(172 / 263) ラビットガール2 (172)

ベビー5もアスカも、ルフィの方へと気を逸らしてしまい、その隙を突かれキュロスを逃がしてしまった。


「しまった…!」


アスカが気づいてもすでに遅く、キュロスはリク王の元へとたどり着いてしまっていた。
ガキンと甲高い音を立てキュロスはリク王の錠を剣で壊し、リク王を自由にする。
それに舌打ちを立てているとルフィを相手にしていたはずのグラディウスが戻ってきた。


「待て!"麦わら"!!ヴァイオレット!!若には指一本―――若!?」


グラディウスの目に、首を切られたドフラミンゴの姿があり、それを見た瞬間グラディウスは言葉を失うほど絶句していた。
侵入者が2人も増え、アスカはどちらを先に始末するのかを考える。
始末すると言ってもドフラミンゴがどのような考えをしているか分からないため生かしておくが…まずはこの騒動の発端であろうローとルフィを標的に決めた。


「よかった!生きてて!!」

「ここに用はないはずだぞ!!"麦わら屋"!!『工場』はどうした!!壊したのか!!」

「だいじょ―――、!!!」


アスカは拳を握り、力を少し加減して床へと叩きつける。
するとひび割れのように衝撃がローの元へと駆け寄るルフィに向けて放たれ、ルフィはそれを察して飛び上がって避け、その攻撃を向けてきた敵を睨んだ。
だが、そこにいたのは幼馴染のアスカだった。
アスカの姿にルフィは驚く。


「お前…!アスカ!?何すんだ!!」

「ローを…裏切り者なんかを助けになんて行かせない…!!――ベビー5!」

「えっ!な、なに!?」

「あんたはあの片足を捕まえて!!私はあいつらを相手にする!!」


アスカはドフラミンゴが殺されたというのに冷静だった。
ベビー5は次から次へと問題が起こり少し混乱していたが、アスカの指示にハッとさせ…


「(わ、私が必要なのね…っ!)―――分かったわ!!」


今日戻ってきたばかりのアスカのその指示にすぐに従い、キュロスの元へ向かう。
アスカの指示に従い襲い掛かってくるベビー5にキュロスはリク王の前に出て剣を構え迎え撃とうとした。
それを横目で見ながらアスカも動きだし、ルフィの元へ駆け寄る。
ベビー5に指示を出し、自分を睨みつけ、襲い掛かろうとしているアスカにルフィはひどく困惑していた。


「ど、どうしたんだよ!!アスカ!!なんでおれ達を攻撃するんだ!?」

「当たり前でしょ!?あんたらと私は敵なんだから!!」

「敵ィ!?何言ってんだよ!おれ達は仲間だろ!?敵じゃねェーよ!!」

「また訳の分からない事を…!!」


グラディウスと一緒にここに来る途中で会ったときも似たようなことを言っていたルフィに、そして同じような訳の分からないローにも、アスカは苛立った。
それも合わせてアスカの力は強く、強さから言えば自分の方が強いのだが、アスカは味方なため無暗に攻撃は出来ず避ける事ばかりで中々進めなかった。


「アスカはおれが食い止めておく!!だからお前はトラ男の錠を外せ!!」

「わ、分かったわ!」


ルフィは抱えていたヴァイオレット…この国の王女だったヴィオラを降ろし、手錠の鍵を返してローを助けに行かせる。
ヴィオラはそれに頷きながら走ってローの元へ向かった。
ヴィオラがローの元へ向かうのと同時にアスカはルフィの懐へ入り込み、手を床につけルフィの足を払い転ばせる。
幼馴染を相手にしているためいつものような反応が出来ないルフィは呆気なく足を払い転ばされ、そんなルフィを鼻で笑いながらアスカはヴィオラの元へと駆け付けようとした。


「アスカ〜〜!!だから!!邪魔すんな!!」

「…ッ!!」


後ろからルフィが腕を文字通り伸ばし、その腕をアスカの体に巻き付け引き寄せて抱き着く。
ヴィオラとの距離が一気に広がりアスカは舌打ちを打つ。


「この…ッ!」

「なんで怒ってるのかしらねェけどな!だからって能力使うのはねェだろ!!そりゃおれは強ェけどよ!!」


巻き付くゴムの腕をアスカは剥がそうとするも、ルフィも必死に抵抗する。
だが、純粋な力はアスカの方が上なため少しずつ腕を押し放していく。
しかしそうしているうちにヴィオラがローの元へと向かおうとしているのを見てアスカは能力でウサギを一匹出し、そのウサギはピョンピョン跳ねながらヴィオラへと向かう。
あとはそのままウサギがヴィオラにくっつき窮屈ながらも指を鳴らせば『ラビット爆弾』が発動するだけだった。
だが…


「だーかーらー!!なんで邪魔するんだよ!!!」


アスカが『ラビット爆弾』を発動させるつもりだと気づいたルフィが巻き付かせていた腕の一本を解いてヴィオラに向かって飛び跳ねるウサギへ手を伸ばし殴って壁まで吹き飛ばした。
ヴィオラは始末できなかったが、ルフィの拘束が緩み、アスカは緩んだ腕の中からルフィの腹に肘打ちを食らわせる。
覇気を纏わせたため少しだけひるんだ隙にアスカは素早くルフィの拘束から抜け出し飛び退いて置く。
飛び退く間もウサギを出し、ヴィオラではなくまずはルフィを標的にし出したウサギをルフィの体に張り付かせる。


「!!」


ルフィはピョンピョンと素早く張り付くウサギに、アスカが何をしようとしているのか分かり慌てて張り付いたウサギを剥がそうとする。
しかし…


「"ラビット爆弾"!」


着地したその瞬間アスカはパチンと指を鳴らせばルフィの体にくっついていたウサギが一斉に爆発した。
しかし純粋な力はアスカの方が上だが、戦闘能力や体の頑丈さを比べるとルフィの方がはるかに高い。
ラビット爆弾の威力は普通の爆弾よりも強力だが、体が頑丈なルフィは焦げただけだった。


「なっ…!!」

「やっぱアスカのラビット爆弾は効くな〜〜!!」


効いていないわけではないだろうが、倒すほどの威力は効いていなかったらしい。
頭を振るルフィにアスカは絶句していたが、ドフラミンゴに守られ彼の傍にいたアスカは自分以上に強い者達がいるのも理解しているため信じられないとは思わないが、ピンピンしているルフィに驚きはした。
チラリとヴィオラの方を見ればローのところへと辿り着いてしまっており、鍵を開けようとしているのが見える。
しかしヴィオラも能力者のようで恐る恐るのように鍵を開けようとしているため時間が掛かっていた。
ルフィを無視してヴィオラの阻止をしたかったが、ルフィもルフィで厄介な相手だと認識しており下手に背を向けることができなかった。
アスカはそれを防ごうと下僕ウサギか長身ウサギを出そうとしたのだが…その瞬間、床が大きく揺れる。


「…!」

「うわァ!!」

「きゃあ!」


正確に言えば床が柔らかい素材のように変形しはじめていた。
ボコ、と大きく床が上がり、バランスを崩しルフィ達は転がってしまう。
幸いにもアスカのところは無事だったためアスカは転げることはなかった。


「あ!!石の奴!!」

「ピーカ!!」


石を動かせる者など一人しかいない。
ピーカだ。
アスカもそれに気づいていたから驚くことなく、そして…


「フッフッフッフッ!想像以上にしてやられたな…」


ドフラミンゴが喋っていることにも驚かなかった。
アスカはあの時、キュロスがドフラミンゴの首をはねた時アスカも確かに驚いていた。
しかし、それはドフラミンゴが死んだことではなく…―――ドフラミンゴの首をはねた男に、驚いていただけだった。
アスカはドフラミンゴが首をはねられた時点で"本物"ではないと知ったから。
しかし敵味方関係なくアスカとピーカ以外の周りは首を切られ死んだはずのドフラミンゴが喋った事に驚きが隠せなかった。


「これはマズイ事態だ…『鳥カゴ』を使わざるを得ない…!!―――なァ…ロー…」

「!!―――『鳥カゴ』を!?」


ドフラミンゴの言葉にローは顔を青くさせぞっとさせる。
ローが『鳥カゴ』を知っている証拠だった。
そして、勿論アスカも知っていた。
ただし見たのではなく本人から聞いただけではあるが。
ドフラミンゴは顔を真っ青にさせるローなどよそに『早急な対応が必要だ』と首だけになり石と同化したピーカの大きな手の平に拾われながらそう零す。


「気味が悪い…!!なぜまだ生きてる!!」


首だけでも喋るドフラミンゴにまず動いたのはキュロスだった。
一本だけの足だというのに器用にも首だけのドフラミンゴへと向かう。
アスカもキュロスの動きに気付いたアスカがハッとさせキュロスを止めようとした。
しかし…


「首の切り方を教えてやろうか?―――こうやるんだ!!」


キュロスの背後に現れた影にアスカは動きを止めた。
その瞬間、スパン、と建物ごと真っ二つになり、斬られた頭上から上の建物が落下し、室内ではなくなったためあたりが一気に明るくなる。
アスカはガシャンと大きな音を聞いた後キュロスの方へ見れば、キュロスは危機に駆け付けたルフィに押し倒されて何とか一命をとりとめる。
しかし、ドフラミンゴはそのままキュロスを床に押し付けているルフィへ攻撃をしようと手を振り下ろそうとし、そして首のない座り込んでいたはずのドフラミンゴも現れる。


「若様が二人っ!!」


目の前には首のあるドフラミンゴと首のないドフラミンゴがいた。
ベビー5の驚きの声がアスカの耳に届いていたが、アスカは知っていたため何の反応もせず、ルフィが切り殺されそうなところを見ていた。
やはりルフィが敵になろうがアスカが反応することはない。
だが、次の攻撃も避けられてしまい、ルフィは素早くドフラミンゴへと駆け寄る。


「"ゴムゴムのJET銃乱打"!!」


ルフィの攻撃をドフラミンゴは武装し防ぐ。
その隙に背後から首なしのドフラミンゴが襲い、ルフィは気づくも遅く後ろからドフラミンゴの能力で切られてしまう。
背中を切られ前へと押される形となったルフィの顔面に、武装で防いでいたドフラミンゴが拳を握り、その手に武装を纏わせルフィの顔面にめり込ませた。
顔面を叩きつけられたルフィはそのまま吹き飛び壁に激突する。


「なんだ!あの分身は…!」


ドフラミンゴが二人というのも驚きだが、首もないのに動く一体にも驚く。
よく目を凝らし見て見れば首のないドフラミンゴのその切られた首からはギリギリ見える程度の"糸"が出てきていた。
ドフラミンゴの能力…それは糸を操ることができるイトイトの実の能力者であった。
アスカは幼い頃糸で出来たドフラミンゴとも遊んだことがあるためその存在を知っていたからドフラミンゴがキュロス相手に首をはねられたのを見た時から、その首のないドフラミンゴは彼の能力である『影騎糸(ブラックナイト)』だと気づく。
因みに、影騎糸をアスカは昔から『糸ドフィ』と呼んでいる。
その糸で出来たドフラミンゴの正体をヴィオラたちも気づいたようである。
そんなヴィオラたちをよそにドフラミンゴはリク王へと振り返る。


「リク王!!10年前の…あの夜の気分を憶えているか?愛する国民を斬り平穏な町を焼いた日!!」

「…!!未だ夜な夜な魘されておるわ!憶えていたら何だと言うんだ!!」


アスカは10年前と聞き、脳裏に記憶が浮かぶ。
当然アスカの記憶の中には10年前の偽りの記憶がある。
あの時はこの国をドフラミンゴが"取り返した"時に、アスカはあの場にはいなかった。
アスカはドフラミンゴに溺愛されているため安全な場所で待機していたし、この国の"奪還"に成功しても城から出ることはあまりなかった。
だからリク王の顔も知らないのは当たり前で、アスカの顔を彼らが知らないのも当たり前―――そう記憶を改ざんさせられている。
リク王は10年前の悪夢をわざわざ取り出しなんだというのだとギロリとドフラミンゴを睨みつけるも、ドフラミンゴはその睨みなどよそにクツクツと笑って見せる。


「これから起きる惨劇はあんな小規模なものじゃない」

「!、バカな事を…!!何をする気だ!?あんな悲劇はもう二度と…」

「逃がしてやるよ、お前ら…―――ピーカ!!邪魔ものどもを外へ!!」

「!!」


リク王やヴィオラ中にあるあの惨劇はドフラミンゴにとっては『小規模』に入るらしいが、リク王たちからしたらその言葉にカッとなりそうになる。
小規模でも自分たちにとったら悲劇にしかならず悪夢である。
あの悪夢が再びこの国に襲い掛かろうとしているのをドフラミンゴの言葉から読み取り、リク王は声を上げる。
だが、リク王がドフラミンゴに襲い掛かるよりもドフラミンゴがピーカに命令し実行する方が早く、ピーカのイシイシの実によって床はぐにゃりと歪む。
そしてピーカの石の手が床から現れルフィ、キュロス、リク王、ロー、ヴィオラに向かって伸ばされている。
アスカは勿論その中には当てはまらないため焦ることもない。
だが…


「アスカーーっ!!」

「え…、っ!」


ピーカの手に捕まる前、ルフィがアスカに向かって手を伸ばす。
ルフィの事を覚えておらずルフィがどれだけしつこいのかを知らないアスカはルフィが自分に向かって手を伸ばすなど思っていなかったため、自分に向かって伸ばさるその手に目を丸くし呆気にとられた。
しかしアスカとルフィの間を石の壁が突然下から現れ、ゴム人間であるルフィの腕を弾く。
壊すために伸ばしたわけではないため突然現れた壁を壊す事できず、ルフィはピーカの手に捕まってしまった。


「アスカ!!待ってろ!必ず迎えにいく!!!絶対に!!」


ルフィ、リク王、キュロス、ヴィオラ…そしてロー。
5人はピーカの手に捕まってしまった。
ルフィが邪魔されたのを見てローがピーカの手に捕まる直前にアスカに向かって声を上げた。
背後にいたローの声にアスカが振り返ればもうロー達は地面に消えて――――ズキリと小さな痛みが頭に走った。

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