(195 / 274) ラビットガール2 (195)

夜風にアスカの熱は下がり、キュロスの家に着くころにはすっかりいつものアスカに戻った。
キュロスの家に突けばルフィ、ウソップ、ロー、ベラミー、直葉が寝ており、フランキー、ゾロ、ロビンは起きていた。
直葉はあれからヴィオラが探してくれた鍵おかげで手錠から解放されている。
フランキーはサイボーグ部分の修理で起きており、ロビンはアスカを待っていたようで、ゾロは偶然だという。


「お帰りなさい、アスカ…大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ…私みんなと比べて今回は動いてなかったし、怪我もなかったから平気」

「でも記憶を弄られて頭も痛かったんでしょう?無理はいけないわ」


ロビンはアスカの記憶が戻った事に安堵した。
というよりかは記憶を戻った際チョッパーから聞いた『記憶を失っている間の記憶を忘れる』という症状が起きなかった事に安堵した。
いつもなら自分の隣をポンポンと叩いて傍にくるように示すのだが、入ってきたアスカの手がサボと繋がっているのを見てやめた。
アスカは心配してくれるロビンにお礼を言いながら、ゾロに近づきお酒を没収する。


「!、おい!アスカ!おれの酒返せ!」

「ゾロも一応怪我人でしょ?お酒は飲んだら駄目ってチョッパーにも言われたじゃん」

「んなもん飲んだら治るっつってんだろうが!それに今はチョッパーもいねェんだ!とにかく返せって!」

「駄目ですぅー!これはれっきとした"副船長命令"ですぅー!悔しかったら私を副船長に仕立てた己を恨みなさい!」

「ぐッ…!てめェ…!いつか覚えてろよ…!」


チョッパーがよくゾロに『酒を飲むな』『包帯を勝手に取るな』『筋トレするな』と口酸っぱく言っているのを見ているからアスカはゾロの飲んでいる酒を取り上げた。
アスカの性格上ゾロの睨みなど痛くもかゆくも怖くもないためプイッとそっぽを向く。
『副船長命令』を出せばゾロは弱いと知っているのだ。
それは空島の時自分を勝手に副船長に仕立てたゾロへの嫌がらせでもある。
それを知っているからゾロはグッと言葉を呑み込むしかなく、ギロリと凄んで見せればアスカはその睨みにベッと舌を出す仕草を見せた。
それを見てサボは苦笑いを浮かべ、アスカの頭を撫でて宥める。
ロビン達を見ればいつもの事なのか、ロビンは弟と妹の掛け合いを見ているように微笑ましそうに見つめ、フランキーはいつものじゃれ合いかと肩をすくめ修理を再開する。
サボはそれを見て弟と妹がいい仲間に巡り合えた事に嬉しく思う。
ルフィが一番重傷で治療はされているが包帯だらけだった。
それはローとベラミーも同じだったが、ルフィはベッドに寝かされその他は床で雑魚寝となっている。
まあベッドが一つしかなかったというのもあったのだろう。
サボがルフィに会いに来たと思ったのかロビンはルフィを起こそうとするが、それをサボが止める。


「ロビン!起こさなくていいよ…最後に顔を見に来ただけだ」


そうサボに言われロビンは上げかけた腰を下ろす。
サボはアスカと共に部屋の奥にあるベッドに歩み寄ってルフィを労わりゆっくりと静かにベッドに座る。
その隣にはアスカも座り、サボはアスカと手を繋ぎながらルフィの寝顔を見て笑みを浮かべた。


「もう国を出るの?」

「『CP0』がここへ引き返して来てる…狙いはおれ達だ…」


ロビンの問いにサボは頷いた。
何故ドレスローザに『CP0』がいるか分からなかったロビンだったが、サボの登場で分かった。
恐らくCP0は革命軍がドレスローザにいるという情報を得てきたのだろう。
一度去ったが、ドフラミンゴが倒れたと聞き戻ってきているらしい。
サボとしてはルフィとアスカと三人で、できればローも含め話したかったがそうはいかない状況が迫ってきていた。
だから今晩ルフィに何も言わず帰る事にしたという事である。


「一日二日でドレスローザは混雑するぞ…お前達も可能な限り早く出航しろ」


自分たち革命軍達はすぐに動けるが、ルフィ達はそうはいかない。
重傷者が多く、特にルフィはボスであるドフラミンゴと戦ったというのもあって傷はもとより疲労も強いだろう。
サボの忠告にロビンは頷き、この中でしっかり者のロビンが頷いたのを見てサボは一先ず安堵する。


「にしても…エースの他に4人目の兄弟がいたとは…」

「正確に5人目だ」

「5人目?他にも兄ちゃんがいんのか?」

「いや、兄ちゃんじゃなくて姉さんだな」

「「「姉さん?」」」


ルフィとエースとアスカが血の繋がりがないが兄弟だというのは知っている。
恐らく二年前の頂上戦争を見ていた人間の大半は覚えているだろう。
盃を交わした義兄弟が、エースだけではないと知りゾロ達は驚いた。
ロビンは二年前ドラゴンのところに厄介になっていてサボとも顔見知りだったから驚きはないが、ゾロ達は知らなかった。
アスカもルフィもあまりそういう事は話す人間ではないから余計に。
だが、ゾロの言葉にサボは首を振り、そのまだ兄弟がいるらしいサボの様子にフランキーが問いかけた。
その問いにサボは頷く。
サボは兄弟はいるが『兄』ではなく『姉』だと答え、ゾロ達は首を傾げる。
怪訝とする三人にサボはにっと笑う。


「実はな、海軍大将の黒蝶でもあるミコト姉さんも同じ盃を交わしたんだ」

「「「え…!?えええ〜〜っ!?」」」


サボの言葉にゾロ達は目を丸くする。
エース、そしてサボと来てまさかの海軍大将の紅一点である黒蝶とも義兄弟(ルフィは実姉であるが)だと知りみんな驚きの声を上げる。
全員黒蝶とルフィが血の繋がりのある姉弟というのは知っているし、その幼馴染であるアスカも黒蝶であるミコトが妹として可愛がっているというのは知っていた。
だがルフィとエース達が交わした盃の中にミコトもいるとは思っていなかったのだ。
その声は大きく、三人はハッとさせ寝ている5人を見たが、疲れが溜まっているからかぐっすりと眠っておりホッとさせる。
当人のサボとアスカはそんな三人に顔を見合わせる。


「それほど驚く事だったか?」

「さあ?わかんない」

「驚くも何も…ミコトっていやァルフィの姉貴で海軍の大将なんだろ?」

「…失礼な言い方かもしれないけど黒蝶はそれをまだ信じてるの?」


ミコトを熱愛しているアスカの気分を害してしまうが、ロビンは気になった事を聞く。
その事に関してはサボはあれからミコトと会っていないので分からず、アスカを見る。
サボがアスカを見たので自然とアスカへ目線が集まり、サボ達に見られるアスカは頷いて見せる。


「お姉さまは海軍大将だから立場があって私達と敵対するけど、お姉さまはちゃんと私達を愛してくれてるよ」


『だってお姉さまだもん』、と続けるアスカにゾロが『だからその自信はどこからくんだよ』と思った。
しかし納得はしたのか、アスカの言葉にロビン達はこれ以上の事は聞かなかった。


「でも、サボから連絡きたらお姉さま驚くかもね」

「ああ、だろうな…」

「?」


姉の話題となり、ふとここに来る前に話した事を思い出しアスカはサボの脇を突っつく。
そんな妹にサボは苦笑いを浮かべ困ったように頬をかく。
彼等の話題について行けず、ロビン達は首を傾げる。


「どういう意味だ?」

「ん?」

「ルフィの姉貴が驚くとか驚かないとか…」

「ああ、それか……実はさ、おれはずっと死んだ事になってたんだ」

「え!!」


サボの言葉にゾロ達は目を丸くする。
アスカはここに来る前に聞いていたので驚きはないが、少し目を伏せた。


「ガキの頃にエースとルフィとアスカと4人で暴れまわってルフィとエースとおれはガープのジジイにシゴかれて将来は海賊だって…おれ達は姉さんも加えて兄弟の盃を酌み交わしたんだ…だけどおれはある日事故に遭った…いや、"事件"か」


そう説明しながらサボはルフィを見た後アスカへ目をやる。
あの時はアスカも覚えていた。
サボが撃たれたところは見たことはないが、サボが天竜人に撃たれて海に沈んだと聞いて酷いショックだった。
過去を思い出し悲しそうにする妹の頭を撫でてやりながら過去をゾロ達にも話した。
あの後沈んでいくサボを救った人がいた。
その人こそルフィの父であるドラゴンである。
ドラゴンは船に連れ帰りサボを治療した。
目を覚ましたサボだったが、アスカと同じく記憶を失っていたという。
貴族らしい彼を帰そうかとも思ったが、そのサボ本人が嫌がりそのまま革命軍に入ったのだという。
恐らく記憶を失いながらも家族への感情は消えなかったのだろう。


「記憶をずっと失ってたのか…」

「明白だったのは…両親の元にだけは帰りたくねェって強い想いだけ…後は何も覚えてなかった…」

「よく記憶が戻ったな…」


アスカもフランキーと同じことを思った。
ゾロ達は仲間であるアスカが記憶喪失だと知っていたため記憶喪失自体に疑問はなくすんなりと受け入れれた。
フランキーの問いにサボは悲し気な…寂し気な、表情を浮かべる。


「…エースが教えてくれたんだ…今ではそう思う…『お前はサボ!おれとルフィとアスカと姉貴の兄弟だ』って…」


サボの言葉にそこまで深くは聞かなかったアスカも驚いて見せた。
驚くアスカ達をよそにサボは拳を握る。


「―――タイミングは最悪だったが…だからこそあいつはおれを呼び起こした…」


サボもあの時ははっきりと思い出せるほど衝撃的だった。
それは…二年前、頂上戦争が終結した時。
新聞を持って来た革命軍の一人が慌しく入ってきた時から始まっていた。
当初は同じ革命軍のイワンコフの安否を見るだけだったが、ドサリと置かれた新聞の記事にエース死亡の欄が大きく載っており、デカデカと乗られているエースの手配書を見てサボは記憶が戻ったのだ。
そのショックから三日眠り続けたが、サボは目を覚ますと記憶がちゃんと戻っており、ドラゴンの許可を得て革命軍全軍に『あるモノ』を探してもらっていた。
それが、『メラメラの実』だった。
サボの話に『だからルフィとアスカに会いに来なかったのか』と納得し、特にこういう感動的な話に弱いフランキーは涙を流し機械部分がその涙にパチパチと音と煙を上げていた。
一通り話したサボはもう一度アスカの頭を撫でベッドから立ち上がる。


「さて…じゃあ、帰るよ」

「もう?」

「ああ…アスカとルフィの顔も見れたしな」


サボの目的は『メラメラの実』であるが、ルフィとアスカとの再会も果たせて満足していた。
海賊と革命軍は同じ海軍を敵としているが、海賊も革命軍も根が違うため共に行動することはできない。
協力はできるが、ずっとそばにいてやれるわけではない。
いてやりたいと思うが、ルフィにはルフィの道があるのだ。
それに離れていても兄弟の盃で繋がっているのだ。
サボはポケットに入れていた白い紙をアスカに渡す。


「そういえば忘れてた…これをやるよ」

「これなに?」

「ルフィの『ビブルカード』だ…作っといた」

「いつの間に作ったの?」

「いつの間にだな」


それはルフィの『ビブルカード』だった。
再会したのは今日で、アスカはビブルカードの作製方法は知らないため首を傾げた。
アスカの問いに返すサボの答えにアスカは『意味わかんない』と返し、そんなアスカをよそにサボはアスカの手にあるルフィのビブルカードを破り、貰う。
端の一部が破られて消えたのを見ていたアスカの頭をサボは『アスカは作る暇なかったから今度会う時に渡すからな』と言って撫でる。
それは拗ねた子供を宥める仕草に似ていた。
アスカはそんなサボに『別に自分のがなくて拗ねてるわけじゃないんだけど』と思ったが口にするのをやめた。
多分それを言ってもサボには拗ねているようにしか見えないのだろうと分かっていたからだ。
ロビン、サンジ、ナミ、ジンベエに続き、保護者が一人追加され、アスカは『どんどん過保護な人が増えていく…』と思った。


「ほんじゃ…ルフィにゃ手ェ焼くだろうが…アスカ共々おれの弟と妹をよろしく頼むよ!」

「おう!任しとけ!」

「エースと似た様な事言ってやがる」


エースもサボもルフィの手の掛かりようは幼い頃から知っていた。
だから革命軍としてではなく、兄としてルフィとアスカを頼む。
返事を返したのはまだ感涙を流しているフランキーだったが、ロビンは頷き、ゾロも嫌な顔せずエースも似た事を言っていたと笑った。
三人の反応に安堵し、最後にアスカに声をかけた後サボは外に出て仲間と合流するためにその場を後にした。

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