1人が声をあげれば周りの者達が今までの鬱憤をアスカに向ける。
国民たちはドンキホーテファミリーの中にアスカの姿を一度として見たことはないが、現状やその言葉、態度からドフラミンゴの部下だと思い、王や王女たちを引きずり下ろすだけではなく、国民に王の孫を憎ませ汚い罵倒や恨みを向けさせ、そして自分たちにもオモチャにし弄んでいた恨みや憎しみをアスカに全てぶつけた。
アスカは関係ないというのに。
アスカは本当は味方だというのに。
それを知っているのは仲間であるウソップと直葉、船を共にした錦えもん、その錦えもんから聞いていたカン十郎、リク王とヴィオラ王女、そして死に別れたと思っていたサボから聞いていたハックだけである。
動けないウソップを除いた6人は少女一人を殺さんばかりの勢いの国民たちを何とか宥めようとするも、恨んでも恨み切れない敵を目の前に溜まった鬱憤はそうそう収まらない。
自分たちが王を恨み追いやった罪悪感もあったのだ。
しかしアスカは平然と怒りで顔を歪める国民たちを冷静に見渡した後、下僕ウサギを一羽出現させた。
アスカがウサギを出し、最初は能力者だという事にどよめきだった。
だが、アスカ自身華奢な美少女であり、そしてその能力がウサギという戦闘には向かないという事から国民たちは気持ちを持ち直しアスカを捕まえ痛めつけ殺し、あわよくばドフラミンゴにその遺体を突きつけてやろうとする。
直葉もリク王もヴィオラ王女も、カン十郎も錦えもんも、ハックも…アスカの本当の能力を知らないからアスカの命の危険を感じていた。
だがウソップは違った。
(何で下僕ウサギだけを……―――!、まさか…!)
ウソップはアスカの仲間だ。
メリー号からの付き合いで、苦楽を共にした仲間だ。
ルフィやゾロやサンジほどではないがアスカが強いのだって知っているし、頼りにしている。
だからアスカの大抵の技も見たことがあった。
二年前までの情報だけだが、今、アスカが国民の数に対して一羽のウサギしか出さないのは何故か…引っかかっていた。
それも長身ならまだしも、普通サイズの下僕ウサギである。
国民程度なら下僕ウサギでも十分であろう戦闘能力だが、流石に錦えもんやハック達がいるため一羽で暴れるのは無茶がある。
ウソップは怪訝としていたがハッと何かを思い出した。
「やめろ……っやめろ!!アスカ!!」
アスカが何をしようとしているのか分かったウソップは叫んだ。
その叫びで国民やリク王がウソップへ気を逸らしてしまい、その隙をアスカにつかれてしまう。
ウソップの制止をよそにアスカは無言で静かに手を上げ、親指と中指の腹をくっ付ける。
それと同時に下僕ウサギが前列にいた一人の男に向かって飛びかかった。
そして…
「"ラビット爆弾"」
それは一瞬だった。
アスカの合図でウサギが国民である一人の男に向かって飛びかかったのも…そして―――ウサギが何かに押されるように横へ飛ばされたのも…一瞬だった。
ブゥン、と低い音と共に押し飛ばされたようなウサギは壁に当たり、その瞬間にアスカが指を鳴らしたため一羽のウサギが爆発した。
周りは一瞬の出来事に目を丸くしており、アスカも驚いていたがすぐに冷静になり国民を庇った男…大将である藤虎を睨む。
アスカの睨みに盲目である藤虎は受け流し、カツカツと杖を使ってアスカとの距離を保ちつつ向かい合った。
「困りやすねェ…そう勝手に市民に手を出されちゃ…」
「手を出されたら困る?あんたもそれに一枚噛んでたくせに…今更海軍ごっこを続けるつもり?」
ウサギが突然爆発したのも、庇ったのが大将だということも、国民達から動揺が走った。
ウソップはアスカが国民を傷つけなくてホッと安堵する。
「誤解しちゃいけねェや…海軍すら騙そうとしていやしたのはそちらさんの方でござんしょう?」
「でもあんた達海軍はこの国の現状を見抜けなかったでしょう?だからあんたらも私達側のはずなんだけど…この責任を全てドフィに被せて自分たちは被害者面するの?まるでこの国の人達みたいなことするのね」
「―――ふざけんな!!おれ達はお前らドンキホーテファミリーに騙されて来た!!全てお前らのせいだろ!!!」
「そうだ!!よくもおれ達をオモチャにして奴隷同然に扱いやがって…!!!今度はお前らが奴隷になる番だ!!」
アスカの言葉にまた国民たちが声を荒げた。
自分たちが被害者面しているような言い方に腹を立てたのだろう。
錦えもんは怒りが収まらない国民達の熱に、姉を心配そうに見つめる直葉を背中に隠すように避難させる。
直葉の血筋から、本来は錦えもんが直葉を守るなどありえない。
だが、直葉はまだ子供。
それも自分たちと敵対していない子供だ。
守らない理由にはならない。
アスカは『奴隷』という言葉にピクリと反応させる。
ウソップも『奴隷』という言葉に『や、やめろ!これ以上アスカを刺激するな!』と国民に慌てて口を閉ざすよう言うが、吐き出してしまった物は収まらない。
次から次へと罵りの、それも奴隷になれという便乗した言葉を上げる国民にアスカは一瞬にして最初に『奴隷になる番だ』と言った男の間合いを詰め、蹴りを入れようとした。
しかし、その間を藤虎が入り、鞘を付けた刀でアスカの足を止めた。
藤虎が間に入った事で自分が蹴られそうになっているのにやっと気づいた男はドサリと腰を抜かし座り込む。
アスカの力は馬鹿力を優に超えており能力を使わなければ藤虎は押されていただろう。
だがアスカは間に入った藤虎ではなく、座り込む男に鋭い目で見下ろしていた。
その瞳は争いなど無縁だった男にとって心臓が止まるほど恐ろしいもので、ガタガタと体を震え、周りの国民たちもそのアスカの険しい表情に怒号も勢いも止まりその場は静まり返る。
アスカはギリッと奥歯を噛みしめ憎々しい目で男を見下ろしていた。
「ふざけてんのはお前らの方だ!!あんな扱いが奴隷!?たかがオモチャにされこき使われただけが奴隷扱い!?お前らに本当の奴隷がどんなものか教えてやろうか!!」
アスカは記憶を改ざんさせられても奴隷だったという記憶はそのままにされていた。
それはエイルマーの記憶もそうだが、アスカ自身に深く根付いている記憶を消し書き加えたりすると逆に記憶が戻る原因になるからだ。
ウソップはアスカが過去に奴隷だったというのを知っているため、アスカの言葉がどれだけ重いのか感じ取れていた。
アスカは声を上げたのと同時に、足に力を入れ藤虎の刀を弾く。
弾かれた藤虎は少し後ろへ下がる程度で、腰を抜かした男は傍にいた国民たちに引っ張られ後ろへ下がる。
すでにアスカは男など見ておらず目の前の藤虎だけを見据えていた。
その瞳に冷たさはなく、怒りで燃え上がっていた。
「一々邪魔してきて鬱陶しい…!まずはお前から殺してやる…!!」
「それはやめた方がようござんしょう…あんたじゃあっしには勝てねェ」
「―――知ってるわよそんなこと!」
弾いたときにアスカと藤虎の距離が開き、アスカはその開いた距離を縮めようと地面を蹴る。
藤虎もアスカも自分たちの力がどれほど差があるのか分かっていた。
だから藤虎はアスカを止めるもアスカはそれを理解しながらも藤虎に向かう。
アスカはドフラミンゴから言われた『失敗してもいいから帰ってこい』という言葉が消えていた。
それほど『奴隷』にアスカは怒りを覚えたのだ。
「仕方ない……どうなろうと恨まないでくだせェ」
グッと拳を握りこちらに向かってくるアスカに藤虎は刀を抜く。
海軍の得ている情報ではアスカは麦わらの一味らしいが、今はどうやらドフラミンゴ側らしい。
それに怪訝とし真意を掴めないから様子見として手加減をしていた。
だが、アスカ自ら向かってくるのなら、最低でも気を失わせる程度の事はさせてもらうつもりだった。
刀を抜きアスカを相手にする藤虎にウソップが制止の声を叫び、錦えもんは藤虎を止めようと駆け寄ったその時―――
「駄目だよ!アスカ!」
聞き慣れない声があたりに響いた。
その瞬間藤虎とアスカの間に白い塊が上から落ち、アスカはその白い塊が何なのか確認するよりも体が動き咄嗟に後ろへ飛び下がる。
182 / 274
← | top | back | →
しおりを挟む