(10 / 20) 過去 (10)

ドンキホーテファミリーに入るのなら、真っ先に覚えなくてはならないことがある。
リサという幼女。
その幼女の名前と顔を覚えなくてはならない。
その理由はドンキホーテファミリーのボス、ドフラミンゴの愛し子だからだ。
"血の掟"でボスの実の弟であるコラソンと、そして血は繋がっていないが妹のように可愛がっているリサを傷つける者はドフラミンゴ直々に"死"を与えるというものがある。
だからまずドンキホーテファミリーに入ったものがやらなければならないことと言えば、間違いがないようにコラソンとリサの顔と名前を覚える事だった。
しかしドフラミンゴに憧れて入る者が多いゴロツキ達はコラソンとリサをよく思わない者も多い。
まだリサは子供だからという理由だが、コラソンに至っては実力はあるが天性のドジっ子のせいで甘く見られてしまうこともあった。
リサは実兄であるエイルマーとドフラミンゴ、そして幹部達に守られているため傷一つ負ったことはない。
しかしコラソンはよくまだドフラミンゴの言葉の重みに気付いていない者たちの仕打ちで傷を作ることも多々あった。
コラソンはそれをドフラミンゴに言うでもなく、できる限り誤魔化し続けている。
そのおかげで下っ端たちは生き永らえていた。
だが、そういつも誤魔化せる場所で襲われるわけもなく、見られることも誤魔化し切れる場合もないときがある。
その時は下っ端の運命などご存じの通りである。

まだコラソンはいい方である。
まだコラソンの場合怪我をさせたりしなければいいし、近寄らなければいい。
それに表向き従ってればそれでいいのだ。
しかし問題はリサだった。







「リサさま〜!りんごジュースお持ちしましたっ!」


リサは男の声にハッとなり見ていた絵本から顔を上げて振り返る。
そこにはまさに下っ端と言わんばかりの男がリンゴジュースが入っている小さめのコップを手に持ってこちらに向かってきているのが見えた。
それを見てリサはげんなりとした顔を隠すことなく見せる。
『どうぞ!』と言って渡す男にリサはとりあえず『ありがとう』と言って小さな両手で受け取り一口飲む。


(別に欲しいって頼んでないんだけどな…)


そう思いながらも飲むリンゴジュースはとてもおいしかった。
それもそのはず…リサに与えられるモノ全ては高級なものばかりだからである。
それにリサのいるその部屋は愛らしい壁紙に色々なおもちゃが置かれており、本も豊富で人形やクッションなどが詰まっておりリサが退屈しないようにという配慮がされていた。
そこからドフラミンゴの寵愛振りが伺える。
本来なら傍にはドフラミンゴか兄のエイルマー、それか幹部達がいるはずなのだが…ドフラミンゴも幹部達も取り引きで今はおらず、兄のエイルマーも買い出しに出ていない。
そのため下っ端がリサの相手をしていたのだ。
ドフラミンゴと兄がいないことに少し寂しさを感じていたが、エイルマーは買い出しなのですぐに帰ってくるだろうし、ドフラミンゴもどうやら今日中には帰ってこれるらしいのでもう少しの我慢である。
下っ端はドフラミンゴが溺愛している幼女だからか、この機に取り入って幹部になろうという下心を持ったもの達ばかりで頼んでもいないのに色々持ってきてくれる。
気分でもない物を持ってきてくれるのはありがた迷惑だが、満開のような笑みを見せられれば『いらない』と言えなかった。
そこはエイルマーの教育の賜物だろう。


「若様はいつ帰ってくるんでしょうね?」


コップに挿してあるストローを口に入れてちゅうちゅう吸って飲んでいるともう一人お菓子を持ってきた下っ端が世間話のようにぽつりと呟く。
下っ端達もリサの世話を任されるほどの信頼は築いてはいたが、まだまだ幹部には程遠い存在である。
だから一番ドフラミンゴに近いリサに聞いたのだろうが、リサは兄に常々幹部以外のファミリーと仲を深めるなと言われているので『さあ?』と知らないことを聞かれて困ってしまった子供のように苦笑いを浮かべ小首を傾げる。
小首を傾げ困ったように笑うリサはとても可愛くて、下っ端達もほんわかとしその愛らしさにふにゃりとさせた。


「あ、リサ様!おかわりいりますか?」

「うん…今度はオレンジジュースがいい」

「かしこまりました〜!」


リサがジュースを飲みほしたのを見て下っ端の一人がおかわりの有無を聞く。
リサは今度はオレンジジュースが飲みたい気分となり、差し出された手に空のコップを渡しながらリクエストをする。
そのリクエストにお菓子を持ってきてくれた下っ端は部屋を出ていきオレンジジュースを取りに厨房に向かった。
それを見送った後、リサは読んでいた途中の本に集中する。
どれくらい集中していたのか…リサは何度も何度も読んだその絵本の最後の文字を読み終え、本を閉じる。
気づけば近くにはお菓子はあったが、持ってきてくれるといっていたオレンジジュースがなかった。
周りを見渡せば下っ端二人もいない。
必ずどんな用事でも一人は残るようにと言われているのに誰もいない事にリサは首を傾げ、時計を見ればもうすっかり針も進んでおり、この時間だったら兄が帰ってきているかもしれないと読み終わった本を置いて立ち上がる。
たたた、と小走りに扉の方へ向かい扉を開けたその瞬間―――


「わっ!」

「うわっ!!」


リサが開ける時、丁度誰かも扉をあけようとしていたのか、タイミングが重なりリサはその誰かとぶつかって後ろに倒れてしまった。
その瞬間、体に冷たい何かが掛かった気がした。


「わ、わ〜〜!!リサ様!?大丈夫ですか!?」


その誰か、とはオレンジジュースを持ってきてくれると言っていた下っ端の一人だった。
しかも、下っ端にぶつかった拍子に下っ端が持っていたジュースがこぼれリサの服にかかってしまった。
下っ端はその失態に慌ててタオルを持ってリサの服をぬぐう。


「も、申し訳ありませんっ!リサさま!!今すぐ新しい服を用意―――」


リサはジュースを零されても不機嫌にはならない。
否、正確に言えば嫌なことは嫌だ。
着ていた服を汚されるのはまだ幼くても女の子なリサにとってブルーな日でもある。
だがエイルマーの教育のおかげかそんな"小さな事"で周りに八つ当たりする事はしなかった。
服は洗えばいいし、着替えればいい。
リサはそう思って男に『別にいいよ』と謝罪を受け入れようとした。
が、下っ端の男は己の失態に顔を青くし必死に謝り服を拭っていたその時…男は血を流し突然倒れる。

10 / 20
| top | back |
しおりを挟む