(191 / 274) ラビットガール2 (191)

目を瞑りウサギの目を通して見てみればウサギ達が丁度鳥カゴに到着しゾロやフランキー達と一緒に押しているのが見えた。
ゆっくりと目を開ければ鳥カゴの光景から破壊された街並みに変わる。
アスカは目線を下げれば膝の上で頭を乗せ眠るルフィが見えた。
痛々しいほどの傷がルフィの体を傷つけ、ルフィは死んだように眠っている。
震える手でルフィの口元に手を当てた。
微かだが呼吸しているらしいことが分かりアスカは安堵の息を吐き出した。
あれからギャッツからルフィの守りを交代し、アスカはローと共にルフィが言った10分が過ぎるのを待った。
目をやらず隣を意識すればローの気配を強く感じ、アスカは安堵を強くする。
ローも酷い怪我をしていた。
2人の怪我はドフラミンゴがつけたもの。
大切な人が大切な人達を傷つけるという事にアスカは酷く心を痛めはした。
だが、だからと言ってどちらかを止めようとは思っていない。
これは既にパンクハザードから始まった戦いであり、この戦いはどちらかが倒れなければ止まらないのだ。
ドフラミンゴには妹として、そしてローやルフィには恋人として、アスカが止めてもきっと両者は止まらない。
それが分かっているからアスカは手を出さない。


「13年だ」


周り…否、この国は今安全な場所はなく、どこを向いても絶望だらけであちこちに悲鳴が上がっていた。
だがこの場所だけは、嫌に静かで世界から切り離されているような感じがした。
『ラビットセラピー』の下僕ウサギを腹に乗せているルフィの頭を撫でていると隣に座っていたローがポツリと呟いた。
その呟きにアスカはローを見上げる。
ローはジッと空を見上げ、アスカには目を向けていなかった。


「13年間、おれはコラさんの本懐を遂げるために生きてきた…おれを生かしてくれたあの人のためならどんなに辛いことだって我慢できたさ…だが…駄目だな…お前が…アスカが…ドフラミンゴの手の中にいるって思うだけで13年も我慢出来たことが全然できやしねェ…」

「…………」


ローは13年、そしてアスカは14年もの間離れ離れだった。
ローは海賊ではなく医者の道もあったし、アスカはあのままフーシャ村でルフィの帰りを待つ村娘という道もあった。
それがお互い海賊となって巡り合い再会できたことは奇跡ともいえるだろう。


「記憶、戻ったんだろ?」

「…うん」

「…それでもお前はドフラミンゴを憎まねェんだな」

「…………」


ローの言葉にアスカは自然と顔を俯かせる。
記憶を取り戻してからアスカはローの言っている事を理解できるようになった。
あの頃のローの姿も、そしてコラソンの顔だって思い出せる。
ローとコラソンは仲が悪い記憶しかなかったから、アスカはどんな事があってコラソンのために命を捨てようとしてまでドフラミンゴと戦うほど仲がよくなったかは分からないが、ローの言葉には何も言えなかった。
否、何も言う資格はアスカにはなかった。
アスカはドフラミンゴを恨んでいないのだ。
アスカの様子から記憶を取り戻したことも、そしてドフラミンゴへの恨みがない事もローには分かり、ローにはお見通しだったためにアスカは隠すことなく頷いた。
無言の返事にローは『そうか』とだけ返す。
それが逆に彼が何を考えているのか分からなくなる。


「ローの言う通り…兄さんはドフィ達に殺された…でも…ごめん…私、それでも…兄さんの仇だって分かってても…あの人達を恨めない…憎めなかった……大好きなコラさんを殺したって聞いても…憎いって思わなった……ただ…悲しかった…」


アスカの震わすその声にローは空からアスカへ目線を落とす。
髪でアスカの表情は分からなかったが、涙が零れルフィの頬に落ちたのを見て、ローはズキリと胸を痛める。
何も泣かしたくて言ったわけではないのだ。
海賊ではあるが、愛する人を好き好んで泣かすほどローは男を腐らせてはいない。
ルフィを撫でていたアスカの手にローは手を伸ばし、ギュッと握る。
その大きく温かい手にアスカはビクリと肩を揺らしたが顔は上げれなかった。


「それでも…あいつの手を取らないでくれただけで十分だ…」

「………」

「別におれに合わせてあいつを憎めなんて思ってない…憎んでないアスカを責めもしない…おれがあいつを憎むのはおれの感情だ…おれに合わせてコラさんの本懐を遂げてほしいとも思わない…おれは…おれ達は…アスカがおれ達のところに戻ってきてくれさえすればそれでいい……アスカがあいつじゃなくおれ達を選んでくれたんだ…それでいい…」

「………うん…」


アスカがドフラミンゴを恨んでいないのは予想は出来ていた。
アスカはドフラミンゴを純粋に慕っていたし、アスカがドフラミンゴを恨むというイメージがどうしても沸かなかったのだ。
ドフラミンゴを恨むのは自分の感情であり、アスカに強制すべきことではない。
ただ、アスカがドフラミンゴの手を取ることだけはどうしても許せなかった。
記憶を弄られたのなら仕方ない。
アスカの意志でないのなら、我慢も出来た。
だがアスカの意志で自分とルフィの元から離れるというのなら話は別だった。
ここで自分の独占欲や執着心の強さに内心ここまで酷いのかと驚きはするが自重する気はない。
ギュッとローが握るその手に力が増し、アスカも答えるように握り返す。
それがたまらず嬉しかった。

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