(180 / 274) ラビットガール2 (180)

目的の人物の場所へと向かうには、どうしてもピーカを通り抜けなければならない。
否、別にピーカを通らなくても着くが、その場合遠回りとなる。
それが面倒でアスカは近道としてピーカの肩辺りに着地する。


「アスカ!?」

「…!」


着地した場所は偶然にもゾロの目の前だったようで、ゾロは目を見張ってアスカを見た。
アスカはロー、ルフィ、ロビンと同じく名前を呼び知っている風のこの男に対して反応を見せるのが面倒になって無言のまま旧王の大地へ向かおうと地面を蹴ろうとする。
だが、それを察したゾロに腕を掴まれてしまった。
アスカは腕を掴まれ、弾かれたようにゾロへ振り返る。


「放して!!」


ルフィ、ロー、ロビン、と続いた敵の予測できない行動にアスカはカッとなった。
怒鳴る様に声を上げればそれに強調したかのようにピーカの岩が二人を引き離すように間に生えるように現れる。
しかしゾロはアスカの腕を掴んだまま引っ張り、ピーカの思い通りにはさせずアスカを放すどころか力を入れる。
激痛とまではいかないが男の力で強く捕まれアスカは痛みに顔を顰めた。
だがゾロはそれでも放さず、向かってくるピーカの岩を刀一本で斬って捨てる。
すると間合いを取ったピーカが地面から現れゾロを睨む。


『リサに触れるな!』

「ハッ!そんな事お前に言われる筋合いはねェ!!大体アスカはリサって名前じゃねェよ!!」


ゾロもロビンも手を出すなと言われているが、それは戦うなという解釈をしている。
恐らくそれは間違いではないだろう。
アスカの過去はゾロには分からないが、アスカはドンキホーテ…正確に言えばドフラミンゴにとって大切な存在らしいという事だけは分かった。
しかし、それはゾロ達麦わらの一味も同じなのだ。
愛情の違いはあれど、サンジやナミ達のように分かりやすい愛情をアスカに向けないゾロでもアスカは大切な仲間だ。
ウソップのように自ら船を降りて対立するのとは違い、アスカは記憶を弄られて自分達を敵と誤認させられている。
敵対しない方が安全だからと黙っているほどゾロは冷めていない。
それに、ゾロだってアスカを攫うどころか記憶を書き換えた事に関して苛立ってもいた。
しかも向こうはアスカをアスカではなく、リサと呼んでいるのがまた腹立たしい。
リサもアスカの名前の1つであるようだが、明らかにピーカ達はリサではなく、そのドフラミンゴの妹として…ドフラミンゴが宝だと言うから大切にしているとしか見えなかった。
恐らくドフラミンゴが妹と重ねず大切にしなければゾロ達にするように簡単に殺そうとするだろう。
だからこそ、ゾロはピーカ達が呼ぶ『リサ』が耳障りで仕方なかった。
ピーカに鼻で笑った後ゾロは腕を掴んでいる手を放そうともがくアスカを見下ろす。


「アスカ!」

「、…っ!」


声を上げればアスカはビクリと肩を揺らす。
それはまるで大人に怒られた子供のようだった。
ゾロはロビンのように優しくは出来ない。
だからこそ強い口調になってしまうだろう。
アスカは今、混乱しているのだ。
元々幼い頃に知り合いだったローが自分を知っている事に対して何も思わない。
むしろ今更戻ってきて自分が何か忘れていると言いがかりをつけドフラミンゴを裏切らせようとするのが腹が立つとまで思う。
だが、ルフィ、ロビン、バルトロメオ、そして今目の前のゾロ…これらの人物達とは面識がないのだ。
誰だって初対面の人に見知った風を装われれば怪訝とさせるだろうし、決してこちら側が忘れているわけではなく、それが三回四回と連続に続けば逆にこちらが可笑しいのかと思い混乱してしまうのも無理はなかった。
ビクリと肩を揺らすも怯えた様子はなく、アスカはゾロを睨みつける。


「お前はアスカだ!!」

「そうよ!!だったらなに!?それがなんだっていうの!?」

「お前はアスカで!おれ達麦わら海賊団の副船長だろうが!!記憶を改ざんさせられたか知らねェが簡単に忘れてんじゃねェ!」

「―――ッ、し、らない、わよ!そんな、こと…ッ!!」


ゾロの言葉にズキリとまた頭痛がした。
その痛みは大きく、掴まれていない手で頭を押さえ肘をついてしまった。
それにゾロは怪訝とさせる。


「おい…どうし―――」

「―――話しかけないで!!」

「…!」


苦しそうに声を零すアスカにピーカが名を呼ぶが、アスカはそれが聞こえていなかった。
ズキズキと痛む中で不思議とゾロの声だけがアスカに届いており、そのゾロの声は大きく響き痛みが更に増す。
だからアスカは声を上げ、頭に手をやりながらギロリと痛む中、睨みつける。


「あんたが話しかければ話しかけるだけ頭が痛くなるのよ!!あんただけじゃない!あの麦わらの男や黒髪の女の時も…!!私に何をしたの!?仲間だとか言われたって知らないし意味わからないのよ!!!」


そう叫び、アスカは能力で下僕ウサギを出し、そのウサギがゾロの体にくっつきはじめる。
ゾロはルフィの次に長くアスカと共にしていた仲間である。
仲間だからこそアスカがどんな技を繰り出そうとしているのかを理解していた。


「"ラビット爆弾"を使うのか」

「…!?」


しかし、アスカにとってゾロは見知らぬ男であり面識のない男である。
だからゾロが自分の技を当てた事に目を丸くし指を鳴らそうとしたが止まった。
『なんで』と呟こうとしたが、また頭痛がアスカを襲う。
それを見てゾロはピンと来た。


(もしかして…記憶が戻りかけているのか…?)


頭が痛いというアスカにゾロは何となく気になった。
そして、鈍く鈍感でもあるゾロにしては珍しくこの時は頭が冴えていた。
ゾロはアスカの頭の痛さは記憶がよみがえりかけている前兆だと思った。
――アスカの頭痛は片頭痛ではなかった。
悪魔の実とはいえ無理矢理記憶を大きく改ざんさせたすぐに休ませず、消した存在である人物と会ったがために記憶が戻ろうとしていた。
本来記憶を改ざんさせられたり消された時、対象となる人物は眠りにつく。
それは眠る事で体に負担をかけずスムーズに記憶を弄れるからだ。
人間は眠り夢を見る生き物である。
それはただ単に体を休ませるためだけではなく、その日の出来事を整理しているとも言われている。
その原理で、ルイーズに能力を掛けられた者は必ず眠りにつく。
ただし、元から眠っている相手の場合眠っている間に能力を使えば自然と眠りから覚める事があるのだ。
アスカの場合は、後者だった。
ただルイーズの能力はレベルの数が高ければ高いほど完璧ではない。
不完全でもないが、ちょっとしたことで記憶は蘇ることもある。
それはルイーズにもどうすることもできない事で、更に言えば人体の不思議でもある。
このままいけば恐らくアスカは記憶を取り戻す。
だが、このままいけば、体に影響が及ぶ可能性もあった。


「な、んで…ッ」

「何で能力を知ってるか?そりゃ知ってるに決まってんだろ!おれ達はお前の"仲間"だからだ!おれ達全員お前がどんな能力を持ってどんな技を持っているか知っている!!!」


ゾロが仲間だ仲間だと零すたびに頭痛が酷くなる。
ブチブチと何かが切れそうに痛くて聞こえないはずの何かが切れる音が聞こえそうだった。
ズキズキと痛む頭を抱え立っていられなくなったアスカは座り込む。
ゾロはそんなアスカに更に声を上げようとしたその時―――


『"蛸石フルポストン"!!』


甲高い声と共に周りの岩が触手のような形に変形し、ゾロを突き刺そうしていた。
それに気付いたゾロはアスカの腕を掴んだまま避けようとするも、触手の岩の一部がアスカの腰に巻かれ勢いでゾロはアスカから手を放してしまった。
ゾロから離れれば痛みも治まっていき、アスカの傍にピーカが現れ背中を擦ってやる。
アスカはピーカの大きな優しい手に顔を上げる。


「…ピーカ……」

『大丈夫か?』

「…うん…頭が痛かったけどもう治った」

『そうか…なら急いでドフィのもとに戻れ』

「!―――な、んで…」


ピーカもグラディウスのように背中を押してくれると思った。
だが意外にもピーカはドフラミンゴの元に戻そうとした。
それに目を丸くするアスカにピーカは真剣な表情を浮かべるだけだった。


「どうして…私ちゃんとやれるよ…私…ピーカ達が思ってるほど子供じゃないよ…」

『子供だ大人だの問題じゃない…頭が痛かったのだろう?なら無理をせずドフィの傍に…』

「わ、私は子供じゃないってば!大丈夫…ちゃんと出来るから…絶対に失敗しないから…お願い…ドフィには言わないで…」

『リサ…しかし…』


アスカの記憶には、今日までドレスローザの王宮の奥に仕舞いこまれた記憶が埋め込まれている。
それは今まで存在しなかったアスカが突然手下達の前に出た際の不都合を調節するためだ。
幹部なら話を合わせることができるが、事情を知らない手下との会話でアスカが違和感を覚えないようにするための処置だ。
そうでなくても、恐らくはドフラミンゴの手で育てられた場合でもアスカは奥に仕舞いこまれていただろう。
それはもう秘宝である『ワンピース』のごとく大切に誰の目にも映さぬように。
それほどドフラミンゴはアスカを愛しているのだ…いや、愛しすぎていた。
とはいえ、ドフラミンゴの大切な宝物を壊れ物のように扱うのは当然であり、頭痛がすると聞けば当然大事を取る選択をするのは当然だ。
だが、アスカは違う。
アスカの記憶には仕舞いこまれた寂しさが生まれていた。
淡白な性格をしているものの、アスカは寂しがり屋な性格をしている。
記憶を改ざんし、閉じ込めた方が都合がいいとはいえ、その記憶は寂しがり屋なアスカにはつらい思い出だ。
だから、ここで引き返せばどんな任務だって任せられないと思われまた部屋に閉じ込められると思ったのだろう。
ピーカが何か言いかけたのに気づき、アスカはそれを遮る様に地面を蹴って飛び降りる。


『待てリサ!』

「大丈夫!無理だって思ったらちゃんと戻ってくるから!!」


慌てて能力でアスカを引き止めようとすると、それまで大人しくしていたゾロが覇気を纏い邪魔をする。
アスカを引き留めるのを邪魔をされ苛立ちと腹立たしさを込めてゾロを睨みつけたピーカを、ゾロは薄く笑って返した。

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