

「変な男とかオモチャとか女が来てグラディウスが…っ!」


アスカが何が言いたいのか分かった。
侵入者であるルフィ達とグラディウスが衝突しているという所だろう。
ピーカもどうやらその侵入者の一人と戦っているらしく、ドフラミンゴは心配そうな顔を見せるアスカに『大丈夫だ』と抱きしめ背中を撫でて落ち着かせる。


「大丈夫だ、グラディウスが負けるはずがないだろう?」

「そうなんだけど…変な男が訳分かんないこと言ってたから…」

「なんて言ってたんだ?」

「私を知っているようだった…私を連れて行こうとして…あと私が『敵だ』って言ったらその男が『敵じゃない』とかも…」


抱きしめたままアスカはドフラミンゴの問いに答える。
脳裏にその男を思い浮かべながら答えるアスカの表情や言葉にドフラミンゴはクツクツと小さく笑う。
コロシアムで戦っていた麦わらが別人となっていたところからその変な男は麦わらのルフィだろうと推測する。
それを外しても少なくとも麦わらの海賊団の誰かになるだろう。


「アスカ…!?」


ニヤつきそうなのを抑えているとローが驚愕した声を零す。
アスカがその声へ振り返るとそこにはハートの席に座っている男がいた。
しかし、その体はボロボロで、海楼石の鎖と共に繋がれている姿は、座っているというよりは捕まっていると言っていいだろう。
アスカはその男を見つめながらドフラミンゴへ問う。


「ドフィ…あれ、だれ?」

「――!?」


男…ローを見ても、そしてルフィを見ても、アスカは何も感じなかった。
ただ見覚えのない男がハートの席についているのが不思議でならなかった。
ドフラミンゴを見上げれば、彼はいつもの笑みを浮かべていた。


「ローだ、リサ」

「ロー?あの男が?」


ローという男が過去にいた事は知っている。
記憶を改ざんさせられたアスカの中のローと言えば、思い出すのは幼い頃の姿しかない。
その為、目の前の男と幼い頃のローと結びつかなかった。
ドフラミンゴを見ていたアスカの視線は再びローへと向けられたが、アスカのその目には助けを求めるでもなく、怯えているでもなく…何の感情も見られなかった。
それが違和感を感じた。
怪訝とさせるローを見て、ドフラミンゴはまたニヤつくのを必死に抑える。
アスカはそんなドフラミンゴから離れローへ近く。
アスカの様子から記憶の改ざんはまだ固定されているとドフライミゴはアスカを引き留めることはしなかった。
ローと目と目が合いにこりと笑みを見せ、ローが微かに目を丸くさせる。


「大きくなったんだね、ロー…えっと…確かローが12歳の時だから…あれから14年ぶりかな?久しぶり」

「久しぶり?…アスカ…一体何を言っているんだ…」


アスカの言葉が理解できていないようなローの様子にアスカは気にしていなかった。
ローは怪訝とさせたが、様子の可笑しいアスカに『演技』をしているのかと勘ぐった。
だがそんな様子もなく、自分を見て小首を傾げていた。
お互い話が通じないと思ったのかアスカは会話を諦め立ち上がると、タイミングよくドフラミンゴに呼ばれ、彼の元に戻ろうと背を向ける。
アスカが自らドフラミンゴの元へ戻るのを見てローは慌てて声をかけ引き留めようとする。


「アスカ!!なぜそいつの元へいく!!」

「はあ?意味わからない…私がドフィのところに戻るのは当たり前でしょ?何、今更…」

「そいつはエイルマーを殺したんだぞ!!」

「そうだけど…それがなに?兄さんは殺されて当然の事をしたじゃない」

「ッ!?」


アスカの口から『12歳』、『14年ぶり』、『ドフィ』という懐かしい言葉を聞いてローはアスカが記憶を思い出したのかと思った。
だが、記憶を取り戻したのならなぜドフラミンゴの腕に自ら収まっているのか。
記憶を取り戻しているというのなら兄であるエイルマーの事も思い出したことになる。
記憶を思い出したのなら、本来、ドフラミンゴに反発するはずなのだ。
ローの記憶では、アスカとエイルマーはとても仲のいい兄妹だった。
そんな兄を『殺されて当然』と答えるアスカにローは言葉さえ失ってしまう。
ドフラミンゴは自ら自分の腕の中に戻ってきたアスカの体を引き寄せクツクツと笑う。


「フフフ!そう噛みつくな、ロー」

「!、ドフラミンゴ…!!アスカに何をした…!!」


大人しく自分の腕に納まるアスカにご機嫌なドフラミンゴの声にハッと我に返り、ギロリとドフラミンゴを睨んだ。
睨まれても痛くもかゆくもないドフラミンゴは笑って流すだけで、アスカもローを仲間とも思っていないため、ローのドフラミンゴへの態度を流していた。
ローにツンとそっぽを向くアスカを見下ろしドフラミンゴはニヤリと笑いローを指さして問う。


「なァ、リサ…あいつの事どう思っている?」

「どうって…ただの裏切り者でしょ?」

「―――!?」


ドフラミンゴが指をさした方へ目をやればそこにはローがおり、アスカはドフラミンゴへ目線を戻し小首を傾げて答える。
その表情はキョトンとしており、『なぜそんな当たり前の事を聞くのか』と語っていた。
クツクツ笑うドフラミンゴから再び唖然とし言葉を失くしていたローへ振り返るも、その目は冷たかった。


「あんなにもドフィに世話になっておきながらコラさんと一緒にファミリーを…私達を裏切った男」

「何を…言っているんだ!アスカ!!おれがお前を裏切った!?そんなわけないだろ!!何を言われた!ドフラミンゴに何をされた!!」


ロシナンテに攫われる形とはいえ、ファミリーから抜けた事は変わりない。
だからドフラミンゴや幹部達から『裏切り者』呼ばわりは本当の事だし、それに関しては別に気にしない。
だがアスカに裏切り者扱いされるのとは別問題だ。
ロシナンテも見届けたわけではないが、彼曰く、アスカも兄であるエイルマーと共にドフラミンゴから逃げたはずなのだ。
いや、逃げたに違いない。
シャボンディ諸島で再会したあの日。
あの日、アスカが逃げられなかったのならそこには居なかったはずだ。
それに、いたとしても麦わらの海賊団に所属しているとは言わないだろう。
混乱している様子を見せるローにドフラミンゴはクツクツと喉を鳴らして笑い、アスカから離れローへ歩み寄り、彼の耳元で囁くように種明かししてやる。


「そうカッカするな、ロー…リサの記憶を少し弄っただけだ」

「!―――なんだと…ッ!?」

「お前の事だ…リサが洗脳や脅されてるだのと考えているだろうが…この世には記憶を弄ることができる便利な能力者っていうもんがいる…そいつを使ってお前たちの記憶を消しただけだ…今、お前の目の前にいるリサはお前の知っている麦わら海賊団のアスカではなく…14年前のリサのままだ…この能力はなァ、能力者が死ねば永遠となるんだ…そいつはもうこの世にいねェ…だからリサがお前や麦わら達を思い出す事は一生ねェってことだ…残念だったなァ、ロー」

「ドフラミンゴ…ッ!!!」


ドフラミンゴの言葉にローは海楼石の錠で繋がっているというのも忘れ襲い掛かろうとした。
しかし錠が邪魔でドフラミンゴに避けられ触れることすらできず、
悔しさにギシリと奥歯を噛みしめ、力任せにグッと拳を握り爪が食い込み血が垂れ落ちる。
そんな悔し気なローを見てドフラミンゴは笑い声を零した。
その瞬間―――電伝虫が突然鳴り出した。


≪すまねェ!ドフィ〜〜〜!!!≫

「トレーボル!?」

≪シュガーが気絶しちまったァ〜〜〜!!≫

「!!?…オイ!なんの冗談だ!?」


取ったのは傍にいた下っ端だったが、出たのはトレーボルだった。
しかし問題はその内容。
その内容を聞いた瞬間、その場の空気は一気に変わった。
記憶を改ざんさせられたアスカの頭の中には新しい情報も入っている。
だからシュガーが誰なのか、彼女が気を失ったら何が起こるのか知っている。
凍り付いたように静まり返り、幹部達をはじめとするドンキホーテファミリー全員が絶句している中、アスカはチラリとドフラミンゴの顔を見る。
ドフラミンゴの顔から笑顔が消えており怒り一色となっていた。


≪10年かけて増やし続けたおれ達の僕共が!!人間に戻っていく〜〜〜!!ホビホビの呪いが解けていく〜〜〜!!≫


アスカは慌ただしく動くベビー5達や怒りで体を震わせるドフラミンゴをよそに開けてある窓へと移り、その窓から城下を見る。
窓からは米粒ほどしか人の影は見えないが、騒ぎになっているのかギャアギャアと民衆の声がここまで聞こえていた。
その声は叫び声だったり驚いた声だったり…そして…恨みのこもった声だったりと混ざっていた。


「若!!非常事態の報告が鳴りやみません!!」


アスカは下っ端の声に振り返る。
ドフラミンゴはモニターを見ており、アスカもついでに見ればモニターに映っていたのはコロシアム内の映像で、人間達がパニックを起こし避難しているところだった。
事情を知らないアスカからしたら何がどうしてパニックが起こっているのかが分からなかった。


「!?――おい!貴様誰だ!!」


状況を把握し切れていないアスカは横やりを入れるわけにもいかず、状況がはっきりと理解するまで傍観しようとしたその時…ドフラミンゴの傍にいた下っ端がこちらに駆け寄ってくる侵入者に気付き剣を抜く。
その下っ端の声でドフラミンゴもその場にいた全員がその侵入者に気付いた。
誰もがその侵入者を見ても誰だか分からなかった。
だが、一人だけ…たった一人だけがその人物の名前を口にした。


「―――ッキュロスか!!」

「はい!!10年間!!お待たせして申し訳ありませんっ!!―――今!助けに来ました!!」


侵入者をリク王が『キュロス』と呼んだ。
キュロスと呼ばれた侵入者は剣を構え片足しかないのに器用にドフラミンゴの元へ素早く駆け付け、そして―――ドフラミンゴの首を切り落とした。


「…!」

「若ァーー!!」

「きゃあーーっ!!!」


ドフラミンゴは目の前に迫ってきたキュロスの事を知っているようだが、名前を言う前にキュロスに首を切られてしまう。
それを見てベビー5は悲鳴を上げ、バッファローは声を上げた。
下っ端もボスをいきなり殺され騒然とさせる。
ただ、アスカだけは目を見張っただけの反応を見せた。


「コイツ…!片足のクセにィ〜〜!!よくも若を〜〜!!!」


アスカ以外の誰よりも先に我に返ったのはバッファローだった。
バッファローがキュロスに反撃しようとしたのだが、キュロスに首を捻られ気絶させられ、窓から外へと投げ飛ばされてしまう。


「バッファロー!!」


バッファローが投げ飛ばされ次はベビー5がキュロスに襲い掛かろうとした。
能力であるブキブキの実で両腕を銃に変え、リク王の元へと向かうキュロスの前に立ちはだかり銃を放つ。
その放たれた銃弾をキュロスは剣一つで跳ね返し、それを見たベビー5は素早く両腕を銃から鎌へ変え、切りかかる。
剣で受け止めたキュロスは立ち止まった。
それを見たアスカが動き出す。


「―――!!」


ベビー5が引き留めている間にアスカはキュロスの背後に回って蹴りを食らわそうとした。
しかし剣士として名をはせたキュロスにとって交わすのは簡単で、ベビー5を壁へ突き飛ばしベビー5の意識を飛ばす。
そして素早く後ろへ振り返り刃ではない部分の剣で受け止めた。
衝撃で横へと飛ばされたキュロスはベビー5と同じく壁にぶつかり、アスカは着地した瞬間にまたキュロスへと駆け寄り、今度は拳を向ける。
それにギリギリで避けたキュロスだったが、キュロスがいた壁がアスカの拳によって粉々になったのを見て目を見張る。
アスカの細いその体でどこから石作りの壁を大きく破壊でいるのかと不思議だったが、すぐに悪魔の実の能力者だと結論付ける。
どんな能力者かは……頭にあるウサ耳とお尻から出ているふわふわとしたしっぽで分かった。
アスカは二年を経て体をウサギにしなくても倍の力が出るようになったが、うさ耳としっぽというのは絶対条件らしく、いくら頑張っても消えなかった。
ベビー5も浅い意識を浮上させ、アスカと共にキュロスへと襲い掛かろうとしたその時――


「トラ男〜〜〜!!助けに来たァ〜〜!!」

「"麦わら"!?」


キュロス以外の侵入者までもがこの部屋に入ってきた。
騒動に紛れて入ってきたのはルフィだった。

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