(199 / 274) ラビットガール2 (199)

「―――ッは…!おれは一体…」


ルフィははっとさせ目を覚ます。
周りを見るとすでにハイルディンの手の中ではなく大きな船の上に乗っていた。


「あ、目を覚ました?」

「ああ…なあ、アスカ…おれさっきまで巨人の奴の手の中にいたんじゃ…」


ルフィが目を覚ましたと気づいたアスカが声をかけてきた。
その傍には錦えもんに預けて避難していた直葉がアスカの服をぎゅっと握り締めて傍におり、アスカに声を掛けられたルフィは首を傾げていた。
どうやら蹴られた衝撃で記憶の一部が飛んだらしい。
アスカはそれを見て口を噤んだ後ルフィに説明した。


「…ルフィはあの後気絶するように眠ったらしいよ」

「え!?そうなのか!?」

「うん…ローが言うにはやっぱりまだ疲労が抜け切れていなかったみたい…そんな状態で本気じゃなかったとはいえ大将とぶつかったんだから気を失うのも無理はないって言ってた…」


ルフィの記憶が飛んでいるのをアスカは気づき、それを利用して嘘をついた。
別に嘘をつく必要性はないと言えばないが、機嫌が悪くなられると面倒だと思ったのだ。
傍にいたローはそれを黙って聞いていたが、巻き込まれぎょとしてアスカを見る。
ルフィはアスカの言葉を疑わず、『そっか…』と藤虎とやれなかったことを残念そうに呟き、そんな幼馴染を慰めながらアスカは傍にいてこちらをギョッとして見るローにグッと親指を立てて見せた。
その意味は分からないが、とりあえずローはこの瞬間、共犯者にされてしまった。
ルフィも目を覚まし落ち着いた頃、ハイルディンが屈んでルフィに声を掛けて来た。


「麦わら!おれには巨人傭兵の4人の仲間がいる!!そいつらと共にいずれ前巨人族を束ね!かつて世界を震撼させた『巨兵海賊団を復活させてみせる!!』」

「へー!そうか!戦えば強敵だ!!じゃあまたどっかで会うかもな!」

「『巨兵海賊団』!!ドリー&ブロギー師匠の栄光の時代だぞ!ルフィ〜〜!」


ハイルディンの言葉にルフィよりも巨人に縁の深いウソップが興奮していた。
アスカもウソップの言葉に出てきた『ドリー&ブロギー』という名に懐かしさを感じる。
すると次にオオロンブスが声をかけに来た。


「我ら『ヨンタマリア大船団』は全56隻の大艦隊!役に立てるハズだ!」

「役に?」


オオロンブスの言葉にロビンが首を傾げる。
役に、とは言うが『何にだろう』とアスカも思い首を傾げる。
確かに、今この場所であるオオロンブスの船に乗って助かってはいるが『役に立てるハズだ』と断言する彼の言っている意味がアスカ達には分からなかった。


「ルフィランド!!トンタ長の許しが出ました!!ぼくらもぜひ入れてほしいれす!」

「入れて?」


次は小人族のレオだった。
アスカはレオをはじめとする小人族とは面識がない…というよりかは今回の戦いで得た味方の殆どとは面識がないため、言っている意味が分からなった。


「堅気の大会じゃ敵はねェが海賊共をさしおいて"チャンピオン"は語れねェ」

「おれとイデオは手を組んで海に乗り出す事にした!」

「おい!おれ達も一緒だろ!忘れんじゃねェ!兄弟!!」


次は手長族でありXXX級ボクサーでもあるイデオと、足長族であり格闘家でもあるブルーギリー、そして元賞金稼ぎのアブドーラ&ジェットが報告の様にルフィに声をかける。
更には…


「おれはコイツの船に置いてもらう事になった」

「乗せてやるからには船長とよべ!!―――そしてキミもぼくが先輩であることを忘れるな!!"同調"しようが一番人気はぼくがいただく!!」


ディアス海戦A級戦犯であるスレイマンと、海賊貴公子であるキャベンディッシュもそれに続く。
一々言ってくる一同にルフィの頭の上では疑問符ばかりが浮かんでいた。


「お前らみんな何ってんだ?好きにやりゃいいだろ?」

「いや〜〜!それがおれら2日王宮に寝泊りしてる内にすっかり意気投合しちまって!」

「?」


意気投合したと言うがルフィは全くもってさらに分からない。
しかしそれはルフィだけではなく、ルフィが自分が寝てる間に何か決まったのかとアスカを見るもアスカも同じく怪訝そうにしており、ローやゾロ、フランキー、ウソップ、ロビンも今一分かっている様子はなかった。
怪訝とする一同にオオロンブスは説明に名乗り出てくれた。
オオロンブスは『なお、順番はクジで決めた』と前置きし、1・キャベンディッシュ、2・バルトロメオ、3・サイ…と彼等の海賊名や乗組員の人数、そして代表者の名前を読みはじめる。
改まった紹介のようなことを言い始めるオオロンブスにルフィとアスカはお互い顔を見合した。


「―――しめて5千600人いる!ルフィ先輩!その代表のおれたづ7人と!"親子の盃"を交わしてけろ!!」

「親子〜〜!?」


そして最後はバルトロメオが締めた。
しかしルフィは突然『親子の盃を交わしてくれ』と言われ怪訝さを強くする。
首を傾げるルフィにバルトロメオが頷いた。


「んだべ!!あんたが親分!おれ達ァ子分!!どうかおれらを海賊"麦わらの一味"の"傘下"に加えてけろ!!」


バルトロメオの言葉にアスカ達は目を丸くして驚いた。
2日の間、彼等の仲は深まったが、同時に彼等はルフィの傘下に下る気でいたらしい。
最初こそ恨みしかなかったキャベンディッシュも嫌がる素振りを見せず人気への執着を見せつつも子分になることを決めた。
子分の盃は普通のサイズの盃を、そして親分の盃はルフィの頭以上の大きさの盃が用意され、オオロンブスの船員達が親分と子分の盃に酒を注ぐ。
だが…


「これはおれ飲まねェ!!」


ルフィは盃をタルの上に返し、周りがどよめいだ。
ルフィの行動に周りは驚いたが、逆にゾロ達麦わらのクルー達は『まあ、そうだわな』と心を一つに思う。
驚く周囲をよそにルフィは『あんま酒好きじゃねェし』と零し同意をアスカに求める。
『な、アスカ!』と同意を求められアスカもルフィと同じく酒が苦手な類だからか『そうだね、あんま美味しくはないよね』と頷いた。
ルフィもアスカも幼い頃エース達と交わした盃の酒に懲りたようである。
それは酒の質うんぬんもあるだろうが、一番の理由はただ単に飲むのが早すぎたからだろう。


「――あんただづ!この先この事件をきっかけに"大物達"から命狙われるべ!!その事件に救われたのはおれたづで…!」

「だけどよ!これ飲んじまったらおれはこの大船団の"大船長"になっちまうだろ?」

「んだべ!総勢5千6百名の子分がいりゃ晴れて"大海賊"の仲間入りだべ!!ルフィ先輩はいずれ海賊王になられるお人っ!世界をとるにゃあこれでも戦力は少ねェくれェだべ!!」


本来ならばうれしく思い親子の盃を交わすものだろうが、ルフィはそれを拒んだ。
未来、ルフィは海賊王になる男であるため、子分は必要だとバルトロメオは言うがルフィはそう言われてもあまりピンと来ていない。


「やめとけ…"そういう"のはコイツにゃムリだ…それよりその酒ジョッキに注ぎ直せ…おれが飲む」

「だから味を楽しむ会じゃねぐてですね…!!」


ルフィは酒はあまり好きではないが、ゾロは部類の酒好きである。
傷を負って体に響くからとドクターストップがかけられても飲んでしまうほど酒には目がない。
親子の盃がどんどん酒を楽しむ会と変わりかけているのにバルトロメオは慌てだす。


「なぜだ"麦わら"!!これだけの兵力の何が不服なんだ!?どんなに強い奴でも"数"という力には敵わぬ!お前にも必要な時が来るはずだ!!」


オオロンブスもルフィが何が不服なのかと問い質す。
ルフィは今まで少人数で強敵と戦ってきたが、この新世界でどこまでそれが通じるかは分からないだろう。
だからこそこうしてルフィに恩があり魅入られた男達が集まって子分となったのだが…ルフィはそんなオオロンブス達の言葉に…


窮屈!」


一言で切って捨てた。
その簡単な言葉で切り捨てられたバルトロメオ達は『えええ〜〜!?スゲーイヤそう〜〜〜!』と叫ぶ。
傍からみても本当にルフィは嫌そうな顔をしていた。


「それより奥でもしかして宴の準備してねェか!?」

「興味がメシに移った…!」


今、ルフィの頭の中は『親子の盃』の話がぽいっと捨てられすでに『料理』の事で一杯になっていた。
相変わらず食欲だけは無限大のルフィにアスカは肩をすくめる。


「フザけるな"麦わら"!!先輩でスターのぼくが!!傘下に入ってやると言ってんだ!!」

「シメ上げて飲ませよう」

「てめェ子分の強さナメてんな!?恩人のクセに!!」

ガラ悪すぎだろ!子分だとしたら!!


キャベンディッシュの怒声をはじめとし、イデオは無理矢理呑ませようとし、サイは力を疑われていると思い力づくで子分になろうとしていた。
一瞬にして戦う男の顔つきになったイデオ達にウソップが突っ込みを入れる。


「だからよ!おれは"海賊王"になるんだよ!!偉くなりてェわけじゃねェ!!」

「…は?」

「「「???」」」


ウソップの突っ込みに続き、ルフィは大声を上げる。
だが、ルフィ達も最初バルトロメオ達の言葉が分からなかったように、バルトロメオ達も今のルフィの言葉に一斉に首を傾けた。
終いには『何言ってんだ?コイツ…』とローにまで言われる始末である。
だがアスカ達麦わらの一味たちは…


「わりといい酒だ」

「コップで飲め!行儀悪ィ!」

「うふふ」

「お!どれどれ!」


呑気なものだった。
ゾロはアスカに禁酒を言い渡されていたため3日ぶりの酒が胃に染みこみ目を細め、手で梳くって飲むゾロに行儀が悪いとウソップが突っ込みをいれ、そんな2人にロビンはくすくすと笑い、同じく酒は好きな類のフランキーも味見をしようと歩み寄る。
アスカはじっとそれを見ていたが、それを責められたと勘違いしたゾロがアスカに『き、傷治ってんだから文句はねェはずだろ!?』と警戒する。
ただアスカは何となく見ていただけでゾロを責めているわけではなかった。
だから『うん、まあ、解禁で』と飲酒の許可を出す。
するとゾロはフランキーにも飲ませた後残った酒を一気に飲み干した。
それを見てアスカは胃の辺りに手をやる。
見ているだけで胃がやられそうだった。
そんなゾロ達に気付かずルフィは手すりに乗り上げバルトロメオ達を見下ろした。


「もしおれ達が危ねェと思ったらその時は大声でお前らを呼ぶから!!そしたら助けてくれよ!!」

「!?」

「親分や大海賊じゃなくてもいいだろ!?お前らが困ったらおれ達を呼べ!!必ず助けにいくから!一緒にミンゴと戦った事は忘れねェよ!!」


ルフィの言いたい事は何となくアスカにも分かり、それはバルトロメオ達もだった。
ただアスカは『ミンゴ』という言葉にピクリと反応し、それをローが気づきそっとアスカの指に触れる。
アスカはまだ、ドフラミンゴを吹っ切れてはいなかった。
しかしアスカはローが指に振れ絡めるように繋いできてくれたお陰で気分を沈ませることはなかく、ドフラミンゴからの決別を決めた矢先にたったルフィの『ミンゴ』という言葉に反応する自分に反省し、アスカ自らも彼との繋ぐ手を強くさせる。
すると突然爆発音が鳴り響く。


「何事だ!」

「砲撃です!!」

「海軍か!?」

「まさか!軍艦ならぼくらがキツく縫い付けて来たれす!!」


砲撃を受けているようで、煙が上がっているのが見えた。
一瞬海軍かと思ったが、海軍の船はレオ達が縫い付けてくれているのでそう簡単に船を出せるわけもなく…様子を見ているとどうやら犯人は海賊だった。


「『5億の首』!!"麦わらのルフィ"がいるなら首を差し出せ!!おれ達はドフラミンゴとでけェ取引をしてた!!全てムダにしやがって!!我々は貴様らを恨む者達の連合艦隊!王が変わったんなら『リク王』にも落とし前つけてもらおうか!!」


砲撃を仕掛けてきたのはドフラミンゴと取引をしていた者達の集まりだった。
ドフラミンゴが逮捕されその取引も無駄になり、払った金も来るはずだった武器も全部なくなってしまった。
損害は大きく、その恨みが全てルフィに降り注いだ…という訳だった。
あからさまに自業自得でルフィを恨むのは筋違いだが、バルトロメオ達は焦ることなく、特に麦わら海賊団信者のバルトロメオはルフィの言葉に涙どころか鼻水を垂らして感激していた。


「んだばおれ…!尚更あんたにホレたべさ!ルフィ先輩!!」

「ディガガガア!!"同じく"だ!おい!バルトロメオ!口上を言え!コイツが『親』の盃を飲まなくてもいい!」

「確かにそうだ」

「?」

「お互い勝手気ままならいいな」

「お前は人の自由も止められねェハズやい!」

「ん?そうなんれすね?」

「―――ルフィ先輩!まこと勝手ながら口上をのべさせていただくべ!!」

「ん?」


ルフィの言葉をどう解釈したのか、バルトロメオはハイルディンの言葉に従いその場に座り、それに続けてハイルディン達も座って盃を差し出すようにルフィに向ける。
その行動にルフィは首を傾げ、その間も砲弾は止まずオオロンブスの部下達が対応していた。
橋にはルフィから藤虎の攻撃を守るために追いかけたように見せかけた市民達が残っていたのだが…―――今まで止まっていた頭上に浮いていた瓦礫が突然、ルフィ達のいる船を砲撃している船の下へと落ちていく。
バルトロメオは慌ただしく動くオオロンブスの船員達、そして周りに降る瓦礫など無視し『ではルフィ先輩!』と息を吸い込み、声を張り上げる。


「ここに我ら子分となりいついかなるとぎも親分"麦わらのルフィ"先輩の盾となり矛となる!!こ度のご恩に報い!我ら7人!!命全霊をかけてこの『子分盃』!!勝手に頂戴いたしますべ!!」


ルフィがその意味に気付く前にバルトロメオ達は子分盃をぐいっと飲み干した。
ルフィはそれを見て『あーっ!』と声を零すがすでに遅く、バルトロメオ達が盃を飲み干し―――


親子の盃は一方的ではあるが成立し、この瞬間総勢5千6百越えの『麦わら第海賊団』が結成された。

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