「な、なんだ!?何が起こった!?」
「何か降ってきたでござるが…あ、あれは…ウサギ!?」
ウソップ達も一体何が起こったのか分からなかったがアスカと藤虎の間に一匹のウサギが立っているのが見え、落ちてきたのはあのウサギだと言う事だけは分かった。
「長身ウサギ…?」
錦えもん達の声にウソップもウサギを見る。
そのウサギは真っ白な毛を持ち長身の体…アスカがよく出す長身ウサギそのものだった。
ただ違いはアスカが良く出す長身ウサギはヤクザも顔負けの強面だが、2人の間にいる長身ウサギは優し気な顔をしていた。
チラリとアスカを見るとアスカは驚いた表情を浮かべているように見え、ウソップは怪訝とさせる。
アスカが出すウサギは能力者であるアスカが全て把握し完全に制御しているはずなのだ。
だがアスカは目の前のウサギを見て驚いている…それはアスカが出したウサギではないという事。
ということは……このウサギはアスカが出したウサギではない本物のウサギということになる。
そのウサギは藤虎に背を向けじっとアスカを見つめており、突然降って落ちてきたように現れたウサギとアスカの雰囲気から藤虎は静かに構えを解く。
アスカはその瞳を見てなんとなく懐かしさを感じた。
その懐かしさには覚えがあった。
「………兄さん…?」
その懐かしさに思わず呟いてしまう。
しかし呟きながらも自分は何を言っているんだと心の中で首を振る。
兄は死んだのだ。
ドフラミンゴを裏切り海軍が迫っている状況で自分可愛さに妹を捨てて一人だけ逃げ出そうとした。
しかし結局兄は、エイルマーは…それに気づかれディアマンテに殺されてしまった。
死んだ人間が蘇るわけがない。
もし蘇ってくれるのなら…ドフラミンゴは自分を妹として愛するはずがなく本物の妹を蘇らせるはずなのだ。
しかし目の前のウサギからは懐かしく感じるのも確かで、アスカは混乱し始めている。
エイルマーはウサギ姿でも兄だと分かり嬉しくて笑顔が浮かぶ。
「そうだよ!ぼくだ!アスカ!!お兄ちゃんだよ!!」
ウサギが…兄であるエイルマーがアスカに手を差し出すもアスカはビクリと肩を揺らす。
その声も幼い頃聞いたことある兄の声そのものだったのだ。
ウサギの姿でもアスカの目には兄に見えた。
エイルマーはあの後地形の変動で他の人達と共にコロシアムから逃げる事が出来た。
アスカを探し回ってようやくここにたどり着き、エイルマーはアスカの前に立ち、国民たちや藤虎を傷つけようとしているのを見て止めたのだ。
一歩歩み寄ってくるウサギにアスカは同じく一歩足を後ろへやる。
アスカはウソップ達以上に後ずさりながら信じられないと言わんばかりに首を小さく振る。
「ち、ちがう………に、兄さんなわけがない……兄さんであるはずがないっ!……だって…兄さんは死んだはずなのに…っ」
アスカは死んだ人間がウサギになって生き返るなんておとぎ話信じるつもりはない。
でもアスカは目の前のウサギが兄だと分かっていたが…信じたくはなかったのだ。
一歩、また一歩と後ろへ下がり、壁にぶつかってしまう。
それでもアスカは兄を恐々と見つめていた。
その様子にエイルマーは『死んだと聞いたと思うし…仕方ないか』と寂しく思いながらも幽霊を目の前にすれば怖がるのも無理はないと誤魔化すことにした。
だからエイルマーはそれ以上アスカに近づかないようにする。
「アスカ…ぼくは死んだよ…それは確かだ…だけどぼくは今、こうしてアスカの前にいる…だから…」
「―――の…」
「え…?」
「ドフィに復讐しに来たの…?」
「アスカ…?」
できることなら受け入れてほしい。
それが無理でも拒否はしてほしくなかった。
あんなにも可愛がっていた妹なのだ。
両親が亡くなり男手一つで恋一つせず育て愛した妹。
そんな妹に拒否されるなんて死んだ方がマシである……まあ…もう亡者ではあるが…
幽霊でもあることを伝えたエイルマーだったが、ポツリと呟かれたアスカの言葉に怪訝として聞き返す。
アスカはギロリとエイルマーを睨み、妹の鋭い瞳にエイルマーは表情を強張らせた。
エイルマーが顔を強張らせたのと同時にアスカはエイルマーへ拳を向けて放った。
「兄さんはドフィを裏切ったくせに…!!殺されたのを根に持ってドフィに復讐しに来たのね!」
アスカの殺気にエイルマーは咄嗟に飛び下がり避ける。
するとそこにはアスカの拳によって抉れた地面が目に映り、エイルマーをはじめアスカの能力を知らず舐めていた仲間のウソップと大将である藤虎以外の全員がギョッとさせた。
そんな周りをよそにアスカはエイルマーしか見ていなかった。
今のアスカは頭に血が上り正しい判断が出来ず、記憶だけの情報で決めつけていた。
それは仕方のない事だと思うが、アスカが記憶を操作されていると知らないエイルマーはなぜドフラミンゴを庇っているのかが分からず混乱する。
「アスカ!!やめるんだ!!なぜぼくを攻撃する!?」
「兄さんはドフィの敵だ!!だから私の敵でもある!!」
「馬鹿な事を言うな!!なんでぼくが君の敵になる!!ぼくはアスカの味方だ!!分かるだろ!?」
「分からない!!あんたの言ってることがちぐはぐすぎて意味が分からない!!みんなそうだ!!みんな…みんなみんなみんな!!みんな意味が分からない事ばかり言ってくる!!!」
ズキズキとまた頭が痛くなった。
だが、自分を捨てた兄への恨みがアスカを動かしていた。
パンチを避けられたアスカはエイルマーに向かってまた攻撃を仕掛ける。
アスカはまたよく理解できない事を言われた。
ルフィもローも、ゾロも、ロビンも、エイルマーも…アスカを混乱させることばかり言っていた。
アスカはそれを敵が混乱させるために言っているのだと思いこもうとしても、どうしてもそうは思えなかった。
それは根付いている記憶のせいかもしれないが、それでも今のアスカにとったらエラーそのものだった。
だからそのエラーをアスカは削除し解決しようとした。
パソコンのように強制シャットダウンが出来ない人間の身だからエイルマーを殺して自分の思い込みを正当化しようとしていた。
「亡霊は亡霊らしく死んでいろ!!!」
ダン、と足で地面を蹴ると地面から白いふわふわした背びれのようなものが現れエイルマーに向かっていく。
それは一瞬背びれが地面に消えたと思った次の瞬間、エイルマーに向かってサメのようなウサギが鋭い牙を生やした口を大きく開ける。
それを見て目を丸くしながらエイルマーは咄嗟に避ける。
エイルマーを食べようとしたサメのようなウサギ…『ラビットシャーク』は地面を抉って姿を消す。
硬い地面をも食ってしまうその技にぞっとさせながらエイルマーはアスカへと振り向く。
「ま、待ってくれ!アスカ!!なんでぼくを攻撃しようとするんだい!?それに敵というのも…!!なんでぼくがアスカと争わなければならないんだ!」
エイルマーはアスカが記憶を操作されているとは知らない。
だから兄と認識されながらも敵として認識されているのが分からなかった。
避けたエイルマーの言葉に苛立ちながらアスカはまた『ラビットシャーク』を出した。
今度は威力を半減させる代わりに数を増やす。
威力は減ったがスピードは変わらず速く、エイルマーが避けようとしても追っていき地面から飛び出てくる。
そのサメのようなウサギは、普通の強面の長身ウサギとの違いは、顔つきが更に凶悪となり、歯も爪も性格も更に尖り狂暴だった。
普通のサメと違い陸上にも対応できるのか逃げるエイルマーをラビットシャークが追いかける。
「やめてくれ!!アスカ!!なぜぼくと争う!?ぼくと君が争う理由なんてないだろ!?」
「うるさい!!黙れ!!争う理由がない!?大ありだ!!あんたはドフィを裏切って私を捨てた!!あんたは忘れてるかもしれないけど私は覚えてる…!!あの時あんたは海軍が襲って来たのを知ってまだ幼かった私を置いて一人だけ逃げた!!ドフィが来てくれなかったら私は今頃海軍に捕まって殺されてた!!それなのに争う理由がない!?私が宝物!?妹!?そんなの都合が良すぎる!!」
「アスカ!!違う!!ドフラミンゴは…」
「あんたの戯言はもうウンザリだ!!あんただけじゃない!ローも麦わらの男もここまで来るまでに会った奴らにも…!!もう…!!もう嫌だ!!!いい加減にして!!今更私の前に現れないでよ!!!」
「…ッ!」
ずっと会った時からルフィとローが気になった。
さも自分を仲間のように声をかけるルフィに、捨てた事に対して罪悪感がない様子のロー。
更にはここに来る途中にも三人もの人間に同じ様な事を言われた。
記憶を書き換えられたばかりで不安定なのもあったのか、ルフィたちの言葉でアスカは混乱しパニックを起こし頭の痛みも続く。
それはルイーズがドフラミンゴに言わなかったために起こった状態。
ルイーズは脅されていても肝心な事はドフラミンゴに言わなかった。
ルイーズの能力は記憶を書き換えることができる能力。
だが、完全に記憶を定着させるには時間が掛かるのだ。
アスカは本来、記憶を固定させるには数か月は安静にしなければならない。
それを言わなかったのは言わば『やり返し』と同じである。
散々恐ろしい思いをさせ娘と引き離してくれた海賊への小さな反抗。
あの時は自分が死ぬと思ってもいなかったルイーズはドフラミンゴに最後の仕上げを話す事はなく殺された。
だからドフラミンゴはアスカが今、情緒不安定な時期だとも知らず仲間殺しをさせようとした。
エイルマーは完全に自分を拒絶するアスカに絶句した。
立ち尽くすエイルマーにアスカは地面を蹴り素早くエイルマーとの距離を縮め、思いっきり拳を振りかざす。
だが…
「"必殺緑星!デビル"!!」
「…!!」
一瞬にしてエイルマーの懐へと入り込んだアスカは後は拳をエイルマーに入れるだけだった。
だがアスカの真下の地面から植物のようなものが生え、アスカはそれに気付き咄嗟に後ろへと下がる。
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