(9 / 20) 過去 (9)

ローがドンキホーテファミリーに来て、丁度一週間が経った。
身体はコラソンの苛めでボロボロだが、その度にドンキホーテファミリーの船医であるエイルマーが治療してくれるので、以前のように化膿寸前まで酷くなることはない。
ドフラミンゴには放っておけと言われていたエイルマーだったが、彼からしたら一応ボスであるドフラミンゴの命令を無視し、幹部が居ようとドフラミンゴが居ようとローを治療していた。
しかしエイルマーはコラソンには何も言わなかった。
子供好きらしい彼はコラソンがどんなにローを苛めても、ベビー5やバッファローを苛めても、そして新たに来た子供を苛めても、何も言わない。
何も言わず仲良くお茶をしていた。
それがローにとったら不思議でならなかった。
ドフラミンゴに刃向えるのなら、コラソンにだって文句が言えるはずなのに、彼はコラソンにだけは何も言わない。
兄のエイルマーが何も言わないのだから、当然リサも何も言わなかった。
というよりは、リサは幼いがゆえに海賊稼業や、コラソンの子供苛めに疑問すらわかないのだろう。


「やはりここにいたのか」


今日もエイルマーに攫われるように医務室へと運ばれ、傷の治療と包帯の替えをしているとドンキホーテファミリーの一人、セニョールピンクが医務室へと入りローに歩み寄る。


「おや、ピンクじゃないか…どうしたんだい?怪我でもしたのかい?」

「いや…おれが用があるのはこの小僧だ…おい、ドフィが呼んでる。聞きてェことがあるらしい。」

「ドフラミンゴがローを呼んで……―――ハッ!もしかしてドフラミンゴはロリからショタへと変貌を!?リサだけでは飽き足らず純粋に人を憎み世界を憎む可愛いこのローも手を出そうとしているのかい!?ああっ!!なんてことだ…!!まだリサだけだったらぼくも守り切れるけど…!!だけどローもだとするとベビー5やバッファローもすでに餌食に…ッ!!いくらぼくでも4人は守れないよ…!!ピンク!!今こそだよ!今こそドフラミンゴを討つ時だ!!じゃないと彼も子供達も間違った道へと歩んでしまう!!ドフラミンゴはもう手遅れだけど!!」

「相変わらずブレねェなァ、エイルマー…正直お前を尊敬するぜ」

「おやおや、褒めても痛くないように治療してやれるだけで何も出ないよ?」

「いや、1つもおれァ褒めてねェが…」


なぜ、『ドフラミンゴが呼んでいる』という言葉一つでこうまで妄想が出来るのか…ピンクは褒めてはいないが尊敬の念をエイルマーに向けるが、決して褒めてはいない。(大事な事なのでry)
照れるエイルマーを無視しピンクは椅子に座って治療をしてもらっているローへと目を向けた。


「じゃあ治療中悪いがこいつを連れてくぞ…あとそろそろ夕食が出来る頃だ…一緒に来るか?」

「そうだね、お腹空いたし。リサは?」

「リサは既に若のところにいる」

「えっ…ドフラミンゴまたロリに戻ったのかい?なんだい?今彼はキャラ作りの真っ最中なのかい?ブレブレだねェ…そんなんで将来ちゃんとキャラ立ちできるのかい?ぼくは小指の先くらい心配だよ。」

「……本当、お前はブレないな…」


エイルマーは時計を見て夕食の時間だと気づく。
まだファミリーではないローは夕食には招待されないし、自分で取らなければ食事にもありつけない。
そのため、呼ばれているといっても夕食のお誘いではないのは確かである。
相変わらずなエイルマーを引き連れてピンクは自分達以外全員揃っているであろう部屋へと向かった。







リサはこの日、兄のエイルマーとではなくドフラミンゴのところで過ごしていた。
夕食の時間なため食堂として使っている部屋に続々と幹部達が入り、大半揃ったところでリサを連れてドフラミンゴも来た。
残りはリサの兄であるエイルマーだけとなった時、ドフラミンゴは思い出したようにローを呼べとピンクに告げ、ピンクはそれに従い席を立って部屋を出る。


「次のターゲットはラケシュだ。」


ピンクには了承してあり、ドフラミンゴは元々エイルマーと折り合いが悪いため、既に食事を始めていた。
中央の席は勿論ドフラミンゴ。
その隣にリサが座り、リサの隣にはトレーボル、そしてその隣はコラソン、コラソンの隣にはリサの兄であるエイルマーの席があった。
リサとは反対のドフラミンゴの隣はディアマンテ、ピーカとなり後はそれぞれ早い者が席を決める流れである。
食事をしながらドフラミンゴは次のターゲットの説明を始め、メンバー達は食べながら聞く。


「あの街の連中こっちにしっぽを振りながら裏では別の組織と組んでやがった。―――裏切りの代償は払ってもらう。」


そう言ってドフラミンゴはステーキにフォークを突き刺す。
笑ってはいるが、ドフラミンゴの怒りは強いのだと長年連れ添ったメンバーは察し、強く頷き、子供のベビー5とバッファローは陽気な声を出して頷いた。
ただ、リサは黙々と美味しい食事に夢中になっていた。
すると、キィ、と音を立て扉が開かれる。
出てきたのはローを呼びに行ったピンクと、リサの兄のエイルマー…そして…


「用って何だ」


ローだった。
呼び出されたローは怪訝とした表情を浮かべるもコラソンを見るや否やキッと鋭い視線をコラソンに向ける。
しかしコラソンは何食わぬ顔で食事を続け、ローを見向きもしない。


「べへへっ!!んねーねーロー!!もう一週間だ!出て行く気になったか?コラソンにずいぶんやられたな〜!」


トレーボルが特徴のある笑い声を零しコラソンの頭を隣に座っていたトレーボルが手を乗せる。
トレーボルの言葉にローはむっとさせ、コラソンを睨んでいた目をそのままトレーボルへと向ける。


「ガキも逃げ出すが大人も逃げ出す!お陰でウチは精鋭揃いよ!!能力もねェガキがどこまで耐えられるか…」


ドンキホーテファミリーは子供だろうと老人だろうと受けいれる。
だが、その反面求められるのは能力と実力だった。
どんなに強くてもファミリーに認められるまで多くの人が音をあげ、逃げていく。
そのため残った者は自然と精鋭となるのだ。
そう零しながらドフラミンゴの隣に座るディアマンテがワインを片手に掲げ、手にしていたワインを口に含む。


「何をされても"血の掟"を忘れるな!?幹部の権威を傷つけては『ファミリー』は成り立たん!!」

「おれ一度ピーカ様を笑って拷問で死にかけた!!」

「きゃははは!」


まだローはファミリーに入っていないため、『血の掟』は分からない。
だが、バッファローの口ぶりからして仲間を侮辱するなどの事らしい事はうかがえる。
しかし今、ローはそんな事はどうでもよかった。
ローの一番の目的は全てへの復讐なのだから。
ローはそれぞれの言葉を鼻で笑って終わらせる。


「そんなモン怖くねェ……おれは地獄を見てきたんだ」


ローの言葉に今まで何も言わず食事していたリサの手を止め、ローを見た。
エイルマーも子供口から出る冷たく重い言葉にローを見下ろした。
その表情は少し悲しげに見える。
だが、ドフラミンゴはそんなローを笑い声を漏らした。


「フッフッフ!!虚勢を張るのはお前の自由!だがコラソンとリサは大切な実の弟と妹!!切り傷一つでもつけた奴はおれが死を与える!!」


そう言ってドフラミンゴは持っていたナイフを首を切るように振る。
それを怖いとは思わない。
だが緊迫した空気は感じた。
そしてローはふと横にいるエイルマーをチラリと横目で見る。
ドフラミンゴはハッキリとリサを『実の妹』と言った。
だが、リサの実の兄はエイルマーなのをローは知っているし、ここにいる全員が知っている事である。
しかしボスであるドフラミンゴが断言したのだから反論はできないのは分かるが、それでもリサの事を実の妹と当然のように断言するボスにファミリー達は何の疑問も持たず受け入れていた。
更にはリサ自身も、ドフラミンゴの発言に何ら反応も見せず食事を再開していた。
それがローにとって、少し違和感を感じたのだ。
エイルマーに気を取られていると、マッハ・バイスが不意にローの服から見える肌を見てギョッとさせた。


「コイツ肌が白イーーン!!」

「"珀鉛病"ざます!伝染ったら大変っ!!」

「えーー!?うつる病気!?気味悪ィ!お前すぐ出てけだすやん!!!」

「…ッ!」


バイスが見たのは、ローの肌が一部白く変色しているものだった。
それを見てバイスは声を上げ、バイスの言葉に隣にいたジョーラが顔を青く染め、悲鳴を上げた。
ジョーラの言葉を信じたバッファローがジョーラと同じく顔を真っ青にし、ローを追い払おうとする。
その反応は今まで何度も見てきたが、何度見たからと言って気持ちのいいものではないし、気分がいいものでもない。
ローは白い眼と怯えた目に苛立ちが隠せなかった。
グッと零しを握り顔を歪ませるローにエイルマーが三人を咎めようとしたとき……ドフラミンゴが机を、バン、と叩き騒ぐメンバーを静める。
ジョーラはビクリと肩を揺らし恐る恐るドフラミンゴを見る。
いつも笑みを浮かべていたドフラミンゴは険しい表情を浮かべ、サングラス越しにジョーラを睨んだ。


「ジョーラ!噂程度の知識を口にするな!見苦しい!!見ろ!バッファローが信じた!"珀鉛病"は他人には感染しない。」

「そうだよ、バッファロー、バイス、ジョーラ…"珀鉛病"は中毒だからね…人から人への感染は絶対にない。だからそんな言い方は良してくれ。」


ドフラミンゴの言葉に続き、医者のエイルマーが繋げる。
ドフラミンゴは珀鉛病という病気があるのを元から知っていたし、船医であるエイルマーからもローが珀鉛病にかかっている事も報告されていて知っていた。
だから他人に移るという根も葉もない噂を信じるジョーラを咎めたのだ。
エイルマーは最初にローを治療した時に気づき、だからと偏見はなかった。
それはエイルマーの性格もあったのだろう。
だからこそ、ローはエイルマーに治療されるのに抵抗らしい抵抗はしないのだろう。


「フレバンスには他にも生き残りがいるのか?」

「わからねェ…逃げるのに必死だった…」

「どうやって逃げてきた」


叱られしゅんとさせるジョーラ達を横目に、ドフラミンゴはローにフレバンスの生き残りがいるかを聞く。
だが、ローはローで逃げることで必死だったし、妹や家族を失ったこともあって他の生存者など頭にもなかったため首を傾げるしかなかった。
逃げるのに必死、というローの言葉に、ドフラミンゴは問いかけると、ローはゆっくりと口を開く。


「―――死体の山に隠れて国境を越えた。」


それは子供にとってあまりにも残酷だった。
本来、ローのような…否、ローやベビー5、バッファロー、リサ、デリンジャーのような子供は本来こんな場所に…海賊団という存在とは無縁の生き方をしているはずだった。
ベビー5やバッファローはそれなりの理由がありここしか居場所がなかったのだが、リサやローは別の人生があったはずだった。
しかしリサは兄と共にドフラミンゴに攫われる形でファミリーになり、ローは家族や友人達、そして居場所を失った。
リサにもローにもそれなりに理由があったから今ここにいる。
だが、エイルマーからしたら頭のネジが抜けようと頭が可笑しくなっていようと、子供は子供。
その子供の口から出た言葉に悲しい感情が湧き上がってしまう。
ローは同情がほしくて言っていないのは分かっているし、それはただの憐れみでしかないのも知っている。
だが、海賊らしくない海賊の船医はそれでもやはりローを憐れんでしまう。


「何を恨んでる?」


裕福な家庭の元生まれたローの生い立ちにドフラミンゴは多少自分を重ねた。
だから一番聞きたかった問いを投げかけた。
ドフラミンゴの問いにローはピクリとも感情を現さず真っ直ぐにドフラミンゴを見つめ…


「もう何も…信じてない!」


そう言い切った。
そのローの言葉にドフラミンゴは満足気な笑みを浮かべ、リサは何も言わずドフラミンゴが取ってくれた食べ物を口に運んだ。

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