扉を蹴破って入って来たドフラミンゴにローは反射的にビクリと肩を揺らした。
怖がっていないが驚いたのだ。
そんなローなどよそにドフラミンゴはズカズカとそのまま部屋に入り弟の膝の上で寛ぐリサの元へ歩み寄る。
「やっと見つけたぞリサ!散々人の顔を引っ掻いておいてお前は呑気にティータイムか?」
「だってドフィが悪いんだもん!リサやめてって言ったのに!」
「やめて…?………――ッ!!やっぱりドフラミンゴ!君はリサに性的虐待をしていたんだね!!リサに抵抗すればぼくを傷つけるとかなんとか言って人質にとり抵抗も出来ないか弱くて可愛いリサを押し倒した挙句にリサのまだ成長途中の愛らしくも柔らかい体を弄り快楽を覚えさせ自分なしには生きていられないようにしていたんだね!!君ってやつはなんて奴なんだ!!ぼくは1%くらい君を信頼してたんだぞ!!あの日…傷だらけになっていた君に同情し医者として見捨てられなかったぼくの親切心を返せ!この泥棒猫!!」
「違う!勝手に妄想広げて勝手に人を泥棒猫呼ばわりするな!!あとおれが言うのもなんだが1%しか信頼してないのによくそんな男に今まで妹を預けれてたな!?」
「お兄ちゃん聞いてよ!ドフィ酷いんだよ!朝リサを下敷きにして寝てたんだよ!リサ重かったし苦しかったんだよ!!」
「したじき…だ、と…?」
「おいまた勘違いする前に言っておくが、お前の思っている事じゃないからな。ただ単に寝返りした所にリサがいただけだからな。だからコラソン、お前までそんな目で見るな!リサを守るように抱きしめるな!!おれは無実だ!」
『…………』
「無言もやめろ!!」
ドフラミンゴはずっと探し回っていたらしく、珍しく肩で息をしていた。
その足元にはリサの膝の上から降りたジェニファーがおり、ドスドスとドフラミンゴの足を後ろ脚で蹴っていた。
意外に痛いウサギキックにドフラミンゴは『いってェな!ジェニファー!やめろ!』とジェニファーの耳を掴んで止めさせる。
耳を掴まれ宙ぶらりんになっているジェニファーの顔はこれでもかと凶悪な物となっており、不機嫌そのものを表現したようなジェニファーの表情にローはそっと目を逸らす。
そんなローをよそにドフラミンゴはエイルマーの妄想には慣れているようで、慣れたように突っ込みをし、慣れたようにエイルマーを遮る。
リサはよっぽど下敷きなり重くて苦しかったのかムスッと頬を膨らませ、兄にチクる。
コラソンはノリなのか本気なのかは分からないが、ぎゅっと膝の上に乗っているリサを抱きしめ兄から守るように兄に背を向けた。
ドフラミンゴでも弟は可愛いもので、更に妹に似た子も溺愛しており、そんな2人からの批難の目に妙かね訴えるように叫んだ。
だが、コラソンからの引いた目、リサの頬のふくらみは戻らなかった。
弟とリサに関しては気が短いのか頭を掻き毟った後リサへと手を伸ばす。
無理矢理リサを取り戻そうとするドフラミンゴに気づいたリサはハッとさせ慌ててコラソンの腕から飛び降り何故かローの手を取って扉へと走っていく。
「!――リサ!!どこにいく!っていうかなんでそいつを連れてく!?」
「ドフィがいないとこー!」
リサがローの手を引いて走り、ドフラミンゴの横を素通りする。
自分から逃げるリサにドフラミンゴは慌てて捕まえようとするが、子供の方が機敏なのか中々捕まらない。
仕方なしにドフラミンゴは能力の『寄生糸』でリサの身体の自由を奪う。
「わっ!」
「…っ!」
そして操られているリサは自らローを突き飛ばし、動きを止めた。
ローの性格を知っているドフラミンゴはローにも糸で身動きを封じ、後は逃げれないリサを抱き上げ回収するだけとなり、余裕なのかリサにゆっくりと歩み寄る。
「さあ、堪忍しろ。」
「やだ!」
「その我儘は聞かないからな。他の我儘なら戻ってから聞いてやるし、欲しいもんいくらでも買ってやるから機嫌直せ」
「それもやーっ!!」
抵抗しようにも指一本髪の毛一本も動かずリサは泣き出しそうだった。
泣き出そうと何だろうと機嫌など後で直せばいいという考えのドフラミンゴには拒絶など意味がなく、リサは諦めかける。
しかし…
「ゴフ!」
「…!」
ドフラミンゴは頭上から聞こえた低い声に足を止めた。
そして顔を上げようとしたその時――…重い物が頭上から振って落ち、ズシリとした物がドフラミンゴの上に乗る。
「エ、エイルマー!!てめェ…!」
「この幼女趣味!ロリコン!変態!子供と親と兄弟と全人類の敵!!社会不適合者!!」
「だから違うって言ってんだろうが!!いい加減にしやがれ!!」
『…………』
「だからそんな目でおれを見るな!!」
ドフラミンゴの上に乗ったのはエイルマーの能力であるウサギのメアリーだった。
メアリーは主の妹であるリサのピンチに飛んでドフラミンゴの上に飛び込んだらしい
それでもドフラミンゴを止めることは出来ず、部屋の奥からジョニーがメアリーの上に乗り、更にはどこから現れたか不明だが数羽の長身ウサギが乗り、ドフラミンゴは引き気味の弟に突っ込むしか余裕はない。
おかげでリサの自由を奪っていたイトも切れ、動けるようになったリサは勢いよく前に倒れてしまう。
ローも自分の体が動くようになったと分かると倒れるリサに駆け寄りリサの手を取ってドフラミンゴから逃亡を図り、2人の後をジェニファーが追いかけて行った。
リサはローの行動に驚いて見せ、目を真ん丸にローの後姿を見つめた。
「……もういいだろ…おい、勘違いヤブ医者。こいつら退かせ」
「はいはい」
リサとローの足音が消えたのを確認したドフラミンゴは低い声を零す。
凍り付くような低く鋭い声など気にも留めずエイルマーはパチンと指を鳴らしメアリー達を消す。
空気に溶け込むように消えたメアリー達の重さが一気に無くなりドフラミンゴは溜息をつきながら起き上がる。
「毎回邪魔しやがって…リサの兄じゃなければ殺してるところだぞ」
「それはそれは…リサに感謝しなくてはね。ま、ぼくを殺して恨むのはリサだけじゃないからどうせキミにはできやしないだろ?」
リサがいた時とは違い殺気をエイルマーに向けるドフラミンゴにエイルマーは怯えるどころかニッコリと笑う。
エイルマーは『リサ以外』と零しながらチラリと向かえに座るコラソンを見た。
エイルマーが言いたい事を察したドフラミンゴは言い返す言葉もないため舌打ちをつく。
「………お前ほど性格悪い医者は初めてだ」
「それは奇遇だ…ぼくもキミほど恐ろしい海賊は見た事がない。」
「…………」
お互い気に入らない相手らしく、バチバチと火花が飛び散っていた。
そんな2人に挟まれたコラソンは―――…
『…………』
冷めてしまった紅茶を呑気にも飲んでいた。
どうやらこのやり取りもいつもの事だったらしい。
一方、リサとローは廊下を出て建物から外へと出ていた。
走りに走り限界が来たのか、中庭らしい場所に置いてあるベンチに2人とも座り込む。
「だからおれを巻き込むなっていっただろ!!」
「拾った責任は死ぬまで果たさなきゃダメだってお兄ちゃんが言ってたの!」
「おれは犬猫じゃねえよ!!」
息も整いローは立ち上がりキッとリサを睨む。
ローの言葉にリサはムッとさせ言い返すも、またローに突っ込まれてしまった。
まるで犬猫のように言うリサにローはついていけず頭を抱えてしまう。
立ち上がっていたローは疲れ果てたように再びベンチに座り直し、リサは隣に座り直したローをジッと見つめていたが、ツン、とローの服を引っ張った。
ローは服を引っ張られ苛立っていた事もあり『あ゙?』とリサを睨む。
「でも…あの時、助けてくれてありがとう…」
「…!」
リサは照れくさいのか、ローと目と目が合うとパッと目をそらしそっぽを向く。
呼ばれたのにそっぽを向かれローはイラッと来たが、リサの隠れきれていない頬や耳が真っ赤になっているのを見てローは目を見張った。
そしてなぜか照れているリサに釣られて、ローもなんだか照れくさく感じてしまう。
家族を失った時から性格が歪んだローにとって、昔はあったであろうやり取りもこそばゆく感じてしまうのだろう。
「……お前…」
「お前じゃないってば、リサはリサだよ」
何か言おうとしたローをリサは遮った。
何度も名前を教えたのに全く言わないローにリサは負けじと何度目かの名前を教える。
ローはズイッと顔を近づかせムッとさせるリサにたじろぎ目線を泳がせた。
正直ローはリサの勢いに押されていた。
あと三年しか生きていけず、そしてこれまでの出来事にローは何も信じきれていない。
その反対に、リサはドフラミンゴ達に愛されて甘やかされている。
素直に言えばそれが嫌で、腹が立った。
リサを見ていると、ローは幸せだった頃を…家族を思い出させた。
しかしリサ達のやり取りを見ていて少し毒気を抜かれたのかもう最初のような苛立ちや腹立ちは感じられず、改めて名を呼ぶのはちょっぴり恥ずかしかった。
チラリとリサを見ると、リサは期待に満ちた目でローを見ており、その期待もまた恥ずかしくてローはその恥ずかしさを誤魔化すようにため息をつく。
「ローだ」
「え?」
「おれの名前はローだ…………リサ」
「…!!」
結局、ローはリサに負けてしまった。
今更だが自分の名をリサに伝え、ついでと言わんばかりにリサの名前も読んでやる。
ついで感が強いとは言え、リサは初めてローに名前を呼ばれ最初こそ目をパチパチと瞬かせていたが、名前を呼ばれた事を理解すると顔を花が咲いたように嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「そっか!そうだったよね!お兄ちゃんローっていうんだったね!じゃあ、ロー!改めてよろしくねっ!」
「…っ」
初めて名を呼ばれ、初めて相手の名も呼び、リサはこれまでに嬉しい出来事の1つになった。
ローは名を呼ばれ、満面の笑みを向けられ、何故か胸が、きゅっ、と締め付けられるような感覚に襲われ思わず胸元を抑える。
(…?、なんだ…なんか…胸が苦しい…)
これも『珀鉛病』の症状だろうか、とローは思った。
しかしズキズキ痛むほどでもなく、何故か嫌な苦しみでもない。
それはまだ幼いローが気づかない病気でもあった。
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