ヴィオラはギロギロの実でトンタッタ族の姫であるマンシェリー姫を探していた。
マンシェリー姫はドフラミンゴ達に捕まっていると思っている。
マンシェリー姫は治癒能力のある悪魔の実を食べた。
そんな彼女を彼らが利用しないはずがない。
「すげェな…ここから王宮の中を見てんのか!?」
「ええ…『千里眼』よ…"視線"を自在に飛ばせるの」
ギロギロの実は、透視や千里眼の能力だ。
そのため、遠く離れた王宮の"中"も彼女には見えている。
『サンジが欲しがりそうな能力だ』と回復し体を起こすことができたウソップの呟きはタンクの声によって遮られた。
「おおーーウソップ殿!拙者でござるー!」
どうやら侵入者が現れたらしく、ウソップはビクリと肩を揺らしたが、その声や姿にホッと胸を撫でおろす。
タンクに拘束されていたのは、錦えもんだった。
ウソップの反応で知り合いだと気づいたタンクは拘束を解き中に入れる。
「錦えもん殿!ご無事だったのですね!」
「おお!直葉も……ってそなた頭巾はどうした!!」
直葉は錦えもんの姿に駆け寄ると、錦えもんは直葉に怪我がないことに安堵しつつ、その頭に頭巾がないことに驚いた。
「取られてしまったのです」
「ならば掛け直せ!あの男に見つかってしまうぞ!」
「大丈夫です!」
ショールを被せ直そうとする錦えもんだったが、直葉は胸を張って大丈夫だと言い切り、そしてジャラっと音を立てながら両手を見せる。
鎖が切れた手錠を見せられ、錦えもんはぎょっとさせる。
取ろうとするが、錦えもんが触れると体に力が入らず思わず手を離した。
「その手にある物はなんだ!?」
「ドフラミンゴに捕まっていました!だから頭を隠す必要はありません!」
「な、なにを自慢げにしておるのだ!だからあれほど気を付けろと…」
「あっ!カン十郎殿!」
「――話を聞かぬかァ!」
説教が始まる前に直葉は錦えもんの傍にいたカン十郎を見てそちらに駆け寄った。
完全無視された錦えもんは吠えるが、直葉が気にしない。
「直葉、そなた無事だったか…錦えもんから逸れたと聞いて心配した」
「この通り!捕まっていましたが逃げました!」
顔見知りが現れて直葉は嬉しそうに声が弾む。
直葉もカン十郎もお互い怪我がないようで安心した。
そんな呑気な二人に錦えもんは溜息をつくと、ウソップが錦えもんとカン十郎の傍にいるそれに気づき『うわっ』と声を漏らす。
「なんだその気の毒な生き物は…」
二人の傍には雀がいた。
小さな普通の雀ではなく、カン十郎達長身の男達の半分ほどの大きさを持つ雀だ。
普通の雀とは違い、なんだか同情してしまうほど哀れな生き物だった。
どうやらその生き物は錦えもんの知り合いらしく、それに関して後程説明してもらえるらしい。
「それより先刻、地上へ出て驚いた!すさまじき人の群れがこの台地を目指しており何事かと!」
「それなんだよ!国中の奴らがここに来ようとしてんだ!!」
どうやら錦えもんはカン十郎を探しに、地下にいたらしい。
無事見つかり、地上に出てみれば大騒動となりやっとの思いでここまでたどり着いた。
特に錦えもんはドフラミンゴによって懸賞金を掛けられていたから見つかっては大騒動になっていたらしい。
「この台地の登りにくさで攻め込まれずに済んでるんだが…」
ウソップは不思議そうに話す錦えもんに事情を説明しようとした。
しかし…
「ご安心なされよ!天狗の御仁!皆困っておったゆえ、それがしが゙網゙をはってしんぜた!!」
「え!!?」
「直、皆ここへ上って参る!!」
「なに余計なことしてんだてめェ〜〜!!」
「ん?」
錦えもんとカン十郎は可哀想な雀で飛んできたが、カン十郎は善意で下にいる一般人が昇れるよう網を描いてこの台地まで登れるようにした。
だが、それを聞いたウソップからは怒号を頂く。
どうやらウソップの首を取りに来ているらしく、それを聞いたカン十郎はガクリと跪く。
「見つけた!」
「見つかってたまるかってん…!―――え!?何を見つけたって!?」
自分の首だけではないが、5億という首に先ほどまで神のごとく崇めていた連中が目の色を変えて襲ってきたトラウマがあり、ウソップは顔を青ざめる。
その時タイミングが…良いのか悪いのか…何かを見つけたとヴィオラが叫び、その叫びにウソップは反応する。
どうやらヴィオラはずっと探していたマンシェリー姫を見つけたらしい。
「何たる失態!恩人に対し無礼を!!かくなる上はそれがし腹を切って詫びる所存!」
そんなヴィオラを他所に、恩人に仇で返したカン十郎は自身の失態を自身の命で詫びるため腹を切ろうとした。
「よせカン十郎ー!」
「ではよそう」
「うっせー!切れ!どうすんだ登ってくる奴ら!――で!誰だお前!」
「申し遅れたそれがしカン十郎と申す侍!」
片やマンシェリー姫を見つけたヴィオラ、片やもうすぐ自分の首を取りに来ると騒ぐウソップと呑気に自己紹介するカン十郎。
直葉はそんな大人たちを見て『グダグダやないかーい』と心の中で突っ込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇
ひまわり畑を降りアスカは『旧王の大地』を目指していた。
頭の痛みはすぐに治まり、アスカはドフラミンゴを最も怒らせた"長っ鼻の男"の下へと向かう。
三段目へと着地した時、アスカの周りには頭割り人形が並んでいた。
しかし味方であるアスカに攻撃する人形はおらず、不気味な人形に囲まれているの関わらずアスカは平然と王の大地に向かおうとする。
しかし突然周りにいたオモチャ達が一斉に人間へと戻っていき、アスカは思わず足を止める。
「またシュガーがやられた…!」
このオモチャ達はシュガーが作り出した人形である。
その為このオモチャ達が人間へと戻ったという事は…目を覚ましたはずのシュガーがまた気を失ったということ。
アスカは辺りを見渡す。
するとそこには見慣れた背が見え、アスカはその背の人物へと駆け寄る。
「グラディウス!!」
「!――リサ!?」
その背の人物とは…グラディウスだった。
オモチャにされた下っ端達に適当な事を言って誤魔化していたグラディウスはアスカの声にハッとさせ振り返る。
そこには敬愛するボスの妹であるリサの姿があり、目を丸くした。
アスカは仲間殺しをさせるためにすでに虫の息であろうウソップを殺しに行かせていたはずだったのだ。
そんなアスカがここにいるのに驚いたのだろう。
「どうしてここに…」
「あの長い鼻の男を見つけたからそこに向かう途中だったの…ねえグラディウス…まさかまた…」
「ああ…またシュガーがやられたらしい…!くそ…!まさかまたやられるとはな…!!」
グラディウスはそのシュガーがいるであろう王宮へと見上げ、それにアスカも釣られて見上げた。
その時、前方から女性の声がし、アスカは名前を呼ばれた。
「アスカ!」
名前を呼ばれ上げていた顔を戻しその声へ目を向ければ…アスカの"知らない女性"がいた。
女性の横には強面の緑の髪をした男と、美形であろう男がおり、どちらもアスカの知らない男達だった。
緑の髪の男はなんだか頬を染め目を輝かせてこちらを見ていたが、アスカはそこに触れてはいけないと野生の勘が言っていたため無視することにした。
アスカは知らない女に名前を呼ばれ気持ち悪そうに顔を歪める。
「誰、あんた?なんで私の名前知ってるわけ?」
「知ってて当然よ、アスカ…だって私はあなたの『仲間』だもの…」
「………」
またか、とアスカは思った。
また訳の分からない事を言われた。
『仲間』という言葉からして恐らく女はルフィの仲間なのだろうと察し、アスカはルフィの関係者というだけで当たりが強くなり、女を睨みつける。
妹のようなアスカに敵を見るような目で睨みつけられ、ロビンは悲し気な表情を浮かべた。
その表情を見たアスカは、胸が痛くなった。
思わず胸元の服を掴んだアスカはルフィと会ってから情緒が不安定になっていることに対して強いストレスを感じていた。
(ルフィの話は本当だったみたいね…アスカは私の事も忘れてる……こうしているといつものアスカなのに…別人のよう…)
ロビンはルフィと一度連絡を取った時、アスカの事を聞いた。
ルフィを疑っていたわけではないが、心の中では勘違いであってほしいと思っていた。
ロビンはナミやサンジほど過保護な姉ではないが、それでもアスカの事は目に入れても痛くないくらいには可愛いと思っているのだ。
そんなアスカに敵として認識されてしまい、悲しく、そして辛く感じる。
「アスカ――」
ローから手を出すなと言われ、その理由も聞いた。
納得できるかはどうであれ、アスカが怪我をしないのならローのその言葉を信じてもいいと思った。
だが、アスカ本人を目の前にしてしまえば、そんな考え消えてしまう。
ロビンはアスカに手を伸ばそうとした。
思い出してほしいと願った。
しかし、その願いをグラディウスが拒む。
「リサにちょっかいを出さないでもらおうか!――"投石パンク"!!」
グラディウスもドフラミンゴの宝を見守り続けた。
ロビン達がアスカを仲間と思っているのと同じく、グラディウス達も同じ気持ちである。
アスカが…リサがいなくなってからドフラミンゴは見ていられないほど滅入っていた。
時間と共に本来の調子に戻ったが、それでも時々リサを思い出しているようだった。
そんなドフラミンゴの宝が戻って来たのだ。
グラディウスも必死にもなるというもの。
能力を使い、アスカに手を伸ばすロビンを攻撃した。
だが…
「"バーリア"!だべ!!」
バルトロメオの能力であるバリアによって塞がれた。
それにグラディウスは舌打ちを打ち、バルトロメオはアスカへ声をかける。
「アスカ先輩!!思い出すんだっぺ!!ロビン先輩の事を…!!」
「ッ、はあ?思い出すって…なにを?」
「何もかもだべ!!アスカ先輩は麦わら海賊団の副船長でェ!!ルフィ先輩の片腕だべ〜〜!!異名のごとく敵には冷酷に!そして味方には慈愛の女神!!それがアスカ先輩だべ!!」
バルトロメオにもローの指示は通っているが、一ファンとしてアスカとロビンが敵対しているのを見ていられなかった。
だが、それさえアスカの頭には響き、痛みが走る。
ズキズキと片頭痛のような痛さにアスカは耐えられずしゃがんでしまい、頭を押さえるアスカにグラディウスが駆け寄った。
「リサ!?」
「…頭が痛い」
「!――大変だ…!!今すぐ医療班に…」
「大丈夫…治まったから…」
「だが…お前は若の大切な妹だ…リサに何かあれば若だけではなくおれ達も悲しい…だから…」
「大丈夫だって言ってるでしょ!!いつまでも子供扱いしないで…!!」
痛みに顔を歪ませていたアスカに駆け寄りグラディウスは心配そうに声をかけた。
聞けば頭痛がするというではないか。
アスカは、ドフラミンゴの大切な存在であり、宝である。
それはすなわちドンキホーテファミリーの宝でもあった。
その宝が不調を訴えれば当然心配し大げさにするだろう。
しかしそれが余計にアスカを苛立たせた。
アスカは自分の言った言葉にハッとさせグラディウスへ顔を上げる。
顔を上げて見上げて見るグラディウスの表情は傷つき悲しんだ表情ではなく、驚いた表情を浮かべる。
「ご、ごめん…ちょっと……初めての任務で…緊張してたみたい…」
アスカはグラディウスに当たってしまった事への罪悪感から、グラディウスの顔から逸らし、とっさの言い訳をした。
それを信じたかは分からないが、グラディウスは『そうか』と返し、アスカの頭を撫でてやる。
先ほどの苛立ちが嘘のように消え、そのグラディウスの手がとても暖かくてアスカの緊張も苛立ちも静まっていく。
「お前なら出来るさ、リサ…若は失敗してもいいと仰ってくれたんだろう?」
「うん…」
「じゃあ気楽にやればいいさ…おれ達だって失敗することだってある…失敗しても若もおれ達も怒らないから…な?」
優しいグラディウスの言葉が余計に罪悪感を強くさせた。
だが、初任務に緊張していたのもあって、彼の言葉はアスカに届いてもいた。
頷くアスカにグラディウスは目を細め笑みを浮かべる。
「行け、リサ!お前はお前のやるべきことをすればいい!他はなにも考えるな!」
そう言って背を背中を押してくれるグラディウスにアスカは頷きながら『ありがとう』とお礼を言い、そしてチラリとロビンを見た後ウソップの下へと走った。
「アスカ!!」
「待て!これ以上リサに関わらないでもらおうか!!やっと若の下にリサが戻って来たのだからな!!」
アスカが去ろうとし、それを追うとしたロビンの前にグラディウスが立ちふさがる。
ロビンは立ち塞がるグラディウスを睨みながら小さくなって消えるアスカの背を見送りながらグッと拳を握った。
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