(11 / 20) 過去 (11)

目の前で突然人が血を流して倒れた事にリサは目を丸くし唖然としていた。
バタリと音を立て倒れた男の背後に誰かが立っているのが見え、リサは唖然としながらも顔を上げてその人物の顔を見上げる。
別に顔を見なくてもリサには誰がいたかなんて分かっていた。
その人物とは…―――


「おいおいてめェ…なにおれのリサになにしやがった…!」

「ドフィ…」


アジトにいないはずのボス、ドフラミンゴだった。
ドフラミンゴは鬼のような形相をしながら死体となった男を睨むように見下ろしており、リサはこの男をドフラミンゴが能力で切り殺したのだと察した。
そう、察することができるほどリサはもう闇に関わっていた。
ドフラミンゴはついさっき船から降り、急いでリサのもとに帰ってきたらしい。
しかし、早く愛おしい存在であるリサを抱きしめてやりたいと思っていたが、リサがいると聞いた遊び部屋へと向かえば下っ端とぶつかっているのが見え、更にはジュースを零されているのが見えた。
下っ端とぶつかった場面を見た瞬間にドフラミンゴはブチリと頭の何かが切れ、気づいたら男を殺していた。


「すまんすまん!ちょっとトイレに…―――ってわ…若様ァァ!!?」


イライラを積もらせていると背後に新たな人物が入ってくる。
それはリサの世話をしていたはずのもう一人の下っ端だった。
下っ端はリサが絵本に夢中になっている間にトイレに行っていたようで、同僚に謝りながら戻ってきたのだが…その同僚が死体となって転がっているのと本来ここにはまだいないはずの人物の姿を見て悲鳴を上げる。
ドフラミンゴはその男の登場でリサ一人この部屋に取り残されていたという事を察し、イライラが更に積もる。
男を振り返れば男はドフラミンゴから出される覇気や恐怖に腰を抜かしており座り込んでいた。


「ど、どどど…!!どうして若様がここに…!?」

「帰ってくるのに一々お前の許可が必要なのか?」

「い、いいい、い…いいえ!!」

「じゃあ…質問だが…お前、どこに行っていた」

「へ?そ、それは…ちょっとトイレへ…」


下っ端は帰ってくる予定が分からないため、帰ってくるのももう少し先かと思っていた。
だが、その言葉すら腹立たしい理由ともなり、下っ端のどうしてここにいるのかという問いにドフラミンゴは額に青筋を立てる。
首を振る下っ端にドフラミンゴは一つの質問をする。
その質問に下っ端は隠すことなく答えた…自分がこの後どうなるかも知らずに。
腰を抜かしながらトイレの方を指さす下っ端の指がスパッと細切れになった。


「ッ―――ギャアアアア!!!い゙でェ!!ゆ、指がァ!!指がァァ!!!」


人差し指が細切れになったのを下っ端は最初分からなかった。
だが第三関節から先が無くなっているのに気づいてようやく自分の指が無くなっているのに気づく。
人間、不思議なもので…怪我や傷に気付けばそれ相応の痛みが体中に走る。
下っ端は指が一本ない方の手首を掴み必死に痛みに耐え叫んでいた。
痛みに叫び蹲る下っ端を蹴り飛ばし、ドフラミンゴは仰向けになった下っ端の胸元に踏んだ。


「そんなくだらない理由でリサを一人にしていたのかてめェは…!!」

「ひ、ひぃ!!す、すみま、せ…ッ!!」

「やめろ!!ドフラミンゴ…!!リサの前だぞ!!」

「うるせェ!!ヤブ医者は黙ってろ!!大体お前はリサを一人にしてどこにいっていやがった…!!」


丁度帰ってきていたらしいリサの兄、エイルマーは騒ぎに気付き慌てて駆けつけてきたらしく、下っ端を踏みつけるドフラミンゴを睨んで止めに入る。
頭に血が昇っているドフラミンゴは『リサが見ている』という言葉すら聞き入れず、下っ端を踏みつけながら今更駆けつけてきたエイルマーを睨む。
目一つで人を恐怖に震えさせれるようなドフラミンゴの睨みにエイルマーは一瞬顔を強張らせた。
しかし生粋の医師として己の目の前で人殺しなど許せるわけもなく、震えそうになる体を一喝して噛みつこうとした。
その時…


「ドフィ」


男二人の言い合いで騒がしかったその場が小さく愛らしい声でピタリと止まった。
ドフラミンゴとエイルマーがその声の主―――リサの方へ振り向いた。
リサはまだぶつかって尻もちついたまま固まっており、リサの目は兄ではなくドフラミンゴを映していた。


「血」


ドフラミンゴを見つめながらリサはそう一言だけ呟いた。
一言…そう、たった一言だけ。
だがドフラミンゴは何が言いたいのか察したのか、険しい表情を一変させニッといつもリサに見せる笑みへと変わる。
エイルマーが妹が何が言いたいのか考えているその隙にドフラミンゴは下っ端から足を退かせ座り込むリサの元へと歩み寄る。


「ああ、すまない…リサ…血、ついちまったか?」

「ううん大丈夫だよ…ねェ、ドフィ…リサね、ドフィの部屋いきたいの…この部屋、汚くてイヤ。」

「フフフ!!そうか!じゃあおれの部屋へ行くか」


リサは血がつくと言いたかった。
最初にドフラミンゴが殺した男の体から流れてくる血が少しずつリサに向かって広がっているのにドフラミンゴは気づいたのだろう。
リサを抱き上げながらドフラミンゴはじっと自分を見る金色の瞳に機嫌があっという間に直っていく。
航海中、何度この綺麗な金色の瞳を見たいと思い、この金色の瞳に映りたいと思ったか…
どうしてもボスでないといけない仕事だったために渋々向かったが…大して自分がいかなくてもいいと分かったドフラミンゴの機嫌はすこぶる悪かった。
幹部達も気を付けて対応していたのだが…一刻も早くリサに癒されようとドフラミンゴは部屋へと向かったのにあの始末。
下っ端は幹部達が神経を研ぎ澄まして気を付けていた地雷を易々と踏んだのだ。
そのせいでドフラミンゴの堪忍袋の緒が切れて下っ端を殺したのだ。
そのリサの瞳に見つめられ自分を映し、紫色の柔らかい髪の毛を撫で…ドフラミンゴはまるで男一人殺し指を切り落とした事をなかったかのように鉄の匂いが充満する部屋から去っていく。
すでに機嫌を直し上機嫌となったドフラミンゴの視界にはリサしか映っておらず、唖然と立ち尽くすエイルマーに気づくこともなかった。


「ドフィ、どうした?」

「なんでもねェよ…ただゴミが不始末をしただけだ…」


少し遅れてディアマンテとピーカが駆け付けた。
同じ幹部であるトレーポルは別の取引をしており今はいない。
ドフラミンゴの説明になっていない説明でも、ディアマンテは理解したのかドフラミンゴの腕に抱かれているリサの服を見た後、ドフラミンゴの後ろを見る。
男二人を見たディアマンテはリサに同情めいた目を向けた。
だが、その同情めいた目もドフラミンゴが歩き出したのと同時に心配そうな瞳へと変える。


「それはまた…リサも災難だったな」

『大丈夫か?リサ』

「うん!ドフィがね、叱ってくれたから大丈夫だよ!」

「そうか、そうか…それは良かった」

『今後、同じミスがないよう人選も慎重にしないとな…リサにもしもの事があればドフィだけじゃなくおれ達も悲しい』

「ああ、ピーカ、そうだな。」


ディアマンテが同情したのは死体を見たからではなく…失態に巻き込まれたからという意味だった。
リサはピーカに問われ頷き嬉しそうにドフラミンゴを見上げた。
ドフラミンゴもリサの言葉に嬉しそうに笑みを深めリサの額と己の額をぐりぐりと押し当てる。
痛くない程度のスキンシップにリサはきゃっきゃ楽しそうな声を零し、二人のその様子を見てディアマンテもピーカも微笑ましそうに見つめ、ピーカの言葉にディアマンテは目を細めながら頷く。
自室へつきしばらくすると途中部下に呼びに行かせていたジョーラが入室してきた。


「まあまあまあ!!なんてこと!!せっかくのお洋服が台無しに…!!」

「ああ…だから着替えさせてやってくれ」

「かしこまりましたざます!さぁ、リサ!いくざますよ!」


ジョーラは入室してリサの服の汚れを見て悲鳴を上げた。
ドフラミンゴに着替えを命じられ喜々としてリサを抱き上げリサと兄であるエイルマーの部屋へと向かう。
それを見送った後、ドフラミンゴはソファに座り足を組んでまだ部屋にいるディアマンテがとピーカを見渡した。


「もうリサを置いていくことはしねェ」


ドフラミンゴの言葉に二人はジョーラが出て行った扉からドフラミンゴへ振り替える。
振り返った先にいたドフラミンゴの瞳はリサに向けていた柔らかな優しい瞳からいつもの王者の鋭い瞳へと戻っていた。
ドフラミンゴの言葉にディアマンテとピーカは首をかしげる。


「というと…まさかリサを取り引きに連れていくのか?」

「ああ…あんなことがあった以上、リサを一人で置いていけない。」

『エイルマーはどうした』

「あいつは役に立たん…リサを一人置いて買い物に出かけてた役立たずだぞ?頼りになるわけがねェ」


脳裏にエイルマーを思い出すだけでも今のドフラミンゴはエイルマーに対し腹を立てていた。
エイルマーとドフラミンゴの不仲は幹部どころか下っ端にも伝わっているため不思議ではない。
だが覇気を出すほどの怒りを露わにしたのは初めてだった。


(あの野郎…いつかやると思ってたがついにドフィを怒らせやがった…)


ディアマンテは怒りが収まり切れないドフラミンゴを見ながらエイルマーに呆れる。
怒らせたといってもドフラミンゴがエイルマーに何か罰を与えたり手を出すことはない。
それはリサとの約束でもあったからドフラミンゴはリサとの約束ならば破ることはないのだろう。
それにジョーラの着せ替え人形となって可愛く着飾って帰ってくるリサに機嫌も直るためそれほど酷い仕打ちなどはない。
正直ディアマンテはそれが納得いかなかった。


(これを機にさっさと始末すりゃあリサはドフィのモンになるんだがなァ)


ディアマンテもピーカーもジョーラも、ラオGも、トレーポルも…幹部全てがリサの兄エイルマーを嫌っている。
その理由は勿論…リサの兄だから。
ドフラミンゴがリサに甘く、リサが兄を傷つけないでというお願いを律儀に守っているのは知っているが…やはりドフラミンゴ以上にエイルマーを嫌っている幹部達はじれったく感じてしまうのだろう。
諦めにも似た溜め息をディアマンテはドフラミンゴに気付かれないよう小さくついた。


「ディアマンテ」


溜め息を密かについたその時、ディアマンテはドフラミンゴに名前を呼ばれドキリとさせた。
溜め息をついたことに気づかれたかと思ったディアマンテはドフラミンゴへ目をやる。
ドフラミンゴの表情は険しく、その表情にディアマンテは冷や汗をかく。
しかし…


「リサを一人にしたゴミを始末しておけ」


ドフラミンゴはディアマンテが溜め息をついた事に気づいてはいなかった。
それにホッとしながらも、ディアマンテはドフラミンゴの指示に…


「任せておけ」


―――ニッと笑ってみせた。

11 / 20
| top | back |
しおりを挟む