暫くアスカは悲しみに暮れていたが、落ち着きを取り戻したのか周りを気にする余裕が出てきた。
涙を拭いながら辺りを見渡せばそこはどこかの建物の屋上だということが分かり、そして次に音が聞こえた。
ズズズと何かが這うような音と、岩などの硬い物が壊れるような音、そして人々の叫び声や泣き声、雄たけびなども聞こえた。
ふらりと覚束ない足で立ち上がり下を見下ろせば国民たちが逃げ惑っている姿が見えた。
そして、同時に鳥カゴの糸が動いているのも見えた。
(鳥カゴが閉じようとしてる…じゃあ残ってる時間は…1時間もないって事か…)
兄との別れはまだ乗り越えられてはいない。
正直エースとの別れだって本当の意味で乗り越えられていないのだ…実兄との別れも同じだった。
だけど今は感傷に浸っている暇はないという事だけは流石に分かる。
アスカは『鳥カゴ』の事はドフラミンゴから聞いていた。
ただし、聞いただけで実際使ったところは見たことはない。
それは当時アスカが幼く大切にされていたから海に出る時は必ずアジトに置いていかれていたからだ。
鳥カゴは能力者本人がいる位置を中心に時間をかけてゆっくり傘を閉じるように収縮させることも可能で、約1時間で鳥カゴの中は完全に閉じる上に収縮速度を速めることもできる、と昔聞いた説明を思い出す。
アスカが気が付いた時すでに動いていたのであとどれくらいかは分からないが、鳥カゴを発動した時よりも糸が近くなっているが分かった。
アスカは下僕ウサギと長身ウサギをギリギリ出せる数だけ出す。
それは二年前にくらべるとはるかに多く、みんな主人の命令を待っていた。
「糸を止めに行きなさい」
アスカはウサギすべてに覇気を纏わせそう命じた。
多分、だが…ゾロ達は糸を止めようとしているだろう。
見てはいないが麦わらの海賊団のクルーが黙って逃げるわけがないのだ。
それを言えばきっと『流石副船長だぜ!』と言われるから一生言わないが、アスカはその手助けになればと思いウサギを出した。
本当は散っていったウサギと共にアスカも行った方がいいのだが、アスカにはまだやることがあった。
(ルフィ…ロー…)
それはルフィとローを探す事だった。
ドフラミンゴと対峙することはきっとアスカには出来ない。
それは力不足だというのもそうだが、記憶を取り戻したアスカには彼との記憶が立ち向かう事を阻んでいたのだ。
ドフラミンゴのしていることは悪だという事は分かる。
記憶を取り戻しながらもアスカはルフィとローと共にいることを選んだのだ…今更ドフラミンゴの傍にはいられない。
だけどせめて一目だけでも…彼等の無事をこの目で確かめたかった。
ウサギ達が向かった方とは真逆の鳥カゴの中心へとアスカは移動しながらルフィやローを探す。
◇◇◇◇◇◇◇
ギャッツは逃げ惑う民衆を掻き分けある人物へと駆け寄る。
その人物は満身創痍で、立ち上がろうとするも悪魔の実の能力者であるその人物はその特徴である"ゴム"で腕がぐにょんと曲がりふらりと倒れそうになった。
それをギャッツが腕を掴んで支えてやる。
「海賊"麦わら"!おれが分かるか!?」
「?」
「コロシアム実況の『ギャッツ』だ!!」
気を失っているわけではないようで、ギャッツの声にその人物―――麦わらのルフィは反応し顔を上げた。
うつろな目をしており意識もはっきりとはしていなかったようだ。
『謎の剣闘士『ルーシー』の正体はお前だな!?』と声をかければ弱弱しくだがルフィが頷いた。
それを見て色々引っかかっていたものがなくなる。
「ドフラミンゴが来るぞ!?どうする"この試合"!!何か協力できる事はねェか!?」
国民たちは逃げ惑いながらも倒れそうになるルフィを見て助けようとする者もいた。
だがルフィがドフラミンゴと同じ『海賊』だからと警戒する者達に引き留められ、ギャッツのように駆け寄る事は出来なかった。
ギャッツの言葉にルフィは息を荒くしながらも答える。
「…10分、ほしい……『バウンドマン』をやったらその後10分…覇気を使えなくなる…」
ギャッツは一般人なので『覇気』というものを知らない。
首を傾げるギャッツをよそにルフィは続けた。
「おれは逃げ回るけど…その間あいつが何するか…わからねェ…覇気さえ戻れば…あと一撃で必ずカタをつけられる…!!」
「"あいつ"の支配は…それで終わるんだな…!?おい!!10分稼げば…おれ達を『鳥カゴ』から出してくれるんだな…!?」
あれほどドフラミンゴを王だ王だと敬意を払っていたギャッツだったが、彼がどれだけの事をしたのか知ると敬意ではなく憎悪に変わる。
ドフラミンゴを『あいつ』と言うギャッツの言葉にルフィは…
「約束する…!!」
そう断言した。
その力強い目や言葉にギャッツは疑いなど一切生まれなかった。
ギャッツが『よし!』と強く頷くと後ろへと振り返る。
「10分だ!!頼むぞ!お前ら!!」
「ウオオオオオ〜〜!!」
後ろへ振り返るギャッツに釣られ目をやればそこには多くの剣や盾を持った男達が立っていた。
それらの顔に見覚えがないルフィは怪訝そうにし、それを見たギャッツが『大会の出場者だ』と教えてくれた。
しかもその出場者達は救われながらも敵に回った所謂裏切り者であった。
「すまねェルーシー!!お前らの首に掛かった金に目が眩んだ!!」
「まさかドフラミンゴを追いつめるなんて夢にも思わなかった!!すまねェ!!」
「お詫びの印に―――お前を信じて命をかける!!」
億の金に目が眩み懸賞金に掛けられたルフィ達を捕まえようとした出場者達はその詫びをしようとした。
しかもこちらに近づいてきているドフラミンゴを命を懸けて止めようとしていた。
無茶なのは分かってはいるがこれが彼等なりの詫びだとギャッツは半分ついてくるように伝えながらルフィを生かすために走る。
10分逃げ切ればこちらの勝ち―――だが、追いつかれればルフィだけではなくドンキホーテファミリー以外の人間全てが死に、負ける。
10分の間、ギャッツと出場者に全てが掛かっていた。
だが…
「ウィ〜!ハッハッハ!!死ね!"麦わら"ァ!!」
「バ…!!バージェ〜ス!!!」
建物の壁を壊し、バージェスが現れた。
新たな敵にギャッツは顔を青くさせぎょっとさせる。
バージェスの手には鋭いナイフが握られており真っすぐ弱まっているルフィへと向けられていた。
ギャッツは一般人なため黒ひげ海賊団であるバージェスの攻撃を避ける技術はない。
こうして驚きの声を上げている間もバージェスの刃はルフィに着々と向けられていた。
あと数秒でルフィに刃が刺さると思ったその瞬間――――バージェスの体にウサギが張り付き、そして…
「"ラビット爆弾"!!」
爆発した。
ギャッツはバージェスが現れナイフを向けてきていたと思っていたら突然体を爆発し、先ほど以上に驚きを見せる。
しかしそのお陰でルフィに向けられたナイフはバージェスごと吹き飛んでくれた。
「ルフィ…っ!!」
「っ、…アスカ…?」
バージェスから見たら一瞬の出来事で何が何だか分からなかった。
だが、バージェスの耳に聞き慣れない少女の声がしそちらに目をやった。
ルフィもその声に目を丸くさせる。
そこにはこちらに駆け寄ってくるアスカの姿があった。
アスカはルフィとローを探しながら王宮へ向かっていたのだがルフィを発見し、ギャッツの背に背負わされているのを見てただ事ではないと思い駆け付けようとした。
そして逃げようとするルフィの元へと向かおうとする途中にバージェスがルフィを殺そうとしているのを見て咄嗟に残った下僕ウサギをバージェスの体に張り付かせ『ラビット爆弾』を発動させたのだ。
ギャッツは一応話題の海賊、麦わらの一味の手配書に目を通していた。
だからすぐにアスカが麦わら海賊団の副船長だと分かった。
小柄なルフィがドフラミンゴに立ち向かう力があるのを認めているのでアスカも何かの能力者だろうと思ってはいたが、頭とお尻に生えている白く可愛らしい耳としっぽを見て正直残念に思った。
が、それもすぐに撤回する事になる。
「てめェは…"冷酷ウサギ"だな!?よくも邪魔してくれたなァ!!!」
黒焦げのバージェスを見たのだ。
四皇である黒ひげ海賊団の幹部ともいえるバージェスは強い。
そんなバージェスの体を黒焦げにするほどの威力をアスカは持っているとギャッツは考えは改める。
邪魔者として自分を襲おうとするバージェスにアスカは睨みつけながら振り返りグッと拳を握った。
大切な船長を、そして大切な人を傷つけようとするバージェスとの喧嘩に遠慮はいらず能力をフルに使ってでも倒そうと思った。
しかし…アスカが足に力を入れ巨体を持つバージェスを殴り飛ばそうとしたその時―――一瞬にしてアスカの前に庇うようにして現れた黒いコートを着た金髪の男がアスカの代わりにバージェスを蹴り飛ばしてしまい、アスカは目を見張り呆気に取られる。
しかも…
「!―――サボ!」
ルフィの言葉にアスカは言葉を失う。
188 / 274
← | top | back | →
しおりを挟む