アスカは王宮の最上階からひまわり畑へと降りて来た。
一面ひまわり畑で一瞬呆けたが、ディアマンテの声でアスカはハッと我にかえる。
声の方へ目をやればディアマンテは誰かを追ってひまわり畑の中を歩いていた。
「おいおいレベッカァ!なぜ逃げる!!なぜ戦わねェ!!」
追っているのはどうやらレベッカのようだが、アスカはレベッカという人物を知らないため姿は思い浮かべないが、名前からして女性なのだろうということだけは分かった。
「お前は剣闘士だ!おれを殺しに来たんじゃねェのか!?――コロシアムじゃあお前をネタにいい興業ができたが!もう用済みだ!!」
「きゃあ!!」
何となくアスカはその場でディアマンテとレベッカの鬼ごっこを見ていた。
理由はないが、つけるとしたら興味本位。
どうみてもレベッカと呼ばれた女はディアマンテどころか自分にも負けるような少女だった。
コロシアムに出場しているような事を言っていたからそれなりに強いのだろうが、ならばディアマンテと戦わない理由が分からなかった。
だからアスカはレベッカに興味を持ったと言ってもいいだろう。
アスカはディアマンテにあぶり出されたレベッカをじっと観察していた。
「銃の方がいいよな…――スカーレットも…銃で死んだ!!」
「…ッ!!」
ディアマンテは剣を仕舞い、懐から銃を取り出した。
そしてその銃をレベッカへと向け、それを見たアスカはレベッカはあの銃にやられて死ぬと思い、興味を失った。
記憶を改ざんされ幼い頃から成長したと思わらされているアスカは死ぬものに興味は持ち合わせておらず、どこまでもドフラミンゴ側へと近づいていた。
あとはディアマンテが引き金を引くだけ…となりアスカは死を待つだけとなったレベッカに興も冷め早くターゲットの下へと向かおうと走り出そうとしたその時――――
「ぐわァ!!」
「!――ディアマンテ?」
ディアマンテの叫び声が聞こえアスカは走り出そうとした構えを解きディアマンテへと振り返る。
そこにはディアマンテとレベッカの間に見たことのある男が立っていた。
「キュロス〜〜!!」
「家族を二人も…!!――奪われてたまるかァ!!」
見覚えのある男とは、キュロスだった。
キュロスはここまで駆け付け、レベッカを…娘を撃ち殺そうとしたディアマンテとレベッカの間に入り、ディアマンテを切りつけたのだ。
そのキュロスの姿にアスカは目を丸くし、レベッカはオモチャにされ忘れていた父の事を思い出し涙溢れる。
「…すまなかった…レベッカ…」
「!?」
「未来のない"オモチャ"だった私には…戦いを教える事しかできなかった…!!母親に似て心の優しいキミなのに…!!」
「…ッ」
「だが今日で最後だ…―――もう…戦わなくていい…!」
「ッうん…!!」
娘が涙を流しているのを感じ取りながらキュロスはオモチャだったとき言えなかったことを伝える。
振り返るその姿は正しくずっと一緒にいてくれたオモチャの兵隊で、似ていないのにレベッカの目には重なって見えた。
父のその言葉にレベッカは言葉を詰まらせながらも頷く。
「…そりゃどういう意味だ…キュロス」
「お前たちと決着をつけるという意味だ!!」
キュロスの『もう戦わなくていい』という言葉にディアマンテは怪訝とさせたがキュロスの続けられた言葉にピキリと青筋を立てる。
アスカはキュロスの『決着をつける』という言葉にサク、と草や花を踏みつけディアマンテの隣に並ぶ。
「!…リサ!?どうしてここに?ターゲットは見つけたのか?」
「見つけた…でも聞き捨てならない言葉を聞いたから……どうする?私も戦おうか?」
アスカはキュロスの『決着をつける』という言葉に黙っていられなかった。
『決着』というのはドフラミンゴ達を倒すという事。
それをされて困るのはディアマンテやアスカだけではない。
ドフラミンゴが消されてしまえば世界中が混乱となる。
それを避ける為に幹部がいるのだ。
パンクハザードの件は痛かったし、何よりアスカの大好きだった人が二人消されたのだ…許せることではない。
だが、それでも…まだ逆転はある。
シーザーさえ取り返せば一からやり直すことができるのだ。
ローの取引に応じ、世界を弄ぶような事をしたのだってシーザーという存在がそれほど重要だったから。
そうじゃなかったらたった一人の科学者なんかのためにルーキー二人を欺くためとはいえ七武海を辞めるという記事を広めたりはしない。
(この子がルフィランドの言っていた"アスカ"…)
アスカが姿を現しキュロスは若干目を丸くさせたがすぐに冷静に戻る。
レベッカは見たことのない少女に怪訝とさせていたが、ディアマンテの隣に立ち、さきほどの会話から敵だと判断する。
キュロスはじっとアスカを見た。
ドフラミンゴを討つべく人間に戻った瞬間に襲った時はじっくりと見る余裕はなかった。
今はその余裕があり、アスカを観察してみれば…自分の娘と歳が近くその愛らしくも美しいその容姿は場所が場所でなければ称賛するほどだっただろう。
しかしキュロスはアスカに対して敵意や殺気はなかった。
王宮からピーカによって追い出された時ローの話を聞いていたからだろう。
(たしか能力者の力によって操られていると言っていたな…)
そう頭にあった会話を思い出しながらアスカを見るも、事前にそう言われなければ敵だと思ってしまうほどアスカの様子に違和感はない。
操られていると分かる変化もなく、目に光はあるし、動きだって自然で、顔の強張りもない。
いたって普通の人間で、普通の敵である。
元々妻の仇をとディアマンテを相手にするのは苦ではないが…ここでアスカまで加わってしまえば娘を庇いきれないと思った。
アスカは操られている状態で、本来ならルフィ達と共にドフラミンゴを討つ存在なのだ。
そんな相手に思いっきり戦えるわけでもなく…キュロスは内心焦りを見せていた。
そんなキュロスをよそにディアマンテはアスカの頭に手を置き撫でる。
「リサは優しいなァ…だが、まァ…心配はいらねェ」
「でも…」
「おれはお前が生まれる前から幹部してたんだぜ?こんなザコ共にやられるタマじゃねェよ…お前はこれが初めての任務だろ?だったらそれに集中しな…いいな?」
「…わかった」
ディアマンテはアスカの申し出を断った。
その理由はこの二人に負ける気がしないからなのと、アスカにはアスカの任務が与えられているからだ。
アスカは一番ドフラミンゴを怒らせたという麦わら海賊団の狙撃手であるウソップを殺すという任務がある。
ドフラミンゴはウソップをズタズタに引き裂いてやりたいほど怒りを覚えているが、それでもルフィとローの二人には遠く及ばない。
ならば、なぜどうでもよさそうな相手をアスカに向かわせたのか…それは『仲間殺し』をさせる為である。
仲間を連れ去られたという理由だけで世界政府に乗り込み喧嘩を売ったルフィが『仲間殺し』など許すはずがない。
そして仲間殺しを成功させればアスカの一生の傷が出来て付け入る隙も大きくなる。
だから一刻も早くアスカにはウソップを殺してもらわなければならなかった。
14年前、大切なボスが失った大切な宝物なのだ…手に入れた今、そうそう諦めてたまるものか…それがディアマンテを含む幹部達の考えだった。
アスカはそんな彼らの真意に気付かず、『また子供扱いする…』と不貞腐れながらも結局は言う事を聞いてしまう。
アスカは渋々頷き、『旧王の大地』にいるであろうウソップの下に向かおうとした。
しかし…
「レベッカ〜〜〜!!カギィ〜〜〜!!」
「!?」
「急げー!!カギをくれ〜〜〜ェ!!」
「え!?ルーシー!?」
下から…それも近くから聞いたことのある声が聞こえた。
その場にいる誰もがその声に振り返ると…キュロスとレベッカの背後からルフィとローが階段のようなもので上ってくるのが見えた。
その後ろには頭割り人形が1体追ってきていた。
それを見て誰もが目を丸くし、その中にアスカもいた。
「てめェらァ!!」
「…!!」
頭割り人形が迫り、レベッカが持っていたカギを投げ渡したのは同時だった。
そして頭割り人形が名前の通り二人の頭を割ろうとしたその時―――サークルが現れ頭割り人形が粉々に斬られ落ちて行く。
「ロー!!"麦わら"ァ〜〜〜!!!」
「やっと自由だ…!」
「ついた!!ミンゴのいる4段目!!」
ひまわり畑にルフィと、そして海楼石の手錠を外したローが立ち、その二人の姿にディアマンテが怒りの声を上げた。
アスカもローとルフィの姿に表情を険しくさせ睨みつける。
「すまんが二人とも…!やはり私は"コイツ"で手一杯…ドフラミンゴは任せていいか!?」
「「勿論だ!!」」
記憶を書き換えられたアスカからでもローとルフィは厄介な人物だという認識でいた。
だからウソップの下へ行かずディアマンテと共にドフラミンゴの下へ行くのを阻止しようとしていた。
ディアマンテもアスカに仲間殺しをさせるという命令を忘れ頭に血を上らせていた。
「じゃあここは任せるぞ!兵隊!!」
「ああ!」
「おれ達はドフラミンゴの所へ!」
「行こう!!」
「行かせるかァ!!」
「―――"ラビット爆弾"」
「――!」
頭に血を上らせているディアマンテに対して、アスカはいたって冷静だった。
ディアマンテの影で隠れていたアスカはポンポンと下僕ウサギを出しルフィ達に向かって走らせる。
『ラビット爆弾』は引っ付いて爆発させるだけが技ではない。
爆発に巻き込めればそれでいいという考えからアスカは素早く走らせたウサギがローとルフィの体に触れる寸前にパチンと指を鳴らし爆発させた。
しかしアスカの予想通り、それは避けられた。
否、むしろそれを避けなければアスカは瞬時に攻撃していただろう。
ドフラミンゴを倒すと抜かしていたルーキー二人なのだ…ドフラミンゴよりも弱い自分の攻撃を避けられなければそれまでというわけである。
二人に避けられても焦りもないアスカはギロリとルフィとローを睨み、その攻撃でアスカがいる事に気付いたルフィはアスカの睨みに辛そうな表情を浮かべ、ローは無感情を貫いていた。
「アスカ…!」
「麦わら屋…分かってるだろうな…」
「わ、分かってる!!今はアスカを相手にしない!!だろ!?」
「ああ、そうだ…ならさっさと王宮へ行くぞ!」
ローもアスカを目の前に触れれないというのは辛い。
早くアスカの体に触れ、アスカを腕の中に閉じ込めたいのはルフィもローも変わらない。
ルフィは口を酸っぱくして言い聞かされた事を復唱し、その答えにローは頷き手は出さないがルフィからアスカへと目線を戻し、ルフィは相手はしないがアスカに声を掛ける。
「アスカ!!」
「…!」
「今は相手が出来ねェけどよ!絶対にミンゴを倒してお前を元通りにさせるからな!!絶対にだ!!」
「だから…!意味が分からない事言わないで!!!私は元通りもなにもあんたなんか知らないんだから!!!」
「んな訳ねェ!お前は覚えてないだろうけどおれ達は仲間だったんだ!!んでおれとトラ男とアスカはコイビトドーシ!!」
アスカからしたらまた訳の分からない事を言われ苛立つ。
早くこいつら死ねばいいのに、と心から思っているとぎょっとさせる言葉を言われた。
恋人、という言葉の意味は書き換えられてもちゃんと分かっている。
ローならばまだしも見ず知らずの初対面の男に『恋人同士』と言われ、アスカはますますルフィを信用できなかった。
「何を言って―――ッ、」
アスカは見ず知らずの男の狂言に噛みつこうとしたが、ズキリと頭に痛みが走る。
それは一瞬だが、噛みつこうとしたアスカの言葉を遮ってしまうもので、頭に手をやり顔を歪ませるアスカにローは気づく。
だが、今声をかけても『うるさい』やら『裏切ったくせに』やらと言われるのがオチなのはルフィよりも分かっているため心配だがあえて何も言わずルフィの衿を掴み、掴まれたルフィはニッと笑い『じゃあな!アスカ!もう少し待ってろよ!!』とアスカに言った。
その瞬間―――
「〜〜〜ん何を小賢しいィ〜〜〜!!お前らを王宮になど行かせる訳ねェだろうがァ〜〜〜!!この裏切り小僧がァ〜〜〜!!」
「"ROOM"――――"シャンブルズ"!」
「!!――――ぬあァ〜〜〜!!!」
『王宮へ行く』というローの言葉とルフィの『ミンゴを倒す』という言葉に逆上したディアマンテはヒラヒラの能力でぐにゃぐにゃとなっている剣を向けた。
その剣にローは傍にいたルフィの襟を掴んだまま…能力で王宮の『プールの庭』にあったタルと自分たちを交換した。
二人がいた場所に現れたタルはディアマンテの剣にスパッと切られ真っ二つになってしまう。
ディアマンテはローとルフィではなくタルを切ってしまい、悔し気な声を叫ぶ。
「…………」
アスカはそのディアマンテの叫び声を聞きながらズキズキと小さく痛む頭に手をやりながらひまわり畑を後にした。
178 / 274
← | top | back | →
しおりを挟む