(189 / 274) ラビットガール2 (189)

アスカは着地した男の背を絶句しながら見つめた。
男は黒いコートを来て同じく黒い帽子を被っていた。
その手にはパイプ管が握られていた。


「革命軍の参謀総長だァ〜〜〜!!」

「―――、っ!」


ルフィの呼んだその名にアスカは絶句していた。
『サボ』という人物は死んだはずなのだ。
エースよりも前に、エイルマーよりも後に、アスカの大切な人の一人であるサボは天竜人によって殺された…はずだった。
周りの叫び声にハッと我に返ったアスカは改めてサボだと呼ばれた男の背を見つめる。
アスカに背を向き倒れているバージェスにパイプ管を向けているその姿では顔までは見れず、いくらルフィが呼んだとは言え信じきれずアスカはまだ疑っていた。


「おれは革命軍の"サボ"…!!"麦わらのルフィ"と"冷酷ウサギのアスカ"の兄貴だ…!!あいつらに何か用か!?バージェス!!」


声を聞いてもアスカが覚えているサボの声ではなかった。
死に別れたのは声が変わる前の幼い頃だからそれは当然ではあるが、だから余計に信じきれなかった。
バージェスはサボと呼ばれた男の言葉に怪訝としながら起き上がる。


「"麦わら"と"冷酷ウサギ"の兄貴〜〜?……どこかで聞いたセリフだ…!」

「!―――"火拳のエース"もそう言ってたろ?おれ達は『四兄弟』さ!」


サボと呼ばれた男の言葉にギャッツが『ええ!?』と驚愕の声を零すが、それと同じようにアスカも驚いて見せた。
自分たちの兄だと言える人物は二人だ。
1人はエース、そしてもう一人はサボ。
アスカの疑いが少しだけ晴れ掛けてはいるが、まだ信じきれていない。


「『バナロ島の決闘』で…お前ら黒ひげ海賊団がエースを捕らえそれがあの忌々しい『頂上戦争』の引き鉄になった…!!エースの人生だ…別にお前らを恨みやしないが……―――以後ルフィとアスカのバックにはおれがついてる!!よく覚えておけ!!!」


サボと呼ばれた男の言葉にアスカはグッと拳を握った。
ああ、サボらしい言葉だと思ったのだ。
彼は厳しいエースの代わりに弟と妹に甘かった。
そんな弟と妹に手を出せば革命軍の参謀総長の逆鱗に触れると言っているのも同じで、それを聞いて甘い彼らしい言葉だと本当に思ったのだ。
そんなサボと呼ばれた男の言葉にバージェスは笑い声を上げる。


「ウィーッハッハッハ!!てめェらの関係なんざ興味ねェよ!邪魔するな!!革命軍にも用はねェ!!」

「―――"個人的"にもか?」

「!!」


そう言い切るバージェスにサボは指を炎に変える。
それを見てバージェスはハッとさせ思い出す。


「そうか…!お前か!!」


それはあのコロシアムの決戦の時。
ルーシーと姿を偽っていたルフィがメラメラの実を食べて勝負は終わり、そしてこの事件に巻き込まれた。
だが、あれはルーシーはルーシーだが、ルフィではなく、ルフィと入れ替わったサボだった。
それに気づきバージェスは表情を険しくする。


「おい!ルフィ!ひどいダメージだ…!!」

「サボ…!」

「向こうからドフラミンゴが来てるぞ!!おれはバージェスに手がかかりそうだ…!」

「平気だ…キャッツ達が少し時間を稼いでくれるんだ」

「ギャッツだ!」

「ミンゴは必ず仕留める!!――――それに…」


手を貸したいがバージェスも手強い人物でもあるためそう簡単に決着がつくとは思えなかった。
だからルフィにあらかじめ手伝えないと伝えればルフィは首を振った。
そしてチラリとアスカを見る。
その視線を伝ってサボもアスカを見れば、サボは自分を戸惑う表情で見つめている妹に気付く。
否、妹の存在は気づいていた。
妹と弟に危害を加えようとしたバージェスを見てサボはカッとなり駆けつけたのだ。


「アスカ…」

「…………」


アスカの体に血がべっとりとついているのを見てサボは歩み寄ろうとした。
だがそんなサボにアスカは後ろへ下がりサボを避けるようにギャッツに背負われているルフィへと歩み寄った。


「……アスカ?」


ルフィはサボを避けるアスカに不思議そうに見つめたが、アスカは決してサボを見ないようにしていた。
『ドフィが来てる…早く行くよ』とアスカはそう声をかけ先に走り出した。


「………」

「サボ…アスカは混乱してるんだと思うんだ…だから…その…」

「ああ、分かってるさ…アスカはおれ達と違って繊細だからな…さ、話し合うのは後だ後!早く逃げろ、ルフィ!あっちは任せな!」


アスカの態度は流石のルフィも戸惑った。
サボを見ればサボもサボで可愛がってた妹の態度にショックを受けているようにも見えた。
フォローのような事を言えばサボに頭を撫でられ笑顔を見せられる。
サボの言う通り話し合うのは全てが終わった後だと思ったルフィはギャッツに背負わされアスカを追うようにその場から離れる。
ギャッツも強者の中にいるであろうアスカに置いていかれ慌てて走った。


「そうだな……そう簡単に許してはくれねェよな、アスカ……」


サボは小さくなっていく妹の背にそう呟き、気持ちを持ち直し能力を奪おうとするバージェスと対峙する。



◇◇◇◇◇◇◇



ギャッツはなんとかアスカに追いつき、ホッとする。
逃げ切る自信はないがルフィに賭けるしかないギャッツからしたら少女の姿とはいえルフィの仲間と共に逃げれる事に安心感を感じていた。


「おい!ルーシ―!どうなってる!?大会で優勝して"メラメラの実"はお前が取ったんじゃないのか…!?」

「決勝の『ルーシー』はおれじゃねェ…」

「ええ!?」

「おれは用が出来てサボに代わってもらったんだ…」

「そ、そうだったのか…!反則だぞ!!…だが…!よかったな!亡き兄弟の能力を受け継ぐなんて熱い話だ!!」


思い返せば姿や恰好は少し違っていたが、疑うことはなかった。
本人から言われてなるほど、と思いながら熱い話に感動する。
そんなギャッツに横を走っていたアスカが『それよりも』と声を零す。
ギャッツは背負っているルフィからアスカへと目をやるとアスカの手に一匹のウサギが握られており、ルフィの頭に乗せた。


「とにかくあんたは無駄な体力使わず眠って…その間は私が守るから…もうドフィに敵うのはあんたしかいないんだから…」

「アスカ……お前…さ…ドフィって…ミンゴの事だろ…なんでそんな呼び方してんだ…」


ルフィは頭の上にウサギが乗っている感覚はあるが、重さはなく帽子を被っている程度の認識だった。
アスカがルフィの頭の上に乗せたのは普通のウサギではなく、『ラビットセラピー』のウサギだった。
覇気は回復できないが、体力は回復出来る。
少しでも体力を回復させようというアスカの考えである。
そんなアスカの言葉にルフィは引っかかりを覚えた。
それは『ドフラミンゴの呼び名』だった。
前まではドフラミンゴと呼んでいたが、今では親しみを込めたように『ドフィ』だった。
それが気になって聞けば前方を見ていたアスカはルフィを見つめ…


「記憶、戻ったから」


そう零した。
それだけでは分からないルフィが何か言う前にアスカは『いいから今は余計な事考えず眠れ』と額にデコピンを食らわす。
軽く、なので痛みがないがルフィを黙らすには十分だったのか、ルフィはここまで意固地になった幼馴染が口を割らないのも知っているので渋々目を閉じ本能のまま睡眠を取る。
疲れも限界を超えていたのか目を閉じればすぐに眠りについたルフィにアスカもギャッツもホッと安堵させた。

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