(176 / 274) ラビットガール2 (176)

外にいるセニョールピンク、デリンジャー、マッハバイス以外のメンバーが集められていた。
オモチャが人間に戻ったため外は騒がしい。
下っ端が連れて来た気絶したシュガーを木箱を並べ布を敷いた簡易のベッドへ寝かせる。
下っ端たちも総出とはいかないまでも並んでいた。
彼らが集まるのをフラミンゴは切られている壁の上に座って待ち、アスカはその傍で暇そうにしている。
続々と集まり立って幹部達を待っていた下っ端たちはボスであるドフラミンゴの姿や幹部達の姿に緊張した面持ちで背を伸ばしていたが、ドフラミンゴの傍にいる少女の姿に怪訝とさせたが、幹部達は逆の反応を見せる。


「よう、リサ」

「お帰り、ディアマンテ」


アスカが戻り記憶を弄った事は幹部達全員に伝えてある。
その細かい記憶も全員頭に入れているためディアマンテ達とアスカの話が合わないというのはまずないとみていいだろう。
問題は下っ端たちであるが…全てはこの戦いが終わってからでいいとドフラミンゴは判断した。
ただ敵と見られては困るというところで、アスカが安全のためずっと部屋に閉じこもっていたという説明はした。
アスカも記憶の中では部屋に閉じこもっていた記憶もあるため疑問に思わなかっただろう。
ディアマンテは14年も前に生き別れたリサの姿に内心感激の涙を流していた。
他の幹部達もアスカの姿に嬉しそうにしていた。
アスカはディアマンテと目と目が合うと挨拶されたから挨拶を返す。
アスカはディアマンテが兄を殺したことを知っているが、それを憎んだ事は一度もなかった。
兄の死は当たり前の事だと思っているからだ。
兄、エイルマーはこのファミリーを勝手に抜けようとした。
本来ボスであるドフラミンゴの許可が下りてからファミリーを抜けるのが筋だが、その筋を通すことなく兄は逃げ出したのだ。
アスカは兄は臆病者だという認識を植え付けられていた。
だからそんな兄に同情も憐れみも向けず、毛嫌いしとはいかないまでもあまり良くは思っていなかった。
だからディアマンテが血の繋がった唯一の兄を殺したと知っても憎みもしなかったのだ。


「んねーねー!リサ!」

「なに、トレーボル…っていうか近いんだけど」

「近い〜!?近いーけど!?」

「うるさい」

「べへへへ!!!」


一緒に戦うというアスカにトレーボルが歩み寄った。
しかし相変わらずトレーボルは誰にでも近く…というか近過ぎである。
トレーボルはアスカに至近距離で顔を近づける。
アスカが手をかざして待ったをかけるようにそれ以上寄らないようにさせれば、トレーボル達からしたら懐かしい問いをされアスカはむにっとトレーボルの頬を引っ張る。
そんなアスカにトレーボルはディアマンテ同様大いに喜んだ。
このやり取りも14年振りであるためだろう。
可愛い我がボスの妹が記憶を取り戻しただけではなく改ざんとはいえ味方になってご帰還した事に幹部達はご機嫌だった。


「で?なに?」

「本当に一緒に戦う気なのか〜?怪我しちゃうかもよ〜?痛い痛いなっちゃうよ〜?」


まるでトレーボルの子供相手の口調にアスカはむっとさせる。


「私もう子供じゃないし、ウサウサの実だって兄さんよりちゃんと使いこなせてる!」


しかし下っ端は話が飲み込めずお互い近い者同士の顔を見合わせていた。
ただ最高幹部であるトレーボルに強い口調で言い返して許されている少女には驚く。


「ほんとーに一緒に戦うのか〜?やめた方がいいと思うんだけど〜!」


トレーボルはトレーボルでドフラミンゴ同様心配性で止めにはいるも、ドフラミンゴから『アスカの願いだ…あまり言ってやるな』という言葉によってトレーボルは引き下がる。
幹部達はドフラミンゴの許可が下りているのなら…と数名は心配そうにしていたが納得する。
だが下っ端は話が飲み込めずお互い近い者同士の顔を見合わせていた。


「あ、あの…」

「なんだ?」

「その少女は一体…」


幹部達が見たことのない少女に集まりわいわいとしている中、勇気ある下っ端が恐る恐る声をかける。
アスカがファミリー達と仲良く話しているのを機嫌よく見ていたドフラミンゴが答える。


「おれの妹だ」

「い、妹…!?わ、若様に妹がいらしてたんですか!?」


ドフラミンゴに家族がいたという事自体知らなかったためまさかファミリー以外の家族がいた事に驚かされどよめきたつ。
そんな下っ端たちをよそにドフラミンゴはそれぞれ再会の挨拶も済んだのを見計らい本題に入るために幹部や下っ端たちを見下ろす。
ドフラミンゴの空気が変わったのを察した幹部達は和気あいあいとした雰囲気を消し、そんな幹部達に気付いた下っ端たちも張り詰めるように変わった空気に背筋を伸ばした。
あのローがどういう神経をしてドフラミンゴに喧嘩を売ったかは分からないが、目的は十分に読めている。
ディアマンテはつい先ほど失敗を犯した焦りからか、ドフラミンゴが話題にする前に声をあげた。


「ドフィ、ロー達の狙いは『SMILE』だろう!?」

「んねードフィ!おれ達は『工場』を守らなくていいのか!?」


しかしそれはディアマンテだけではない。
この状況を作り出したのは先ほどの『受刑者リスト』でも出したようにウソップなのだが、そもそも最初に目を離したのはトレーボルである。
今、気を失っているシュガーを守る事が仕事だったのだが、ウソップにやられしまい、シュガーの能力でオモチャにされていた人間が復活し、こうして暴動が起こってしまっている。
今はドフラミンゴが多くの人間を寄生糸で操っているが、10年もの時をかけて費やしてきた計画が一瞬にして無駄となってしまった。
その責任をトレーボルも感じているのかディアマンテ同様焦りを見せていた。


「開かねェよ、"海楼石だ"……"鍵"もここにあるしな」


工場はドフラミンゴの商売の要である部分。
その大事な工場を普通の作りで作るわけにもいかず、全て海楼石でできている。
そのため滅多なことでは突破されないし破壊もされないだろう。
そう言いながらドフラミンゴは持っていた工場の鍵を能力で斬る。


「ええ!?いいのか!?」

「敵に希望などいらん」


工場の鍵を斬って捨てるドフラミンゴにトレーボルが驚いて見せるが、もしもを考えれば鍵は壊した方がいいとドフラミンゴは思い立っただけの事だった。
ローとルフィがどれほどの力があるかは分からないが、警戒をせず舐めてかかるほど彼らの実力を低く評価はしていない。
だが、負けるとも思っていなかった。


「それにしても非力…まだ幼い少女一人守れんとは…トレーボル」

「黙れジG!実年齢少女じゃねェよ!」


カギが落ちる音を聞きながらラオGは溜息をつき気絶しているシュガーを見下ろす。
シュガーはこの幹部の中で一番重要な位置におり、その護衛を任されていたのがトレーボルだった。
彼女が国の人達をオモチャにして縛っていた能力者である。
その彼女が気絶しているということは、トレーボルは任務を果たせなかったという事。
最年長であるラオGは呆れていた。


「んねーねー!ドフィ!シュガーについちゃあ本当に悪かった!!両手両足不自由になった男がまさかシュガーを気絶させるとは…!想像できるか!?んねー!」

「"メラメラの実"もそうだ!!まさか大会に革命軍のNO2が出場しているとは塑像できねェ!!」

「言い訳なぞするな見苦しいバカ共め!見苦しいの『G』!」

「過ぎた事だ…お前らを責めても時間が戻るわけじゃあるまい」

「んね〜〜!流石は我らがボスだ!!ベヘヘ!ザマみろラオG!」

「そこまで言うなら許されよう!!」


アスカはずっと部屋に閉じこもっていたから状況は全て把握していない。
ただ聞いた話では人間や動物をオモチャにできるシュガーが麦わらの…あのアスカに仲間だ敵じゃないだと喚いていた男の仲間がシュガーを気絶させこんな混乱が起こったというのは聞いた。
外から聞こえる国民の叫び声もその男がもたらした結果なのだろうとアスカは他人事のように思う。
まあ、実際他人事ではあるが。
――ディアマンテもトレーボルと同じく失敗を犯した。
コロシアムを任されていたディアマンテは破れてしまい渡すつもりのなかった勝利品の『メラメラの実』を素性を隠して参加していた革命軍の男に取られたという。
それらをドフラミンゴは許した。
それはディアマンテやトレーボルだからだろう。
恐らく下っ端が失敗すれば殺されかねない。
ドフラミンゴは"家族"を大切にしているのだから。


「―――だがドフィ!こうなって来ちまうと海軍が邪魔だな…"藤虎"をどうする!?」

「奴との話は済んでる…海軍はおれ達を狙っちゃ来ねェ…―――が、藤虎は利用し終わったら消えてもらおう…アレを生かしていい事はねェ…一筋縄じゃいかねェとは思うが…」


海軍にすらオモチャの秘密を話していなかったため、この騒動で気づかれただろう。
だが、それは藤虎との話で済んでおり心配はないが…ドフラミンゴは元から大将藤虎を殺す気でいた。
内心『ミコトが来てくれていたら楽に話が進んでいたんだがな』と海軍大将でありながらも海賊にも融通の利く惚れた女を思い浮かべながらいると、ポツリと甲高い声が耳に届く。


『海軍も、海賊も…暴れていいのなら、おれ一人で十分だ!!』


その声はピーカだった。
アスカはその声に暇そうにしていたがピーカを見上げる。
何度聞いても声の高い彼にアスカは表情一つ変えず見つめていたが、不意に後ろにいる下っ端たちに気付く。
下っ端たちはピーカの声の高さに驚いていたが、ところどころ笑いをこらえていた。
もし笑ったら殺されるからだろう。
アスカはもう慣れているし幼いころからピーカといるため笑う事はないが、気持ちは分かる…気持ちだけは。


「フフフ…そう急ぐこともない…いいか、このゲームはいわば国王を決する『選挙』だ…ドレスローザ国民に問うた…!!王に相応しいのは『リク一族』か『ドンキホーテ一族』か!!国民が王を選ぶ!!当然の権利だ!おれ達は来るものを叩き潰し…!消し合う者たちをゆっくり傍観していればいいんだ」

『回りくどい…ドフィ、おれは―――』

「ぶふ〜〜〜〜!!」


ついに、こらえきれなかった下っ端一人が吹き出してしまった。
その笑い声によってその場の空気が一瞬によって凍り付く。
ドフラミンゴ、トレーボル、ディアマンテ、ピーカがその笑った下っ端を睨みつける。
その4人の視線に傍にいた下っ端の仲間が慌ててフォローした。


「す、すみません!!ピーカ様!!お許しを!コイツ新入りで!!不意を突かれたというか…!!」

『生き埋めだ…!!貴様を石の中に…!!』

「ギャアア〜〜!!」


下っ端は分からないだろうが、彼らはファミリーを家族と呼び、ずっと共に暮らしてきた。
本物の家族のような存在を笑う者は誰であろうと許さない。
アスカは笑ってしまった下っ端を同情の目で見る。
気持ちは分かるが、ただ分かるだけでフォローも庇う気は一切ない。
アスカもピーカを家族として愛し、その家族を笑う者を助ける善人な心など持ち合わせていないのだ。
ピーカが自ら笑った下っ端を始末しようとしたのだが…


「待って!ピーカ様!!」


ベビー5が待ったをかけた。
ベビー5は幼い頃からすでに悪魔の実を食べており武器人間となっている。
足をガトリングに変え、笑った下っ端を撃つ。


「あなたが手を下せば死体も残らない!…家族が困るわ…」

『悪いな、ベビー5』


ベビー5は下っ端のためではなく、下っ端にいる家族のためにピーカを止めた。
手加減をしたのかまだ息のある下っ端をディアマンテが蹴り飛ばし、王宮から放り捨てた。
アスカは家族を笑った者を冷めた目で見送っていたが、ピリッとしたチクリと刺すような殺気が肌を刺し、顔を上げた。
顔を上げれば険しい表情のドフラミンゴが見えた。
ドフラミンゴはピーカを笑われいつもの笑みを消して怒りを露わにしていた。
覇気を使っていなくてもドフラミンゴの殺気に下っ端たちはカタカタと体を震わせていた。


「―――おれは8歳で母と妹を失い、10歳で父を"殺した"…」

「!!?」

「『幹部』以上のメンバーは長く苦楽を共にしたおれの"家族"だ…おれにはこいつらしかいない!家族を笑う者はおれが許さん…!!いいな!」

「は…はい…ッ!!」


下っ端たちはドフラミンゴの忠告に震え上げながらも頷く。
アスカはドフラミンゴの言葉の中に『妹』という言葉を聞いてピクリと反応させる。
ドフラミンゴの妹…アレシアは既に亡くなっている。
彼がある場所から父の手によって引きずりおろされた時…最初の犠牲となったのがアレシアだった。
人間の手によって無残に殺されたアレシアの年齢は僅か3歳。
生を受け3年しか彼女は生きられなかった。
弟でさえ溺愛していたドフラミンゴが妹となれば目に入れても痛くないほど愛していたに違いない。
実際、妹として愛しているアスカへドフラミンゴは表現できないほどの愛情を注いでいる。
そんな妹が『人間達』の手によって惨い死に方をしただけではなく…愛娘の死と慣れない環境とストレス、栄養失調と様々な事が重なり、妹を追うようにドフラミンゴの母親も亡くなってしまった。
大切な人が続けざまに二人も目の前で亡くなったという衝撃をドフラミンゴはわずか8歳で経験していたのだ。
その後父を殺し、そして裏切り者であった弟をもこの手で殺したドフラミンゴに残されたのはドンキホーテファミリーという『家族』だった。
だからこそ、その家族を笑う者、馬鹿にする者は誰であろうと許せなかった。

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