頷いたルフィにゾロはホッとさせながらローはゾロの問いに答える。
「それで?アスカを置いておくっていうのは何か確証があってそう言ってるんだよな?それがなきゃいくらアスカの恋人だろうがおれはルフィと一緒にアスカを連れ戻しに行くぞ」
「当然だ…アスカを今は連れ戻さなくてもいいと言ったのは…アスカがいる場所こそがこの国で一番安全な場所だからだ」
「一番安全な場所?どういう意味だ、それ…」
ゾロはローの言葉に怪訝とさせる。
ローの言ったアスカの過去が正しいのか正しくないのかはゾロには分からない。
ドフラミンゴの妹であろうと、そうでなかろうと、ゾロは興味もない。
結局過去がどうであれ、アスカはすでに麦わら海賊団の一員なのだ。
そもそも、ロー以外のこの場にいる全員はドフラミンゴがどれほどアスカに執着をしているのか知らないのだ。
ローはゾロの問いに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「アスカがドフラミンゴの仲間でいる限り、アスカの安全は絶対に保証される」
「だから何でだって聞いてんだ」
「……この国の中で…いや、この世界中探そうとも…ドフラミンゴが危害を加えない人物がアスカだからだ…悔しい事に、今はドフラミンゴの傍にいるのが一番安全と言える」
ドフラミンゴはアスカを妹として認識し心からの愛を向けている。
それは異常というほど深い愛情だった。
幼い頃だったローから見てもドフラミンゴのアスカへの愛情は異常だと思うほど執着している。
そんな執着している相手に危害を加えるような真似は絶対にしないだろう。
だから無理に奪い返すよりも、ドフラミンゴを倒した後でアスカを取り返した方がむしろアスカの安全は保障されるのだ。
アスカの身の安全だけをいえば、今いる中で最も安全なのがドフラミンゴの傍である。
でなければ、ローもルフィと共に今頃王宮に乗り込んでいただろう。
だがそれに納得すよりもルフィはカッとなる。
「なんだよそれ!!どういう意味だよ!なんでミンゴの傍が一番安全なんだ!!」
「アスカがドフラミンゴの妹だからだ!!」
「ちげェよ!!アスカの兄ちゃんは"エイルマー"だろ!!」
「――ッ!?」
ルフィは小さい頃からアスカの傍にいた。
傍にいて、ずっと守ってきていた。
お互い助け合って生きてきたからアスカを守るのは、アスカが安心できるのは自分の傍だとずっと思っていた。
今だってそうだ。
アスカの隣はローも立つことになったが、それでも自覚した今、昔以上にアスカへの想いはローにだって負けないくらい深い。
だからローの『ドフラミンゴの傍が一番安全』という言葉にカチンと来たのだろう。
その勢いでルフィはドフラミンゴが兄だとでも言うようなローの言葉を正そうとした。
ルフィの言葉にローは言葉を失くした。
「なぜ…その名前を…」
麦わらの一味にはアスカの兄の事は言っていない。
ルフィにも説明するときアスカの兄がエイルマーだとも言っていない。
言う必要がないというのもそうだ。
だが、一番の理由はアスカが記憶を取り戻してほしくないという願望があった。
記憶を取り戻してしまえば、ドフラミンゴの手をアスカは確実に跳ね除ける事はできない。
拒否ができるが、抵抗らしい抵抗はできないと思っていた。
それほどまでにアスカはドフラミンゴに懐いていたのだ。
だが、その隠していたアスカの兄の名前…エイルマーの名前を、ルフィは知るはずもないのに言った。
驚くのも無理はなかった。
ルフィは驚くローを見てどう説明しようかと考えるよりも去り際に渡された物を思い出し、ポケットから取り出してローに渡した。
「なんだ…」
「エイルマーからの手紙だ」
「!?」
「お前に会ったら渡してくれって言われてたんだよ」
差し出された手紙をローは怪訝として見つめる。
ルフィから言わせればこの手紙はアスカの本当の兄であるエイルマーかららしいのだが…ローはどうしても信じられなかった。
だからルフィをギロリと睨む。
「麦わら屋…お前…ふざけるのも大概にしろよ」
「ふざけてねーよ!これ本当にアスカの兄ちゃんからの手紙だ!」
「んなもん信じるわけないだろ!!エイルマーはとっくの昔に死んでるんだぞ!!死んだ人間がどうやって手紙を書くっていうんだ!!」
エイルマーは死んだ。
それを知ったのは攫われるようにファミリーを抜けてロシナンテに心を許したその少し後だった。
ロシナンテが言いにくそうに、言葉を選びながら…エイルマーの死を告げた。
その時ロシナンテはアスカが逃げ出したのを知らないためアスカの事は言わなかったが…ローはエイルマーの死を悲しんだ。
泣いて、泣いて…逃亡中なのにロシナンテはローの気が済むまで泣かせてくれた。
この騒動を起こしたのは…ドフラミンゴに喧嘩を売ったのはロシナンテの本懐を遂げるため…だが、その中に復讐心があるのも否めない。
それはロシナンテの死の復讐、そして同時にエイルマーの復讐でもあった。
大切な人を二人も殺された悲しみはまだ幼いローにとって辛すぎた。
それも二度も奪われたのだ。
ロシナンテの言葉を疑うなんて選択がないローはルフィの言葉が信じきれなかった。
言い合いの勢いで短気なルフィは『んなこまけぇこといいからこれ見ろ!!』と手紙を押し付ける。
押し付けられたローは思わず受け取ってしまう。
ローは手錠をかけられ更には鎖で手錠同志が繋がっているが、鎖には余裕を持たされているためその押し付けられた手紙に目を通す。
そこには少し歪んでいるが文字が書いてあった。
『やあ、久しぶりだね、ロー…覚えていてくれているかな?アスカの兄のエイルマーだ…正直、君に言いたいことが沢山ありすぎて何を書いたらいいか迷ってしまうよ…長いけど許してほしい…――まずはぼくの事から話そう…ぼくは14年前に死んだ…だけど今から二年以上も前の事…アフロの魂が現世へ戻る時、ぼくも偶然にも巻き込まれ現世へと戻ったんだ…だから今の僕は幽霊というわけだ…信じるも信じないも君の自由だ…だが、アスカの兄なのは僕だという事は変わりない…――あれから、もう…14年も経つんだね…ぼくはあの時ロシナンテと離れてしまいディアマンテに殺されてしまったから君たちやアスカがどうなったかは分からない…だけど君もアスカもドフラミンゴと離れていたという事は…君が3年経っても生きていられているということは…ロシナンテは君を助けられたんだね…あちらに戻る前にそれだけでも知れてよかった……けれど…君は海賊となる道を選んでしまったんだね…やっぱり海軍が許せなかったのかい?…ああ、責めているわけじゃないんだ…君がその道を自ら選んだというのなら、後悔をしていないというのなら、ぼくは否定はしない…ロシナンテが反対したってぼくは君の味方だ…―――…君がドフラミンゴのいるこの国で何をしようとしているかはあえて聞かないでおくよ…それもまた君が選んだ道だ…生きるも死ぬも君の人生なんだから君が選び後悔のないようにするといい…だけどね、ロー…君がどんな道を歩み生きようと死のうとも…その命はロシナンテが守ったということを…君は愛されていたことを忘れてはいけない…ただ、それを言いたかったんだ…君は…あの頃の君は死に急いでいたから…』
手紙は何枚もあった。
おしゃべりな人でもあったから渡された手紙の中に入っているその枚数に思わずローはくすりと笑ってしまう。
手紙を開いて見る文字はお世辞にも上手いとは言い難いが、どこか懐かしいと思えるものだった。
何枚かは本当に色々書きたいのを我慢し纏めたのだろう。
枚数的にまとめ切れていないが、彼なりに纏めた結果なんだろう。
目で文章を追っていくとアスカの話と変わった。
『―――…あの子は今、どんな女の子になっているんだろうか…14年も経っているから今は19歳かな?手配書で見た時は少し幼く見えていたが…それも二年経っているし、どう成長したんだろうか…もしできる事ならこの目でアスカの姿を見たいなァ…ローも生き別れていたアスカと再会した時はさぞ驚いただろうね…そういえば、あの子はぼくの能力を受け継いでしまったみたいだね…あの子の方が僕より能力をモノにしているようだけど…兄として複雑だ…―――…それにしても…あの子には本当に申し訳ないと思っている…まだ僅か5歳だったあの子は何も分からないまま守ってくれる者もいない世界に放り出されてしまたのだから…―――…そういえばジェニファーを覚えているかい?彼はアスカの護衛のウサギでも監視のウサギでもない…彼は空間移動できるようぼくが作ったウサギだった…保険をかけたんだ…もしぼくが死んだらジェニファーがアスカをドフラミンゴの元から逃がす保険をね…まあ、保険と言ったが確実に発動するだろうと思って作ったけど…か弱いぼくが血も涙もないあの男に勝てると思うかい?そんなの無理に決まっているよ。ぼく弱いもん。…―――…ところで、ルフィ君から聞いたんだが…君とアスカとルフィ君は三人で付き合っているんだってね?…いや、否定はしないよ…君たちは海賊だ…海賊がルールを守るのも可笑しい話だしね…まあ…否定はしていないが、正直複雑だ…でもアスカが君とルフィ君を選んだんだ…きっと悪い方向へとならないと信じているよ…』
『ジェニファー』という名前を見て、ローは息を呑んだ。
ジェニファーとは、普通のサイズのウサギであり、幼い頃アスカの後を追っていたりアスカの腕に抱かれていたりと常に一緒にいるウサギの名前の事である。
ジェニファーもエイルマーの能力だというのは知っていたが、その役割はアスカの護衛というものだと思っていた。
小さい頃だったから護衛なんて思いもしなくてただペットみたいな役割だとばかり思っていた。
成長して思い返せば護衛だったのだろうという認識程度しかないし、そもそもそのウサギは影が薄かった。
まさかそのジェニファーが高性能な能力を持っていたとはローは思いもよらなかった。
しかしそれは恐らくドフラミンゴも同じだろう。
でなければ今でもアスカはドフラミンゴの隣にいるはずである。
この時にはすでにローはエイルマーの存在を否定しなくなっていた。
ローが知っている情報はドンキホーテファミリーの幹部達なら知っている情報だからだ。
それにドンキホーテファミリーの中でも数人しか知りえないコラソンの本名が書いてあったというのもある。
『コラソン』とはコードネームであり、その本名である『ロシナンテ』と気軽に呼べるのは実兄であるドフラミンゴと…親友でもあるエイルマーだけ。
ローもアスカも『コラソン』という名前が染みつきすぎてついそっちで呼んでしまうのだ。
エイルマーとコラソンはお互いを親友と呼び合う仲で、それは逃亡中にコラソンから聞いたからローはこの手紙が本物だと認めざるを得ない。
手紙は更に続く。
その紙には中央に一言だけしか書いてなかった。
『アスカを悲しませるなよ』
そう書いてあった。
更にその下の端には…
― 弟達へ、兄より ―
と書いてあり、それを見てローは目が熱くなるのを感じる。
だが人の前で泣きたくなくてローは目をギュッと瞑り深い息をついて我慢し感情を抑えた。
最後の手紙の言葉…それはローやルフィをアスカの恋人として認めたというものだった。
「…確かに…内容からしてエイルマーに間違いはないようだが…」
「だろ!?だろ!?だから言っただろ!?」
「……幽霊と言われても誰も信じやしないだろ」
ドヤ顔を見せるルフィにローは溜息をつく。
幽霊と言われて信じる性格ではないのは自分が良く知っている。
だから最初は信じきれなかったのだ。
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