(196 / 274) ラビットガール2 (196)

あれから三日。
錦えもんとカン十郎は街にいた。
政府にも顔が割れていない二人が買い出しを頼まれており、その買い物も終わり帰っている途中、街中の噂を耳にしたのだ。


「―――で、レベッカ殿の父上はどこぞの王子だと…そんな噂で持ち切りだったでござる」


早速今日得たその噂の真相を確かめるため本人の父親がいる家に帰宅した。
街中で噂されていたのは、レベッカの父親がキュロスではなくどこかの国の王子だというものだった。
その噂にレベッカの父を知っているアスカ以外がキュロスを見たのだが…


「ばんばわエうぇんがぐ(何だそれ変な話だ)!!おえいあういっケバ!キュウイ(それよりサボが行っちまって悲しい…)!!あんぎゃイモウツクウツクにぁイあぐもぐ(サンジ達も早く追っかけなきゃだ)!!―――ぐ〜〜〜…」

「怒るのか泣くのか急ぐのか寝るのか食うのか一つずつやれ!!世話しねェな!!」


アスカはレベッカとは面識がないし、あったとしても戦いに勝利した時にルフィの傍にいたというだけの認識しかない。
あちらもアスカとの面識がなくその存在も気づいていないだろ。
だからその話題には口出しをせずパンをちぎって食べていた。
だが、一番レベッカと関わりの深いルフィはその噂に怒っていた。
ついでに言えばサボがいつの間にかいなくなり悲しみ、そして更に言えば先に行ったサンジ達も追いかけなければという焦りもあり、眠たくもあった。
それを全て食べながら一気に済ませるルフィに思わずゾロが突っ込みを入れ、とりあえず怒りの方を優先することにしたのか机を叩く。


「レベッカの父ちゃんは兵隊のおっさ…ぐー…」

「まだ回復しきってねェんだろ!食い意地張らずまだ寝てろ!!」


ルフィは壁にもたれかかっているキュロスを指さし怒鳴ったが、眠気が邪魔してしまい途中で眠ってしまった。
ウソップの声でハッと目を覚ましまた食べ始め、そんなルフィに隣に座っているアスカは『相変わらず…』と酷く体力を消費する戦いの後の食欲に呆れてしまう。
二年経って食欲は普通の女性に戻ったアスカだが、正直隣を見ていると食欲が失せる気がする。
ルフィはそれほど多く口に含んでいた。
どうもアスカは食べ物に関して執着はないのかこればっかりは慣れなかった。


「その噂は私が流したんだ…」

「え!?」

「レベッカの出生を知る者は王族の一部とそれを調べたドンキホーテファミリーの一部だ…国中が知っているのは母親だけだ」


ルフィの言葉にキュロスが答える。
その噂はどうやらキュロス本人が流したようで、それを問いかければキュロスは自分が『前科持ち』だからなのと『育ちの悪さ』が理由だと言った。
母親とは恋愛の果てに結ばれたが、それでも本来はキュロスの出生からして王族と結ばれることはあり得ない。
だからこれでいいと言うキョロスにルフィはカッとなる。


「いいわけねェよ!!レベッカはそれ知ってんのかよ!!」

「…手紙が渡っているはずだ…私の人生の全てを正直に綴った…」


全てが終結した時、キュロスはリク王に自分の気持ちを伝えた。
リク王は育ちがどうとかなど気にもしておらず世間体も気にするなと言ってくれたが、これだけは譲れなかった。
レベッカには全てを綴った手紙を置いて来た。
キュロスは一時の激情で将来の幸せを逃してほしくなかった、と言ったがそれを聞いていたアスカは娘の幸せは父親が決めるものなのだろうか、と思った。
それを口にしなかったのはアスカ自身彼等の事情が呑み込めなかったのと、今回記憶を消されたからとはいえ敵側にいたから言うのを躊躇わせていた。
が、アスカは…アスカ、ゾロ、ウソップはチラリとルフィを見る。
三人の目に映るルフィは黙々と食べ物を食べてはいるがその顔はムスッとしており、三人は『全然納得して(ない)(ねェ)な』と心を一つにそう思った。


≪隊ちょ…あ!キュロスさまっ!レオれす!≫

「ゾロ先輩〜〜〜!!―――わーー!!ルフィ先輩お目覚めになられてんべ!?おはようございます!!」


ぶすっとさせるルフィにアスカは『何かやりそうだな…』と嫌な予感をよぎらせていると、室内に置いてある電伝虫が鳴りそれをキュロスが取ったのと同時にバルトロメオが駆け込んできた。
バルトロメオの目には憧れの麦わら海賊団の存在が眩しく見えるのか、実際は光ってもいないのだが眩しそうに目を逸らした。


「ぐおお〜〜〜!!6人も"麦わらの一味"が揃うと眩しすぎて見えねェべ〜〜!!――まるで偉大さのレーザービームだべ〜〜〜!!もしいづか"麦わらの一味"オールスターズに遭っちまった日にゃおれァ失明しちまうべコレ〜〜〜!!」

「さっさと用件言えよ!」


まるで強いスポットライトを間近で見ているように輝かしい6人の姿をバルトロメオは直視できなかった。
一人だけ眩しそうに顔を逸らすバルトロメオにアスカは若干引いていた。
記憶を書き換えられていた間の記憶は勿論あるが、バルトロメオと話したのは短くこんな性格だとは思いもしなかったようだ。
確かに、声をかけた時のあの内容はやけに褒めていたな、とは思ったがここまでとは予想だにしなかったようだ。
ゾロが叱る様に突っ込みを入れるとやっと本題に入る。


「海軍のテントに動きが!!ボチボチここも危ねェべ!!大参謀おつる中将と前元帥センゴクが到着した!!」

「おつるにセンゴク!?」

「そんな大物まで何しに来やがった!!帰れ!!」


それは海軍が拠点としている場所に中将のおつると、前元帥のセンゴクが到着したという情報だった。
なぜか藤虎は今まで動かずにいたが、恐らくセンゴクとおつるが到着すれば海軍は動くだろう。
その情報にアスカ達はぎょっとさせる。
ただローはセンゴクという名にピクリと反応させた。


「レオ、そっちは何だ」

≪あ…!!"その海軍"が動き出しました!!≫


キュロスはバルトロメオが言い終わった後止まっていたレオからの報告を聞く。
だが、レオもほぼ同じだったようである。
レオの報告にキュロスはルフィ達へ振り返る。


「海軍が来るぞ!!」

「ギャーー!!とうとう来たー!!」

「何を今更!逃げる準備ならいつでもできてござる!ルフィ殿が目覚めるのを待っていただけ!」

「うむ!なぜ敵が攻めて来なかったかの方が不可思議!あとないのは船だけでござる」

「そうだよ!船どうすんだよォ〜〜!!」


海軍がこちらに駆け付けるという報告を聞き一番慌しいのはウソップだった。
アスカはそのウソップの慌しさを見て何となく落ち着く。
『なんか懐かしいなァ〜』と逆にほのぼのしていた。


「ルフィ先輩たづ!案内します!まっすぐ東の港へ走ってけろ!!あんたたづがいづでも目覚めていづでもこの国から脱出できるようにすでに同志たづがずっと要所に待機してんだべ!!東の港に船もある!!」


三日の間海賊達も何もしていないわけではなかった。
最後のルフィが目を覚まし動き出すまでこの戦いで得た味方…バルトロメオをはじめとするキャベンディッシュやサイなどのメンバーがずっと海軍の動きを見張り待機していた。
それを聞いてとりあえずは脱出できるのだとホッとさせる。


「ありがてェな!サニー号を先に行かせたんで困ってた!!」

「当然だべ!みんな共に戦ったチームだ!!今更王将の首取られてたまるかってんだ!!」


フランキーも船大工として船の心配をしていた。
船を買うにも金がいり、作るにも時間が掛かる。
奪うにも柄ではないためどうしたものかと悩んでいたところだった。
それが協力者がいると知り安心して逃げれると立ち上がる。
アスカも逃げ場がある逃げ道に椅子から立ち上がり、直葉に『お早く!姉上!』と手を引かれる。
その際にまだ食べようとするルフィに『ほら、行くよ』と肩を叩いて早く立たせる。
ルフィは持てるだけの食糧を持ち椅子から立ちながらゆっくりと立ち上がるベラミーへ振り返る。


「ベラミー立てるか!?」

「――もう走れもする!」

「そうか…よかった!」


ルフィがベラミーへ振り返ったのでアスカもベラミーを見た。
ベラミーは記憶を書き換えられていた時に初めて会ったのだが、実はルフィは二度目の再会だったらしい。
話では聞いていたのだ。
ベラミーという存在は知っていたが顔を会わすのは初めてで、ベラミーはルフィからローへと目をやる。


「トラファルガー!なぜおれを見殺しにしなかった!おれは死に場所を失った!」

「麦わら屋がダチだと言ってたんで一応運んだ―――死にたきゃそこで死ね!」

「あの小人のお陰でバカみてェに回復しちまった…!!なぜおれが海軍相手に死ななきゃならねェ!!」

「そこをなんとか死ねバカ…礼の一つも言えねェんならな!」

「何だと!?」

「あー!もー!はいはい!!もう終わり!!喧嘩してる暇あったらとっとと逃げるよ!!」

「「…!」」


ベラミーを運んだのはローだった。
治療は小人…マンシェリーという小人であるトンタッタ族の姫が持つ能力で傷も疲労も回復した。
ローの挑発めいた言葉に乗るベラミーにアスカは二人の間に入り込み幼稚な喧嘩を止めた。
言葉の綾ではなく本当に外に出て逃げながらいがみ合う二人の間に入るアスカにローはバツが悪そうに舌打ちを打ちベラミーから目線を前方へ戻し、ベラミーは戸惑いの表情を浮かべアスカを見た。
ベラミーもアスカ同様ドフラミンゴに会いに行った時に初めて会った。
アスカはドフラミンゴと仲良さげに見せていたためか、今もどう扱っていいのか迷っているのだろう。
だからこそ、ベラミーは改めてアスカを見た。
あの時はドフラミンゴしか見ていなかったからアスカの存在は気づいていたが、その容姿までは気付かなかった。
一応妹と聞いていたので改めて見てみればドフラミンゴに似てる部分はどこにもなく、容姿は普通に可愛いとベラミーは思った。
ハンコックや黒蝶ほどの美貌や魅力はないが、美女を何人も相手にしてきたベラミーから見ても悪くはないという感想が出る程度の顔はあった。


「………」

「なに?何か文句でもあんの?」

「…いや…なんでもねェ」

「そ?」


見過ぎたのかベラミーの目線に気付いたアスカがこちらを見てベラミーは気づかれたことにドキリとさせる。
問いかけてもベラミーは『顔を見てました』とは言えずぶっきらぼうに誤魔化すと興味がないのかアスカは簡単に引いた。
それにホッとさせると強い殺気を感じ、アスカを挟んだ隣へと目をやるとそこには―――ローがいた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


ローの目は確かに殺気が籠っており、先ほど喧嘩したというのもありお互いあまり相性はよくないのかベラミーも負けじと睨み返す。
正直ベラミーはなぜ睨まれるのか分かっていない。
まあ、ルフィとローとアスカが付き合っているのは公表しているわけではないので当たり前だろう。


「………」


アスカは自分を挟んだ男の無言の戦いに半目を見せ呆れ返る。
先ほど喧嘩を仲裁した途端にこれか…と思いながらアスカはパン、と手を叩いた。
その叩いた音に男二人はハッと我に返りアスカを見る。
アスカは年相応になりつつも今まで成長が遅かったせいか、それとも元からか、身長は低すぎるわけではないが、どちらかと言えば低い方である。
しかも両隣にいるのは片や191m、片や2m越え…チビでもない身長なのに小人になった気分である。
アスカの『喧嘩するな鬱陶しい』というオーラを感じ取ったのか、ローとベラミーは『ぐっ』と言葉を詰まらせお互い真逆な方へ顔を逸らした。
その瞬間、両者の喧嘩は終結した。
喧嘩をやめた二人にアスカは『男って成長しても子供だよね』と内心思いながら溜息をつく。
2人の喧嘩を止めたアスカを見ていたウソップとゾロとフランキーからは『流石猛獣使いだわ…』と心の中で褒められ(ているかは不明)、麦わらの一味に憧れているバルトロメオからは『流石麦わら海賊団の副船長たるお方だべェ〜〜〜!!(以降アスカを褒め称える言葉が続く)』と騒がしくしていた。
呑気なものだが、その後ろには多くの海兵達が追いかけてきていた。
そんな中、ルフィが何故か立ち止まる。


「ルフィ先輩!?」

「やっぱちょっと用事あるから先行っててくれ!」

「はいィ!?」


立ち止まったルフィにバルトロメオが慌てて声を掛ける。
アスカも気になって走る速さを遅め振り返るとルフィは既に姿がなかった。


「全く…あの馬鹿…」


返事も返す暇なく一人で決めて動くルフィにアスカは諦めたようにため息をつき、ルフィの性格を知らず騒ぐバルトロメオを引っ張りアスカは先に東の港へと向かった。

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